025:新(!)装備を試した俺は
し、私立入試を乗り越えてきました、玄野 洸です!
まだ結果は出ていませんが、それなりに出来たのでは、と勝手に思っています。
――しかし!
自分の本命はあくまで県立なのです! お金無いので!
なので、今話と次話を投稿したらまた勉強に戻ります。
どうぞよろしくお願いします。
「出来たっ!」
鍛冶職人ひしめく、若干どころか相当暑苦しい公共作業場と呼ばれる場所でリンさんが声を上げた。
手には何もないが、アイテムの欄には《緑蜥蜴王の緑鱗・軽装》のシリーズが入っている筈だ。こういうのは、少し心が躍る。
「はい、どうぞ!」
「ありがとうございます」
トレードウィンドウに表示されたそれらを見ながら、俺は必要なだけのお金を入れる。防具の主な素材は俺が出したから、意外とお買い得だ。いえーい。
アイテムを手に入れた俺は、リンさんに断わってから、奥の試着室に向かった。ここで装備しようとすると、一瞬だけだが俺がパンツ一丁になる羽目になる。――そんなの御免だ!!
奥の個室に入った俺は、ウィンドウを操作して、新たな防具を装備していく。《スカウトセット》の様に一括仕様ではないから、一つ一つ装備していかなくてはいけないのがネックだ。
まずは、《緑蜥蜴王の緑鱗・ジャケット》。外観としては暗い緑の上着に、肩から胸元に掛けて鱗の装飾が施されている。別のモンスターの黒革も使ったようで、結構頑丈そうだ。
そのあとは、《緑蜥蜴王の緑鱗・キュロット》。こちらの外観は、同じような暗い緑のズボンに、腰元と膝辺りに鱗の装飾がある。
次は、《緑蜥蜴王の緑鱗・ガントレット》。手の甲や肘のあたりまで鱗に囲まれた、暗い緑の篭手。なかなか防御力のあるように見える。
更に更に、《緑蜥蜴王の緑鱗・ブーツ》。適度に覆われた暗い緑の鱗が特徴的――でもないか、他のもそんなようなものだな。とりあえずこれはブーツ。なかなか動きやすい。
最後は、《緑蜥蜴王の緑鱗・ピアス》。これまた鱗で装飾された暗い緑の耳飾りに、エメラルドのような鉱石がある。これは、蜥蜴石というらしい。蜥蜴系のモンスターから出る、特殊な鉱石だそうだ。色はその蜥蜴の体色依存であり、今回は緑色。
そして、装備の事を確認すると、相当のものだった。……主に、俺にとっては。
装備は軽装に属すだけあって、防御は金属製のプレートアーマーに比べて低いが、その分敏捷値や回避率への補正が多いようだ。やっほーい!
シリーズを全て装備した場合の追加能力として、低い確率ではあるが、ある一定確率で12%のダメージカットが発生するようだ。やっふぅーっ!
そして最も重要なのは、このピアスだ。なんとなんと、レベルアップの際の能力値加算に、若干ではあるがボーナスがつく様だ。イエエェェェスッ!!
試しに翅剣も装備して見ると、体は全部暗緑色、手の先は黒紫色と、何だか全体的に毒々しい。……なんかこう、色合いが……、ね。
小さく屈伸や伸びをする。さすがゲーム、というべきか。初めて装備した物に関わらず、まるでオーダーメイドの装備の様に体にフィットする。
手に持った翅剣を軽く振ってみる。防具はまるで体の一部であるかのように存在し、これっぽちも体の駆動を阻害する事はない。
装備の確認を終え、満足した俺は翅剣を【アイテム】の欄にしまい込み、奥の個室を出た。
「リンさん、コレ凄いいいですね!」
「おお、そう? それはよかった!」
工房で腰をおろしていたリンさんに、防具の装備結果を報告した。
防具の出来に俺は満足だし、リンさんは「いい経験が出来た」と言っていた。システムで作ったはずなので経験とか関係あるのかは良く分からないが、とにかく俺もリンさんも満足な感じだった。
その後は世間話もほどほどに、俺はフィールドに跳び出すため、街中を走りだした。
言わずもがな、早く装備の性能を実感したいからだ。
新装備に軽く歓喜の叫びをあげながら走り去る俺を、周りの人々が怪訝そうな目で見ていた。
……き、気~にしぃ~なぁ~いぃ~……
◆◆◆
所変わりまして《リーザリア》。
町中を適度に溢れた緑は、やはり爽やかな印象を俺に与えた。
……しかし!
