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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
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007:剣狩人な俺は弓狩人な彼女と


 俺は瞳を開く。

 まだまどろんでいたい気分だが、一週間しか森で生活してないのに起きたら速攻で覚醒する癖がついた。

 これが良いものなのか、悪いものなのかはわからない。少なくとも今の俺にはいらない。まどろみたい、まどろみてぇ。まどろみてぇ――っ。

 そんなことを胸の内で叫びながら少しだけ視線を傾けた。窓の外は暗闇に包まれている。

 俺の手元に血は付いていない様子、自然消滅してくれたようだ。

 ふと、右に身体を向ける。顔面には、ふにゅっと柔らかい感触が。


 ――ナツ姉が気持ち良さそうにスヤスヤ寝ていた。俺の顔はすっぽりと豊満な胸に埋もれている。ナツ姉は「んんっ」と非常に色っぽい声を出す。

 

 え!? いや、なんで!?


 俺は慌てて顔を引っ込め、左側へと身体を背ける。


 ――アキホが安心しきったように、すーすーと静かな寝息を立てていたいた。俺の目の前には幼いながらに色気を醸し出す唇が。


 えぇ!? いやいや、なんでさ!?


 俺は突然の事態に頭が真っ白になる。

 いくら慣れ親しんだ姉と妹だとはいえ右には銀髪銀眼のグラマーな美女が、左には金髪碧眼の可愛らしい美少女が寝ているのだ。

 これでパニックにならない男は男とは呼べない。そいつはもう女の方に分類してやれ、今すぐに。

 ナツ姉は「ぅうん……」と再度艶っぽいうめき声を漏らした。その声に反応してか、反対側のアキホがもぞもぞと身をよじらせる。


 もう一度聞こう……。なんでだ!?


 そう叫ぶも、やはり答えてくれる者はいない。隣に寝ているのは姉と妹なんだ、肉親なんだ、血ぃ繋がってるんだ、……なぜ興奮する!? おかしくねぇ!?

 俺の頭の処理能力はそこで容量をオーバーした。そして俺の頭がオーバーヒートした。

 ぼぶん、と頭からベットに倒れる。

 

 寝てしまおう、寝てしまおう、寝てしまおうぅ…………――――


 そこから先の記憶は、やっぱりない。




   ◆◆◆




 窓から差し込む朝日が瞼の裏を突き刺す。

 まだまどろんでいたい気分だが、一週間しか森で生活してないのに起きたら速攻で覚醒する癖がついた。これが良いものなのか、悪いものなのかはわからない。

 少なくとも今の俺にはいらな――――ってちょっと待て、なんかこれ言った気がする。デジャブ……? いつ言ったかは思い出せない。

 俺はむっくりと体を起こす。顔をフルフルと左右に振ると、その過程で二人の女性を見つけた。

 銀髪銀瞳の我が姉と、金髪碧眼の我が妹だ。なんか二人で身を寄せ合いながら話し込んでいる。どうしたのだろうか?


「どうしたんだ?」

「「ひゃぁっ!?」」


 そんな声を二人は漏らす。そんなに俺に驚くか? ちょっと悲しい。


「どうしたんだよ」

「なんでもない、なんでもないわ」

「そう、何でも無いよ、兄さん」


 とにかく何でも無いらしい。ふむ、どうしたもんか。


「あ、そう言えばアキホさ、ナツ姉から俺の話聞いた?」

「え、あ、うん。聞いたよ。でも、正直信じられないよ」

「事実は小説より奇なりとか言うだろ? そんな感じだよ」

「へぇー……」

 

 なんとか納得してくれたようだ。

 いやー、マジで良かった。なんか俺に迫ってくるアキホは(言ったら絶対怒られるけど)鬼のようだった。あれをスルーできたのはナツ姉のおかげだ。ありがとう、ナツ姉。いや、ナツ神様。


