人権ゼロ
「はぁ······なんでこうなったんだろうな?」
俺は男にあるまじき格好をさせられていた。
簡単に言うと女装である。
可愛いフリルの付いた太ももまで見える超ミニスカートに、ヘソがでるオレンジ色のキャミソール。
その格好を見て、翔子はう~んと唸る。
「もっと古風な方がいいのかしら? 祀木さんは大和撫子って感じだし」
「俺はニッポン男児ですけどね······」
もちろん翔子は聞く耳などもたない。
もともと俺が放課後になったので約束通りに『教室として働けない教室』に向かうと、「はいこれ、あたしが用意してやったんだから感謝しなさいよね」と女物の服を渡してきた。
拒否すると「退学? にしてあげよっかっ!」という恐喝により女装するはめになった。
折角友達できたと思ったのに······平等でも何でも無い。
「赤城! 次のやつ持ってきなさい」
「なんでオレが―――!?」
翔子が赤城を睨み付ける。
こちらからはよく見えないが、翔子のきしゃな背中からどす黒いオーラが放たれているのは分かった。
······殺気だな。
俺も男に見られるためにオートで発動中である、······ただ機嫌が悪いとしか見られてないけどね。
「······チッ」
赤城は顔を一瞬強ばらせたのち、逃げ去るようにして教室を出ていった。
翔子は何事もなかったようにこちらに振り返る。
「う~ん、あんたって男なのよね? ······こうして見ても女にしかみえないわ」
翔子が疑うように俺のことを見てくる。
「ははっ······はぁ······」
俺は苦笑いするしかない。
それは中学時代の文化祭でのこと。
俺のクラスで女装・男装をすることになったのだが、その時、俺はクラス中どころか学校中から称賛され、しばらく間は廊下で歩いていると「女装の人だ!」と口々に言われ握手を求められたりした。
人と関わるのが苦手な俺にとってそういのはキツイ。褒められても嬉しくないし、握手なんてすると緊張してストレスが溜まりまくる。
「オーイ、持ってきたぞ」
気まずい雰囲気が流れ始めた頃、赤城が手に何かを持って戻ってきた。
「着物?」
赤城が抱えているのは着物だった。赤を基調とした安っぽいやつである。
「はい、祀木さん」
当然の如く俺に渡される。
「俺に拒否権は······?」
「無いわ」
ですよねぇ············。
「どう? かな……」
俺はさきほどの赤い着物を着て赤城に見せる。
頭に簪をさし、足には漆塗りの下駄。真っ赤な口紅も塗られたので唇がムズムズする。
「どうよ、このあたしの完璧なるセンスによってコーディネートされた祀木さんは! 超可愛いでしょ!?」
「ああ! スッゲェカワイイ!! ――てイテェ!!!」
顔を赤らめた赤城の顔面を躊躇もなく翔子が殴る。
右ほほを抑える赤城―――本気で痛そうだ…………。
「下僕の分際で祀木さんに見とれてんじゃないわよ! このアバズレが」
「ひ、ヒデェ! オマエが言ったから褒めたダケだろうが!!」
俺は全然嬉しくないけどね…………。
抗議し続ける赤城を無視して翔子がこちらを向いて微笑む。
「今日からはその格好でね❤」
「はい?」
何言ってんだ!?
「これから祀木さんのコスチュームはそれだから。……あぁ、ちゃんと他の着物も用意してあげるわ! なんなら浴衣でもいいわよ?」
…………はい?
これからは着物? 浴衣? 俺のコスチューム?
…………俺はこの格好をし続けるのか?
「翔子もタマにはイイコト言うじゃねぇか!」
賛同すんな!! やばいやばいやばい!!! このままだと俺が本当に女みたいになってしまう。
俺は男の格好をしているからまだ男と認識されるが、女の格好をすれば間違いなく女に見られる。
そうすれば俺のアイデンティティーが! プライドが!!
「絶対に嫌です!! 俺は男なんですよ!? 絶対に女装なんてしたくありません!!」
「無理、あんたには女装してもらうから!」
「何でそうなんだよ!! 俺の意見は人権は!!?」
「仕方ないわねぇ……他にメイド服も着せてあげるわよ」
「人権、ゼロ!!!」
渾身の抗議も虚しく、俺は女装することになりました……。
「くっ、視線が痛い……」
あれからすぐに家に帰ることになったのだが、「着物、着て帰りなさいよ」と言う翔子―――本当に俺の友達ですよね?―――の命令で、そのまま帰ることになった。
「誰あれ? チョー可愛いんだけど」
「この近くで祭なんてやってたっけ?」
……目立ちすぎだ。
これはコスプレに近い! 完全に場違いだ。
……………………ケッ。
「……何かどうでも良くなってきたかも………」
俺は、積乱雲が立ち込める真っ青な空を見上げてそう呟いた。




