ツンデレと鈍感と何かしら
「(っし、やってやるわ……!)」
そう小声で呟いた後、翔子が勢いよく曲がり角から飛び出す。
「「わぁっ!」」
案の定、翔子がとある男と衝突する。
「すいません! ………あの…お怪我はなかったでしょうか?」
翔子が猫を二重三重四重に被って男に話しかける。
「大丈夫だけど――それより、あんたの方こそ怪我はないか?」
男は翔子をいやらしそうでない爽やかな目で見つめながら、そう言い放った。
「へっ!? ……いや、大丈夫ですけど………」
「なら良かったんだけどさ。――でも、今度からは気を付けろよ。もしあんたの身に何かあったら、俺は毎日まくらを濡らすはめになっちまうからな(にこっ)」
「は、はぁ………」
翔子はキザな台詞を平然と放つ男に終始押され気味だったが、「そ、それでは、ご機嫌麗しゅう………」と、最初と最後だけはお嬢様の面目を保った。
「おい、気をつけろよぉ! ………って、言っても無駄か」
男はツンツンしたくせっ毛を右手でガシガシと掻きながら、走り去っていく翔子を笑顔で見送った。
「ん゛だアイツ!? オレの株をウバいてぇのか、ア゛ァ゛ン!?ゴラァ!!!」
トサカがベキボキと双眼鏡を握り潰しながらそう言った。
俺とトサカは50メートルほど離れた地点から、翔子と男のやり取りを、望遠鏡と盗聴器を使って観察していた。
今のところ、翔子が先ほどの男(松浦さんのことが好きなやつ)を攻略しようとしているところだ。
しかし、想像以上の爽やかさと主人公臭によって、翔子を盗られるんじゃないかと内心ヒヤヒヤのトサカはおろか、俺の心もズタボロになっていた。
「―――トサカのそれは嫉妬ですか?」
俺は男子高校生の日常を思い出しながら、出番を少しでも増やすためにトサカに話しかける。
トサカは自分の髪以上に顔を真っ赤にしながら、
「チ、チゲぇにキまってんだろーがぁ!!!」
と必死に否定する。
その姿が駄々をこねる子供みたいで、
「―――――可愛いよなぁ………はっ!」
俺がつい口に出してしまった言葉に反応して、トサカが耳まで茹蛸みたく赤くする。
「……ホント、死ねばいいのに………」
自分がこんな体に生まれてきたことを嘆きつつ、治る兆しすらない包帯で巻かれたトサカの右腕を、独学で身に付けた関節技を使って壊し尽くす。
「ムネがアタってんだよ!!」
こんな時ですら、俺の自尊心を傷つけてくる赤毛の駄不良に飽き飽きする。
「マジで死ねやぁ!!!」
こいつはいわゆる『鈍感』というやつだろうか? ならば死ね!!
「サイまで翔子にナりサガりやがったぁ!!!」
俺の関節技はトサカに対して―――普段からケンカ慣れをしていて、毎日翔子からサンドバックのような仕打ちを受けているからか―――大した効果は見られなかった。
「イタかったけどアリガトウ!!」
とまで言われる始末である。
こういうのは翔子にしか出来ないんだなぁ……………はぁ……(ていうか本当にトサカはMなんだな……)。
一度だけでも良いから、翔子みたいに相手に有無を言わせぬ力強さを身に付けたい!
とでも言えば「ゼッテーやめろぉ!!」とか「このメイド服を着なさい!」や「ここに印鑑を押せば社会的権力を手にいれられるわよ!」等といった、馬鹿で腐ってゲスった答えが返ってくるに決まっているので口には出さない。
今度ジムにでも行ってみようかな。
あそこなら一人で行っても可笑しくないし·········ケッ。
「うふふふふ。この女神様たるあたしの華麗なるフラグ立て、如何だったかしら? 何なら貴方たちごときにも、あの素晴らし過ぎてヘドが出そうな展開を経験させてあげなくもないわよ?」
「ヘドが出そうならケッコーだ。――ゴエベホォ!!」
早速翔子が帰ってくるなり正拳突きがトサカに突き刺さる。
翔子は顔を赤くしてトサカから目を逸らしながら、
「ふ、ふん! 別にあんたとなんて付き合いたいなんて思ってないから。乙女ゲーの展開とか期待してないからっ!」
マジツンデレ来たぁぁぁーーーーーーー!!!
「乙女ゲー? ナンだそりぁ?」
こっちはマジ鈍感だぁぁぁーーーーーー!!!
「乙女ゲーというのはだな、ギャルゲーの女の子がやるバージョンのことだな」
俺は············なんちゅうもん説明してんだよ、おい·········。
「ソレってサイもしてんのか?」
「してるわけねぇだろ!!? 俺はちゃんとギャルゲーユーザーだ!!」
なんてこと言ってんだよ、俺ぇ!!
「ま、まぁとにかくご苦労様」
これ以上墓穴を掘らないため、会話を強引に元のルートに戻す。
「えぇ~、翔子には引き続き、あのいけすかないセクハラ変態屑野郎の攻略をしてもらう。トサカには、加奈子さんとのフラグを立ててもらいたいと思います」
「ッシ、ようやくオレのデバンか·········!」
トサカが犬歯を剥き出しにして吠える。
「あぁ後、二人には大まかな説明はしたし、これからは勝手に行動してもらいたい」
「どうしてよ? あんたが指示だしていけばいいじゃない?」
首を傾げる二人に対し、俺はこう宣言する!
「俺は、松浦さんとのフラグ立てをしたいと思います!!」
「「··················は?」」
俺は、なおも首を傾げ続ける翔子とトサカにニッコリと微笑む。
「俺が主人公なんだよゴラ······。ヒロインは松浦さんにすんだよゴラァ!!」
こうして『「俺、主人公なんです」作戦』が開始された。




