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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
15/36

015:狙う――と、狙われる俺 【改】

すいません。改訂版です。

良くなったかはどうとして、寛大な目で見てくだされば幸いです。





「よっしゃ、行くで」


 ボクは小さく声掛けた。

 混職課のカンズキ隊の中の比較的殺しを得意とする(好んでやる)三人が、また小さく応えた。


「まずはトウ。自分の【索敵】距離ギリギリにターゲットが入るようにして迂回や。そののまま【インスタント姿くらましマントLv1】を使ったままターゲットの50メートル先に【インスタント落とし穴Lv1】を設置して、こっちに帰ってくるんや。しっとると思うが『マント』は一分しかもたれへんから気をつけるんで。その他のカンゼとノリはこのままボクとターゲットの追跡を続けるで」

「「「御意」」」


 一糸乱れぬ声とともに、各々の行動に移った。トウは『マント』を身につけ影のように一時的に消える。そのまま足音が遠ざかって行くのがわかった。

 その他二人は、ボクと一緒に追跡を続ける。……まぁ、さっきと何ら変わってへんのやけど。


 ターゲットには、気づかれていないようや。つーかムリやろ。

 こっちにはトップレベルのスカウトが三人もいる。一人を除いて【索敵】のスキルは今のところ最高ランクのLv24や。感知できる方がオカシイ。

 そのまま巧いぐわいに隠れながら追跡を続ける。



 あのにーちゃんは、ボクの店に来た時からもう狙うと決めていた。

 顔は見るからに軟弱そうな女顔やし、話しててもどこかアホさがにじみ出るヤロウやったしな。人は見かけによらん、っつー言葉があるが、それを全面的に肯定できるわけやなし。

 それに、あのにーちゃんは一度買い取りの時に何か渋っとった。ちゅーことは、何かレアアイテムがあるんや、と確信してる。っつーかあのにーちゃんの顔みれば誰でも気づくわ。


 極めつけは今にーちゃんが腰に差しているあの剣。

 市場にはそれなりに詳しいボクやが、あんなもんは見た事無かった。

 おそらく、あれもレアアイテムやろうと思うとる。……どれだけ運がいいんや、とツッコミたくなっちまうんやが、これからアイテムくれるカモにそんなツッコミは不要やろうと思うてやめた。


「隊長、仕掛け終わりました。半円状に二十個仕掛けましたので、引き返してこない限りかかると思われます」

「ご苦労、ご苦労」


 いつの間にか戻ってきていたトウに、労いの言葉を掛ける。

 それに会釈で答えたトウは無言で隊列の中に入る。


 そして息を殺して追跡を続ける。この距離では気付く事は無いと思うが、念には念を入れて、や。

 そのまま歩くこと数十秒、遂に――



 ――――…………おごぼぁあ!? ――――


 

 遠くの方からなんか変な悲鳴が聞こえてきた。

 ボクは命じる。


「いけっ! 【毒矢】装備の《スナイプ・アロー》やっ!」


 返事の代わりに、ギリッと弓をめいっぱい引く音と、ヒュンッと風を切る音とともに濡れたように紫に光る矢が放たれた。

 本来は水色の燐光だけを纏うはずの下位の狙撃戦技(アーツ)であるが、【毒矢】の毒付加効果に影響を受け、少し紫に濁る。


 僅かのラグのあとに、視界の先には命中を知らせるエフェクトフラッシュと、男の悲鳴が響いた。


「ダメージから復帰する前に拘束するんや! 行くで!」

「「「御意っ」」」


 そこからは特に身を隠す事もせずに、一直線のダッシュを実行する。

 しかし部下である《スカウト》の三人の方が《メイジ》であるボクよりも肉体のスペックが高いので、若干引き離される形になった。


 が、特に問題もなく目的地に辿り着く。


 

 ボクは土に足を取られ、不様に尻もちをつき、剣を構えてはいるが左の二の腕、左の脇腹、右の太股に濡れたように光る矢を受けた満身創痍のにーちゃんに向かって、言う。



「やァ、にーちゃん、昨日ぶりやね♪ コロしに来たよ?」


 ボクの声を聞いてか、三本の矢に貫かれた所為か、にーちゃんの顔が苦痛に歪んだ。




   ◆◆◆


「なんだよ……、これ」


 俺は身体を蝕む激痛、目の前の惨状を見て茫然と呟いた。

 俺の体は膝近くまで土の中に埋まり、身体には三本の矢が突き刺さっている。何やら塗られているようで、その矢が妖しく紫に光る。

 

