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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
19/36

019:螳螂と戦うことになった俺は

 湿った湿原を抜け、俺が辿り着いていたのは森と樹海の中間くらいの深みを持った森だった。

 何だか来た事のあるような、デジャブを感じてしまう土地。

 しかし俺はここに来るのは初めてであるはずだ。……たぶん。自信ないけど。


「それじゃあとにかく、散策と行こうか」


 これからの行動を定めた俺は腰の翅剣に手を掛けながら、けもの道の様な草の踏み倒された道を歩く。

 これまでのダッシュや野宿経験で、この手の森等の道には大分慣れた。森の歩き方(?)みたいな物がわかってきている気がする。


 そのままズンズン進んでいくこと数分。途中で前方にモンスターが湧出ポップした。数は、一。

 翅剣を抜き、右下方に構える。敵の力量が今一つ掴めないため、今のところは待機。

 

 そのまま数秒後には、全長1,5メートルに迫りそうな巨大な螳螂カマキリがそこに姿を現した。

 枝のように細い身体は濁った緑に染まっている。キシキシと顎を鳴らし、ギョロギョロと動く拳大の二つの目玉を動かす。その体躯で最も特徴的なのはやはり、両手に付いた巨大な鎌だ。

 両手にある大振りの鎌には――少し矛盾するようだが――まるで鋸のような三角状の刃がハッキリとしないバラバラな間隔で並んでいた。 

 その刃は俺の身体を削ぎ落とすのには十分すぎるほどの凶器に見えた。それを大きく広げれば、全長は2メートル以上になるだろう。

 

 そして不意に、その螳螂と目が合う。

 俺の目の前に浮かび上がる文字と数字。 


《グリーンマンティス:Lv52》


「――っ!!」


 俺の身体が歓喜に震える。

 それは、やっと対等に近い敵と対峙できた事にある。

 

(これで……、これで自己強化が存分に出来るっ!)


 今までの敵は余りにもLv差が存在し過ぎて、ろくに経験値を手に入れることが出来なかった。あの樹海を出てから上がった俺のLvはスキルLvだけであり、職業Lvはこれっぽちも上がっていない。 


 だから俺は飛びだす。

 先にある筈の俺の"力"を求めて。


 ダンッと足元を震わせ、緑カマキリへと迫る。

 先ほど視線が重なったことで流石に気がつかれたようで、キシャァァ――――ッ! と本来ある筈のない発声器官から、奇怪な叫びが響く。

 

 そして、接触。

 大振りの鎌と、翅剣が接触する。

 一撃の重さ的には向こうの方が上回る筈だが、振り抜くスピードは俺の方が多いに上回っていたようで、押し返すように弾く。

 

 そのまま続く大振りの鎌と翅剣の掛け合い。

 

 打ち合う隙を見つけてはその枝の様な体躯に剣閃を巡らす。

 二振りの大鎌は手数的には俺の手に余るが、速度に優位を持つことでそれを覆した。


 そして長いようで短い剣戟が終わる。

 最後は俺の戦技アーツだった。丁度いい感じに削り取れそうだったので十字状に斬り伏せる《クロス》で、けりがついた。

 最後の最後まで止まる事無く鎌を振りまわし続けた《グリーンマンティス》が、光の粒子となって崩れ去る。


 その瞬間、俺の耳に久しく聞いていなかった"ポーン"という軽快な電子音が響いた。

 どうやら、蓄積された微量な経験値が、《グリーンマンティス》を倒した事によりLvアップの敷居をまたいだらしい。



 俺の口の端が歓喜に歪んだ。




  

   ◆◆◆




 感覚的には、数時間が経過していた。実際の時間経過は確認していないのでわからない。


 俺はそのまま前進を続け、森の中を歩いる。

 道中に出現するのは、全てマンティス種だった。群れる事はしないのか、全て一体ずつだったので戦闘がしやすかった。


 マンティス種でもいろいろいて、身体が赤く、攻撃的な印象の《レッドマンティス:Lv53》や、麻痺攻撃を使ってくるらしい薄く黄色がかった《パラライズマンティス:Lv54》だとか。まあ、麻痺は喰らった事無いけどね。ビリビリしてそうだから避けた。

 ちなみに俺のお気に入りは刃先から毒を出す《ポイズンマンティス:Lv55》。毒は厄介だが、俺には称号の補正で若干かかる確率が下がっているし、なにより俺と同族っぽい。ほら、身体から毒出るとことか(正確に言えば俺は出ないのだけれど、投与だし)。 


 そんなこんなのカマキリに溢れた道中の結果は、スキルのレベルアップだった。

 具体的に言うと、こうなった。


 【Snow:スカウト:Lv51】・【小剣:Lv1】【片手剣:Lv50】【短弓:Lv1】【索敵:Lv49】【隠密:Lv49】


 【片手剣】のスキルがちょうどキリの良いLv50に達したことで、戦技アーツの欄に新たな物が追加された。

 今度のは四連撃だ。先ほど使ってみたが、素早さよりも威力重視の戦技アーツに感じられた。俺としてはスピード重視のスタイルだから、これはあまり使う機会が無いかもしれない。 

