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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
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009:攻略の始まりを知った俺は


 "ポーン"


 まどろみから即座に覚醒した俺の耳を、どこからともなく届いた電子音が叩いた。瞳を見開き、堅い屋根から身体を起こす。

 何事かと首を左右に振る。すると、それは再度俺の耳に響いた。


『王の塔《小鬼王の塔》が、ギルド《half.and.half》[ギルドマスター:ガンテツ]によってクリアされました』


 昨日、リンさんにコールして聞いた留守番電話の声と同じ女性の声。

 それが、何時の間にか真上に上っていた太陽と空を覆うように広く響き渡る。


 その声が響いた数瞬後、今度は別の――……様々な驚愕の声が響き渡った。


 いつの間に攻略出来るようになったんだとか、どうやって攻略したんだとか、あのギルドってあんなに強かったのかとか、色々だ。屋根の上に居るのに聞こえるってあんた等どんだけ大声なんだと言いたくなる。

 俺としてはそのギルドの名前からピザを想像してしまって、無償に食いたくなった。もちろん虫肉も美味いのだが、少々飽きが出る事もある。……はぁ、お腹すいた。

 

 そう思った俺はもはや半自動的に左手が動いた。メニューの画面から【アイテム】の欄を選択し、《黒紫の蟲肉》を二つ外に出してガシッと両手に一つづつ掴む。

 左右で交互に腕を動かしながら、もっきゅもっきゅと咀嚼していく。


「どーすっかなー……」


 俺は手や口に赤黒い血を滴らせながら俺は呟く。


「とりあえず、金だよなぁ……。金が無いとどうしようも無いし」


 全て食べ終えた俺は両手を軽く払い、付いた血を振るい落とす。幾らかは残ってしまったが、それでもいいか、と俺は立ち上がる。

 昨夜よじ登った時とは違い特に苦労することも無く屋根から飛び降りる。


 バシッ、と広がる足への衝撃が意外と少ない事に首を傾げながら前を見据える。


「ま、一応リンさんに『コール』してアポ取っとくか」


 そんなことを口から零しながら俺は歩き出した。


 まだ見ぬ金に向かって――。




   ◆◆◆



 

「――あ、リンさーん」


 俺が手を振りながらそう呼びかけると、リンさんは小さく笑顔になりながら手を振り返してくれた。

 先日と同じ場所に露店を開いていたリンさんの所まで寄って座り込む。


「とりあえず、さっき言った通りアイテムの換金って出来ますかね?」

「もっちろん。ある程度なら買い取れるよ」


 俺はその返答におおっ、と感嘆の声を上げ、さっそくアイテムをメニューから実体にしていく。


「あっ、大丈夫だよ。トレードウィンドウ使えば済むから」


 リンさんのその言葉に俺は思わず間抜け面で顔を上げる。


「……そ、そういえばそんなものもあったようなー……?」


 そうするとリンさんがあはは、と笑いだす。むぅ。

 俺が軽くうなだれている間にリンさんは手早くメニューを操作して自分の前、そして取引相手である俺の前にトレードウィンドウを出現させた。

 そこに自らのアイテムを放り込もうとしたところで、手がピクリと一度止まる。


「? どしたの?」

「あ、いや、何でも無いです」


 俺は自分のアイテム欄が九割ほど紫とか黒とかの毒々しい色のアイコンが詰まっている。さて、これはどうしたものか……。

 残り一割は先日のナツ姉たちとの狩りで手に入れたアイテムなので、何の迷いもなく売れるのだが、俺があの樹海で手に入れたアイテムはどうにも簡単に売りに出せない。

 まぁ、売れるとこは売れるのだろうが、これらのアイテムの相場がわからない。なにより、ちゃんと相応の値段で買い取ってくれるかも分からないからだ。


 むむむ、と悩むこと時間にして約コンマ三秒。


 結局、売らない事に決めた。

 何というか、これまで売ったらまた目立ちそうだ(……特には今のところ大多数に目立っている訳ではないが)。


 俺は先日手に入れた枯枝みたいな素材やら、真っ赤な花弁みたいな素材やらのアイテム類を全てトレードィンドウの中に詰め込む。そうしたら俺はトレード了承のボタンを押し込む。

 

「お、来た来た。どれどれどれ程の物が……」


 渡したアイテムをリンさんが物色していく。

 ときおり、おぉっ、と驚いた様な声も出すから、意外とレアアイテムもあったのかもしれない。俺的にはそんなことよりもどれだけお金がもらえるかが問題なのだが。


「――――うん。結構いいの持ってるね~。これなら全部で2610EL(エル)位かな」

「…………えっと、それは結構いいんですかね?」

「十分良いよー。大体は現状で最高レベル帯の人が半日で稼げるくらいかな」


 ふむ、妥当なようである。

 先日の戦闘はこの世界の最高レベル帯(俺を除く)の人たちと一緒に戦闘してたからこの金額で十分だと言える。それとこの世界の通貨はELエルだそうな。やっと思い出したわ。

 そんなことを考えてると俺の前にトレードウィンドウが再度浮かんだ。そこには、[2510EL]と表示されてあるのが見て取れた。そのことを確認した後に了承のボタンを押しこむ。


 よっしゃ! 金ゲット!!


