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くたばれクソが。

 「はぁい愚民ども。このあたしがこんな最低なクラスでご飯を食べてあげるんだから感謝しなさいよね」

 意味の分からない迷言を吐きつつ、翔子が4時間目が終わった同時に俺と赤城のクラスにやってきた。

 手には小さなコンビニ袋が握られている。

 「ドウかしたのかよ?」

 赤城が話しかける。

 俺はバンダナに巻いた弁当箱を持ってクラスから逃げる準備をしていた。

 確かに友達になってくれたことはありがたいが、正直面倒くさい。関わりたくない。

 「祀木さん、ちゃっちゃとこっちに来なさい」

 体がドアから半分出たところで呼び止められる。

 このまま逃げても後でどんな仕打ちが待っているか分かったもんじゃない。――――ということで、渋々翔子たちのもとへと向かう。

 「で、なんでテメェがこの教室に来た? クラスちげぇだろ」

 「う、うるさいわね! あのバカクラスで食べるのがアウェーすぎんの!! …………それに、誰かと一緒にご飯食べてみたかったしぃ!」

 翔子のデレは微妙だ。デレでも強気で言うので可愛げがない。

 「えぇと、俺も一緒に食べるんですよね?」

 「当たり前よ。何か文句でもある? あったら殺すけど」

 サラッと怖いことを言う翔子。

 冗談か本気か分からないところが逆に怖い。

 「無いです……」

 この上下関係は何なんだろう? 俺たち友達ですよね…………。


 近くの空いていた席に陣取り、三つの机をそれぞれ向き合うような形にしてから食事を始める。

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 5分ほど無言のまま各々の食事を進める俺たち。

 そもそも赤城とは知り合いにはなったが、クラスではまだ一言も会話していない。

 ファンキーな外見の赤城だが人見知りであるらしい。俺は当然の如く自分からは話しかけられない。

 「ね、ねぇ…………」

 沈黙を破るようにして翔子が口を開く。

 「あ、あの……テストの点はどうだった?」

 「テストってイツのだよ?」

 「中間」

 中間テストは5月の半ばにあった。現在は6月の後半。その話題は旬じゃないにも程がある。

 そうは思いながらも、本日初めてのまともな会話だったので返しておく。

 「えーっとー………上の中? ぐらいだったと思います」

 俺には友達も彼女もいない。よって時間がたっぷりあったので勉強をよくしていた。消去法であるのがむなしいが何とか涙を堪える。

 「オレはヘイキンをちょっと下回るくれぇか」

 赤城は意外とバカではないようだ。会話をまともに出来てるし、この市内では有数の進学校である『北高』に入学出来ている時点で頭は悪くないのだろう。

 「ふ、ふーん……そうなんだ…………」

 明らかに様子がおかしい翔子。これは穿ほじくり返さない方が良いのだろう。

 『空気を読む』という高等テクニックを扱えたことに愉悦感を覚えつつ、ずっと気になっていたことを訊いてみる。


 「で、この集まりってなんなんですか?」


 一昨日おとついから一緒に放課後を過ごすようにはなったが、俺はこの人たちのことを全然知らない。

 翔子は財閥かなにかのご息女で、赤城は目つきの悪い赤髪ヤンキー。

 これだけだ。

 『教室として働けない教室』が何なのかも分からないし、どうしてこの二人が俺を拉致ったのかもよく分かってない。

 翔子は少しの間考えた後、呆気カランとした口調でこう言った。

 「んーとね、サークルみたいなもん。部室は無いからあの空き教室使って、人が少ないからあんたを誘ったの。結成は5日前ね、あの教室見つけてテキトーに作ったの」

 テキトーなんだ……。

