宮田先生(変態)
今回は先生中心です。
松浦さんの依頼を完遂したのはいいが、その後、俺たちの部活に依頼という依頼はやってこなかった。
というのも、呼び込みをしようにも俺は人前に立って喋ることが出来ず、トサカは相手を怖がらせるだけで大した宣伝にはならなかった。なんとなく部室前を通り過ぎたりして興味を持っていそうな人もいたりはしたが、翔子がドスを効かせて睨みつけ帰してしまう。
つまり…………、
「だぁ~~~ッ!! 暇だ!」
俺は机を3つ繋げて寝ころびながらそう叫ぶ。
すでに終業式は終了し、蚊と蝉共が五月蝿い『夏休み』に入って3日目。「当然、夏休みも部活やるから」という翔子の妄言により、俺はこうして『理科講義室』に居るのだが、当の翔子は全然来ないし、トサカは病院に行ってて今日は休んでるし、先生はなんやかんやでいつも忙しそうで来ない。部の目的である『人助け』は、そもそも依頼がこないから出来ないしなぁ…………。
右手で携帯ゲーム機を弄ぶ。
「もうゲームするのもめんどいしねぇ」
めんどいめんどいめんどいめんどい。
だるいだるいだるいだるい。
かったり~。
……………………。
―――「ふぁうあ……」……眠くなってきた…眠るか。
重い瞼に逆らうことはなく、そのまま深い眠りへと落ちて行った。
次に目を覚ました時には――――――黒、だった?
寝ぼけ眼で辺りを見回すが、とにかく黒黒黒。真っ暗だった。月も星も見当たらないので、夜だからとかではなく暗室かなにかに居るのだろう。前にも似たようなことがあったせいで、あっさりとそのことは受け入れることが出来た。縄で縛られて……なんてことはないようだ。手足は自由に動かせる。
「とにかく出るか………」
全く目が見えないので方向感覚が狂い、何度もこけそうになりながらも、薄らと細い光が差し込むドアと思しき場所へと歩を進める。
扉は意外なほどあっさり開いた。
「あら、やっと起きたの………うぷぷ❤」
扉の先には、白衣を着た茶髪の女がいた。光に目が眩んで顔が見えないが………その、キミの悪いいやらしい声を俺が忘れられるはずがなかった。
「ははっ、先生……こんにちは………」
先生はぐへへとにへら笑いながら、「寝てるところを襲わなかったわよ? だから一緒にぃ!!」などと言って抱き着こうとしてきたが、俺は暗室の扉を勢いよく閉めて回避する。
『ねぇねぇ! 顔についた涎がエロいよ。今日は着物じゃなくて制服なんだね、男装姿も可愛い❤ ちょっと服が乱れてるのもエロいよ……寝汗で肌にペタって張り付いてて………ぐへへへ…』
扉を通して声が漏れてくる………この声の伝わりからして、先生は扉に張り付いているようだ………キモッ…。
―――とはいえ、ずっとこの場所に籠城していたところでどうにもならない。先生のことだから、俺が出てくるまでずっと待ってるだろうしな………。
「――――あのぉ! 出来ればそこから退いてくれませんか!? あと絶対抱き着かないでください!!」
扉越しでも伝わるように大声で叫ぶ。扉越しの先生はアヒル口が目に見えるような声で、
『わ、分かってるわよぉ………今日は我慢する』
と言った。その声が可愛くて不覚にもドキッとしてしまった自分を恥じながら、しばらく無言で待ってから再び扉を開ける。
(はぁ………変態発言さえなければなぁ…………はぁ……)
むすっとして唇を尖らせている先生は―――とてもとても可愛かった! 先生が百合じゃなければ心から喜べるのになぁ………はぁ……。
「サイちゃんは私のことが嫌いなの? ずっと逃げるし……」
「嫌いです❤」
「ひどっ!! ―――でも、私のM魂がぁんぅ!」
身をくねらせて歓喜? する先生。呆れるしかないな……はぁ…。
