英雄さん、参上!!
ある程度暴走状態だった翔子が落ち着いてきたところで、トサカと加奈子さんはとある場所へ入っていった。
「ゆう…えんち?」
俺と翔子は、遊園地のちゃちな門の前に立ち尽くしていた。
「なぁ翔子。遊園地に来たことある?」
「小学校の遠足で一回だけ」
「なら引き返そう。俺はここにいい思い出が無いし、絶対ろくなことにならない」
そもそも尾行する意味ないって、と説得を試みたが、翔子にはそもそも聴く耳なんて存在しない。
「ほら、さっさと行くわよ。塵トサカが変なことをしたらぶち殺さないとぉ!」
「そですか………」
翔子に半ば引きずられるかたちで、俺は魔の巣窟に足を踏み入れた。
「うっわぁ………」
俺はカップル客の多さに絶句した。
翔子も引き攣った笑みを浮かべながら、先生がトサカに取り付けたGPSを頼りに、見失った赤毛の不良を探し出すことにする。カップル共の湧き具合に吐き気を覚えるが、「超絶美少女が俺の隣を歩いているんだっ!」と、自分自身を叱咤激励しながら、重い脚をマリオネットみたいに動かして歩く。―――というのも、俺は遊園地にトラウマがあるのだ。
―――――中2の時、「3年が修学旅行いくんだからさっ!」ということで行くことになった遠足。あまり金をかけると保護者に怒られるため、近場にあった遊園地がその行き先となった。
行ったはいいが、判別行動が始まって早々自分の班とはぐれるわ、先生に連絡しようと思っても財布すられて出来なくなってたり、集合場所へ向かう途中にチャラ男共にナンパされるわ、何とか逃げ出したと思ったらタバコ臭い不良共にぶつかっちまうわ、颯爽と現れたヒーローとフラグが立ちそうになるわ………最終的には、夕暮れ時の観覧車で先生に告白される(もちろん男です……)という、嫌な意味で充実した波乱の一日だった………。
だからこそ、今も嫌な予感がしてならない。
隣を歩いているのは超絶美人。世の男共が黙っているはずがない! (俺は女友達として認識されることでしょう……トホホ………)
ネガティブシンキングをしながら歩いていた俺の目の前に、いきなり大きな影が現れた。
「きゃっ!」
案の定、俺と影はぶつかってしまった。
「ぉぃてめぇ!? 何ぶつかってくれちゃってんだぁ、あぁん!!?」
影に衝突して尻餅をついた俺は、「いてて……」と腰を摩りながらでっぷりとそびえる影を見上げる。そこにいたのは、一昔前のヒップホップ系の格好をした20代前半のデブだった。傍には例のごとく取り巻きが4人ほど。
「す、すいません……ほら、さっさと行こっ翔子」
俺はなるべくデブと愉快な仲間たちと目を合わさないようにしながら、男たちを睨みつけている翔子の手を引っ張ってこの場を立ち去―――ろうとした。
「サイ、ちょっと待ちなさい―――」
翔子は俺の手を優しく振り払うと、デブーズ(俺命名☆)を先ほど以上に鋭く睨む。
一歩後ずさったデブだったが、数が多いからかすぐに余裕の下衆った笑みを浮かべ、
「おぃぉい、よく見なくても二人とも美人だよなぁ。賠償金の代わりぃ、ぉれらとデ~トしよぉやぁ」
グヘへヘヘ、と取り巻きたちも同調する。
「無理ね。誰があんたらなんざに付き合うか」
翔子はきつく言い放つ。
「それに……ばいしょーきん、って何?」
翔子はやんわり言い放つ。
「はぁ………」俺は一つため息をついてから、おバカで可愛い❤翔子様に教えてあげる。
「―――――――――――――――――ほぉ!! それじゃああたしはトサカからもらい放題じゃない!」
「逆だろ…………」
俺はまた一つため息をつく。
「おぃ! ぉれらとデ~ト!!」
説明中、律儀に待ってやがったデブーズ。どうせなら俺を『美人』だとかほざきやがった腹いせにタイキックをかましたかったが、女子と女子並みだけでは大の男四人を倒すことは難しい。っていうか無理だ。よって俺は再び逃走をはかる。
「行くぞ翔子。こんなやつら相手にしてたって時間の無駄だ。そもそも俺はあいつに怪我を負わせてないから賠償金うんぬんは関係ないしな」
「……ぁ、あぁぁあ!! ちょ~いてぇ! ぉれの肩ちょ~ぃてぇ!!」
とって付けたように騒ぎ出すデブ。
「大丈夫っすかぁ、デブ先輩」
「おでのセ゛ロハンテープ使いま゛す゛か?」
「そのまま死ねよ」
「……………ふん」
取り巻きたちもフォロー? する。
「お、ぉれの肩がぃってんだから賠償金払ぅかデ~トしろぉ!!」
「そうだそうだ!! (デブ先輩はどうでもいいけど)俺とデ~トしろぉ!」
「おではど~でもいいだ。飯さえ゛おごってぐれれば」
「あぁ……めんどくせぇ…死ねばいいのに」
「…………ふん」
…………………………デブが可哀そうになってきた……。
俺が同情したところで事態は好転しない。むしろダメな方に転がった。
「嘘くさい芝居してんじゃないわよ! この三下がぁ!!」
翔子がデブーズにつっかかる。それに伴って、それまでデブに同調していただけの取り巻きが暴れ出した。
「俺ってば活きの良い女だいっすきなんだよねぇん」
「おでは―――――――――――――――――――――――」
「死ね―――――――――――――――――――」
「―――――――――――ふん」
何かしら言いつつ翔子に迫る男共。
「やめろ!! 翔子に指一本でも触れてみろ! 俺がお前らをぶっ殺すからなぁ!!!」
翔子と取り巻きたちとの間に割って入ったはいいが、正直涙目もいいところだった。
取り巻きたちは下卑た笑いをあげ、翔子、そして俺にも襲い掛かる。
覚悟を決め。ギュッと涙が溜まった目をきつく閉じた、その時だった。
骨と骨がぶつかる音がした。もちろん俺の骨では無い。
―――俺は、恐る恐る目を開けてみる。
「英雄さん、参上!!」
そう叫びながら俺らと取り巻きたちの間に仁王立ちしている、黒より黒い髪から一本生えたくせっ毛が特徴的な男がいた。歳は俺らと同じか上ぐらい。
「な、なに者だ!? てめぇ!!」
デブが近くに転がっている取り巻きの一人を見て狼狽える。取り巻きの内、すでに二人が地面に這いつくばっていた。
残された取り巻きの一人が、英雄と名乗った少年に殴りかかる。
「英雄さんには勝てませんよ? 英雄だから」
少年は軽く取り巻きの一撃をいなすと、代わりに強烈なボディーを決める。取り巻きは沈む。
「さぁって、次は誰かな!?」
少年は嬉しそうに言う、というより宣言する。
デブーズで残った二人がのされた三人を担ぎながら、
「覚えてろよ!!」
と、捨て台詞を吐きながら去って行った。
その様子を仁王立ちのまま見送っていた少年は、呆然と眺めていた俺たちに視線を移すと、
「大丈夫か?」
優しくそう言った。
「あなた誰よ?」
翔子の口から自然に漏れた言葉に少年は嬉しそうに笑いながら、
「英雄ですが何か?」
と、軽やかに答えた。
英雄さんは純レギャラーみたいなもんです。先生みたいな。




