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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
21/36

021:どうやら転職するような俺は


 "ポーン"という何処か間の抜けた電子音。

 そのあとに続くように開くウィンドウ。



【転職可能Lvまで達しました。転職しますか? Yes or No】



 俺の指先が勝手に動いた。

 まるでこの現象を待っていたかのように、スムーズに。もちろん、[Yes]を叩く。

 次に浮かび上がるのは、このようなモノ。



【自らの手と口で魔力の宿る呪歌を奏で歌う。その音色は味方を助け、敵を害する。……《バード》】

【自らの狙った獲物を一撃で仕留める。その佇まいは森に生きる恐るべき狩人。……《プレデター》】

【自らの手でお宝を捜し当て、見つけたその後には大胆不敵に立ち回る孤高の盗賊。……《ローグ》】


 

 前回みたのとは微妙に表示方法が違う気がしたが、そんな事は気にならなかった。

 俺が考え始めたのは、どの職業につくか、である。


 まず一つとしては、《バード》はありえない。

 俺はより直接的な力を求めているんだ。正直、支援や相手の弱体化なんてやってる暇は無いのだ。相手を殲滅出来るだけの"攻撃力"が欲しい。

 

 そうなると《プレデター》と《ローグ》なのだが……、むぅ。

 


 ……いや、こうなれば《プレデター》しかあり得ないんじゃないか?

 だって『その佇まいは森に生きる恐るべき狩人。』ってあるんだぜ? 『森に生きる』『恐るべき(?)』『狩人』なんて俺の為にあるような文章じゃないか?

 いや、『恐るべき』なんかは微妙に俺に当てはまらない気がするんだけども。残念な事に。ヒッジョーに残念な事にね、うん。


 そんなわけで、俺は《プレデター》の項目を押し込んだ。

 瞬間、何故か俺の体を明るい水色の光が包んだ。何故かはわからない。こんなモノは、前回の転職に無かった。



【《プレデター》に転職しました!】



 一緒に"ポーン"という先ほど聞いたばかりの電子音が耳に届いた。

 俺はそれを確認しようとウィンドウを開こうとすると、その前に別の――新しいウィンドウが俺を阻んだ。



【三次職に転職しました。】

【新たに能力値を振り分ける権利が与えられました。】

【次の能力値を振り分けてください。】


【(STA):[0]】

【(STR):[0]】

【(AGI):[0]】

【(INT):[0]】

【(WIS):[0]】

【残りSPステータスポイント:[5]】


【備考】

【(STA):スタミナ・個人の体力、持久力に関係する】

【(STR):筋力値 ・筋力に関係する。戦士が重要視する】

【(AGI):敏捷値 ・速さに関係する。狩人が重要視する】

【(INT):知識値 ・魔力に関係する。魔法使いが重要視する】

【(WIS):英知値 ・魔力に関係する。僧侶が重要視する】




 ……なんじゃい、こりゃ。

 なんだか俺はMMORPGに良くある、ステータスの割り振りが出来るようになったようだ。

 これまではステータスの閲覧すらできなかったから、そう言う物なのだと思っていた。……しかしそれは間違いで、ある程度強くならないとこういった事は出来ないらしいな。

 全ての初期値はゼロと表示されていているが、恐らくある程度の違いは出ているのだろう。

 前は《スカウト》であった俺は、推測でしかないが(AGI)が多めにあり、その他の(STR)(INT)(WIS)等が少し低めにあるのだろう。

 (STA)に関しては何とも言えないが、壁戦士の役割を担うであろう《ファイター》系よりは劣るだろうが、《メイジ》系や《プリースト》系よりは上であろう。


 ……なんか、あろうあろう、ばかりで確実な情報が一つもない。

 

 そんな心許ない情報を頼りに、俺は割り振りを始める。

 そんなに時間のかかるモノではない。結果はこうだ。



【(STA):[1]】

【(STR):[0]】

【(AGI):[4]】

【(INT):[0]】

【(WIS):[0]】

【残りSP:[0]】



 ふふん。

 俺は結局、走る速さが欲しいバカ野郎なのだ。筋力なんかいるか! 速力ばんざーい!

 ……しかし何でこんな極振り仕様になったかと言えば、あれだ。


 威力なんて剣を振る速ささえあればどうにかなる!!


 ――――こういうことなのだ。

 一撃の重さを重視するよりも、一撃の速さを重視して『叩き斬る』という感覚より、『断ち切る』の感覚を目指すのだ。より正確には、『切り裂く』の方が合っている気がするが。 

 


 ステータスの割り振りが終わったので、今度はさっきの"ポーン"という音について探してみる。

 それはすぐ見つかった。

 居場所は【称号】の欄だった。


【三次職の先駆者:《プレデター》】

【冒険者の中で初めて《スカウト》系の三次職・《プレデター》になった者。獲得条件:冒険者の中で初めて《プレデター》に転職する】

【称号効果:全攻撃力を2パーセントアップ。回避力を2パーセントアップ。移動速度を1パーセントアップ】


 お、おぉぉぉおおおおっ!

 

 なんだこの称号、良過ぎる!

 攻撃力上がり、回避力上がり、そしてオマケに移動速度まで上がるんだぜ!? 移動速度だぞ! 移動速度っ!


「いっえぇえええーっいっ!」


 あ、ヤベ。

 思わず叫んじゃった。嬉しすぎて。


 たかが数パーセント、されど数パーセント。

 これで俺の走る速さに磨きがかかったてことだ。もーぅ、嬉しすぎる。


「……えへ、えへへへへへ♪」

 

 思わず顔がゲシュタルト崩壊を起こす程だ。……いや、そんな致命的に崩れてないハズだけどね?

