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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
6/36

006:町に帰ってきた俺は姉と妹に…

 俺は目を開いた。

 視線の先には巨大な十字架に何か……女神みたいな像。それとキラキラと光を透過して輝くステンドグラス。―――これは……人工物?

 今まで樹海の中で過ごしていた俺は、久しぶりに見る人工物に即効で頭を覚醒させられる。


 しっかりと開けた瞳に映ったのは、何処か、教会のような所だった。……と、ここまで考えて思い出す。


「―――――ああ。俺、死んだんだっけ」


 最後は隙を突かれての背後からの一撃でクリティカルヒット。そのまま一撃でノックアウトかぁ……

 出来ればもう少しがんばりたかったなぁ……


「あ、そう言えばLvどうなっただろ」


 そう呟いて俺は「オープン」と言ってウィンドウを出現させ、【キャラクター】の項目を見てみる。―――のだが、変化が無い。【Snow:スカウト:Lv50】の、スキルが【小剣:Lv1】【片手剣:Lv48】【短弓:Lv1】【索敵:Lv47】【隠密:Lv47】という前に見たのと全く同じ数値が並んでいた。

 首を捻って考えていると、また一つ思い出した。

 俺の死因はレベルアップの電子音であった、と。ということは、死ぬ直前にレベルアップしてデスペナルティ分上書きされたと……? あ、いや、前だから下書き……?

 余り信じられる話ではなかったが、それしか考えられないので納得することにした。


「―――そうだ。夏姉と秋穂に会わなくちゃ……。もう一週間もあって無いじゃん」


 不意に思いだしたそれに従って、俺は教会の外へと歩き出した―――。




   ◆◆◆




「お、おぉ、ひ、人だ……」


 なんか一週間だけだけれど、モンスターと樹海で暮らしてたからなのか、人が凄く珍しく感じる。

 

「―――っし。それは一旦置いておいて、聴き込みを始めますか」


 何故聞き込みなどというメンドクサイ事をして夏姉と秋穂を探すのかと言えば、単純にそれしか方法がないからである。

 連絡はフレンド同士なら"コール"という電話みたいなものが使えるのだが、夏姉や秋穂とはこのゲームで一度も会ってないからフレンド登録はおろかお互いの容姿も知らない。あ、あっちは俺の知ってるか。

 名前の方は分かっているのだから、それだけで"コール"出来ればいいのに……と思ったが、思ったところでどうにもならないから忘れる事にした。

 

 それ故の聞き込みである。これで大まかな場所とかわかればラッキだなーっとか思っていたり、途中で会えたらいいなーっとか思っている。

 そう言う訳で最初の聞き込みはあの露店で防具売っているお姉さんにしよう。……あ、あわよくば、とか思ってないよ? だだ防具もちょっと見てみたいなーとか思っただけだよ? 本当だよ?


「すいませーん」

「あ、いらっしゃい!」


 俺が声を掛けると、お姉さんはにぱーっと顔をほころばせて対応してくれた。

 お姉さんは淡いブルーの髪を無造作なショートヘアにしていて、猫のような爛々と輝く髪と同じ色の瞳が印象的だ。

 身体の方は夏姉に劣るものの、けっこーグラマラスである。その身体を簡素な白いシャツとジーパンで飾ってい――……ジーパン?

 

