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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
20/36

020:強化合宿を始めたIlove虫!の俺は

この作品のシリーズ物にある短編を載せました。

そちらを読んでもらうと、少しだけ虫肉の謎が解けますので、良かったら読んでみてください。……というか絶対読んでください。これ読まないと謎が謎のままです。※それと、やはり自分に文才はありません。




 ――――――強化合宿・一日目――――――



 一日中狩りを続けた。

 自分で決めた十メートルの範囲内を動き回り、端に映りこんだモンスターや【索敵】スキルの範囲内に湧出したモンスターを美しき銀剣で屠っていく。

 自分で動き回る十メートルの範囲を決めるのは、それ以上奥に進まないように、迷わないように、である。ここで迷子なんてたまったもんじゃない。地図が無いから、元の場所に戻れるかも今一確信が無い。

 

 周りが暗くなってきたので、今日は八時くらいで止める事にした。

 その夜は散々狩りまくったおかげでそれなりの数がプラスされた《黒紫の蟲肉》を食べた。もちろん、飲み物には《ブルーゼリー》である。今日も美味い。


 そのあと、寝ようと思い手短な樹に上ろうとしたところで、さっそく"コール"が来た。

 相手は、リンさん。


 その内容は「軽鎧の製造Lvが30まで届いたから、よかったら作らせてくれない?」とのことだった。

 俺はLvの高さに驚きを思え、その事について聞くと、「君(Lv50)っていう目標があったから頑張れたんだよね」だそうだ。

 それにしても、凄い。

 いくら俺という名のLv50の目標があるからと言って、ここまで行けるとは凄い。たとえLvが尊敬されているのだとわかっていても、なんか嬉しい。

 

 俺はリンさんに作っておいて欲しい装備の希望を伝えておいた。それと、会えるのはしばらく後になりそうだ、とも伝えた。代金に関しては、受け取りの時で良いそうだ。

 最後にお礼を言い、"コール"を切った。


 そのあとは樹の上によじ登り、そして、寝た。




 ――――――強化合宿・二日目――――――



 朝、鼻先をくすぐる樹の葉で目が覚めた。

 寝相が悪く樹から落ちていた――などという事は無く、寝た時と同じ姿勢、同じ場所であった。 


 地上に降りてから、虫肉とブルーゼリーを平らげる。

 そのあとは作業に入るかのように黒紫の芋虫を索敵、美しき銀剣を振り下ろし続けた。


 不意になる"ポーン"という音に時間の経過を感じ、ちょうど良い時間だったので昼食にした。もちろん、虫肉とブルーゼリーだ。

 食べ終わると、また索敵を続ける。


 暗くなるのが早い樹海の中で、そこらじゅうが暗闇に包まれた頃。

 確認のために開いた【スキル】欄で、【索敵:Lv50】【隠密:Lv50】となっていた。

 逸る気持ちを抑え戦技アーツを開くと、そこに増えていたのが《暗視ダークアイ》と《隠密ハイド》の二つだった。どちらがどちらだかは、言わなくてもわかるだろう。

 効果は、驚くべきものだ。

 《暗視ダークアイ》は、暗闇でも風景を知覚できる様になるという物だ。そしてこの戦技アーツ、恐ろしく燃費が良い。一度の行使で効果が持続する時間は十二時間。およそ半日だ。そして再使用にかかる時間は、一分。

 正確に風景を知覚できるわけではなく、色はモノトーンとなり、輪郭がはっきりと映し出されるらしい。

 《隠密ハイド》は、自分の存在を恐ろしく希薄な物にするという物だ。ただし、完璧に消えるという言う訳では無く、身体の気配が薄くなるというだけだ。人の目の前に姿を表せば見つかるし、地団駄を踏んでも見つかる。

 それにデメリットとして移動速度が20パーセントダウンするらしい。アイ・ラブ・速度っ! の俺としては何とも言えない。

 此方は、燃費の方は正直微妙である。行使の時間(分単位)×2が再使用に必要とするのだ。つまり一分ならば二分、六十分――つまり一時間ならば二時間。なかなかどうしたものか。


 まあ、どちらも使える物だ。ホント良い物ゲットした。

 特に《暗視ダークアイ》。これはベストタイミングだ。


 暗くなった視界に対して、《暗視ダークアイ》を使用する。

 イメージとしては、闇の中に産み落とされ、そこから視覚だけを取り戻したような――――


 瞬間、俺の眼がモノトーンのモノとなる。

 輪郭だけがくっきりと強調され、樹の葉一つ一つが知覚できるようになる。色は無いが、以前の眼を遜色のない程の精度を誇る。


 そして俺はまた、黒紫の芋虫を狩り始めた――――。



 暗闇に対抗するすべを得た俺は時にして午前一時まで狩りを続けた。Lvは上がらなかったが、おそらく明日には上がるだろう。


 手短な樹の上に寝そべり、寝た。





 ――――――強化合宿・三日目――――――




 俺を起こしたのは、プルルルル、という一昔前の電話の呼び出し音のような音だった。

 寝ている途中でも、一応音は聞こえるらしい。リンさんが出なかったのは、たんに眠りが深かっただけらしい。

 俺はそんな事を考えながら、"コール"に出る。相手は、アキホだった。


 内容からいえば、「突然新しい場所の地図が売られ始めたんだけど、兄さん知ってますか?」とのことだった。記憶に幾ら探りを入れても引っ掛かりはしなかったので、知らない、と答えた。