 俺は小さくガッツポーズをした。


 


 

   ◆◆◆




「そう言えば、一番初めの王の塔が攻略されたよねー」


 買い取りが終わった俺にリンさんが話を切り出した。


「そうですね。……そう言えばあの《half.and.half》っていうギルドなんですか? ピザですか?」

「…………いや、ピザじゃないけど。確か男所帯の今のところ一番規模の大きいギルドじゃなかったっけかな?」

「男所帯て……ムサ苦しそうですね」

「うーん、まぁ確かにそうかもしれないけど、今のところ一番人数の多いギルドだから、《White My Heart》と良い感じらしいんだよね」

「《White My Heart》? それ何処のギルドですか?」


 俺がそう聞くと、リンさんは目を見開いた。――あれ? 俺変なこと言ったか? 別に聞いたこと無かったから聞いただけなんだけど……


「え? そのギルドの人を探しに言ったんじゃないの?」 

「はい? それ誰の事です?」

「いや、だから、NatuさんとかAkihoさんとかが所属しているギルドの事だよ。……もしかして知らなかったの?」

「……ええ、まったく」


 そう言えば一番攻略に近いギルドのギルドマスターをしていると言ってたな。

 でも、それなら何で攻略をしに行かなかったんだろう? 


「ああ、そう言えば《half.and.half》が王の塔を攻略したからそこに入ろうとしてる人も増加してるらしいよ?」

「へー……」


 そんな理由だけでギルド決めるなんて、俺には考えられない感じだな。

 俺のことをじぃっと見つめる淡いブルーの瞳を感じて、俺は問う。


「なんです?」

「いや、スノウ君はギルド入らないのかなーって思って」

「入りませんよ。面倒くさい」

「め、面倒くさい……?」

「ええ、必要以上に人と関わるのは面倒なんですよ。関わるのは限られた信用できる人にしておきたいんです」

「……へぇ。――――その"限られた信用できる人"って私も入ってたり……する?」

「正直、そこまではいって無いです」


 俺はそこできると、リンさんが目を見開くのがわかった。俺はそれを直視しないように青く染まった天を仰ぐ。

 上を向いたまま、俺は言葉を続けた。


「――でも、これからの付き合い次第で売り手買い手から、親しい友人になったり、彼氏彼女とかにもなるかもしれないですね」


 俺がそう言って薄く微笑みながら顔を正面に戻すと、リンさんが顔を赤く染めながらこっちを見てほうけていた。


「ん? どうしたんですか?」

「…………――っ。な、なんでもない、なんでもないよ」


 俺が困惑を浮かべながらそう聞くと、リンさんは赤くなった顔を隠すように手のひらを正面に突き出してブンブンと振った。

 何でも無いと言い張っているが、どこからどう見ても何でも無いようには見えない。しかし、本人が何でも無いと言っているからどうすることも出来ない。


 どうしたものか、と思案しながらも俺は取り留めもない話を続けていった。


 

 赤い顔で呆けるリンさんは可愛らしかったと、話を続けながら頭の片隅で小さく思った。




   ◆◆◆




「それじゃ」

「う、うん。またねー」


 そう言って立ち上がった俺は手を振りながらリンさんの露店を後にした。

 先ほどの世間話で色々な事を聞いたから、これからの予定も決まった。とりあえず、様々なNPCショップがそろう通称、『商店街』と呼ばれる所に行ってみる事にした。

 そこでポーション等の回復薬を買い、そのあとは地図を買う事にした。本来は食材等も一緒に買うらしいのだが、俺は《黒紫の蟲肉》があるのでその必要はない。


 


「いらっしゃいませ」

「ああ、ポーション類を見せてほしいんだけど」


 商店街についた俺は、そう言って額に五亡星の様な紋章を浮かべた少女に声を掛けた。

 少女は俺に向かって手を一振りする。それと連動したように目の前に見慣れぬウィンドウが浮かび上がった。そこには【HPポーションLv1】や、【MPポーションLv1】などの回復薬のほかに【毒ポーションLv1】や【麻痺ポーションLv1】などの毒薬も並べられていた。この毒薬は投げつけて使うそうだ。俺は《ポイズンフィン》があるから必要はない。

 とりあえず【HPポーションLv1】と【MPポーションLv1】を十五個ずつ買った。一つ50ELだから、合計で1500ELとなり、残りは1010ELだ。

 

 とりあえずそこでの買い物を終えた俺は次の店に向かう。

 今度は額に五亡星の様な紋章を浮かべた三十路過ぎたくらいの無愛想っぽいおっさんだった。


「いらっしゃい。どこの地図をお求めで?」

「とりあえず、全部見せてください」

「あいよ」


 その返事と共におっさんに指が振られ、目の前にウィンドウが出現した。そこには、【地図:始まりの町〈ユーレシア〉】や【地図:メクル草原】などの町やフィールドの地図が並んでいる。先日狩りをおこなった森も、【地図:トンナの森】という名で地図が置いてあった。

 そこから、当然として【地図:始まりのまり〈ユーレシア〉】を100ELで買い、そのあとは欄の一番上にある物から順に購入していった。

 残金が10ELになってしまって何も買えなくなったので買い物を終わりにした。




   ◆◆◆




 何時の間にか周りは夕焼け色だった。

 町の中を歩きながら俺は観光でもするかのように辺りを見回す。……もちろん、観光しているわけではない。俺の目的は今夜泊まれる宿を探すこ……と…………で……。


「――――って、あああぁぁぁああああっっ!!」


 俺は自分の失態に気がついた。


 俺、今、10ELしか、無い。

 しかし、宿に、泊まるには、最低でも、"50EL"が、必要である――――。


「やっちまったぁぁぁああああああっっ!!」


 思わず頭を抱えて叫ぶ俺に街中の人々の視線が向けられる。



 


 ……………………――――――とりあえずその視線から逃げるように走りだした。







 攻略の始まりを知った俺は、アイテムと金を手に入れて結局は金欠になりました。



 先日、何か新しい小説読もうかとランキングを見たら、ちょっと目を疑いました。なんと……、なんとなんとなんと!

 日間ランキングの1位になってました!

 ビックリです! ありがとうございます! これからもぜひ、よろしくお願いいたします!



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