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(変態)顧問ができました

 「はぁはぁ、何で、っ逃げるのよ……はぁ………」

 どうやって嗅ぎつけてきたかは分からないが、『教室として働けない教室』に息を切らした銀縁眼鏡の白衣を着た女の人がやってきた。

 俺は赤城の後ろに隠れながら様子をうかがう。

 「ナッ、ちょっ!!」

 赤城が情けない声を出すが気にしない。俺をほっぽいて逃げ出した罰だ。

 「はぁはぁ……っし!! ―――カワイコちゃん、私と一緒に遊びましょ! 何でもご馳走してあげるわよ?」

 「絶対に嫌!!」

 俺は下駄のまま全力疾走したせいでここに着くと同時に足を挫いた。だから逃げるわけにもいかず、赤城にしがみついて恐怖に耐える。

 「ちょっ、や、ヤメ……!」

 赤城の胸の高鳴りが聞こえる。やっぱり赤城もこの人が怖いんだな……うん。

 「さぁ! さぁ!!」

 女の人がどんどん近づいてくる。

 そこら辺の恐怖映画よりも遥かに怖い。目をキラキラさせているところが生物的に受けつけない。

 「おねぇちゃんと一緒に遊びましょ~~~~!」

 「イヤッ―――――!!」

 俺は赤城を抱きしめる力を強くする。

 「……ま、祀木が、祀木のカラダが!! ―――――ムネはねぇけど柔らけぇな……マジで生きてて良かったぁ……!」

 赤城に助けてもらおうと思ったが、赤城は顔を真っ赤にして何かぶつぶつ言っているばかりで動いてくれそうにない。

 白衣の女性は俺との距離をさらに縮めてくる。

 先ほど言った通り、俺は動けない。


 お母さん、お父さん。俺は親孝行なんて全然出来なかったけど、ずっと覚えていてくれよ。この世界に『祀木 祭司』という人間が存在していたってことをさ―――――。


 「なに賢者モード入ってんのよ!」

 頭に強い衝撃を感じて我に返る。

 「いってぇ……!」

 俺は赤城に抱き着いたまま顔だけ動かして横を見ると、そこには膨れっ面をした翔子が胸の前で腕を組んで仁王立ちしていた。

 そのまま淡々とした口調で俺に喋ってくる。


 「この完璧たるあたしを放っといて話進めないでくれる? ―――社会的に抹消するわよ」


 こっちはこっちで怖いな…………。

 「ん? 誰、あなた」

 舌なめずりをしながら俺に歩み寄ってきていた女の足が止まる。

 同じ美少女(…………ケッ)でも翔子の方には興味が無いようで、

 「私の求婚の邪魔をしないでくれる? こっちは三十路みそじ手前で切羽詰ってんのよ」

 髪を掻きあげ、仕事の出来るクールビューティーって感じで翔子を見下ろす。言ってることはかなり『あれ』だ。

 「なら女の子を着け回してたって意味ないでしょ? お見合い相談所にでも帰りなさい」

 一応訂正しておくが、、俺は男の子であって女の子では断じてない。

 「あそこでは良いに巡り会えなかったわ………。でも、この娘は私の超どストライク! 黒髪の純和風美人!! サイッコウだぜ、ヤッハァァァァーーーーーーーーー!!! ………ぐへへへへぇ……」

 いや、本当にキモいので帰ってください………。






 「いやぁ、さっきは取り乱しちゃってごめんなさいねぇ。貴女あなたがあまりにも可愛すぎたから……つい出来心で」

 「この犯罪者が!! 一歩間違ってたら普通にやばかったぞ!!!」

 珍しく俺がキレる。

 こうして怒ったのは中2の時、風紀委員にセラー服を無理やり着せられたとき以来か……あの時は外階段で喉が枯れるまで叫びまくったっけ………。

 白衣の女の人は少しばつが悪そうに頬を人差し指で掻いてから、何か思いついたように気持ち悪い笑みを浮かべながら頭を下げた。

 「あの、本当にすみませんでした!! 今度晩御飯でもおごりますので! ぐへへへぇ……」

 「えっ!? 良いんですか?」

 「いや、フツウにワナだろ………」

 赤城がツッコむ。

 ワナ……罠? ―――――はっ!

 「俺を何処かの店に連れ出して食い物しようという魂胆こんたんだったのか!?」

 「チッ!」

 女性は赤城に聞こえるように大きく舌打ちをしてから、空気を紛らわすように辺りをグルグルと見回す。

 「それにしても一体この部屋は何なの? 黒板もホワイトボードも無いなんて……窓まで無いのよね………あっ、扉もゴミ箱も無いわ………あとロッカーが無いのかしら…………あと、あと―――」

 「いや、誤魔化さないでください………。あなた全然反省してませんよね……」

 「………それにしてもこの部屋は何なの? 私はこんな所知らないわよ」

 …………………………。

 「あたしにもよく分からないわ。一週間ぐらい前にたまたま見つけて使ってるだけだから」

 翔子がどこか自慢げに答える。

 「そう。なら放課後にダラダラやってないで部活動に入りなさい」

 銀縁眼鏡の女性はさも教師然とした様子で言う。

 先ほどまで「ぐへへへへぇ……」と言っていた人と同一人物だとはとても思えない。

 こうしていると美人なんだけどなぁ……はぁ………。

 「………それがトーメンのモクヒョウなんですけどね」

 赤城が鼻血を垂らしたまま答える。何で流してんだろ?

 「そう……なら私が顧問をしてあげるわ。部員の数や書類等々とうとうは全部私に任せてもらって構わないわ」

 「えっ!? いいんですか?」

 嫌な予感がしてならないが、『チャンスはものにするためにあるんだぁ!!』と熱すぎる父親が語っていたのを思い出し、ここは素直に喜んでおく。

 「いいのいいの。全然見返りは求めてないから。求めてないのよ。『貴女と一晩だけでも一緒に寝たいなぁ~』なんてこれっぽっちも思ってないから」

 一人で勝手に言葉を積み上げる女性を置いて、俺たちはちゃっちゃと帰る準備を始める。

 「へ?」

 先生と思しき白衣の女性が素っ頓狂な声を出す。

 「さよなら」

 「んじゃぁサヨナラです」

 「―――俺たちの為に一人で頑張っていてください」


 「あれ? 私の見返りは? 見返り………」


 戯言並べてんじゃねぇぞ、クソババァ。

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