いま必要なのはそんなんじゃない。
今の俺に必要なのは敵だ。新調された防具の性能を試す、怪物でありモンスターなのだ。
そんなわけで俺は、町を出る為にとりあえず外壁に向かって歩き出した。
何時の間にやら、辺りは夕焼けに染まっている。早いもんですな。
昼食やら何やらも全く取っていなかったので、歩きながら虫肉を食う事にした。
この虫肉、今はもうストックが腐るくらいある。……いや、【アイテム】の欄に入ってるから劣化したり腐ったりは無いのだが。
……いやいや、そうじゃ無くて。
俺が言いたいのは俺の【アイテム】の欄に入っている《黒紫の蟲肉》は、相当量あるってことだ。
これらの食材アイテムは、【アイテム】欄の一つのスペースにつき100個まで格納する事が出来る。
そして、俺の【アイテム】欄を占領してる《黒紫の蟲肉》は、14のスペース。つまり、1400個だ! わかるか? 1400個だぞ!? 自分でも計算してビビったわ!!
とりあえず、これから先の食事については何の心配もいらんようです。へい。
爽やかな街並みに似合わない、虫肉の食べ歩きというしごくシュールな行動のおかげで、俺は結構な注目を集めているようだ。
こんな時は…………そう、あれだ! スーさん!!
てってれー、とか鳴りそうな雰囲気を立ちこませながら、俺の頭の中でスーさんが登場した。
すると途端に俺の中から視線の痛みが減っていく。サンキュー、スーさん!
俺の中のスーさんは、仕事をしていくだけしていくと、グッと親指と立てながら去っていった。――――俺の中ではすでにスーさんは擬人化しているらしいよ。ええ。
最終的にスーさんと会話する、なんて事になったら、俺はもう終わりだ。末期だ。それだけは絶対に避けよう……、うん。
そして俺は虫肉片手に、《リーザリア》の町を歩いて行くのだった。
◆◆◆
目の前には、青葉の生い茂る林が広がっていた。
もう一歩手前の町ではあんなに湿っぽい空気なのに、どうしてここはこんなにも爽やかオーラ全開なのだとうか? 疑問で仕方ない。
腰に装備した翅剣を見下ろしながら、木の葉が香る道を歩いてゆく。
と、その瞬間。俺の【索敵】スキルに九つという思いがけない量の光点が浮かび上がった。しかも、赤だ。
俺はとりあえず【索敵】にしたがって、敵の居る方に視線を向ける。
そうすることで、やっと気がつく。
戦闘を、している。
人型のシルエットしか見えないが、プレイヤーが戦闘をしているのだ。相手は――――、同じくプレイヤー。
そう知覚した時、俺の身体が勝手に動き出した。
ビュン、と自分でも思いもよらぬ速度に、若干驚きを感じる。もしかしたら、防具の補正か何かだろうか? しかし、この状況では非常に好都合。
風になってしまったかのような感覚に酔いしれながらも、俺は林の中を一直線に突き進む。
数秒もしない内に、目的の地点についた。
「どうした!? これはどういう状況だ!?」
剣戟が飛び、魔法が爆発する。
聞かなくてもわかるのだが、最終確認の意を込め、そう叫んだ。
「襲われてるんです! 逃げてください! このままじゃあなたも巻き添えに――!!」
「わかった、それだけ聞ければ十分だ!!」
叫んだ少年達の方――、壁装備の戦士が二人に、魔法使いと司祭が一人づつの四人パーティーだ。モンスター相手ならばバランス良く対応できるのだろうが、プレイヤー相手だとそうもいかない事が多い。
……実際、今回はそれだ。
相手側は五人全員、《スカウト》だった。四人が小剣装備で、残り一人が弓装備。
弓装備は《スカウト》持ち前の敏捷力を使って動き回り、常に中距離を保ちながら司祭の少年を攻撃し続ける。