「あ、ゆき。今日私たちと一緒に狩りに来てよ」

「はぃ? っつか何でその呼び名なんさ」

「だってさ、Snowなんでしょ? じゃあ、"ゆき"で良いじゃない」

「うーん。いや、まぁ、そうなんだけど……」

「じゃあそれで良いじゃない」

「ま、良いか」


 と、言う訳で俺の呼び名は"ゆき"になりましたー。わーわーぱちぱち。……ってそんなことどうでもいいんだ。問題なのはそれじゃない。


「何で俺も一緒に狩りに……?」

「うーん……ギルドの勧誘のための実力検査?」

「はぁ? 俺、ギルドに入る気はないぞ?」

「「えっ……」」

「だって俺MMOでもギルド入んなかっただろ。基本ソロが好きなんだよ、俺は」

「でも、その方がよくない?」

「良くない、良くない。今はもうそっちのパーティはメンバー固まってるんだろ? 俺が行っても意味ないよ。つかただの邪魔物だろ」

「「……」」


 俺のその言葉に、二人は押し黙ってしまった。これは本心である。

 というか、一人の方が気楽で好きだ。人のこと気にしないで済むし、何より、フィールドで独りでいる感じが好きだ。

 ただの画面越しでもそれが好きだった。


「まあ、でも狩りは行くよ」

「「本当に!?」」

「ああ、本当に」

「「よかったー」」


 そんな安堵することか? まあ、安心してるようだからなにも言うまい。それにこのゲームのパーティ戦はどういうものなのか見てみたい。


「じゃ、いこうぜ」




   ◆◆◆




「えっと、改めましてナツ姉の弟でアキホの兄のスノウです。《スカウト》やってます。今日一日よろしくお願いします」


 俺はそう言って頭を下げる。俺が一緒に行くことを意外や意外、簡単に了承してくれたパーティメンバーさんに改めて自己紹介をする。

 それが終わると、次は例の長身痩躯の茶髪のイケメンが自己紹介を始めた。


「俺はアロッズ、Lv22の《ファイター》やってる。よろしく」


 あ、ちなみにナツ姉もファイターやってる。盾と片手剣の壁仕様だそうな。そんでLvは23、こん中じゃ一番らしい。身体は柔らかいのに、堅そうだ。……って俺はおっさんか。


「えーっと、僕はロム。《メイジ》のLv21です、よろしくお願いします」


 そう言って自己紹介したのは、黒髪にメガネの線の細い青年だ。魔法使いっぽいローブを着ている理由もこれで良くわかった。

 そう言えばアキホも《メイジ》だってさ。Lvは22だと。


「スイ。Lv21の《スカウト》。よろしく」


 簡潔にそう告げたのは淡い紫の髪のスレンダーな女の子だった。背は俺と同じくらいで、胸は昨日見たの同様残念だが、顔の方はナイフの様な鋭い顔立ちを持つ美少女である。

 髪の色といい、職といい、この人とは気が合いそうである。


「え、えと、ぷ、《プリースト》のLv20です。リ、リリュネ……で、す。よっ、よろしくお願いしましゅっ」


 どこかたどたどしい口調で最後に噛んだのは黒髪をおかっぱ風にした少女だった。もしかしたら昨日の俺を思い出して怯えてたりして。……何それすっげぇ悲しい。

 それと背はアキホと同じくらいだ。……ようするに、小さい。


 何はともあれそんな感じでサクッと自己紹介を終えて、俺たちはフィールドへと繰り出すのだった――。




   ◆◆◆




 パーティについて行くというのは、今回はナツ姉たちのパーティにソロの俺がついて行くことを指す。

 つまり、あくまでもナツ姉たちはパーティプレイ、俺はソロプレイだ。

 そこで俺の戦闘スタイル、技量を見るのだとか。しかしそれは俺的にはどうでもいい。


「しゃぁっ! レッツ、ラン!!」

「待て」

「ぐぇっ」


 街の外に出て走り出そうとした俺をナツ姉が襟を掴んで引き戻す。首が締まったぞナツ姉、あと走りたい。


「なんだよナツ姉」

「あんたに走らせたらろくな事無いでしょうが」

「えぇー……」

「えぇー、じゃない。ほら、歩いて行くわよ」

「ちぇっ」

「舌打ちしない!」


 折角走り出そうとした俺を、ナツ姉が引きとめる。おかげで歩いてフィールドに行くことになった。

 フィールドに着いた時に余計な疲労をしないための行動なんだろうけど、すっげー物足りない。

 