 

 そのあとずっと笑ってた。


 いつの間にか朝になってて、周りに黒紫の芋虫が十匹ぐらい群がっても気がつかない位に。




   ◆◆◆




 周りに群がっていた黒紫の芋虫を駆逐しおえた後。

 俺はスキルの確認をしてみた。何か増えているかもしれない。

 指を動かしながら期待をに胸を高鳴らせる。


【Snow:プレデター:Lv1】【小剣:Lv1】【片手剣:Lv57】【投剣:Lv1】【短弓:Lv1】【長弓:Lv1】【索敵:Lv57】【隠密:Lv57】【罠:Lv1】

   

「おおっ」


 なかなか良いのが増えていた。

 どうやら増えているのは【投剣】【長弓】【罠】だ。

 備考としては、【投剣】は剣に準ずるものを投擲する戦技アーツが使用可能になり、刀剣の投擲行為に威力補正がかかるらしい。【長弓】も同じようなものだ。正確には、【短弓】がただ長くなっただけだ。それだけ。

 そうして最後の一つ、【罠】はどうやら罠の設置、解除が出来るようになるらしい。今の段階で設置できる罠は、《落とし穴(小)》だけだ。しかしこれも材料――この場合は穴を掘るためのスコップ――が必要らしい。今の俺にゃ無理だ。


 そんな事考えていると、また黒紫の芋虫が群がってきた。

 数は多くは無い。三体ほど。


 ――そう言えば、俺って正確にはLv66相当なんだよな? 《ノービス》と《スカウト》も合わせるから。

 これなら、もう普通に《ポイズンフィン》で戦った方がいいんじゃないのかな……? 戦闘の練習にもなるし。

 そう思った俺は、銀剣を出さずに翅剣を出す。三体だから、上手く立ち回ればいける筈だ。



「……ふッ」


 小さく息を吐き出し、跳び出す。

 右下方に構えた翅剣を右手の筋肉を振るうようにして跳ね上げた。ぶんっ、と風を切る音とともに一閃する。

 振り上げた剣閃が黒紫の芋虫Aの横腹を引き裂く。その中から、黒く濁った妙にぬめりのある液体が飛んだ。  


「ギェァエエエッ!!」


 黒紫の芋虫Aが奇声を上げる。

 一撃で仕留められなかったからか、他のBとCが俺に気がつく。

 後ろのBとCが尻を俺に突き出す。そのまま、すぐにぷくっと膨らんだ。

 何か来る――。そう予感した俺は左側へと回り込むように高速のサイドダッシュ。

 

 ぶしゅぅっ


 鈍い音とともに、紫色に濁った蜘蛛の糸の様な物が放射された。

 広がった紫の糸を横目で流しながら、先制攻撃でひるみを見せた黒紫の芋虫Aに剣戟を見舞う。

 速度に物言わせた出鱈目な攻撃だが、それでも俺の攻撃は速い。モゾモゾと動く黒紫の芋虫の腹の上を、黒紫の翅が駆る。

 後回しにしていた黒紫の芋虫BとCが、またも紫の糸の放射のモーションに入る。


 もうすこし……もう少し待て……


 そう心の中で思うとともに、俺の右腕と翅剣は黒紫の芋虫Aの上を駆りまくる。

 そして、終わった。

 黒紫の芋虫Aが、光の粒子となって散る。


 ぶしゅぅっ


 向き直った矢先に、紫の糸が俺めがけて飛んでくる。


 焦らず、冷静に――――。


 身体を低くして、横に転がる。

 ごろん、と身体を丸めて、翅剣を巻き込まないように気を張りながら回避する。

 しかし、


 べちゃっ……


 空いていた左手に、紫の糸が付着する。

 幸い、主に使用するものじゃないから大丈夫であるが、これは気持ち悪い。

 左手を動かそうにも、ねちゃねちゃと絡まる。むしろ手のひら動かすことで糸の粘着度が上がっているような気がする。

 しかも気がつけば、俺のHPバーの横には毒々しい緑色のアイコンが並ぶ。最悪な事に、《毒》《猛毒》のコンボだった。

 秒単位で、俺のHPが削られていく。


「――疾ッ」


 今度はBに向かって攻撃を放つ。

 先ほどのように紫の糸を喰らうなんて事は無いように、迅速に片づける。

 ざざざざざっ、と剣先が飛ぶ。視界の端にCがモーションに入るのがわかったが、もう少し、もう少しで削り取れる。

 

 そのまま、黒紫の芋虫Bが光の粒子となって散った。

 しかしまた、


 ぶしゅぅっ


 まったく、俺は学習しないのか。

 今度は最悪だった。

 両足が紫に染まっていた。

 紫の糸その物にもあたり判定があるようで、俺のHPがいつの間にか半分ほどになっていた。

 足を動かそうと思いきり捻るが、全く持って微動だにしない。

 俺がそんな絶望的な状況の中、黒紫の芋虫Cはまた尻をぷくっと膨らませて糸を吐き出すモーションに入る。まずい。


 そこからの俺は完璧に無意識に、反射的に動いた。

 右手の翅剣を、振りかぶる。そしてそのまま……、投げるっ!


 ビュンッ


 風を切る音とともに、俺の右手から翅剣が飛び立った。

 一直線に飛び去る翅剣を見つめる。

 そしてそれが、黒紫の芋虫Cの頭に、垂直に突き刺さった。 

 

 ぱぁんっ、乾いた音とともに、黒紫の芋虫Cが風船のように弾け飛んだ。



 ひとまず、勝ったっぽい。



   


 黒紫の芋虫が最後一撃死した理由は、【投剣】スキルによる補正、それに何より"頭に垂直に"翅剣がぶっ刺さったからです。

 簡単にいえば、急所攻撃による一撃死です。








 どうやら転職するような俺は――、糸まみれ。ねちゃねちゃ。




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