唐突なプレリュード
私はいつも一人だった。
今日もまた、一人。
今日もまた、一人で、このモノクロで静かな世界にたたずんでいる。
――ああ、これはまさしく夢。夢に違いない。
久しく見ていなかったというのに、どういう風の吹き回しだろうか。
木々が並び立ち、木漏れ日が降り注ぐという光景は、確かに幻想的ではある。
しかし、それもモノクロとなると途端にわびしい。
私のように。
……そう、私のように。
そんな中にふと、冗談のように、そして当然のごとくピアノが鎮座していた。
とりあえず椅子に座り、適当なキーを押す。
ポーン……と、さみしげ鳴り響いたその音は、周囲の音にかき消され、儚く散った。
音が完全に消えてしまった後、しばらくして、私は再び指を動かした。
思いのままに、指の動くままに……
二度と再現されることのないだろう旋律を、私は紡いだ。
流れては落ち、渦を巻く水の流れのように、
私は、曲を奏でた。
どのくらい弾いただろうか。
もう覚えていない。
気が付いたら、演奏はもう終わっていた。
しばし余韻に浸りながら、私は上を見上げる。
瞳を刺すは、天の光。
私に、一番疎いもの。
目をつむり、その痛みを確かめながら、私はピアノの前に突っ伏した。
―――誰かの、気配を感じた。
後ろに、誰かいる。
かさり、かさりという音はだんだんと大きくなる。
しかし私は、あえてそれを無視した。
その足音は私の左側に来て止まった。
するとその人物は私の左側に座り、曲を弾き始めた。
「―――――っ!」
顔を上げざるを得なかった。
その曲は私が最も好きだった曲、フォーレの『子守歌』だった。
姉と演奏した連弾が記憶に新しい。
私が顔を上げると、その人はふっ、と笑った。
陽光に輝く金髪、純白の白いワンピースドレスも相まって、とても美しい情景だった。
「あな…たは―――?」
しかし、それに対する答えはなかった。
「一緒に、弾く?」
「……はい」
……どうして私は、こんな見ず知らずの人の提案に乗ってしまったのだろう。
この人に、どことなく姉の面影を重ねてしまうからなのか。それとも、
「あなたが主旋律で、私が伴奏ね。じゃあ始めましょうか」
「お願いします」
それとも、この人に、私にはないものを感じ取ってしまったからなのだろうか。
色のない世界で初めて認識した色。
その色は、私にはあまりにも鮮烈だった。
彼女は、一体―――