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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
16/36

016:やっと宿らしい宿をとった俺は


総合評価10000点超えました。

皆さんのおかげです。ありがとうございます。



 数十分後、俺は〈ドンプティン〉に戻っていた。


 初めてこの街に入った時に見た苔生した北門とよく似た南門をくぐる。

 湿った空気とむさ苦しい空気が俺は襲う。しかし特に何も感じなかった。今だけは不快感も何もないようだ。


 俺は休める場所を求め歩き始めた。

 不思議と、走りたいとは思わない。



 またも、気が付くと宿屋の前に来ていた。リューネさんの宿屋だ。正式名称は知らん。

 俺は扉を叩いた。「すいません」と声を掛けて入っていく。


 中ではリューネさんがカウンターで書類の処理をしている。売上とかの計算だろうか……? そんなことするのかは疑問だが、なんか事務処理してる。

 俺が入っていくのに気が付いたらしい彼女が書類から顔を上げる。 


「すいません。泊まりたいんですけど」

「あ、す、スノウさん。来てくれたんですか。まだ昼前ですけど、いいんですか?」

「ええ、ちょっと色々ありまして」

「……? そうですか。では、一泊ですね、1000ELになります」

「はい」


 声と同時に俺の目の前に現れたウィンドウに、1000ELを入れる。

 始まりの町の最安値の宿が『50EL』だった事を考えると、結構割高だと考えられる。


 しかし四人殺したからか、俺の金が三倍近くになってた。思わぬ収入だ。アイテムも心なしか増えている気がする。今度確認しなくては。


「はい。じゃあ、二階に上がってからすぐの一番の部屋です」


 部屋の指定をもらった俺は会釈し、階段を上がっていった。

 上りきったあとすぐ横にある『1』と書かれた白い扉を開き、部屋に入る。中は白で統一されたテーブル、イス、クローゼット、ベットの丁度俺の部屋くらいの広さだった。広さが似てると居心地がいい。……気がする。


 とりあえずシワ一つない真っ白なベットにどふっ、と仰向けで寝転がる。予想以上にモッフモッフだった。

 天井に付いた穏やかなオレンジの光を放つ照明を見ながら力無く呟く。


「俺はもう、人殺しか……」


 ちょっとショックな事実だった。


 しかし、すんなり自分の中に入っていく事実に少し驚く。

 

 『殺し』の道を殺すなら、自分も『殺し』に染まらなくてはいけないのではないのだろうか。いや、そうで無いといけない。


「……じゃあ、どうすればいいんだろ……」


 まず浮かんだのが、己の強化だった。

 相手を殺すのにも自分の力量が必要になる。

 圧倒し、虐殺するにも、影から暗殺するにも、力が無くては成し得ない。


 ――そうだ。

 

 ここで俺は一つ思い出す。

 この世界では殺されるごとにLvが下がっていく。 

 そのシステムを使えば、『殺し』の道を歩いて行く者を無くす事が出来る。殺しが出来ないほどに自分の力が落ちれば、モンスターを狩るなどの事しか出来なくなる。


 これで俺の目標が定まった。


 まずは自分を強化しなくてはいけないのだ。

 全ては力の上に成り立つ。……俺的にはあまり認めたくない事実であるが、それは事実だ。故に、俺は力を願うんだ。

 

 そのあとは汚物を洗い出す。


 自己強化の途中にも、出来る事はするつもりだが、そういった情報を手に入れたら積極的に殺しに行く。

 汚れは、拭き取る。

 

 一日の蘇生時間タイムラグがあるから完璧に拭き取る事など絶対出来ないだろう。

 しかし、汚れを弱める事は出来る。徐々に徐々に払拭し、最後は消す。



 それが俺。


 ここでの俺のあり方だ。



  


   ◆◆◆



 

 しばらくたって小腹がすいてきた俺は、食事の準備を始めた。

 

 ――――と言っても、いつもの虫肉だが。


 ……いや、今回はそれだけじゃない。

 俺は【アイテム】の中のあるアイテムを取り出す。ゴトン、と音を立てて大きな木樽が床に置かれる。その名も【木樽(大)】。今のところお店で売ってる一番大きな樽だ。

 今度は《ブルーゼリー》をその中に流し込む。ドプドプと音を立てながら青い液体が樽の中を満たしていく。結構な量が入っていった。ちょうど五個分。

 

 今度は【アイテム】の中の【ジョッキ(中)】をとりだす。

 ガッとそれをテーブルの上に置く。……準備は整った。


 また指を動かして、そのあとすぐにべチャべチャと血の滴る肉がジョッキの横に三つ落ちた。


「わーい。今日はご馳走だー」


 ちょっと言ってみた。


「……」


 こんな何の加工もしないモノばかり食べる俺はホント不憫だと思う。……今度機会があったらサブ職業で【料理人(コック)】とかとってみようかな。

 いや、まあ、美味いからあんま不満は無いけどね。


 俺はジョッキの持ち手を掴んで、すくうように樽の中に通す。ジョッキの中身が青い液体で満タンになる。


「いただきまーす」


 虫肉を右手で掴み、もっちゃもっちゃと咀嚼していく。なんか久しぶりに食った気がするけど、毎日朝昼晩と食ってるからそう言う訳でもない。

 まだ赤黒い血で汚れていない左手でジョッキを掴む。

 そのまま口元に持っていき、思いきり煽る。気分はジョッキの生ビールだ。味は甘ったるいけど。


 俺は一心不乱に食べ続ける。

 ちょっと手に俺を殺そうとしてきた奴らの肉を断ち切った感触がよみがえる。人の肉を食ってるみたいな気分になるのかと思ったが、そんな事は無く、虫肉を美味しく喰いちぎっていく。


