とっとこクソ野郎
「どうぞどうぞ。そして英雄さんはお帰りください」
「いやだ。おじゃましまっせぃ」
俺と翔子とトサカと先生。そして、何故か途中で加わることになった英雄さんを従えて、俺は自分ちの扉を開ける。
まず、母親がことあるごとに買ってくる同じような黒ヒール30足が玄関に、父親が旅行に行くたびに買ってくる大量のインチキ臭いお土産ものが下駄箱の上に置いてあるのが見えた。翔子は全く気にも留めず、所狭しと並べられたヒールを足でどけて靴を脱ぐ。英雄さん、先生がそれに続く。
「クツ多すぎんだろ! これゼンブ母親のか? それにアカラサマに怪しいのがアんだけど……」
トサカだけはまともな対応をしてくれたが、正直俺も面倒くさかったので生返事だけ返して奥へ進んで行った翔子たちを追う。
「お嫁ちゃんの部屋ってどこ? 歯ブラシは何色の? 箸はどれなの? 食べ残しは?」
次々に家の物を物色しながら先生が訊いてくる。
ここは華麗にスルーし、何気に一番厄介そうな英雄さんに話を訊く。
「なんで俺んちに来てんですか?」
「面白そうでしたからな」
顎を右手でさすりながら英雄さんが答える。
英雄さんとは只単に道ですれ違っただけで、来訪者リストに入ってはいなかった。それがなんやかんやのこんなやんなでこうなった。
ウザさマックスだったが、そんなことよりも―――――、
「先生! ゲームしましょゲーム。ハードなら俺の部屋にありますんで」
「そうよ、ゲームは素晴らしいのよ! ゲームさえあれば、他は何もいらない」
少し危なめな発言する翔子は、早く部屋に行くよう催促しながらその場で足踏みをしていた。本当にゲームが好きなんだな。
緩む頬を手で隠しながら、翔子の珍しい様子を目に焼き付けながら、自分の部屋のある2階へと上がる。
「この階段にはてすりが無いのかね? あたしゃ腰が弱くて弱くてねぇ……」
などとほざきやがる英雄さんは置いておいて、とっとと上がった。
「ケッコー整頓されてんな。ジョシの部屋ってカンジ」
「俺は女子じゃねぇ」
幾度目になるかも分からないツッコミをしながら、俺はプレステの電源をつける。
改造の物らしくいくつかの宣伝が通っていった後、タイトル画面が現れる。
「なになにぃ······我らが愛しのサイちゃん様!!?」
俺は○ボタンを連打して初めからを選ぶ。
まずは容姿を設定してください。
こんな指示が出されたが、すでに俺とそっくりのキャラが出来あがっていた。それで固定されており、いくらいじろうとしても無駄だった。
「どうどうどう!? お嫁ちゃんそっくりでしょ? なでなでしてぇん!!」
「しません!!」
抱きついてきた先生の柔らかな胸を横っ腹に感じながら、スタートボタンを押して先を進める。手が震えていたのは気のせいです。
いきなりゲームは始まった。
明らかに布の少ないきわど過ぎるビキニを着た俺とそっくりのキャラが、サブマシンガンらしき物を持って立っていた。眼前には、目玉の飛び出た煤けた老婦人がひきつった笑みを浮かべて近づいている。肌の色が異常なほど白いし、所々に縫い痕らしきものがあるので、いわゆるゾンビというやつだろう。
「ぎゃっぎゃやぁーーーーーーー!!」
翔子がトサカに抱きつきながら絶叫する。ホラー系は苦手なのか······いちいち可愛いな、殺すぞ。
「そやつを殺らねばならんぜよ? 操作ほうほーは?」
「Rボタン押して照準合わせて□ボタンよ」
俺に抱きついたままの先生の指示通りにRボタンを押し、老婦人の薄い頭に照準を合わせる。
「OK」
□ボタンを押した瞬間、持っていたサブマシンガンが火を吹いた。
肉の千切れる音とサブマシンガンの音だけがしばし響いた後、老婦人の頭が吹き飛び地面に倒れこむ。それでも少しの間蠢くのがグロくて最高だった。
「お嫁ちゃん、どう?」
「最高ですっ!」
そして貴女の胸も最高です! 顔が近くて最高です! 息が吹きかかるのが最高です!
キャラの格好のことなどは忘れ、しばらくは感慨にふけっていた。
「ホ、ホラ! その、ゾンビがキてんぞぉぅ!?」
翔子に抱きつかれたままのトサカ大声を出す。
俺達4人をケータイで撮っている英雄さんは無視して画面に集中すると、確かに近くに禿げたオジサンのゾンビがいた、周りの風景に紛れていたらしい。とりあえずサブマシンガンを使ってぶち殺す。オバサンよりは強かったようで、一度殴られたが頭を吹き飛ばしてやった。
「こんな感じで大量に湧いてくるゾンビを殺しまくるだけなんだけど、時々ボスっていって、強いやつが出てくるから気を付けてね」
「武器変更は?」
「そこのやつ」
「OK。殺しまくりますか」
俺は本腰を入れる。
そこそこ難易度は高く作ってあるようで、何度も死にかけながらも敵を殲滅する。時々出てくるボイスが妙にエロっぽいのがウザかったが、ボスが2、3体同時に出てきたりするので気にしている暇はなかった。
「さすがはゲーマーってトコか」
「うっさい。俺はこういうゲームが好きなだけだよっと」
さっき知った回避行動で敵のゾンビの攻撃をかわしつつ、マグナムの弾を喉にぶち当てる。
ヒィヒィ言いながらも上手かった翔子に代わったり、断トツで上手い英雄さんにチョップをかましたりして、なんとかその日は終了した。
必死に残ろうとした先生を無理矢理押し出すとすぐに鍵を閉める。
ふぅ、長かった。
人を家に連れ込んだのは家庭訪問以来だな。
意外と楽しかったのが意外で意外で仕方がない。
「居候も居ないし、また連れてきてやっかなぁ······」
自然と笑顔が溢れた。