「なんだよって、殺しに来たって言ったやん」


 目の前には、ついこの間言葉を交わし、アイテムの売買をした糸目の少年。

 その後ろには、全身黒色のピッチリとした服装に包んだ忍者みたいのが三人控えている。弓と矢を持っているから、俺の事を撃ったヤツらなのかもしれない。

 

 俺はこの状況を少しだけならスルー出来ているらしく、不思議と心の内は冷静だ。……いや、これはただの現実逃避かもしれない。


 俺は出来るだけ冷静に、状況の確認を急ぐ。

 

 俺に突き刺さっている矢は、全部で三本。場所は左の二の腕、左の脇腹、右の太股、だ。

 その攻撃により俺のHPは七割ほどまで減っている。オマケに、【毒】なんていう状態異常が付与されてる。これは十秒に付きHPが1%もっていかれるらしい。


 兎に角、時間を稼がなくちゃいけない。まずそれからだ。


「何でお前らはこんな事を――」

「よし、まずその剣を奪っとくんや。その方が確実にドロップするからな」


 ガッテム! なんてこった!

 

 全くもって時間稼がせてくれなかった!


 ――そんな俺の心の叫びを知らずに、糸目の少年の言葉を聞いた黒服の内の一人が手にした弓を虚空へと消し、代わりに十センチメートル位あるの鈍色のナイフをなにもない空間から取り出す。

 その切っ先を俺に向けながら、じりじりと距離を詰めてくる。


(やばいっ、なんとか抜け出して反撃を――)


 両手を地面につき、押し上げる。


「うぐ――っ!」


 貫かれている左腕が、力を入れたことで痛みを増す。やはり、余りにもリアルな痛み。

 それでも俺は低い唸り声をあげて、身体を引き抜く。


「ぐぉぉぉぉおおっ」

「ほれっ、はよう拘束するんや!」


 返事の代わりに黒服はこちらに近づくスピードを上げる。それに伴い、俺も入れる力を増す。

 これは勝負。黒服が俺を拘束するのが先か、俺が黒服の拘束から逃げ切るのが先か。

 そして勝負は――、


「ぐあぁぁぁああああっ!?」


 結末としては、黒服のナイフが俺の左の掌に突き刺さり、俺は羽交い絞めにされていた。

 幸運にも、唯一攻撃されていなかった右手から、翅剣が落ちる。それをすかさず、残った黒服が掴みあげた。


「――重っ。隊長、これ予想以上に重いです」


 俺が何時も軽々と持ち上げてる剣に何を言うか、と声を上げる前に、その声でここにいる俺以外の奴等がそちらに注意を向けるのがわかった。


(好機――――ッ!)


 俺は渾身の力を持ってして頭を振りかぶり、後ろに振り抜く。

 頭突きだ。 


「がッ」


 ゴンッ、と鈍い音を立てて後ろの黒服がグラつく。

 身体を大きく捻り、羽交い絞めしていた黒服の体から抜け出す。意外と細身だったので、抜け出すのにはあまり苦労しなかった。

 その代わりに、身体の四ヶ所が痛む。


 悲鳴を上げる体に鞭打って、俺は走りだす。行先は、己の愛剣へ。

 走ってる途中に、左のナイフを抜き、右手で投剣。当たる自信はこれっぽっちも無かったが、牽制の意だ。

 俺の剣を持っていた黒服は俺の投げナイフに反応して、一時的に体をすくませた。

 思い通りに事が進んで、心が少し踊る。


 俺はすかさず両手で持っていた翅剣を奪い返す。

 その勢いで、――半ば無意識で――戦技アーツ・《トライ・スラッシュ》を発動。

 俺の中の戦技アーツのモーションが再生される。

 そしてそれを己に投影。――自分の身体が、何かに突き動かされていく感覚。

 身体が加速され、知覚が加速され、思考が加速される。

 俺はそれに乗っかるように一閃、二閃、三閃。淡い水色の燐光を纏った翅剣が、正三角形の軌跡を描いた。

 

 今の俺の最高の技が、黒服を切り裂く。

 プレイヤーのHP状態をプレイヤーが確認する事は出来ない(何らかのアイテム、スキルがあれば可能らしい)ので、黒服のHPは完全に確認する事は出来ないが、結構削り取ったはずだ。

 手に肉を裂く感覚が残るのは余り良いものだとはいえないが、それをかまっている余裕は俺になかった。そしてそのあとすぐ、黒服の身体に変化が訪れた。


 バキンッ!