「というか兄さん、武器は装備しないんですか?」

「ああ、忘れてた」


 アキホのその言葉で俺は腰元に翅剣がささっていないのを思い出す。

 俺は手早くウィンドウを操作して《ポイズンフィン》を装備する。腰元にいつもの重みが加わり、俺はウィンドウを閉じる。


「あれ? 兄さんは片手剣なんですね」

「おう。モンスタードロップのヤツだ」

「―――それ、どこのヤツ?」


 そこで会話に入って来たのは、俺の隣を歩いていたスイさんだった。


「え、えーと何処かはしらないですけど。《デスポイズン・キャタピラァ》ていうヤツです」

「何処かは知らない……? あと、敬語はいらない」

「それならタメ口で。―――何処かは知らないって言うのは、そのまま。これがドロップしたフィールドの名前を俺は知らないってこと」

「つまり、誰から買ったってこと?」

「いや、俺がドロップした」

「? どういう事?」

「まあ、その話はいつか」


 俺は途中でめんどくさくなってそう答えた。

 しかしそれで退いてくれるヒトじゃ無かったらしく、一定の歩みで進んでいたところを少し早歩きにして俺を追い抜かしてから俺の前を阻むように立った。


「ダメ。教えてくれないと通さない」

「オッケ。それじゃあ、俺は帰るわ」

「えっ、えっ……?」


 俺はクルリとユーターン。そのままスタスタと歩きはじめる。

 後ろの方では、オロオロと狼狽した気配が伝わってくる。最初に感じた鋭いナイフのような印象とはかけ離れた感じだった。

 なんというか、からかいがいのありそうなヒトだ。


「兄さん、冗談はいい加減にしてください」

「へいよー」

「――えっ、冗談……?」


 アキホのたしなめられた俺は、またもクルリとユーターン。

 少し歩調を速め、俺は直ぐにスイさんやアキホの所に追い着く。というかスイさんは本気だと思ってたらしい。

 本当にからかいがいのありそうだ。というかあるな、このヒト。


「冗談冗談。別に教えるさ、スイさん信頼できそうだし」

「そう? ……わたしのどこが?」

「あーっと、職とか、髪の色とか似てるところ?」

「なに、それ」

「まあ、そんな理由。特に言いふらさないって言うなら、一応話す」

「うん。言いふらさない。―――あと、"スイ"でいい」


 そう言ってスイは花の咲いたような笑顔になった。

 最初の印象とは全く違った白い百合の花の様なその笑顔に少し……、ほんの少しだけ見惚れた。「お、おう」とつっかえながらも何とかこたえる。

 その隣ではアキホが俺の事を何故かジトっとした目で見てきた。なぜだ、どうしてだ妹よ。


「兄さん。なにスイさんにデレデレしてるんですか」

「な……っ。してない、決してしてないぞ!?」

「ふーん……、どーだか……」


 尚もジトーっとした視線を投げかけるアキホ。ちがう……それは決して違うっ、と言ったところで絶対聞きそうにない雰囲気である。というかさっきのも聞いてなかった。

 ――――まあ、その事を俺はスルーすることにしてスイに色々掻い摘んで『まさかの見知らぬフィールドで野宿してた事件』(ただ今命名)を話していくのだった。




   ◆◆◆




「そんな事が……」

「うん。まあそんな事があった訳だ」


 話し終えた俺は、『というかこの短時間で良くここまで仲良くなれたもんだ』と一つ心の中で呟いた。最初にいった『気が合いそう』意外と当たっていたっぽい。すげぇ、俺すげぇ。


