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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
24/36

024:ニヤニヤとジトっとされた俺は

 所変わりまして。

 ええ~……。リーザリアにある、とある宿の一室でございます。


 それなりに良い宿取ったらしく、七人でそれぞれ椅子やベットの上に座っても、意外と広く感じる。


「さて、言い訳を、聞きましょう、か?」


 何故凄む、ナツ姉。デジャブだ。果てしなくデジャブだ。

 そして言い訳とか無い。全然、これっぽっちも無い。


「そんなものはありませんとも」

「嘘。じゃあLvは?」


 今度はスイ。

 ズバッと確信付いてきやがりますよ、この娘。

 でも俺は、抵抗する。 


「ハハハ、なに言ってるんだよ。そんなの聞いてどうするんだよ」

「確かめるんですよ」


 ぎらーん、とアキホの碧眼が閃いた。……気がした。

 俺が、何を、と聞く前に「兄さんのバカみたいな強さを、です」と重ねられた。バカは余計だバカは。……恐らく。


「ま、良いかな。前回と同じく他言無用で根掘り葉掘り聞かないと言うならば」


 何か前とおんなじパターンな気がしないでもないけど、しょうがない。

 聞かれてるの答えないと、後が大変そうだ。――主に女三人が。


 俺が出したその条件に、六人は前と同じような反応を見せる。頷く者もいれば、わかった、という者もいる。全員が了解の意を示した所で、俺はしょうがなく口を開いた。


「俺は、Lv1だ」

「「「…………へ?」」」


 呆けた声が重なる。

 

「だから、俺はLv1なんだよ。嘘は言ってないからな、嘘は」

「「「…………はい?」」」


 まだ声は呆けたまま。いい加減なおれぇい。


「――あ、これじゃ言葉が足りないか……。要するに、転職したからLvがリセットされた」


 

 一回聞いた事がある様な驚愕の叫びが、宿屋の一室に響いた。

 

「……ご、ごっ近所迷惑ですよぉ~~~」


 そんな俺の一言を聞いた奴なんて一人もいやしなかった。




   ◆◆◆




 そっから小一時間、俺はずっと問い詰められた。

 というか、結局俺話ちゃってるよね、うん。……もう、いいや。疲れた。疲れたよ、パトラッ――――じゃ無くて、……えっと、えと……、《デスポイズンキャタピラァ》……。



 ――そして一番の疲労要因を教えよう。


 …………スイだ。


 何故か、そう問われると、恐らくではあるが、自分と同じ職業の転職を目の当たりにした事で、興奮でもしたんだろうよ。

 群がっていた他の奴らを押しのけ、俺の顔と数センチメートルほどしか離れていない位に近づき、頬を軽く上気させながら迫ってくるのだ。

 例えば、こんな風に――「他に、何か職業、あった?」「スキル、どんなだった?」「他に、何か変わった事、あった?」

 ……正直、何喋ったかも曖昧だ。顔は熱いし、妙に呂律が回って無い気もするし……、ああもう、どうしたんだよ俺!


 そんなわけで今現在。

 へろんへろんな俺であります。


「ちょ、ちょっとタンマ。……一回、一回どいてくれ」


 前から退きそうに無いスイの両肩を軽く掴み、押す。

 ぅむっ、と小さく吐息を漏らし、スイの顔がようやく俺の前から離れた。……ふぃーっ、助かったぜ……。


 ふーっ、と息を吐きだし、心を落ち着ける。


「これで、大体の事はオーケー?」

「うん。ありがと、スノウ」


 目の前にいたスイが、小さくはにかみながら頷いた。

 そんな表情に、また俺の息が詰まる。それを上手いぐわいに受け流そうと顔を左右に振ってみる。

 ……と、そんな事していたら気がついた。


 ナツ姉とアキホがじとーっ、とした視線を俺に投げかけ、アロッズさんとロムさんがニヤニヤしたような表情をよこし、リリュネさんがやっと恐れの取れたような落ち着いた視線を送る。……おー、良かった…………


 ――――じゃなくて!


 問題なのはそこじゃない!

 問題なのは、その前のジト目とニヤニヤ顔なんだ! 


 くそぅ……。どうすればこの状況から抜け出せる……っ


 そんな風に頭の容量を限界まで使いながら考えている今も、ジト目とニヤニヤ顔はとどまる事を知らない。むしろ強まっている。

 何故そんな事になってるか。俺は、はっ、不意に気がつく。


 ――――って、うわっ! まだスイの手を掴んだままだった!!


 振り払うのは流石に失礼だと思えたので、ぱっと手の平を広げて離した。しかし、ジト目とニヤニヤ顔は止まらない。……何故やねん。

 ジト目とニヤニヤ顔を直視しないように、膝の上の戻した両手をジッと見ながら俺は口を開いた。


「とりあえず、これで大体の事はいいか……?」


 俺の問いに、とりあえずの肯定の声が返される。

 その回答を聞いた俺は、ゆっくりと立ち上がる。そしてそのまま、出口に向かって歩いて行く。


「ゆき、どこ行くの?」

「んー、ああっと、リンさんの所に防具取りに行く……」

「そうか、気をつけてな」


 最後にアロッズさんの声を聞いてから、俺は背後のドアを閉めた。




   ◆◆◆




 まだジト目とニヤニヤ顔に晒されているような錯覚を感じながら、俺は歩いていた。


 場所は変わって始まりの町《ユーレシア》だ。先ほどリンさんに連絡を取り、今からそっちに行くと伝えてある。

 先ほどの攻略宣言クリアアナウンスの事も聞かれたが、それは実際会った時に、という事にしてもらった。……また面倒くさそうだ……


 とりあえず、歩みを進めていくと、少し気がついた事がある。



 ――なんか、俺の事が噂されてる。


 所々漏れてくる声に、「Snowって……、誰だ?」「ソロ攻略ってどういうことだよ?」「誰かそいつの情報知らないのか!」……などなど。

 今は俺の容姿が割れていないから良いものの、コレが顔まで判明したら大変な事になりそうだ。恐らく、俺が人に埋もれる。……うぇ……。

 そんな事態になりそうなら、一生野宿していく覚悟はもうすでにある。野宿サイコーっ! 