 世界にヒビが入ったような壮絶な音が響き、黒服の身体が、崩れた。

 ――死んだ、のだろうか。たとえこれが仮想の殺しであるとしても、その、何とも言えない違和感が俺に溜る。


「「「っ!?」」」


 俺以外の糸目の少年と黒服の二人が驚愕に息を詰まらせる。

 だが俺にとってはそれは只のチャンスにしかならない。

 俺はスカウトであろう黒服よりも身体能力の低そうな焦げ茶と灰のローブに身を包んだ糸目の少年を無視し、先に黒服を狙う。

 

 ――――もはや俺の中から"痛み"が抜け落ちてしまったかのようだった。


 ――――こいつ等を止めなければ……、こいつ等を抑えなくては……。


 ――――どうすれば……どうすれば……どうすればいい……。



 何かが、俺に囁いた気がした。

 それはきっと幻聴の類だったんだろう。

 しかし俺にはそれが幻には思えなかった。



 ――――殺せばいい。そうすれば止まる。さっきだってそうじゃないか。



 俺はいつか見た格闘技の真似ただけの足払いで、俺の左手にナイフを突き刺した丸腰の黒服へ近づく。

 相当に出鱈目な足さばきだったが、意外なほど良く決まり、丸腰の黒服が大きく体勢を崩す。すかさず俺は剣を振るう。華麗さなどとはかけ離れた、死に物狂いの剣戟。

 その剣戟を受け、丸腰の黒服が先ほどと同じように世界が割れるような音が響き、崩れた。


 俺は足を最後の黒服に向ける。

 ――と、そこで気がつく。黒服はこちらに向けて矢をつがえ、糸目の少年の持つスタッフが淡く黄色の光に包まれている。

 避けなくては……、と思ったときにはもう遅く、発射された矢は薄い水色の燐光を纏い、緩やかに螺旋を描きながらこちらに飛来する。

 スタッフの先の黄色の光は、頭上に集まるように凝縮し、そこから雷状の矢が形成される。そのまま、雷の軌道を描きながら此方に飛ぶ。


 すぐさま、被弾。

 速度的には矢の方が速いらしく、俺の左の太股に二本目の矢が突き刺さる。

 黄色の瞬く矢が少し緩やかな速度でこちらを襲う。避けられるか、と身体を捻ると、それに合わせて少し軌道を変える。――多少の追尾性能があるようだ。

 結局避ける事が出来ずに、俺を電流が襲う。


「うぐ……っ」


 ビリッと俺の体を走る紫電に一瞬身を捩じらせてから、気力を振り絞って立ち直る。


「――なッ! 何で【麻痺】にならんのや!?」


 叫ぶ糸目の少年を流し、俺は地を発つ。

 走った先にいるのは弓を構える最後の黒服。もう一度矢を構え、引き絞っているところを、発動速度が最も早い《スラッシュ》を、上から下に落とすように一閃。

 少々の硬直時間のあと、もう一度。今度は《クロス》を発動。これは下から一閃したのちに、横から一閃。十字状になった剣閃が最後の黒服の身体を崩した。


 残りは糸目の少年だけとなった。

 しかし俺のHPは立て続けに攻撃を受けた事によりもう三割ほどまでに減少していた。


 糸目の少年は再度何やら呪文の様な物を呟く。

 今度はスタッフの周りを赤い光が包む。


「――――やら……、せるかっ」


 俺は飛び出した。

 まるで砲弾のように、突撃を繰り出す。


 渾身のタックルが決まる。糸目の少年はその衝撃により杖を取り落とし、その隙に馬乗りになる。脅しの意味を込めて首筋に刀身を触れさせる。


「……はぁっ、はぁっ……ぜぇっ……はっ……」


 思いだしたように疲労が俺の圧し掛かる。

 俺は疲労で重くなった口を開く。


「なんで、こんなこと、してるんだ」


 その答えは、異様に呆気ないものだった。


「――そんなの、儲かるからにまってるやん」


 首筋に刀身を突き付けられてる者とは思えないほどの、気負いのない口調と言葉。

 そんな理由で人を殺すのか――、と俺の内情が憤りに染まった。


「そんな事、していいと思ってるのかッ!?」


 そして俺へと変えされたのは、またも気負いなく、にこやかな顔で答える。

 

