アルマジロ
「…………みんな死んじゃえばいいのに………ぐすっ…」
「マァマァ、落ち着け。オマエもガンバったさ……ただ、ジキがハヤかったんだよ。これからイイコトいっぱいアるって、な?」
「………(こくり)…ありがと……」
失恋した俺を慰めてくれるトサカ。
「俺が女だったら惚れちゃってるな……」
「お、おう……アリガトよ………」
トサカは照れ臭そうに頬を掻く。
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俺は松浦さんに猛アタックをしてみた。
「今度、遊園地にでも行きませんか?」
「一緒にプール行きましょ、プール!」
「そっちの弁当おいしそうですね、ちょっと俺にも分けてくださいよぉ~」
などと、猛アタックした。
実際に一緒に遊んでくれたし、楽しく会話も出来たし、互いに「あ~ん」なんてこともした。
なのにだ!!
「サイちゃん、だ~い好き!!」って、抱き着いてくれたのにだ!!!
「俺と…付き合ってくれませんか?」
一世一代の告白だった。
失敗すれば死ぬつもりだった。
それほどの覚悟を持って挑んだ。
その、答えは………、
「ご、ごめん………『女友達』じゃ、ダメかな?」
分かってたさ………分かってたけどね!!?
それから一日中、俺は死ぬことも出来ずに自宅のベットで泣き臥せった。
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俺は理科講義室の隅で体育座りして泣き続ける。
「俺ってさぁ…なんで男に生まれたんだろうな………。いっそのこと、女だったら良かったのに…………」
「そうナゲくなよ。……えぇっと、『松浦さん』だっけか? ソイツもオマエの魅力がワかってねぇだけだって。きっとイイヒト見つかっからさ」
どうせなら背中を摩って欲しいところが、トサカは俺から1メートルほど離れ、尚且つ目を合わせてくれない。
理由は分かっているが、今そんなことを考えれば俺の精神が崩壊するのでやめておく。
「だから言ったじゃない。あんたには無理だって」
翔子が椅子に座ったまま、机に肘をついて俺を見下ろす。
「そんなこと言ったって………」
「けど大丈夫よ。あんたには『先生』がいるじゃない」
翔子が放った言葉に俺は動揺を隠さず、
「絶対無理! あの人は生理的に受けつけないどころか、精神的にも嫌いだから!!」
「ふふっ、分かってるわよ。あんなやつにあんたはやらないわ」
翔子は優しげな笑みを見せる。
こうして見ると、可愛いし、美人だし、色白だし、巨乳だし、金髪で碧眼、と完璧なんだけどなぁ………。
「―――――まぁ、もしあんたの告白が成功してても、あたしの持ちえる財力と権力と暴力を総動員して別れさせてたけどねっ❤ てへぺろ」
性格が……………ちょっと……。
「オイ、翔子。サイにそんなコト言ってっけど、テメェもシッパイしたんじゃなかったか?」
トサカのジト目で言った言葉に翔子は何の反応も示さず、
「そうね」
それだけで返した。
失敗とは、松浦さんのことが好きだった男(俺ではないです)を落とせなかった件だろう。
詳しくは聞かされていないが、翔子が相手のリア充感に拒絶反応をしめし、路地裏で、相手の顔の原型が分からなくなるまでボコったとのこと(もちろん権力によって揉み消されました!)。
「で、トサカの方はどうだったんだ? うまくいったのか?」
トサカはしばらく考えた後、こう口にする。
「今度デートするコトになった」
…………………………………………。
「「はぁ!!?」」
俺と翔子で揃ってトサカに迫る。
しばらく顔を赤らめて「カオ寄せんな! テレんだろーが!!」などと言っていたが、それが無駄だと分かったのか、視線を壁に貼られた解剖写真に向けたまま話し始めた。
「―――オレはアラカジめ伸しておいたフリョ―共に加奈子をオソわせて、ソコを助けてデアいを作った。ココまではシってんよな?」
トサカが余裕綽々の笑み(実際には笑っていない)で俺たちを上から目線で見下した(本当はこっちすら見れていない)。
加奈子ね、加奈子…………俺は松浦さんのことはずっと「松浦さん」だったぞ?
「(てめぇは友達いねぇくせにコミュ力たけぇラブコメ主人公ですかぁ!? あ゛ぁ゛!!? ―――ぶっ殺すぞ……)」
「マ、マァそっからイロイロあってだな……」
トサカが加奈子さんとの未来を想像して遠い目をする(リアルでは引き攣った笑みを浮かべていた)。
「オレが『松浦さんとナカヨくなってくれませんかね?』ってイったら、『ならわたしとデートして!』ってコトになって…………」
鼻の下を伸ばしながら、翔子を元カノでも見るような目つきで眺め見る(翻訳すると、『トサカは翔子の様子を気まずそうにチラチラっと窺っていた』)。
「はぁ…」翔子は一つ小さなため息をつくと、
「行けばいいじゃない行けば。それで松浦さんと雌豚との間が繋げるってんなら願ったり叶ったりじゃない? ねぇ、サイ」
「……ん? ああ」
俺はどうやってデートを台無しにしてやろうか思考をめぐらせながら生返事する。
「(やっぱり不良共に襲わせるってのは定番すぎるし、トサカが助けて好感度を上げられたら困る。―――ならここは、美人の翔子にトサカの彼女として登場してもらって、3人の間にドロドロとしたものを形成させるか………ふむ…)」
二人から冷めた視線が送られていることにも気付かず、俺はさらに思考する。
「(もう少し現実味を帯びさせるか―――加奈子さんとの待ち合わせ時間になってもトサカは現れず、道の向こう側で翔子と腕を組んで歩いているところを加奈子さんに発見されてしまう―――ダメだ! これでは松浦さんと加奈子さんの仲直りが出来ない!!)」
一体何が足りないんだ!? と真剣に考えている俺の肩に、ポンと包帯で包まれた手が置かれる。
「サイ、そうオモいツメんなよ」
まるで、俺を憐れむかのような目だった。
諭すような目をしていた。
「?」
頭にハテナを浮かべた俺をよそに、
「しばらく放置しててあげましょ。きっとまだ立ち直れてないのよ」
「そーだな……ヒトのフコーを望むだなんてフツーじゃねぇもんな………」
そんなことを呟きながら、二人は教室から出て行った。
…………………………………………………。
俺は無言のまま、教室の片隅に置いてあるアルマジロの標本へと近付く。
そして、標本に目線を合わせて話しかける。
「なぁアルマジロ……俺って変人なのかなぁ………かなりの…」
もちろん返事など返ってくるはずもなく、その虚しい台詞だけが理科講義室に響き渡った。




