結局
「ヨウ!」
「あ、あぁ······」
次の日、俺が自分のクラスに着くと、俺の席に包帯グルグル巻きの赤城が座っていた。右腕は肩から包帯で吊られ、右目は眼帯。右足は包帯で巻かれて上履きではなくサンダルを履いている。翔子は右が好きならしい······。
周りからに痛いほど視線を浴びながらも、赤城は俺の席に座り続けていた。
「えぇっと·········昨日は大変だったな!」
「オレはな!!」
ですよねぇ············。
俺がなかなか謝れずにおろおろしていると、仏頂面の赤城が口を開く。
「ナァ祀木、ナンでオレの左側はダイジョーブなんだとオモう? 右側はボロクソなのに」
これは怒りと言うより説教だ。かなり面倒くさそうだなぁ………。
「えぇっとぉ……そのぉ………翔子様の御慈悲?」
「ハッ」
俺の小さな頭を捻りまくって出した答えを赤城は鼻で笑った。目が笑ってない。
「あのぉ………答えは何なのでしょうか?」
なかなか再び口を開こうとしない赤城に俺は尋ねる。
翔子ほどではないが赤城にも十分迫力がある。そのヤンキーみたいな容姿も相まって、小学生なら軽くちびってしまいそうなほどかなり怖い。
「……………」
「いやあの、答えは?」
面倒事はちゃっちゃと終わらせてしまうに限る。夏休みの宿題も早く終わらせる方だし―――時間がたっぷりあるしな、友達いないから………。
俺の顔がどんよりと曇るなか、ようやく赤城が口を開く。
「――――――『あんたの左半身は明日にとっておくわ。サイの目の前でもぎ取ってやるからそのつもりで』だソーだ。ツマリ……オレは今日殺される………」
赤城の顔から血の気が引くのが分かった。
これまでのは怒りでも説教でもなく、ただのSOSだった。『オレをタスけてくれ』と。昨日は情けなくも逃げてしまったので、今日はさすがに助けなければ男が廃る。だからといって、俺は突破口を見つけて救い出せるようなヒーローではない。
ではどうするか。
「なぁ赤城、俺は何をすればいいんだ? 俺に出来ることなら何でも言ってくれ」
俺でダメなら人に頼ればいい。赤城の方が、俺なんざより遥かに主人公っぽいし……ケッ。
「ウーン……」としばらく唸っていた赤城だったが、10秒ほどで片目になった顔を上げる。
「『オレとナカがイイですよ~』アピールして欲しい」
「で、その方法は?」
俺にはトーク力が無い。会話のなかでそれとなく伝えることや、その話に持っていく技術は皆無だ。
「オレと、ソノォ………手を繋ぐ、トカ……」
「無理」
男同士でそんなことをやってたら只の変態かホモだ。俺はしっかり女の子が好きだし、男同士で手を繋いだりといった気持ち悪い行為は絶対にしたくない。
「ソレじゃあ……ウデを組む、トカ………」
「無理」
さっきからこいつは何を言っているんだ? 男と手を繋いだり腕を組んで何が楽しい?
「ンンじゃあドウすりゃイインだよ!! ナカ良く見せるホウホウなんて分っかんネェぞ!!!」
「そんなの知るか! 友達できたてほやほやの俺に訊くな!!」
互いに犬歯を見せ合って睨み合う。
と、そこで――――――
『ピーンポーンパーンポーォン、ピーンポーンパーンポォーン、ピーンポー――――――』
「チャイムが鳴ったなぁ」
「ソーだなぁ……昼休みにモー一度サクセン会議を開くか」
赤城は俺の席から立ち上がって、自分の席に片足ケンケンで戻っていった。
こうなったのも俺の責任なんだよなぁ………正直逃げだしたい………………。
「祀木、ジュンビはイイか?」
「あ、あぁ……」
昼の作戦会議の結果、結局、俺と赤城で腕を組むことになった。俺はまだ着物を着ていないし、二人とも半袖のカッターシャツなのでちょくちょく地肌が当たる。その度に赤城が赤面し、俺はしかめっ面になる。
『ガラガラガラガラ……』
赤城が包帯に巻かれた右腕で『理科講義室』のドアを開ける。
「ォ、オォ! 翔子ォ!!」
意味の分からないテンションで赤城が挨拶する。翔子は部屋の真ん中ぐらいにある机の上に座っていた。目は昨日と同じように光を灯していない。
「よ、よぅ!! 翔子ぉ!!!」
俺も赤城のマネをする。自分で言葉を考えられないぐらいに緊張していた。
「こんにちは。で、なんであんたはそんなことしてんの? サイに手を出したの? だったら殺すけど」
淡々と殺人をほのめかす翔子。どうも、赤城が俺に腕組みを強要していると勘違いしているようだ(実際それに近いけど)。
俺は何とか赤城の命を救うため、事前に用意してあった台詞を棒読みで読む。
「おれたちなかがええからうでをくんでるんやで」
「オレたちはナカ直りをしたんだ! オレ達ナカ良しだよなぁ!? 祀木!」
赤城は命が懸かっているだけあって迫真の演技だ。
「なぁあかぎ」
少し棒読みすぎのような気もするが、何とか自分の台詞を読み終えた。
「えへへへへへぇぇぇ」と互いに気持ち悪い笑みを交わしながら、翔子の方を窺う。
「………」
真っ直ぐに赤城を睨んでいる。
このままではやばい!!
俺はこの危機を脱するため、アドリブではあるが、「ぎゅっ!」と赤城に抱き着く。
「ま、マツ、祀木!!?」
赤城が顔を真っ赤にするが無視をする。
俺の方からやったんだし、これで仲の良さはアピールできたはず……!?
「サイをエロい目で見てんじゃねぇよ!! このクズトサカぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
翔子が机の上を走って赤城に迫る。赤城は俺の腕から逃れてから必死に走―――ろうとするが、右足が使えないためまともに走れない。よって、背中に翔子の跳び蹴りをもろに食らう。
「グワァバホ!!!」
赤城が地面に倒れこむ。その姿を翔子は見下ろし、こう一言。
「死ねぇ!!!」
やっぱり俺にはどうしようも無かった……。
俺は廊下に置いてあった鞄をとって走り出す。
「タスけてぇ!!! 祀木ぃ!!!!」
赤城の絶叫が耳に痛いほど響いたが、今の翔子は俺の手に負えない。さすがに死にはしないだろうから……そのぉ、頑張れ。
「ウギャァァァァァアァウゥッゥゥゥゥォエえるhヴぃうあえfぃbvばfbvぁえh………」
「ぎゃはっはっは! 死んじゃえ死んじゃえ!!」
その日は、男の絶叫と女の笑い声が朝まで響いたという。
今回は(も?)メチャクチャ気味でしたが、一応ほのぼの系を目指しております!