 この調子なら、【索敵】と【隠密】もLv50に達したら何か出るかもしれない。これまで何もない故に、少し楽しみだ。 


 

 そして俺が歩みを進める森はより一層深みを増し、まるであの樹海(・・・・)の様に見えてくる。

 出てくるなら出て来い。喰ってやるわい。……それが今の俺の心境。


 

 そんな事考えながら進む森の道。

 ――――出会って(再会して)、しまった。



「あ、ああああああああ、アレはっ!」


 目の前で湧出したのは、黒と紫の毒々しい色使いをした巨大な芋虫。目の前にいる俺を無視して身近な葉っぱを食べ始めるその思考。 

 あれこそは――、


 《デスポイズンキャタピラァ:Lv60》


  突然敵のLvが跳ね上がった事など、気にならなかった。きっと知らない間にフィールドを移動したのだ、と勝手に頭の中で結論づけ、叫んだ。


「久しぶりだなっ、俺の旧友(エサ)よっ!」


 そして立て続けに、叫ぶ。


「ただいま! 第二の故郷(じゅかい)よ!」


 こうして俺は第二の故郷(……こきょ、……故郷?)へと帰郷する事になるのだった。 




   ◆◆◆




 俺は【アイテム】の中に収まっている、久しく握っていなかった最初の(・・・)愛剣に触れる。そのまま、装備。

 手元には重力を具現化したかのように重く、そして銀に瞬く美しい剣が出てくる。

 俺はそれを力強く握り、思いきり振り降ろす……!


 斬ッ


「グギャァッ」


 地面の突き刺さる銀剣の傍らには、落とされた頭と、ずんぐりとした首無し芋虫が完成した。それも一瞬の間。すぐに光の粒子となって消えた。

 これもまた、久しい感覚。

 もう一度開いて銀剣を戻し翅剣を装備すると同時に、《黒紫の蟲肉》が二つほど増えているのを確認した。ラッキー♪


 周囲を見回す。

 目視でも、【索敵】のスキルにも敵の気配は今のところない。


「帰って来たのか~、俺は」


 眼前に広がる"似ている"と思っていた景色は、記憶と"同じ"景色になっていた。

 鬱蒼と茂る木の葉に閉ざされ、日の光はほとんど届かない。先ほど確認した時の時間は夕暮れ時のはずだが、その欠片も感じない。


「……いや、帰って来たという表現はおかしいか?」


 自分の言葉に多少の疑問を持つが、少し経つとその疑問も消えた。

 やはりここは俺の力の"土台"を築いた大切な場所であり、原点なのではないかと思う。  


「――――ん? そう言えば……」


 そう言えば。

 ここは好戦的アクティブなモンスターの出現が極端に少ないのでは無かっただろうか? 出てくるのはほとんど《デスポイズンキャタピラァ》である。

 まあ、その代わりに一匹でもあの"黒紫の雀蜂"に出会ってしまえばそいつらとの混戦かつ連戦になる事は避けられないだろうが。


 そこで一つ、俺に考えが浮かぶ。


「ここで強化合宿でもすればいいんじゃね……?」


 合宿、と言うには宿もなければ仲間もいないが、この場所は俺にとって好都合の気がする。

 一日中狩りをし、腹が減ったら虫肉を食べ、喉が乾いたら《ブルーゼリー》を飲み干す。寝床に関しては、少しだけ――ほんの少しだけだが――【隠密】スキルの姿を隠す効果が上がりそうな樹の上で寝ればいい。

 ただ、その上で一つの問題が上がる。

 

「――なんか、また心配させることになりそうだなぁ……」


 そうだ。またここで何週間も(今のところの予定では、であるが)居座り続けたら、ナツ姉やアキホにまた心配をかけそうなのである。それに今度は、セイジやスイ、リンさんもいる。

 心配掛ける事は、余りしたくは無い。


 うんうん唸っていると、ちょっと気がつく。


「"コール"で連絡をとればなんら問題ないんじゃね……?」


 俺の中では、『知り合い=フレンド登録してる人』である。

 これなら心配になればあっちから"コール"してくるはずだ。そうすれば何も問題ないじゃないか。

 一人きりで孤独感でも感じようものなら此方から誰かに"コール"して少しのあいだ話相手になって貰えばいい。


「なんて……、なんて良い考え……!」


 自分の中に浮かんだ妙案に、軽く小躍りしそうになる。……いや、しないよ? 周りに人いなくてもなんか恥ずかしいし。

 

 そんなこんなで、俺の強化(レベルアップ)合宿が始まる――――。





 ――――――強化合宿一日目・スタート――――――













螳螂と戦うことになった俺は、~~強化合宿始めました~~(冷やし中華風)




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