「皆、フィールドに着いたわよ。ここからはアクティブモンスターもいっぱい出てくるからいつも通り気を引き締めてね」


 ちょうど俺が話し終えた時に、ナツ姉がそう言った。

 いよいよ戦闘開始と言うところである。いよっしゃー、頑張るぞー。……というが、正直走ってる方がいい気がする。嗚呼、走りたい。


「じゃあ、ゆき。私たちが先に戦うから一応それ見てて」


 俺はそれに「あいよー」と戦場にあるまじき間の抜けた声をあげて、それに答えた。

 ……というか、別に戦場じゃ無いよな、ここ。なんと言うか――そう、RPGでよく在りそうな森だ。

 画面越しだと良く伝わらないが、実際に体験してみると凄いもんだと思おう。ざわざわと擦れる葉の音や、茂る緑の匂いも完璧に再現されている。とんでもないリアルさだ。

 ちなみに、ここでは植物系のモンスターがでるそうな。ほら、よくある"歩く花"とかも見れるかも。

 そして俺の返事を聞いたナツ姉は一度頷いて再度歩き始めた。一応、翅剣は抜いておく事にした。


 ついでにここで皆さんの武器を紹介しておこう。

 ナツ姉は片手剣と盾、アロッズさんも右に同じだ。この二人が壁役をやると思われる。

 それとアキホ、ロムさん、リリュネさんが杖装備だ。皆細部が異なっているが、全部魔法のダメージや効果を上げるためだろう。

 そしてスイが腰に小剣ナイフと手には弓、背には矢筒である。やはり《スカウト》は遠近両用のオールラウンダーなのだろう。どんな動きをするのか期待だ。


 と、そこで俺の索敵スキルの索敵範囲に六つの赤い光点が引っ掛かった。

 俺は一応、その事をメンバーに伝える。


「あ、右……これじゃ駄目だな。東の方から六体こっちに向かってますよー」

「なに? それは本当か? スイ、反応は?」


 俺の言葉に疑わしげな視線と言葉を向けてきたのはアロッズさんだった。なんだいなんだい、教えてあげたのにそんな対応ひでえじゃねぇか。


 しかしそんな俺の心の内をほっといて話は進む。俺の隣にいたスイが、その質問に対してフルフルと首を左右に振る。やはりスイも《スカウト》であるから索敵役であるらしい。


「なんだよ、でまかせじゃ―――」

「あ、反応があった。東から六体来る」


 被せるように出たその言葉で視線を向けられたのはスイではなく俺の方だった。……え? なして?


 しかし、そんな視線も打ち切られる。何故、と聞かれればもうモンスターが視認できる位置まで到達していたからだ。植物のくせに素早い事で。

 そのことを確認したナツ姉が、素早く指示を飛ばす。

 おぉー、さすがパーティリーダー兼ギルドマスター。ちなみに、俺は遠巻きに見てるだけだ。これならこっち合流しないで走ってた方が良かったかもしれん。


 一番前にナツ姉とアロッズさんが、そしてそこから少し距離を置いてスイが、その後ろには魔法使いや司祭などの魔法職のアキホ、ロムさん、リリュネさんが陣形を作る。

 

 そして目の前に現れたのは枯れ木の様な体をしたモンスター四匹と、巨大な花に口を付けた食虫植物ならぬ食"人"植物の様なやつ二匹だ。ビシバシとツタを振るってる。

 そして俺の索敵スキルで表示された名前は《枯れてしまった木人:Lv27》と《人食らう花:Lv27》だ。


 これだけみると、Lv差が相当ある気がするが、そんなことはない。

 Lv21や22というのは、"一次職の"Lvだ。これに初期職の《ノービス》のLv5を足すことで本来のLvは26や27であると言える。だからまあ、このLvの選択は妥当だろう。


 そんなことを考えていると、すぐさま戦闘が始まった。

  

 まず、ナツ姉とアロッズさんが何か、――たぶん《ファイター》の戦技アーツを使用して横薙ぎに大きく一閃。

 光によって伸長した斬撃を受けたを受けたモンスター、――それぞれ《枯れてしまった木人》を二体に《人食らう花》一体をだ――のターゲットを取る。


 そしてそれらを盾、剣を使っていなし、攻撃を加えていく。

 その間にも後方からはスイが矢をつがえ、素早く発射していく。その矢が大きな花弁や根元の足を順調に串刺しにし、ナツ姉が相手をしていた方の《人喰らう花》が光の粒子となって消えた。


