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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
18/36

018:旧友の行きつけに入った俺は

 丁度いい時間帯になったので、再会を果たした俺と誠二、その再会したばっかの誠二に行きつけの店で昼食をとる事にした。

 

 そうの誠二の行きつけというのが、なんというか――――


「ボロッ……」


 思わず口を零してしまうほどだった。

 そこらへんの木片の一本抜いたら今にも崩れそうな一階建ての木造建築。少し風が吹くと、キシキシと音を立てる。そのNPC店の名前は『おろろろろろろ』。……なんだコレ。

 何回見直しても、ボロボロで今にも朽ちそうな看板に書いてある文字は『おろろろろろろ』。――俺はそれをスルーする事にした。一々ツッコンでたら身が持たなそうだ。


 中に入り、ボロカウンターのボロ椅子についた誠二は、「じいちゃーん、いつもの二つー」と声を上げた。厨房の奥から「おうともよー。まってなー」という意外と元気にあふれた老人の声が聞こえた。

 ……本当に行きつけらしい。


「ほら、お前もつっ立てないで座れよ」

「お、おう」


 バンバンと隣の椅子を叩いて笑顔で勧めてくる誠二には悪いが、叩くたびにキシキシと悲鳴を上げるイスには座りたくなかった。

 ――しかし、周りの椅子もそれに勝ると劣らずのボロさなので、もう座るしかない状況となり、俺は仕方なくそーっと慎重にボロ椅子に座った。


「しっかし、ちゃんと連絡くらいしろよな」

「誠二だってしなかったろ。つーか、あったのも今日初めてだろうが」

「はぁ? なに言ってんだよ?」


 俺はその言葉に、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「……だって実際そうだろ?」

「違うぞ。ほら、あっただろうがトンナの森で」

「トンナの森……?」


 フィールドの名前を聞かされても、俺は首を捻るばかりだ。

 俺があそこであった人間といえば、ナツ姉とアキホとスイ達だけのはずだ。それ以外にはあった記憶は無いが……。


「なんか、あれだよ。お前がボスモンスターとか引き連れて走りまわってた時だよ。お前、俺に声かけただろうが」


 あ? あ……。――ああっ!


「アレお前だったのか!?」


 ――そう、それは俺がボスモンスターとザコモンスターを引き連れ森の中を練り走っていた時。

 人気の全く無かった森でやっと見つけた人に助けを求めたら、その人も戦闘中でこっちに気を取られておっ死んじゃったって話だ。


「ったくよー、あんときはマジでビビったぜ。職業の初期装備であんな奥の森にいて、しかもあんなにモンスター引き連れてんだからな。MPKモンスタープレイヤーキルかと思ったぜ」

「す、すまん」

「俺も戦闘中だったってのによ。おかげでLv上がりそうだったのにおじゃんになっちまったぜ」

「う、うぉぉ……。マジですまん」

「――しかし、それよりも、だ」


 突然雰囲気を変えた誠二に、俺もちょっと顔を真剣にする。


「何でここにいるんだ?」

「……え? それ?」

「いや、他に何を聞けと……」

「何で森にいたんだーとか、何で初期装備のままなんだーとか」

「それよりも俺にはこっちの方が重要なんだよ」


 なんかよく分からんが重要なんだそうだ。

 さて、なんて答えたものか。


「うーん……何でだろうな?」

「……はぁ?」

「いやさぁ、俺もよくわかんないんだよね? 走ってたら適当に付いたって言うか?」

「じゃあ、お前は《hah》に入ったんじゃないのか?」

「ああ、入って無いぞあんなギルド」

「……一応俺も入ってるギルドなんだが……」

「なにぃ!?」


 衝撃だった。

 誠二があんな殺人集団――、じゃないか。殺人集団と化してるのは一部の奴だけっぽかったからな、あいつの話としては。

 それに誠二はそんなのを見過ごす野郎じゃないから、巧く隠してんだろ。


「なに驚いてんだよ。ここにいる奴は皆入ってるだろうが」

「ふーん……。まあ、俺はあんなギルド入らん!」

「……なんなんだお前。もうよくわかんないな」

「なんだろうな、ホント」


 こうしか答えられない。

 そんな俺に心情を察してください。

 自分が……、自分の事が良く分かりません先生。

 


「……じ、じゃあ、れ、連絡、とったのか?」

「は?」


 突然の話題変換と、急に口ごもり始めた誠二に俺は顔を疑問に染める。

 誠二はなおも口ごもりながら話を続ける。


「だ、だから、夏乃先輩と――――」

「ヘイッ! お待ちぃー!」

「「うおわっ!?」」


 妙に元気にあふれた声に遮られた誠二の声は聞こえず、そして俺の前には――食の塔があった。


「…………なんだ、これ」

「おぉう? なんだねーちゃん、知らずに来たんか? ウチは『おろろろろろろ』、大盛り限定の店だぜ?」

 

 俺の視線は目の前の『塔』に釘付けになりながら、老人の声を聞いた。一瞬、一文字だけの巨大な間違いを聞いた気がしたが、それよりも俺の関心は目の前の『塔』にしか向いてなかった。

 

 20センチメートル大の巨大な皿に乗った、カツ。

 二、三合は軽くありそうな純白の白飯の上に、サクッサクに上げたカツを卵で綴じたボリューミーなソレが大量のっていた。

 