片方の戦士の少年が助けに入ろうとするが、狩人二人がかりに止められてそれもままならない。
幸い、戦闘は始まったばかりらしく、弓狩人からの集中砲火を受けている司祭の少年は、まだ半分ほどHPが残っている。
他の少年戦士にもは狩人が一人が付き、少年魔法使いには狩人がへばり付いている。
とりあえず俺は、弓を持つ狩人を狙った。
ヒュン、と風を切る音が耳をかすり、抜き払った翅剣の切っ先が走る。
弓を張った形で硬直していた狩人に、俺は二連撃の戦技、《クロス》を発動。
空色の燐光が十字の形を作った。しかし、予想外に多かったHPにより削りきる事が出来ず、追加の斬撃を横薙ぎに一撃。
バキンッと大きな音が響き、弓狩人の男が砕け散った。
周りが、驚愕の念に包まれる。
しかしそれにかまっている暇は俺になく、すぐさまHPを虫の息まで削り取られた少年魔法使いの方へ走る。
そのままの勢いを保ったまま少し手数を上げた三連撃、《トライスラッシュ》を見舞う。正三角形の空色の燐光が小剣装備の狩人を抉った。
もう一度世界にヒビの入った様な音が響き、身体が崩れる。
後は三人。
身体をクルリと捻り、剣先を少年戦士達と対する狩人共に向けた。
ビクゥッと、怯えたような視線を俺に向けた。……狩人共も、少年戦士達も。
だがそんな事を気にするのはわずらわしく、俺は剣を振るった。
速さに物を言わせ、風の様な速さの翅剣が視界を駆る。その斬撃は的確に狩人どもだけを切り裂き、最終的には全てを砕けさせる。
ブンッと、翅剣が風を切る音が耳に届き、戦闘終了を俺に告げた。
何だか、無性に……、冷たかった。
◆◆◆
「「「「あ、ありがとうございました!!」」」」
「……いや、どうってことないですよ」
見事なシンクロっぷりに少々驚きながらも、そう答えた。
しかしそんな事よりも俺には気になる事があるので、そちらを訪ねる。
「……それにしても、あの輩って何なんですかね?」
「知らないんですか?」
「……分かるんですか?」
俺がそう問いなおすと、少年魔法使いがコクリと頷き、口を開いた。
「確かあれは《三つ又の死》って言う、殺人ギルドって呼ばれているものです」
「…………殺……、人……?」
軽く、俺の中で何かが泡立った。
俺の呟きに頷くように、少年魔法使いは話を続ける。
「はい。……何でも、「一日に三人は殺せ」って言う理念を掲げている最近噂になっているギルドです。被害も多数出てるとかで……」
「………………」
俺の中で、確かに何かが泡立っている。
「そいつ等の拠点とかって、分からないですか?」
――――もはや隠せない、グツグツと煮えたぎっている憤怒の念を押し殺しながら、そう聞いた。
「……そう言えば、ユーレシアのどこか宿屋を拠点にしてるとか…………」
グッと血が出るんじゃないかと思う位に拳を握る。
今の俺の顔はきっと、怒りに歪んでいる。
自己中心的で、自分の満足の為だけの怒りが、心の奥で燃えている。
俺の心の全てに干渉し、全てをそれを燃やす為のエネルギーにするかのように、それは広がっていく。
広く、そして確かに――――。
「すいません。急用が出来ました。今度はPKに遭わないようにに頑張ってください」
そう言って、俺はくるりと向きを変えた。
足に力を込め、走り出そうとした時――、
「す、すいませんっ! あ、あなたのお名前は……?」
「――――スノウ、です」
バァンッ! と何かをブッ叩いた様な音が足元から響き、俺はジェット機の様に飛び出した。
目的は一つ。
――――――掃除するんだ。
――――――そう、綺麗にするんだ。
聞かれたところで名前は隠しておけばよかったですが、そこまで考える余裕は主人公にありませんでした。
新(!)装備を試した俺は、掃除に行こうと思う。