 どうして俺に聞くんだよ、と聞いてみたところ、「兄さんなら何か知ってそうだからです」だそうだ。おぉ、物知りとか思ってくれてたのか、と思っていた矢先に、「だって、アホっぽそうですから」と追撃が飛んできた。撃沈だった。

 そのあとはどこにいるんだ、と聞かれたが、適当にはぐらかした。特に意味は無いが。


 そのあとは朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 上がったのはレベルだけだった。




 ――――――強化合宿・四日目――――――




 朝、虫肉を二つ食べ終えた時、不意に"ポーン"という鬱蒼と茂る樹海に似合わない軽快な音が耳に届いた。

 何事か、と確認してみれば、こんな物が増えていた。



【蟲毒の玄人】

【《黒紫の蟲肉》を喰らい過ぎて、体にその毒の大部分を宿した者。獲得条件:《黒紫の蟲肉》を加工前の状態で200個完食】

【称号効果:素手での攻撃の場合、相手に50パーセントの確率で《猛毒》を投与する】


【耐毒の玄人】

【毒系モンスターの食材アイテムを喰らい続ける事で、その毒のとほんの少しだけの他の毒の抗体を体に宿した者。獲得条件:毒系モンスターの食材アイテムを加工前の状態で200個完食】

【称号効果:《毒》、《猛毒》に対しての抵抗率が50パーセントプラスされる】



 ……本当に、俺はどんどん人間離れしていく。

 二回に一回は相手に毒を投与できる様になってる。更に、二回に一回は毒を無効化出来る。なんだかなぁ。

 


 とりあえず、狩り始めた。

 そのあともいつも通り狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 今日は人間から一歩離れた一日だった。




 ――――――強化合宿・五日目――――――



 今日は特に何も無く、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 

 作業のような日だった。

 レベルアップも一度だけ。

 刺激がほしい気もする。




 ――――――強化合宿・六日目――――――



 今日も特に何も無く、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 

 今日も昨日と同じ作業のような一日であった。

 上がったのはレベルとスキルが一つずつ。

 誰かに"コール"してみようか……

 ……いや、まだだ。まだ俺はやれるぜ!!




 ――――――強化合宿・七日目――――――



 また今日も何も無く、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。



 ここにきて一週間がたったが、慣れてみると意外と心地良い物だ。

 眼と鼻の先で風に揺すられて揺れる深緑の葉は、心を豊かにしてくれる。……気がする。……と思う。

 そんなわけで今日も上がったのはレベルとスキルが一つずつだ。

 これからも頑張ろう。




 ――――――強化合宿・八日目――――――


 

 今日は、いつもの少し違う日となった。

 昼ごろ、セイジから昼飯に誘われた。例の『おろろろろろろ』だ。

 行きたい、無茶苦茶行きたかったが、残念ながら断った。こんなところに居るのにどうやって行けというのだ。

 こんのヤローッ! と思いきり悲痛の叫びを上げたかったが、叫ばなかった。だって叫んで敵が寄ってきてなし崩し的に戦闘は避けたいというかなんというか……

 ……や、やめてっ! ヘタレとか言わないでっ!

 

 ――まあ、そんなわけで、そのあとは少し世間話をした。

 セイジの口から「なんかこの前、余所の部隊長が側近と一緒にPK(プレイヤーキル)されたらしいんぜ。なんか物騒だよな」と出た時は、一瞬息が詰まった。

 少し迷ったが、そのPKした奴が俺だという事は明かさなかった。

 正直、こいつに明かした所で何か事態が好転するわけでもない。こいつに話してPKを行う奴が減るというのなら喜んで話すが、そんな事はありゃしないのだ。

 そのあとも少し話をし、"コール"を切った。


 俺からはいつも通り狩りをしていった。

 今日の成果はスキルが一つだった。

 明日も頑張ろう、俺。 




 ――――――強化合宿・九日目――――――



 今日も、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。上がったのはレベルとスキル一つずつ。

 いつも通り。


 ――ただし!


 今日の飯には少しだけ工夫を加えたっ。

 

 ……いや、まあ、工夫と言っても一品増やしただけなのだが。

 増やしたモノは、《緑螳螂の右足》や《赤螳螂の右足》、《黄螳螂の左足》、《紫螳螂の左足》というものだった。

 前々から存在には気付いていたのだが、ちょっと遠慮していたのだ。それに、コレには『食べれる』等の事は備考には書かれていなかった。


 ――しかし!