 ――それはカツ丼だった。


 しかし先にも言った通り、ただ量の多いカツじゃない。

 高さ30センチメートルに届きそうなほどに何層にも折り重なった、カツの『塔』だった。


「す、すっごぉぉぉぉおおおっ!!」

「おおっ! 良い反応してくれるな! よしっ! そんなお前さんにはサービスだ!」


 ちょっと待ってろよ! と厨房の奥に消えて行った老人を見送ると、今度は横の誠二が話しかけてくる。


「な、なあ、だから夏乃先輩と連絡――――」

「ほらっ、これだ!」

「うほぉ――――っ!」


 がしゃんっと大きな音を立ててカウンターに置かれたのは、俺の顔くらい軽く超えるほどの大きさの大ジョッキ。俺が持ってる木製の物とは違い、光を折り曲げ輝くガラス製だ。

 中身にはカランカランと気持ちいい音を鳴らす氷と、薄く透き通った炭酸飲料――見た目から言えばジンジャーエールその物――がタップリ詰まってる。上に浮く泡もなんかお酒みたいで美味そうだ。

 

 俺はそれにありつこうと何故か備え付けられてる箸に手を伸ばす。


「それじゃいただきま――」

「だからっ! 夏乃先輩と連絡取ったのかって聞いてんだよ!」

「おわっ!?」


 突然叫んだ誠二に驚きの声を上げながら、仕返しとばかりに叫んだ。


「連絡取ったよ! とったから食べていい!?」

「ほ、本当か!?」

「本当だよ! だから食べていい!?」

「な、なあ、俺にも取り次いでくれないか!?」

「わかった、それくらいやってやるよ! だから食べていい!?」

「本当か!?」

「本当だって言っただろ! だから食べていい!?」

「本当に本当か!?」

「本当に本当だって言っただろ!? だから食べていい!?」

「ちょっ、待て近づくなって! 俺が喰われるっ。食っていいから! 頼むから一回どけ!」

「やっほ――――いっ」


 やっとオッケーが出た俺は右手の箸でカツを掴み、口の中に放り込む。

 柔らかい牛に――牛肉か? これ? ……兎に角、柔らかい肉を噛み砕いて行く。噛むたびに跳び出る肉汁に、俺の顔が恍惚に包まれる。


 そのあとは傍らのジョッキを煽る。

 本来なら片手でなんて絶対持てないような質量だろうが、Lv50の賜物か、すんなりと持ちあがる。

 シュワシュワと気泡の破裂する音を聞きながら、俺はそれを自分の口に流し込む。ゴクゴクと喉が音を立てながら呑みこんでいく。少し苦めのソレは、非常にいい喉越しだった。


 

 そのまま俺は、美味い料理を口に運び続けた。




   ◆◆◆




「ごちそうさまでした!」

「おおっ! 良くそんなほっそい体に入ったもんだな」

「じいちゃん! そこ気にしてんだから言わないどいてくれよ!」

「はっはっはっ、わりぃわりぃ」


 カツの塔を食べ終わった頃。俺とじいちゃんの仲は急激に良くなっていた。美味い物作る者と、ソレを食う者。そこには強固な信頼関係が出来るものなのだ。

 

 ……入る前も入った後も散々ぼろいと思ってスマン。


 ちなみにとなりの誠二はまだ半分も食べ終わって無かった。誠二曰く、「お前のペースが速すぎるんだ。普通はこれでも早い方なんだよ」だそうだ。じいちゃんも頷いてたし、俺の喰う速度は速いらしい。


「それじゃ、腹いっぱい食ったし運動でもしてこようかな」

「おおう? もう行くんか?」

「おう。じゃあねじいちゃん」

「そんなら今度もサービスしてやっから、来いよー」

「オッケー」


 代金はもうすでに誠二が払っている。アイツが二つ頼んだ時点で、もう支払われたらしい。なんて便利。

 そういやって気持ち良く店の外に出ようとした時、誠二に呼び止められた。


「ちょっとまて! せめてフレンド登録していけって!」


 そう言われて、そういやして無かったな、と誠二とフレンド登録をした。

 俺のフレンド欄には新たに『セイジ』という名前が追加された。っつか何で本名で登録するんだよ……


「へー、スノウ、な。じゃ、これからもよろしくなスノウ」

「おう。よろしくなセイジ」


 セイジが死に物狂いでカツの塔を食ってるとこだったが、そう言って俺は手を振って別れた。

 



 『おろろろろろろ』を出た俺は、食後の運動を始めようか、とクラウチングスタートの姿勢をとった。

 行先は、この前ストーカーに襲われて、十分に探索なかった南門方面にする事にした。


「いっくぜぇぇええっ!」


 バンっと身体をバネのように飛ばす。

 瞬間、男ばかりのむさ苦しい空気を俺の身体がかき分けて行く。人ごみをするりするりとすり抜け、駆け抜ける。



「やっふぅ――――――――――――ぅぅうっっ!!」



 喰ったばかりで少々重くなってる身体には荷が重いかと思ったが、意外や意外、普通に走れていた。最近は美味いも料理をいっぱい食えて満足だ。うん。

 


「ヒャッッッフゥゥ――――――――――――ッッ!!!」



 走り抜けた先の門を抜けると、むさ苦しさよりも湿気が強くなった空気をかき分け始める。

 湿った空気が駆け抜ける俺に動かされる事で風となり、俺の肌を撫ぜる。



「いっっぇえぇ―――――――――――っぃいっっ!!!」



 そこからも俺は走れる喜びに浸りながら、湿原を風のように走っていった。





   ◆◆◆





 こんな言葉を聞いた事は無いだろうか。


 ――――『二度ある事は三度ある』。



 しかし、俺はこの言葉は少し違うと思う。

 俺が思うに、こっちの方が正しいと思う。それは、


 ――――『二度ある事は三度あるし、三度ある事は四度だって五度だって六度だって七度だってあるんだよ! あきらめろ、バカめ!!』。


 

 ……である。

 つまり何が言いたいかといえば――、



「ここどこじゃぁぁあああああああっっ!!」



 そう言うことだった。












旧友の行きつけに入った俺は、迷った。


次回、懐かしきあの地に帰還(……?)



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