奴隷2号に昇格しました
「みーんみんみんみん、みーんみんみん―――――」
いつもながらに喧しい蝉共の求婚にうんざりしながら、俺、祀木 祭司は筋肉痛の足に鞭うって今日も登校する。
俺が通っている学園は「北高」と呼ばれるそこそこ品行方正な私立高校である。
入学を決めた理由はもちろん家が近いということもあるが、何よりもいじめが少ないところにある。この外見からいじめられることも少なくなく、さらに行動力が乏しい俺はそのいじめを止められなかった。小中とそれほど酷くはなかったが、いじめられているという事実が俺の心を締め付けた。
「もういじめられるのは嫌だ!」そう決意して入学した北高だったが、俺はクラスで完全に孤立している。いじめは無いもののどっちにしたって惨めであることに変わりはない。
「はぁあ、地球爆発しねぇかなぁ······」
そんなことを呟きながらボロボロになったスニカーを脱いで上履きに履き替えようとすると、体育で使う運動靴と上履きが入った俺用のロッカーの中に便箋らしきものが入っていた。
便箋かぁ······、って便箋!!?
俺は周りに誰もいないことを確認してからその便箋を上履きと共にロッカーからサッと取り出す。そのまま上履きに履き替えながらダッシュで人の居なさそうな場所へ移動する。
便箋は薄いピンク色をしており、開封口? は可愛らしいハートのシールでとめられていた。
メチャクチャ女の子臭がする······。
入学してから2ヶ月半、俺はラブレターを二度ももらったことがある。
······しかし、それはどちらも男からだった。一つはサインペンで『祀木祭司様へ』と角ばった文字で書かれた封筒に入っており、もう一つはノートを破っただけのものだった。
あからさまに男臭かった。
······しかし、これには女の子臭がする!
大きな期待を胸に、ハートのシールを丁寧に剥がして中身を取り出す。
『祀木祭司様へ』
スッゲェ!! 丸文字だ······!
そのまま校舎中を駆け抜けたい気持ちを押さえつけ、再度手紙へ目を落とす。
『本日の放課後、A棟の屋上にて待っています。あなたに頼みたいことがあるのです』
頼みたいこと? 何かのフラグがビンビンのような気もするが考えないようにする。
時間は回って放課後になる。
今日一日、ろくに授業は聞いていない。それどころではないからだ。
俺が、可愛らしい女の子(妄想)にラブレター(仮)を貰ったのだ!
天にも昇るようだとはまさにこの事! 足の筋肉痛もすっかり治ってしまった。
女の子を待つのよりも待っているところに登場する方が格好いいと考え、適当に図書室で時間を潰してから屋上に向かう。
「たのもぉ!!」
何となくそう叫びながら屋上のドアを勢いよく開け放つ。
そこには誰もいなかった。
誰か居た痕跡が無かった。
俺は騙されたと分かった。
と同時に叫ぶ。
「クソガァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!! 俺の純情を弄びやがってぇ……!!」
俺は殺意を露わにする。
もう誰でも殺せてしまえそうだった。
アニメのキャラが怒り狂うと強くなる、という原理の一端を垣間見たような気がした。
俺は鼻息荒く犯人捜しをしようと校舎側に向き直ると、すぐ目の前に誰かがいた。その誰かはいきなり俺の口元に何かを押し付けてくる。
「んっ、んのっ!!」
俺は見た目の通りに腕力が女子並みだ。相手の細いながらもしっかりとした男の腕を解くことは出来なかった。
「すまねぇな祀木」
低い男の声が聞こえたと同時に、俺の視界が徐々に暗くなる。
眠らされたと気付いたのは目が覚めてからのことだった。
「ん? くっ、ふぁうぁ……」
俺は目を覚ました。
窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。
「何だ? どうなってるんだ? ん~…………そういえば、何かあったような……」
どうして自分が寝ていたのか全然思い出せない。どうもまだ寝ぼけているようだ。
寝ぼけたまま、状況を確認するために辺りを見回す。
「どこだ? ここ」
床や壁の色が俺のクラスと同じ白色なので学校の敷地内であることはまず間違いないだろう。
だが、
「何もない……」
それは普通の教室と変わらないサイズの部屋だった。