「何をお求めですか?」

「あ、えっと。防具もほしかったんですけど、それと違って聴きたい事があって」

「聴きたいこと……?」

「はい。NatuかAkihoって人知りませんか?」


 俺がそう聞くと、お姉さんは怪訝そうな顔を取る。俺がその事に首を捻っていてもその顔は解除される様子はない。


「どうしたんですか?」

「えーっと、逆に何で知らないんですか?」

「……はい?」

「いや、だから何で知らないんですか?」

「いや、えーと最近死にっぱなしだったから……」


 もちろん、とっさに付いた嘘である。これなら少しはだませるはず。……多分。


「ふぅん……? でも、知らないってことはないと思うんだけどな……」

「あ、えっと、結局知ってるんですか?」

「うん、知ってるよ」

「じゃあ、ちょっと教えてほしいんですけど……」

「あ、はいはい。終わったらちゃんと防具も見てってね~」



 お姉さん曰く。

 夏姉ことNatuナツは今のところ王の塔の攻略に一番近いと言われるギルドのマスターを務めていて、実力も相当ある。

 それにあの顔だ。世間では『あの顔や体にはデータでいじった形跡がないぞっ!』という事が広がっているらしく、それのおかげでこの世界で五本の指にはいるほど有名であると。

 秋穂ことAkihoアキホは夏姉と同じギルドに所属していて、夏姉同様実力もあり。

 そしてこれまた夏姉同様に、あの顔だ。世間でも夏姉と同じような事が相当広がっているらしい。

 姉妹だってことも知られていて、襲われそうになったところを夏姉が助けていたのも有名になった理由であるらしい。



「――はーっ。あいつら……そんなに有名になってたのか……」

「え?」

「あ、いや何でもないです」

「よし、じゃあ防具見ちゃって!」

「――あ、あと、どこに行けば二人に会えますかね?」

「え、あ、うーんと……。確か『フジミの宿屋』って言うところを拠点にしてたからそこに行けば会えるんじゃないかな?」

「なるほど……。ありがとうございます」


 というか何時の間にお姉さん砕けた口調になった? 俺お客じゃないの? ――いやまあこっちの方が話しやすいから俺は良いけど。


「よしっ、その装備ってことは《スカウト》だよね? 防具の参考にLv聞いてもいい?」

「あ、はい。《スカウト》のLv50です」


 そう言うと今度はすごい勢いで目を見開いて固まった。…………え? もしかして俺Lv低すぎたとか? マジで? そんなに低いのかな、俺……。


「えっと……、ホントにLv50ホントのホントに50……?」

「ええ、俺やっぱり低すぎましたかね……」

「はい!? 何でそうなるの!?」

「だって、驚いてたじゃないですか。あれって俺が低すぎたから驚いてたんでしょ?」

「いやいやいやいや、むしろ逆だから。逆」

「へ?」

「本当に知らないの? 今の最高Lvって23なんだよ? あ、今50になったけど」

「……はい?」

「だーかーらー。今のところあなたはこの世界の人間の中で一番強いの」


「………………はぁぁぁあああ!?」


 俺のその叫びを聞いて周りで露店を開いていた人たちとそのお客さんが一斉にこっちに向いた。

 

「あっ、いや、何でも無いです! 買い物続けちゃってください!」


 反射的にそう叫んでいた。幸い、やはり買い物に集中したかったのか皆すぐに視線を戻した。


 

 あ、あぶねぇー……。





   ◆◆◆




「えっと、今の話は本当?」

「というかあなたが言ってたLvも本当?」

「え、うん。本当だけど」

「もちろん私も本当だけど」

「あ、そうだ一応見せますよ」


 俺はそう言ってウィンドウを出す。本来他人には見えないそれを可視モードに切り替え、お姉さんに見せる。

 するとお姉さんは「へー……本当だ」と感心していた。うぅむ。こんな事になるならこのLvはむやみに教えるべきじゃないかもなぁ……。


「えーっとスノウさん? スノウ君? スノウ?」

「何でもいいですよ。呼びやすいので」

「じゃあ、スノウ君。私は(イー)リン。リンって呼んでもらえると嬉しいな」

「はい。リンさん」

「――――で、何でLvが50もあるのに《スカウト》の初期装備なの?」


 ちなみに説明しておくと、今の俺の身なりはカーキのシャツに、その上に明暗の少し違ってはいるがほとんど同色のベストを重ね、ストライプの黒いズボンとそれを中に入れたブラウンの革のブーツ……つまりあの《スカウトセット》だ。