「……うんめぇ」


 改めて口を零す。

 やっぱりうまいモノは何時食っても美味いのだと、確認できる出来事だった。



 そのまま俺は三つの肉を平らげ、足りなかったので四つ目を喰らい終わったころには、樽の中のサイダーも無くなっていた。


「ごちそうさまでした」


 血に濡れた手でパンッと合わせて、そう言う。

 その時に跳んだ血の雫を思わず目で追う。その先には真っ白なベットが――――、


「――――あ……」


 改めて部屋の中を見渡す。

 それほど激しく飛び散ってるわけじゃない。

 しかし、おもに俺の周り、テーブルやイス輝くような純白から、赤黒い斑点をつくる猟奇的な水玉模様になっていた。



 ――――リューネさん。なんかすいません……




   ◆◆◆




 飯を食べ終えた俺は何もすることが無くなったからきょろきょろと部屋の中を見回した。


 ――特に何も無い……、と思っていたら、入口のすぐ横にドアがある事に気が付いた。入って来た時は全く気が付かなかったのだが……

 

 何か、と疑問に思いドアまで歩いて行く。そしてそのまま開けると――


 ――そこにあるのは部屋と同じく白で統一されたシャワーだった。意外と立派な浴槽も付いてた。何故そんなモノが……。

 そこまで考えて気が付いた。 


「――と言うか俺風呂入った事無い……」


 もちろん、この世界ゲームで、ではあるが。

 ――と言うか、入らなくても何ら問題ないと聞いていたので頭に全く残っていなかった。

 ちなみに何故入らなくていいのかと言うと、全ての汚れ等は数時間たてば自然に浄化されるそうなのだ。虫肉の血が服についても勝手に消えるのもコレらしい。

 随分と便利なものだ。

 

 ついでに言えば、この世界では排泄も必要ない。

 身体の中にはいろいろと入って言っている筈なのに、なにも出て行かないのは少し変な感じがする。まあ、特に不快感を感じる訳ではないので構わないが。


「折角だし、入ってみるか」


 目の前にいい感じの風呂(ちゃんと湯も張ってある)があるのでは、入らないわけにはいかない。……と思う。日本人として。




 服を順に脱いでいく、と言う事はせず、装備の項目から《スカウトセット》を全て外す。最後に残るのは、紺のトランクス。

 それだけは手元の操作だけでは外す事が出来ないので、自分で脱ぐ。脱ぎ終わると、勝手に虚空へと消えた。たぶん、アイテムの項目の中に収まっているのだと思う。……そう思いたい。

 

 俺はおもむろに自分の体を見下ろす。


「……」


 ……ちょっと言葉を失って、びっくりするくらいの再現度だった。


 主にスキャンしていないはずの股間が。


 まあ、その他の身体の再現度も半端ではない。父親譲りの細身の身体であるが、これまでの戦闘とLvアップの恩恵か、それなりに筋肉が付いている。

 現実でもそれなりに運動していたから、今までのモノに毛が生えた程度ではあるが。



 俺はシャワーの蛇口を捻る。

 先の方から、行きよい良く水が飛びだす。俺はそれを顔面で受け、頭を洗いはじめた。


 特に不潔にしている訳ではないから、身体を伝う水が茶色く濁る、なんて事は無い。

 ――しかし、ここにきてからの初めて身体を洗ったからであるためか、いらない外のヨゴレが水と一緒に流れて行くような錯覚に陥った。……ついでに、中のヨゴレも流れ落ちるようだった。


 

 シャンプーやリンスと言った類の物は無いようで、一通り体を流し終えると俺は浴槽につかる事にした。

 一度手を入れ、温度を確認する。感覚では大体四十度くらいだ、俺的には適温。

 確認が終わった俺はゆっくりと右足を湯の張った浴槽の中に入れ――って、こんな野郎の入浴を細かく描写してもつまらないので、サクッと浴槽に浸かる。


「ふぃ~……」


 自然と声が漏れる。

 溜まりに溜まった疲れが揉みほぐされていくような、気持ちの良い感覚が俺を包む。


 ゲームの中だとは思えないほどリアルな湯の感覚に、若干驚く。先ほど浴びたシャワーも、特に意識したわけでは無かったが異様なほどリアルだった。

 打ち付ける水の感触も全てデータで処理しているのだと思うと、驚かされる。何時の間にここまで世界の技術は進歩してたんだか。

 

 なかなか……、いやそうとう気持ちがいい。


 これまでは入れてなかったけど、今後は入れる時は出来るだけ入るようにしよう。

 身体も心もさっぱりと一新出来るようだった。



 俺はおもむろに計四人を殺した右手を掲げる。



 そのまま三時間くらい湯船に浸かっていた。




 ――――のぼせた。





  






 やっと宿らしい宿をとった俺は、体の再現度に心底驚いた。




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