しかし、何もない。机や黒板、ロッカーやごみ箱など、本来の教室ならあるはずのものが一切なかった。窓も桟があるだけで取り付けられていなかった。
教室として働けない教室。
脳の方もそろそろ覚醒してきたので起き上がろうと体に力を入れる。
「痛っ!」
俺は痛みを感じて中止する。
見ると、大蛇に巻きつかれているように体中が注連縄で縛られていた。
「……」
俺は誘拐されたんだな。
「………たっ…」
「た、助けてくれぇぇぇ-------!! こんなところで死にたくないよ! 俺はもっとハードボイルドなオジサンになって死ぬんだ、女の子とセックスしてから死ぬんだぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
俺は声の限り叫ぶ。
窓も空いているから外に聞こえるんじゃないかと考えた。
しかし、呼び寄せたのは助けではなく犯人の方だった。
「アンマシ騒ぐな!! こんなコトが先生にバレたらそれこそホントウに不良扱いされるダローが!」
その顔には見覚えがあった。
「……お前、赤城か?」
「……アア」
俺が叫ぶのを止めに来たのは赤城というクラスメイトだった(初めて会話した)。染め上げた赤髪に、俺とは比較にならないほど悪い目つき。彼は不良と恐れられ、俺と同じようにクラスで孤立していた。
『赤・赤』だったから覚えていた。
「なんでお前がここにいる!? お前が俺を縛ったのか! 早く解け!!」
赤城は苦渋を表情をした後、
「すまねぇ!! メイレイされたとはいえ女の子にコンなことをしてしまって……ホントウにすまねぇ!!!」
と45°頭を下げてペコペコと謝る。
そんなことよりも……、
「俺は女じゃねぇ!!」
そこが気がかりだった。
命令したやつの事も気になるが先ずは目先の問題からだ。
「俺は女じゃねぇ!! 何で俺を女だと思う? 制服着てるだろうが! 男物の!!」
「う~ん」と赤城が俺をまじまじと見て唸る。
「男装女子にシカ見えなぇな」
「………さいですか…」
はぁ……やっぱりそう見えちゃうのか、見えてしまうのですか……。
これ以上つっこむと更に傷つきそうだったので諦める。
「で、お前に命令したのは誰だ? 俺の知ってるやつか?」
一つ終わったので次の話題。
「たぶんオマエも知ってると思うぞ。時さ―――――」
「それ以上口を開かないで、駄不良が」
その声は廊下側から聞こえた。
張りがあり、かなりキツ目の話し方。
女の声だ。声だけで美少女っぽい。
声の主はドア(ドア自体は無いので本来ならあるはずの所)の前に突っ立ていた赤城を蹴り飛ばすと、モデルみたいな歩き方で俺に近付いてきた。
声の通りに美人だった。金髪碧眼で背は俺より少し低いぐらい。ミニスカートから伸びた白い脚が夕日に照らされてて眩しく光っている。あと…………胸がデカい。
「あんたが祀木祭司ね? 噂はかねがね聴いているわ。 で、早速だけどあたしの下僕になりなさい」
「……はい?」
「だ・か・らぁ、あんたをあたしの下僕にしてあげるの! どう?光栄なことでしょ」
はい? 言っている意味が全く理解できない。まだ寝ぼけてんのかなぁ?
「すまねぇ、コイツはオマエのことが気に入ったみたいナンだよ……」
腹を押さえながら説明してくれる赤城。
状況は相変わらず分からないが、俺はこの美少女に気に入られて、誘拐されて、奴隷にならないかと勧誘されていると…………、
「ただの脅しじゃねェか!!」
俺は叫ぶ。縄が食い込んで痛かったが今はそれどころではない。
「俺は奴隷になんてならない!!!」
「ふふっ! その勇ましくて男っぽいところも気に入ったわ。あんたはあたしの奴隷よ、これは確定事項だから」
「はぁあ!!?」
抗議しようとするが動けないために芋虫みたいになる。
「あんたは人間からあたしの奴隷2号に昇格よ。感謝なさい」
金髪美少女(巨乳)は偉そうに仁王立ちして宣言する。
「俺の意見は!!?」
いくら叫んでも聞く耳は持ってくれそうにない……。
「―――俺が2号? ってことは……」
赤城に目を向けるとすぐに逸らされた。こいつが1号か……。
普通に考えれば最悪な状況なのだが、俺は少なからず期待をしていた。
これで仲間が出来る!
これは『友達居ない歴=年齢』の俺には願ってもない出来事だった。
「これからよろしくね、祀木さん」
「は、はぁ……」
こうして、俺の波乱に満ちた学園生活が幕を開けるのだった……!
翔子は肉を参考にしています。