 武器である《ポイズンフィン》は装備していない。教会を出るときに街中で武器をしょってる人がほとんどいなかったので俺もそれにならった。


「えっと、これは内緒でお願いしますね? 絶対誰にも言わないで下さいよ?」

「うんうん。で、どうなの?」

「………実は、ずっとフィールドだったんですよ」

「へ?」

「このゲームが始まってからずっとフィールドにいたんです」

「は?」

「帰るにも帰り道が今一わからなくて、しょうがないからそこで暮らしてました」

「え? えぇ?」

「まあ、あそこで取れる肉は意外と美味かったのでどうにかなりましたけどね」

「……えっと、要するにフィールドで一週間野宿してたと……?」

「まぁ、端的にいえばそうです」


 リンさんが口をあんぐり開けて固まっている。おーい、綺麗な顔が台無しですよー。


「なんか、驚きを通り越して呆れたわ」

「そうですね。自分でやっといて今俺も呆れてます」

「そうでしょうね……」

「まあ、そんなわけでお金なんか持ってないし防具とかも作れなかったからコレなわけです」

「へー……。じゃあ、お金貯まったら私の所来てよ! その時には最高の一品を作ってあげるから!」

「え? あ、お願いします?」

「うんうん! ――あ、あとフレンド登録いい?」


 そんな感じでリンさんとフレンド登録したのちに少し世間話して別れた。

 うーん、何でおれこんなにズレてるんだろう。どこで間違ったかな、俺。



 …………ああ、街から出て走り出した所からか。




   ◆◆◆




「来ない……」


 リンさんと別れていから俺が来たのは、『フジミの宿屋』という宿屋だった。何故か、と問われれば夏姉と秋穂の事を捜すためだ。

 宿の中に入った俺はシブイいぶし銀のオッサンに「泊まりか?」と聞かれたけど、それには違うと答えておいた。――おいおい、何だあのNPCのマスター、カッコよすぎるだろ……。その魅力を俺にも少し分けてくれ……。


 宿の断った俺はとりあえずそこらへんにあった椅子に腰かけ、夏姉と秋穂のことを待つことにした。―――のだが、一向に来ない。かれこれ二時間近く待っているのに。腹も空いてきたところである。


 ぐぅ~~~きゅるるる


 ほぉら、鳴った。

 俺は、しょうがない、と短くため息を漏らしウィンドウを開いて【アイテム】の項目へと指を走らせた。樹海で散々お世話になった虫肉を取り出す。

 デスポイズン・キャタピラァを有り得ない量狩り、喰い尽したおかげで、今はもう二百個近くあったりする。虫肉万歳!! 虫肉最高!!

 べちょっ、と音を立てて血の滴る虫肉が目の前のテーブルの上に落ちた。

 最初の方はこれだけで気分が悪くなったりしたのだが、今はもう慣れてしまっていた。人間って恐ろしい。

 俺は虫肉の塊を右手で掴み、そのまま口元に持っていき、噛み千切る。ぐっちゃぐっちゃと余り行儀よくは無い音を立てながら咀嚼していく。


 周りから見ればもの凄くシュールで猟奇的だと思うが、幸い、ここに俺以外の客はいなかった。

 やっぱり虫肉うめぇーっ、なんて言いながらそれを噛み千切ってていく。一つ食べ終わったのだが、まだ俺の腹がメシを所望していたのでもう一つ取り出し、食べる。

 二つ目の虫肉もぺろりと食べ終えると、どこからか不意に"ポーン"とという音が鳴った。


「…………んん?」


 レベルアップ……、にしてはタイミングが不自然すぎる。そう思った俺は、ウィンドウを開いて【キャラクター】の項目へと目を走らせる。そして上昇していたのは―――いや、"増えて"いたのは【称号】というものだった。増えている……というか新しく出ていたそれの備考を呼び出す。