 俺は本当に『巻き込まれた』って表現が正しいんだな…………。

 「名前をつけるとしたら……そうね、『時坂翔子様と奴隷共の会!』で、どうかしら?」

 「イヤ、ねぇだろ」

 半目で赤城がツッコむが、目つきがキツイために睨んでるようにも見える。

 「……はぁ、しょうがないわね。―――『時坂翔子様とその友達と+αの会!』の方が良いの?」

 「αはオレだよな!? オレなんだよな!!」

 「…そんな当たり前の事を訊いてどうするの?」

 可愛らしく小首を傾げる翔子。

 「ははっ、ソウですか………」

 がっくりとうなだれる赤城。

 心なしか赤毛も垂れ下がったように見える。

 「で、あんたはなんで敬語な訳? あたしたち友達じゃん」

 翔子が俺をまっすぐに見つめて訊いてくる。

 あなたがそれを言いますか!? 人を下僕げぼくみたいに扱って……でもまぁいいか。

 「それじゃあお言葉に甘えて―――『翔子』って呼んでも良いですか? じゃなくて……良いか?」

 「うん! あたしもあんたを『サイ』って呼ぶわね」

 翔子が満面の笑みを俺に向けてくる。

 眩しすぎて直視出来ねぇ………でも、こんな人と友達なんだよな………ぐへへへぇ。


 その後、ちぐはぐながらも会話を楽しみ、予鈴が鳴ったので翔子が自分のクラスに帰って行った。

 「バイバイ! また放課後」

 「オウ」

 「また」

 乳を揺らしながら去っていく翔子を見送り、俺はボソッと呟く。

 「翔子、か………」

 初めて女の人を名前で呼び捨てにしたかも、男の人はないのか……ケッ。

 「ハァ……アイツと一緒に居るとメンドーだな………」

 赤城はどこか疲れた様子で自分の席に戻っていった。

 俺もだいぶ疲れた。知り合いとはいえこれほどまで長い間会話したのは久しぶりだ。次の授業は爆睡しよう。




 「オーイ、起きろよー」

 「……何だ…………はぅぉ………」

 肩を揺さぶられたので机から顔を上げる。

 寝ボケまなこで声のした方を向くと、そこには赤髪のヤンキーがいた。

 どうも俺を揺さぶっていたのは赤城のようだ。若干顔が赤くなっているのが気にくわないが考えないことにする。

 「モウ6時間目終わってんぞ。アンマシ翔子を待たせるとロクなコトがねぇぞ」

 「……そうだな………ふぁうぁ……」

 5時間目の初めから記憶が無いので2時間ぶっ通しで寝続けていたようだ。腰が痛い。


 「ナンカすまねぇな、翔子のアイテをしてもらって」

 「全然。友達になってくれたんだから翔子様万々歳だよ」

 俺たちは『教室として働けない教室』に向かいながら会話していた。

 「オマエが来てくれてから翔子もゲンキなんだよな!」

 赤城は嬉しそうに翔子の話をする。きっと好きなんだろうな……ケッ。

 「あのさ、赤城と翔子ってどんな関係?」

 思い切って訊いてみる。どうせ赤面して「ナ、ナンでもねぇよ!!」とでも言うかと思ったが、以外にも真顔で答えられた。

 「ビミョー」

 ……はい?

 「どういう事? その、『ビミョー』って」

 「そのトーリにビミョー。5日前に出会ってイキナリ奴隷にさせられてコキ使われてんだよ。ショウジキどうしてコウなったかはイミ分かんねぇ」

 その言葉の割には顔が少し笑っていた。

 そのままの笑顔をこちらに向けてくる。

 「でもまぁ、オメェには感謝してんだよ。3日前よか翔子もタノシそうだし」

 惚気話のろけばなしはやめてくれ!!

 (女に)モテない俺を皮肉ってんのか!?

 自分は翔子との間にフラグピンピンだもんな! 余裕マックスだもんな!!

 「ドウかしたのか?」

 「いや、何でもない……」

 しかめっ面をする俺。

 赤城が顔を赤くして一気に目を逸らす。


 くたばれクソが。

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