「いいんよ、なんせゲームなんやし」


 俺の中の何かが、冷めた。


「とにかく儲かんねん。経験値もたらふく入るし、アイテムだって色々手に入る。これでボクは《hah》の中で成りあがって来たんや」

「……《hah》?」


 俺が突然出てきたその単語に疑問の意を示すと、糸目の少年は声高らかに、自慢げに話し始める。


「そうや! この世界で初めて『王の塔』を攻略したギルド、《half.and.half》や! このギルドは、必ずトップギルドになる……っ! その中でボクは"隊長"の地位を獲得し、成りあがった! そしてこれからも僕は自分を強化し続ける……。そして最後はボクがこのギルドを奪う!」


 あっはははははははっ! と狂ったように笑う。

 俺としては、この自分のことしか考えていない利己的主義者を理解することが難しかった。


「……ぉっと、これは言わないんやったな」


 つい口が滑った、といった体の口調。

 しかしまたテンションを上げたように、名案を思いついたように、声を上げた。


「おっ! そや! にーちゃん、俺と組まへん? 今の内にボクと組んどけば、サブマスターの地位に着けるかもしれんよ?」

「――――ッ! お前、ふざけてんのか!? 今の今まで俺の事殺そうとしてた奴と組むわけないないだろうがッ!!」

「残念やなぁ」


 落胆しきった声。

 俺はその声に怒りを通り越して嫌悪に変わった。

 たとえ殺そうとした相手にでもコロコロと手のひらを返し、取り入れようとする。使えるモノなら使い、使えなさそう捨てる。あの黒服もそういう物に違いない。


「なぁ、にーちゃん。散々ボクの事嫌悪しとるようやけど、にーちゃんも同じなんやで?」

「……?」

「にーちゃんも、三人殺しとるやないか」

「――ッ!」


 言い返せなかった。

 言い返そうにも、反論のしようが無かった。俺は現に三人を殺し、今も殺そうと刀身を突き付けている。これでどう反論しろというのだ。


「――――それなら、もういい」

「……なんや? 組んでくれるんか?」


 俺は馬乗りの状況から解放した。

 その状況に訝しげにしながらも解放された事に安堵と喜びを覚えているようだ。俺にとってはどうでもいいが。


「俺は、もうきっとお前らと一緒なんだ」

「おぉ? やっぱり僕と組んでくれる気に――――」


 そこから先の言葉は聞こえなかった。

 代わりに、ヒュンヒュンと風を切る音が空気を切り裂く。――それと同じく目の前の糸目の少年の肉を切り裂いた。


「……な、んだ……。け……っきょく、コレか。……は、はは……成程、ね。確かに……ボクと、同じだ」


 途切れ途切れにそこまで言い、バキンと壮絶な音を立て、糸目の少年が崩れた。

 名前を聞くことも無かった少年との戦い(殺し合い)は、こうやって終わることとなった。








   ◆◆◆




 HPを全て回復し、傷を全て癒したころには、手持ちのポーションはすべて無くなっていた。

 湿原に腰を下ろした俺は空を仰ぎ、呟く。


「俺は……人殺しになっちまったな」


 たとえゲーム。されどゲーム。

 仮想の殺しであろうと、それは殺し。

 

 軽いようで、重いような罪。

 この世界では裁かれる事など無いだろう。



 なら俺はどうするべきか。


 これはゲームだと割り切り、無視し続けるのか。

 それとも、自分がその道に染まるのか。 



 

 俺の答えは――――――、








 ――――その道に染まり、その道を殺す。





 



これが、自分の書きなおした結果です。

元のを読んでない人はこれで何が変わったのかわからない方も多いと思いますが、自分的にはこれでよかったのだと思います。


本当にすいませんでした。








 狙うボクは――、野望を語る。


 狙われた俺は――、決意を語る。







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