【蟲毒の素人】

【《黒紫の蟲肉》を喰らい過ぎて、体にその毒の一部を宿した者。獲得条件:《黒紫の蟲肉》を加工前の状態で50個完食】

【称号効果:素手での攻撃の場合、相手に一定の確率で《猛毒》を投与する】


【耐毒の素人】

【毒系モンスターの食材アイテムを喰らい続けることで、その毒の抗体を体に宿した者。獲得条件:毒系モンスターの食材アイテムを加工前の状態で50個完食】

【称号効果:《毒》、《猛毒》に対しての抵抗率が上昇する】



「…………」


 な、なんかこれだと俺の大好物である《黒紫の蟲肉》が毒持ってるみたいに聞こえるんだけど……。気のせいだよね? ね? ね?

 そう問うが、答えてくれるものはいなかった。その代わりに宿の扉が開く音が聞こえた。


「……ん?」


「「「ぎゃぁ――――っ!!」」」


 俺が振り返って返って来たのは悲鳴だった。

 何だよ、失礼なやつらだなぁ……。と、考えたところで気がつく。俺は今の今まで血の滴る肉を喰らっていたところだ。そんなわけで、俺の口の周り、腕の辺りには血がべっとりと付いている。

 これは数時間たてば消えるから今まではあまり意識してなかったわけなのだが……――


 や、やっちまったなぁ……




   ◆◆◆




 宿の中に入って来たのは、六人の男女だった。

 女性四人、男性二人という少し偏った構成のその六人はきっとパーティメンバーなんだろう。このゲームでのパーティは一つ六人である。ちなみにその中の女の子が一人、俺の姿を見て気絶していた。……結構へこんだ。


「きゃ――――って、ゆき?」

「あ、夏姉」


 よくよく見てみると、叫んでいる中の一人は夏姉だった。容姿は全く現実と同じだが、髪と瞳が透き通るような銀色になっている。あと、その名前で呼ばないでほしい。ここでの俺は"スノウ"だ。


「夏姉、ここではその呼び方やめてくれよ。ここではスノウだ」

「あ、ごめんゆ……じゃない、スノウ。っというかじゃあなんで私は呼び方同じなのよ?」

「だって夏姉のキャラネームはNatuじゃないか。ここでも支障はないじゃん」

「まあ、そうだけど……。ってどこ行ってたのよ今まで! そしてその血何!?」

 

 途中からナツ姉の剣幕が凄いことになった。クワッと眼を開き早口でそう言った。


「あー、うん。これにはいろいろと事情があったりするんだ」

「お、おいナツ? こいつは……?」


 ナツ姉の隣にいた青年が、ナツ姉にそう問う。長身痩躯、茶髪のイケメンだ。顔をいじってる可能性も捨てきれないから、本当にイケメンかどうかは不明。これが熟練? の人なら判別できるらしいが(リンさん情報)、俺にはわからん。


「ああ、これは弟のゆ……じゃなかった、スノウよ」

「えっと、この血みどろなのが?」


 まさかの"これ"呼ばわりのあとは"血みどろ"だそうな。そりゃキツイってもんだ。


「スノウのどこが血みどろよ! 私の弟を血みどろなんていわな―――いや、血みどろだったわ」


 ……ナツ姉、怒るなら最後まで怒ってほしい。余計へこんだ。


「へーい、血みどろの弟・スノウでーす。よろしくお願いしまーす」


 なんかもうめんどくさくなって何ともふざけた自己紹介になった。それと同時に、六人を見回す。

 一人はナツ姉。もう一人は茶髪のイケメン。更にその横には魔法使いっぽいローブ着たメガネの少年、線細い、なよなよしてそう。その反対の隣には俺と同じ職であるスカウトっぽい装備をしたスレンダーな美少女、胸はちょっとザンネン。その斜め裏には隠れるようにして黒髪でおかっぱの少女が。

 そして最後に気絶しているのは我が妹だった。――ってなんで兄の顔見て気絶してんだよ!?