  

 そんな事を考えているうちに、露店街についた。

 少し周りを見回すと、いつもと同じ位置にリンさんが様々な防具を広げて露店を開いてた。

 今はお客さんの対応しているようで、目の前の青年を話をしている。やけに青年の方は熱心に話しているが、リンさんの方はどこか冷めた様子だ。客じゃないのか?

 そんな様子を、ぽけーっとと見ていると、不意に青年の方がガーン! と擬音を背負ってそうなリアクションを取り、トボトボと帰って行った。……何があった…………。

 

 そうして青年がいなくなって時を見計らい、リンさんの露店へと近づいていった。


「リンさん、こんにちわ」

「あ、やっと来たスノ――――わぷ」


 気がつくと俺の手はリンさんの口をふさいでいた。

 距離的には結構あったが、俺の敏捷値に物言わせ(4しかないけど)一瞬で詰めて口をふさいだ。

 理由は簡単。この人、俺の名前の噂がしこたま流れているって言うのに大声で呼ぼうとしたからだ。ばーれるでしょうがぁっ!   


「――――ぷはっ……、なにするのよ」


 ジィっと猫の様に釣り上った瞳を一層釣り上らせてそう言う。

 

「だって、今俺の名前をこの状況で叫ぼうとしたじゃないですか」

「それがどしたの?」


 頭の上に『?』マーク浮かべたままのリンさんに、少し声をひそめながら口を開いた。


「だから、今はまだ俺の顔が知られていないのに、知られたら面倒じゃないですか!」

「そんなの、良いじゃない。有名になってうちの店を宣伝してよ~」

「……いや、マジでやめてくださいって……」


 そこで俺は、これ以上離してもらちあかなそうなので、本題に入る。


「それで、俺の防具って出来てるんですよね、どれです?」


 俺は並べてある防具を見回しながら、そう問うた。

 ――しかし、返ってきた返答は予想外のモノ。


「ん? 出来てないよ?」



「……、……。……えぇぇぇええええっ!?」



 たっぷり三秒呆けた後、俺の口から驚愕の叫びが響いた。

 

 ――今日は驚かさせたり、驚いたりと、大変な日の様だ……




   ◆◆◆




「ちょ、え? どういうことです?」

「だから、まだ作って無い。……正確には作ったんだけど、ボツにしたの」

「なんで!?」


 また何故そんな事を……と、驚きに顔を染めていたら、リンさんの言葉が投げかけられた。


「さっき、王の塔を攻略したでしょう?」

「え? ……まあ、しましたけど……」

「それを聞いた時、思ったのよ! どうせならその素材で作らせて貰えないか頼もうと!」


 ……つまり。

 この人は、俺が攻略した王の塔のアナウンスを聞いて、それにインスピレーション(?)を受けて、作りたくなったから前の装備をボツにしたと……? 


 ――――いや、良く考えると、それは良い事なんじゃないのか? アイテムの処分には困りそうだし、ここで防具に使ってしまった方がいいんじゃないだろうか。

 それに出来る防具も、王の塔のボスの素材を使ったものだし、結構の性能を持っている事だろう。やらない訳にはいかないな!


「それ、確かにいいです!」

「ひゃっ!?」


 俺は興奮のあまり、リンさんの手を両手で包みこむように掴んだ。

 

「是非、お願いします、それ!」

「……え? あ、うん。わかったから、その……手を……」

「ぅあっ、すいません!」


 顔を真っ赤にしたリンさんが、妙にもごもごしながらそう言った。

 流石に俺もずっと掴んでいるのは恥ずかしいので、ぱっと離す。今日は、ぱっと手を離す日でもあるらしい。……なんじゃそりゃ。

 

 俺の手から解き放たれたその手を、リンさんがパンパンと両手で掃うようにはたいた。……俺の手ってそんなに汚れてるかな……? ……何それ悲しい……。

 俺の心の内を知ってか知らずか、リンさんはそそくさと露店を片づけ始めた。と、行ってもアイテム類をウィンドウの中に放り込んでいくものだから、どこかのネコ型ロボットがなんちゃらポケットを使っているように見える。……ほら、リンさんの瞳ってどこか猫科っぽいし。


「じゃ、じゃあ、私は工房に戻って防具作ってくるからっ! またっ」


 その、怒涛の動作に圧倒されていた俺だが、ふと気がつく。



「――――リンさーん! まだ素材渡してないよー!!」



 羞恥ゆえか、真っ赤な顔でトレードウィンドウ開く様子を、俺はちょっと笑いながら見ていた。














 ニヤニヤとジトっとされた俺は、防具作ります!





あけましておめでとうございます!

新年、というわけで息抜きにチョコチョコ書いていたものを投稿です。

五日後には私立入試なので、頑張ります!!


これからもどうぞよろしくお願いします!!





                          玄野 洸




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