 やはり味に変革を求めるべきなのだ。

 ここで『料理する』という選択が取れないのが悔しくてしょうがないが、それはもうしょうがないのだ。そう、しょうがない。

 

 そんなわけで食してみる事にした。

 ウィンドウを操作して出てきたのは本来のカマキリの足を数十倍の大きさにしたような緑色の巨大な足。外側は中々に硬めの殻に覆われていたので、関節部に手を入れ割ってみた。

 そこから出てきたのは何と…………、海老だった。


 いや、変な事を言ってるのは分かっている。

 しかし目の前に出てきたそれは"海老"としか形容できないものだったのだ。しかも、茹でてあるようにプリプリとしたヤツ。

 もう、何が何だか分からなかった。

 虫だと思って取り出してみたら海老が出てきた時の衝撃というのは、スゴイ。何時も叫ばないように気をつけるようにしている俺が「うおっほぉっ!?」と軽く声をあげてしまったほどだ。

 

 殻を割る前は多少ばかり残っていた抵抗も、その瞬間に消え失せた。

 少し緑がかったの筋がついたそれを、口の中に放り込む。

 口の内でエビの様なカマキリが弾ける。正直言えば醤油が異様に欲しくなる一品だったが、そんな事を差し引いても美味いものだった。

 最初に喰った時は思わず一気に六本も食べてしまった。


 いやー、マジで旨かった。


 残りは五十本程しかないから、ちょっとずつ食べないといけないなぁ……などと呟きながら、寝た。

 

 新たな発見をありがとう、カマキリよっ!




 ――――――強化合宿・十日目――――――



 朝食は昨日付でバリエーションの増えた《黒紫の蟲肉》、《紫螳螂の左足》、《ブルーゼリー》を食べた。いや、本当に美味い。

 そのあとはまあ、概ねいつも通り。

 今日も何も無く、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 上がったのはスキルが一つ。


 今日も樹の上は寝心地が良い。……意外とね、意外と。




 ――――――強化合宿・十一日目――――――



 今日も、特に何も無い日であった。

 レベルも上がらず、スキルも上がらない。

 

 ――と思っていたら、夜、スイから"コール"が来た。

 その内容は、「今から、会えない?」とのことであった。

 残念ながら俺は会えない、と答えると、露骨にしょんぼりした様な声を出すから、俺もオロオロしながら言い訳した。


 そんでちょっぴり口滑らした。

 今樹海で野宿してるんだよねー、あはははー、と。

 今まで誰にも言って無かったから――、というか余計な心配をかけないために隠しておくつもりだったから、酷くしどろもどろでその事を伝えた。……ハズだ、余り自信が無い。

 そしたら以外にもすんなり納得してくれて、曰く「スノウならやりかねない」とのことであった。俺の心に小さな傷が増えました。ハイ。

 

 傷を癒す時間が欲しくて話題変更のために、何で俺に会おうとしたの? と聞いてい見たら、「……内緒っ」と短く返されただけだった。

 漢字にしてほんの二文字。一呼吸の内に終わってしまうその言葉に、何故かどぎまぎしたのはここにしか記さない事にする。他には絶対に教えないからな。絶対にっ!  


 そのあとは会えない時間の代わりに談笑をし、寝た。

 

 同じ樹の上のはずだが、何だか今日は特別寝心地が良かった。


 頬を通り過ぎる風がくすぐったかった。




 ――――――強化合宿・十二日目――――――



 今日も、朝起きて朝食をとり、狩りをし、昼食をとり、狩りをし、夕飯をとり、夜遅くまで狩りをし、夜食を食べ、樹の上で寝た。


 何か特別ある訳では無く、レベルとスキルが一つ上がっただけだった。


 少し変化が乏しくなって来たような気がする。

 さあ、明日も頑張れ、俺よ。




 ――――――強化合宿・十三日目――――――



 昨日と何ら変わりない。

 同じ日を繰り返したような十三日目。

 もうすぐ二週間がたってしまうのであるが、変ったのはレベルとスキル、俺の毒度(?)だけだった。

 今日もレベルは一上がり、スキルは一上がった。


 ――変わらない。

 


 ――俺は、変化を望む。




 ――――――強化合宿・十四日目――――――



 ――世界ゲームは唐突に俺の願いを聞き入れた。


 

 それは夕食を食べ終え、暗くなった視界に《暗視ダークアイ》を使用し、狩りを再開した矢先だった。

 耳元を叩くのは"ポーン"という最近は聞き慣れた音。

 しかし、次に出てくるのは慣れていない一つのウィンドウ。 



【転職可能Lvまで達しました。転職しますか? Yes or No】




 これが強化合宿、最初で最後の、そして最大の変化であった。





 ――――――現在のスノウ――――――


 キャラクター 


【Snow:スカウト:Lv60】

【小剣:Lv1】

【片手剣:Lv57】

【短弓:Lv1】

【索敵:Lv57】

【隠密:Lv57】


 称号


【蟲毒の素人】

【耐毒の素人】

【蟲毒の玄人】

【耐毒の玄人】


 主食


 主に昆虫の肉。非常に美味しいです。








 強化合宿に来ました俺は、ハローワーク行ってないけど、転職します。仕事はしません。




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