「えっと、まあ。ナツ姉とアキホと話したいんですけど良いですかね?」


 とりあえずアキホのことを置いておくことにした俺がそういやってパーティの人たちを見ながら問うと、そのパーティの視線がナツ姉へと集まった。


「わかったわ。今日の狩りはもう終わったしいいでしょ?」


 その答えに様々な返答を返す。共通点は、肯定を表しているところである。

 ナツ姉はこのパーティのリーダーであるらしい。ああ、そう言えばリンさんがギルドのマスターとか言ってたな。このパーティがそのギルドなのかも。


「そいじゃ、いきますか。ナツ姉、どこにする? 出来れば人にいないところが良いんだけど」

「じゃあ、宿に取ってある私の部屋にしましょう。あそこは私の許可がないと基本入れないから」

「おー……宿とか初めてだわ。どうなってんだろ」

「泊まった事無いの?」

「ん、まあな」

「はあ……、なんかもうよくわからないわ。血だらけだったり宿に泊まった事無かったり」

「ま、気にしないで」

「……で、アキホはどうするの?」

「ああ、俺が担いでくよ」


 俺はそう言うとイスから立ち、そこまで一直線に走った。瞬く間でアキホが気絶しているところまでたどり着く。そしてそのまま、アキホを背負う。


「「「っ!?」」」

「? ナツ姉、どした?」

「い、いや。何でも無いわ」


 本当はナツ姉以外にも驚いた顔をしていたが、名前を知らないのでナツ姉だけに聞いた。というか、なにを驚いているのだろうか? アレか? この速さか?

 まあ、この速さには俺も驚いたよ。この身体、ホント使い易い。俺は長距離走も好きだが、短距離走はもっと好きだ。この身体はスタートダッシュがしやすい。マジいい。


「じゃ、行こうぜ」

「ええ」


 俺はアキホ背負ったまま、部屋のある二階へと続く階段へと向かって歩き出した。




   ◆◆◆




 部屋にあがった俺は背負ったアキホをベットに寝かせ、自分は椅子に座った。ナツ姉も俺の向かいに座る。


「で、一週間以上、どこに行ってたの?」

「うん。まあ、簡単に言えばどことも知れぬフィールドで野宿してた」

「は!?」

「俺……さ、久々に走れたもんだから、その……止まれなかったんだ。なんかこう、嬉しくてさ、頭のねじが数本くらいとんでってたかも」

「――――そう、なの」


 俺が自分の失態を話すと、ナツ姉は少し沈んだ声でそう返した。……気にしているんだろうか? これは俺の自業自得だから、ナツ姉達には何も関係ないってさんざん言ったのに。

 淀み始めた空気を吹き飛ばすように、少し自虐気味に話を再開した。


「そうそう。それでこの身体ってスゲー使いやすかったから一時間もぶっ続け走れたわけさ。そしたら何時の間にか知らないところに……」

「…………バカなの?」

「……言い返せないのがつらい」


 ナツ姉がはぁ……、とため息をつく。本当に、何も言い返せないのがつらい。

 しかし沈んだ空気はどこかに行ってくれたようで、一安心する。


「でも、野宿なんてどうやってしたのよ? フィールドで戦えばお腹も減るでしょう?」

「ああ、その事ならモンスターが運良く食べ物をドロップしてくれてさ。それ食って生きてた」

「へぇー……」

「そんでそれが俺が血だらけな理由につながるんだよ」

「? どうしてよ?」

「森で出る(ドロップする)のってさ、生肉なわけさ。それ食ってるうちにそれが大好きになっちゃって、それをここで食ったらあの状況ってわけ」

「な、生肉……?」

「そうそう。血についても、森にいた時はそんなこと気にしなかったから失念してたんだよな」

「こ、こんなに近くにリアル肉食系男子がいるとは思わなかったわ」

「しかも肉親にな」


 俺は笑いを漏らす。それにつられてぽつぽつとナツ姉も笑いだす。

 何ともほんわかした空間だ。あの樹海では考えられない空気である。あそこはもう行きたくな――……くはない。虫肉のためなら行きたいかもしれん。そんな思考を知ってく知らずか、ナツ姉はこう問うてきた。