 更に後ろからは直径50cm程の火球が二つ浮かんでいる。

 そしてその二つがそれぞれアキホ、ロムさんの指示で敵の方へと飛んでいく。

 数秒程で、着弾。それによってナツ姉とアロッズさんの《枯れてしまった木人》がそれぞれ一体ずつ炎に包まれた。

 次々と襲う火球が三つを数えた頃に、《枯れてしまった木人》は光の粒子となって爆散した。枯れ木だからだろうか、よく燃えたものだ。


 残ったのは《枯れてしまった木人》が二体と《人食らう花》が一体。

 数が半分になったそれを、ナツ姉とアロッズさんが交互に、交換するようにターゲットを取っていく。

 その間にスイの弓からは矢が、アキホとロムさんの杖の先からは火球が発射されていく。



 気がつけば、そこには光の粒子が散る残滓だけが残っていた。

 ふとそこで全員のHPに目を向ければ、敵の攻撃を受けていない後衛陣はまだしも前衛陣までもが一ドットも減ってはいなかった。

 いや、それは少し語弊がある。俺が知らぬ間にリリュネさんが回復魔法をかけていたらしい。――――そう言えば、ナツ姉たちの身体が淡く緑色に光っていたかもしれない。

 それらすべてを終えたナツ姉たちは辺りを警戒しながらもゆったりとした足取りでこちらへと歩いてくる。


「まあ、パーティの戦闘ってこんな感じよ。わかった?」

「うーん、それなりに……かな」


 ナツ姉の問いに、俺はそう答える。

 内心の俺はこのゲームで初めて見た数人での戦闘に少し参っていた。やること自体は、従来のPCでやるMMORPGと何ら変わりない。


 しかし、それを生身でやるのは至難の業……だと思う。やっていないからわからないが、敵の動きを見ながら味方の事も気遣って戦うのは正直俺には荷の重そうな事だった。

 やはり俺はソロが良いな、と答えが出たところで、またもや俺の索敵スキルに真っ赤な光点が出現した。

 数は四、先ほどより少ないから、今度は俺がらしてもらおうと思う。


「ナツ姉、北東の方から四体来るから、それは俺が殺る。別にいいよね?」

「え? あ、うん。でも、大丈夫なの?」

「おう、たぶん問題ないよ。基本俺一人で殺るからピンチになったら援護してもらえるとありがたい」

「う、うん。わかったわ」


 その言葉が終わるときには俺はもう北東の先を見据え、右手には毒々しい色の翅剣を構えていた。目を凝らし敵影を確認して、俺は地面を蹴る。

 視認できる位置に入ったそれを頭の中にあるモンスターの情報と照らし合わせる。配分は違うが、種類は先ほどと同じだ。《枯れてしまった木人》が一体と《人食らう花》が三体。どちらも仲良くLvは27。

 

「はッ」


 速攻のスタートダッシュでそいつ等の目の前に辿り着いた俺は、一番前にいた《枯れてしまった木人》に向けて細かな斬撃を見舞う。

 ズザザザザッ、と目の前を高速で行き来する黒紫の刀身がまるで暗闇の膜が張ったようになる。

 そして最後はもっとも初期動作が速く最も硬直時間の短い戦技アーツのモーションを再生。そしてそれを己に投影。自分の身体が、何かに突き動かされていく感覚。

 身体が加速され、知覚が加速され、思考が加速される。

 そしてもっとも単純な一閃が俺の手から放たれる。

 ザスッ、と音を立てて《枯れてしまった木人》が縦に丁度二つに割れた。

 この技は片手剣のカテゴリで最初に覚えた戦技アーツ、《スラッシュ》だ。薄い水色の燐光を纏った剣を真上から真下に剣を落とすだけの技だが、単純ゆえに貯めも短く速度も速い。

 それに、幾度となく行ってきた"黒紫の芋虫を殺す動作"と酷似しているためやりやすいというのもあった。

 薪割りの様に綺麗に割れたのちに光の粒子となった枯れ木を視界から外し、こんとは三体の《人食らう花》へと意識を向ける。

 その間にも振るわれるツタを避けて、いなし、撃ち落とす。

 隙間隙間に自分の攻撃ももちろん挟むが、いかんせん相手の手数が多過ぎる。相手が五回攻撃してくればこちらが攻撃できるのは一回くらいだ、キツイ。

 そこで俺はふと気がつく。《人食らう花》のHPバーの下に見慣れぬアイコンがあった。俺はそれの正体を探るために意識を少しだけそこにむける。

 手は絶え間無く動かしながら、なんとかそのアイコンの備考を呼び出すことに成功した。


【状態異常:猛毒】

【五秒ごとに総HPの内の一%のダメージを与える。残り56秒】


 ……単純だが、途轍もない効果だ。

 普通に考えて五百秒の間、剣を交えていれば相手は死ぬ。

 無論、そんなことはできないのだろう。現に一分の時間制限を付けられている。そうでなければどんなボスも楽々倒せることになる。

  この猛毒は今右手に収まる《ポイズンフィン》のおかげだろうか? 備考にも『自らは猛毒を有する』って書いてあったし。


 しかし今の俺はそんなことは気にせずに翅剣を振り続ける。

 幸い、まだ一撃も攻撃はくらってはいない。あの壮絶な痛みにまだ再会してはいなかった。

 俺はそんな痛みと再会を果たす前に片づけてしまおうと剣戟を加速させる。


 徐々に、徐々にだが俺の攻撃回数が増えていく。その間に《スラッシュ》もくり出す。

 それから三十秒も経たない内に、三匹が順を追うように光の粒子となって四散した。


 そのことを確認し終えた俺は腰に翅剣を戻し、ナツ姉やアキホ、スイたちの居る所へと悠々と歩いて戻っていった。

 そしてその俺に突き刺さるのは――――、


 ――――総じて驚愕の視線のみ。



「は? なんか驚くことでもあったんですか……?」




※:猛毒の効果に制限時間表示追加しました。





剣狩人?な俺は弓狩人なスイとの仲をすっごく深めた。


高校の受験が迫ってきたので更新の速度がさらに遅くなりそうです。ごめんなさい。



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[気になる点] ・美少女姉妹の肉親なのになぜか平凡というテンプレート。 ・命に関わるような状況で、肉親の安否確認より衝動的な欲求を優先させる。 ・主人公の知能が低すぎる。 ・俺なんかやっちゃいました?…
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