暗室(仮)は『部屋の中の部屋』となっているらしく、扉の先にも部屋があった。そこには、怪しげな緑色に光る液体の入った試験管や、真っ赤に輝くスライムみたいな物があったりする。扉の穴から大量の光を受けた暗室の中を覗くと、二畳ほどの空間の大半を、何やら大きな銀色にテカる機械が占領していた。その前の空きスペースにはシーツが敷かれてあり、おそらく俺はあそこに寝かされていたのだろう。
「で、どうして俺はここに連れてこられたんですか?」
他にもいろいろ訊きたいことがあったが、とりあえずの状況確認。
「あんなところで無防備に寝てたら、いつ襲われるか分からないからね」
と、先生。
「―――あの、俺が男だ、って知ってますよね?」
「知ってるわよ? ……でも、男と分かっていてもなお逆らえないその吸引力!! パンパじゃないわ!」
「そですか………」
はははははっ。
「―――――――――――あっ、そういえば」
俺はこの先生のことを何も知らない。学年が違うし、会うたび会うたびに追い回されていたので訊きそびれていたのだ。この際だし訊いてみるか。
「先生、先生の名前って何でしたっけ?」
「宮田だけど? サイちゃんなら特別にダーリンって―――」
「遠慮しときます!! ――何故ダーリン!? あんたはあれか? オナベってやつか?」
「違うわよ。私は女として女の子が好きなの」
「で、俺は性別上男だからここ日本でも結婚できると?」
「―――でも、先生と生徒の交際とかはダメなのよね………だから、サイちゃんが学校辞めて主婦になってくれないかな?」
「やらねぇよ!!」
ダメだ……腐ってやがる。
でもまぁ先生の名前も正式に聴けたな。次は何を訊こう………。
「―――先生って何教師ですか? 理科関連ってことは分かってるんですけど、その………実験っぽいのしてるじゃないですか、『惚れ薬』なんてこの前持ってきてましたし……」
顎に人差し指を当て、遠くを見つめる先生。
「ん~とねぇ……理科全般教えてるんだけどね、実験は―――――趣味?」
趣味で実験…………犯罪だよな、たぶん。
俺はなんだか疲れてきたので、近くに置いてあったソファーにドカッ腰かける。何気なく先生が隣に座る。
「うふふふふぅ…………そんなに先生のことを知りたいんだったらぁ……生まれたままの姿を教えt――ウブルバァ!!」
抱き着いてきた先生に肘鉄をかます。よく翔子と一緒にいるからか、だんだん技の切れが増してきた。
「抱き着かないでください、って言いましたよね?」
「う、ぅん………」
しょんぼりとする先生。でも、怪しく目が光っているので注意しとかきゃな……。
そんなこんなで、俺は先生に質問攻めをしてみた。
「恋人はいるんですか?」
「兄妹は?」
「好きなテレビは?」
「スリーサイズは?」
「昨日は何を食べましたか?」
「今日の夕食は?」
「etc――――――」
先生は懇切丁寧、手取り足取り?教えてくれた。たぶんスリーサイズはごまかしてるだろうけれど(200、300、400とか言ってた)これまで化物としか認識していなかった先生は、情報を知れたことで、どこか近くに感じることが出来た。
その後も何となく世間話を楽しみ、俺が先生の実験室を出るときには夜の8時を回っていた。「泊まっていきなさい……ぐへへへぇ…」とほざく先生を振り切り、夜の街を一人とぼとぼ歩く。
「ホント、もったいねぇよな…………はぁ……」
本日何度目かのため息をついたあと、俺はにへら笑う。
「俺も、普通に仲間っぽいのが出来てんだよな…………」
一か月前とは比べものにもならぬ程の成長を遂げた自分を褒め称えつつ、背後から忍び寄ってきた先生の顔面に拳をめり込ます。