「それにしても、何の肉なの?」

「ん? ああ、虫の肉」


 俺がサラッと答えるとナツ姉が氷の彫像の様に固まった。それはもうピキッと時間が止まったように。


「いや、芋虫の肉なんだけどさ意外と侮れないんだよね、これが。牛肉みたいな食感と極上に脂の乗った感じ! もぅ、半端なく美味いんだよ!」

 

 俺は思わず頬を緩ませながらそこまで言うと、あることを思いつく。


「あ、そうだ。ナツ姉も喰ってみる? 美味いよ?」

「やっ、やややややめとくッ! って言うかムリ! なによ虫の肉って! しかも芋虫!? 有り得ないでしょう!!」

「そう? ムチャクチャ美味いんだけどなぁ……」


 ナツ姉、現実ではなにつくっても食べてくれるから料理楽だったのに……。なんでこっちではこんなに好き嫌いの激しい事に――――


「……なんか変な事考えてない?」

「別に? ナツ姉は好き嫌いが激しくなっちゃったなーってさ」

「……普通、誰でもこういう反応するわよ」


 俺が思った事を言ってみると、そんな答えが返って来た。うーん……どうしてなんだろうか? 謎だ。その時「ぅぅん」という声がベットの方から聞こえてきた。


「あ、アキホ起きた?」

「あれ? お姉ちゃん? ここは……ぎゃぁ――――――っ!」


 むっくりとベットから体を起こしたアキホは疑問顔で辺りを見回す。そして俺と目線が交錯した時……叫んだ。女の子が出しちゃいけないような声で。


「いやいやいや、俺だから! お前の兄だからっ!」

「ぎゃぁ――……え? 兄さん?」

「そうそう。やっと気づいたか」

「あれ!? 兄さん!?」


 アキホは驚いたように叫んだ。何で叫んだんだ……って俺まだ血拭いてなかったじゃん。ナツ姉も言ってくれよ。気がついたら拭いたのに。

 ――よく考えると、物凄いシュールだな。弟の口元に血がこびり付いているのに、姉弟仲良く談笑している。……この上なくシュールだ。

 そんな事を考えていると、金髪碧眼になったアキホがベットから起き上がって俺へと詰め寄って来た。


「一週間以上どこ行ってたの!?」

「ああ、フィールド」

「フィールド!?」

「そう。そこで野宿してた」

「野宿!?」


 アキホの表情が驚愕や疑問へところころ変わる。

 それを見た俺は、これは面倒そうだ、と直感し行動に出た。


「ナツ姉、俺ちょっと寝る」

「え?」

「だからこのベット借りるわ」

「いやそれじゃ血がついちゃ―――ってそうじゃなくてアキホへの説明どうするのよ?」

「大丈夫。一回ついた血は他の所に移らないから」

「いや、そうじゃなくてアキホへの説明どうするのよ?」

「……ナツ姉、よろしく」


 そう言って目の前のアキホを一旦押しのけて、ベットへと入る。


「ちょっ、ゆき!?」


 あー……やべぇ。ベットってこんなに柔らかかったんだっけ……


 かってぇ木の根とは大違いだ……


 いぃーやぁーさぁーれぇーるぅー、ぅー、ぅー、ぅー…………





 そうして俺は深い眠りに落ちていった。






町に帰ってきた俺は姉には叫ばれ、妹には叫ばれた上に気絶された。


お気に入り100超えました。こんな駄文ですが、読んでくれてありがとうございます。

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