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と、言うかただの走りたがり  作者: 玄野 洸
第一章
13/36

013:糸目の少年と談笑を終えた俺は

 数秒の沈黙の末出した答えは、この前の毒系アイテムと同じだった。つまり、売らないでおいて置く。

 俺はこれまでの旅路(?)で手に入れたアイテムを全て入れる。


「にーちゃんの売りたいもんはこれで全部?」

「ええ」

「あいよー。…………――――フムフム、これなら、6790EL位かなぁ」


 その呟きを肯定するように、トレードウィンドウの反対面――つまり相手の欄に[6790EL]と表示されているの見えた。俺はそれを確認すると、了承のボタンを指先で押し込む。


「まいどー♪」

「いや、こっちこそありがとう」

「いやいやー、ボクも丁度《イモムシの一角》が欲しかったところやから助かったんよ♪」


 前回よりも相当多いELの量に満足しながら俺も頷く。……ちなみに、この少年が言ってる《イモムシの一角》というのは俺の脇腹をぶっさしたアイツの角だ。あの後も結構狩ったのに一個しか無かったから、意外とレアアイテムなのかもしれない。

 それとこのテンションの高い少年の関西弁、絶対エセ関西弁だよ。うん。

 

「ところでにーちゃん、〈hah(ハーフ)〉のどこ所属? 《スカウト》やし、ダクロさんトコ?」

「…………。えっと、何の話で?」


 突然の話題について行けず、俺は疑問符を浮かべながら聞き返すと、さも当然と言わんばかりに目の前の少年は言う。


「なにって、《half.and.half》の所属の事やん。あ、ちなみにボクは《メイジ》のガンテツさんのとこ所属やから」


 ……あれー? 何で俺《half.and.half》に入っている前提で話が進んでいる? 俺はどこのギルドにも入って無いんだけど……?


「えーっと、俺はギルドに入って無いんですけど……」

「えっ? マジかぁ!?」

「マジです。マジマジ」


 糸目がうっすら開く。そこからは、触れれば呪われる金の様な、妖しげな瞳が見え隠れする。……目、あったんだ。


「じゃ、どうしてこの街に居るんや?」

「……それ、町に入る時にも聞かれたんですけど、どうして聞くんですか?」

「そりゃ、ここに居るんわ全員……、とまではいかんが九割九分〈hah〉のメンバーやで?」

「えっと……それはなぜ?」

「そりゃモチロン、〈hah〉がここまでの地図を独占してるからや」

「独占……? そんなこと出来るんですか?」

「おーともよ。ボクらが攻略した《小鬼王の塔》ってあるやろ?」

「ええ、ダンジョンですよね」

「そーや。そんでそこの初回攻略限定アイテムがここまでの詳細な地図やねん。こういう地図アイテムっつーのは最初の所持者がNPCに現物売らん限りそこらに出回る事が無いんや」

「……そうか、それで」

「そう言う訳や。今はなんとか地図をコピー出来る方法を見つけたから、それをギルドメンバーに配って独占してるんや」


 ……このギルド、なんつーめんどい事してんだろ……

 俺ならそんな事思いつかないですぐ公開しちゃうと思うのに。


「何でそんな事を……?」

「あー、ボクみたいな下っ端は余り詳しくは聞いてないんやけど、やっぱギルド全体の戦力底上げやないの?」

「戦力……底上げ?」

「そーや。一つの町、ある程度のフィールドを独占出来ればその分だけLv上げとかしやすくなるやろ? それが序盤やからもっと効果が現れるだろうしなぁ」

「そんなもんなんですか?」

「そんなもんや」

「そんなもんなんですか」


 そんなもんらしい。

 しかし、戦力底上げか……。どれほどまでに最高Lvは上がったんだろ? この前聞いた時はLv23位だって言ってたから、もしかしたらLv25とかLv26位かもしれん。

 ……ふむ。俺もがんばらないと。


「つーかコレ言ってええんやったっけ?」

「……いや、知らないですけど」

「んじゃ、これはナシな、ナシ。絶対オフレコや」


 こんな感じでいいのか……大丈夫か《half.and.half》。ポロっと漏らしてるぞ。


「それよりにーちゃん。なんか買ってかない?」


 にっと唇を三日月の形に歪めながら目の前の少年が問いかけてくる。そう言えばこの少年何売ってるんだろう?


「ええ、そうですね。何売ってるんですか?」

「んん? 知らないでここ来たん?」

「そうですよ。だって周りがゴツイ人ばっかなんですから」

「は、はぁ? ――――ああ、まあ言われてみればそうかもしれんなぁ。でも、あそこの……、コンナ、だっけか? も線細くて爽やかやん? なんでボクんとこ来たん?」


 糸目の少年は、きょろきょろと周りを一度見渡した後、針金のように細い指をシュビッとを俺の右斜め後方の方に居る金髪碧眼、髪の毛サラサラのイケメンを指差す。

 ……ハッ、何を言うんだこの少年は。そんなの決まってるじゃないか。何故かって――


「いやですよ、あんなあからさまに顔弄って自分を金髪碧眼の少女漫画に出てきそうなキラッキラのサラッサラにして。そんで「俺カッコイイっ☆」みたいな事を思ってるに違いないナルシスト野郎なんかぜってー声掛けたくないんですよ。顔さえ良ければどうとでもなるとか思ってそうな能天気面も気に入りませんしね。それに、ナルシスト菌が移ります。絶対に移ります」


 ざっとこんなもんです。

 だって見てみろよ。あんな、『ふさぁっ』とか効果音付きそうな感じで髪を掻き上げたり、『キラーンッ☆』とか効果音が付きそうな目配せされたり、『HAHAHA』とかフキダシ付きそうな声で笑われたらいやだろ? いやだろ!?


「……あ、うーん、まあ、そ、そやね……」


 目の前の糸目の少年の口が引き攣ってる。……あれ? 引かれた……?

 もしかして見知らぬ他人をここまで非難するのはさすがにやり過ぎだったか……。まあ、後悔もしてなければ反省もしていないが。


「それで、何を売ってるんです?」

「あ、ああ、ウチは他とは違うおもろいもん売ってるんよ」


 そう言うと糸目の少年はおもむろに俺の前に向けてウィンドウを開く。そこにあるのは――、


 【煙玉Lv1】、【インスタント落とし穴Lv1】、【インスタント姿くらましマントLv1】、【毒針Lv1】、【毒矢Lv1】、等々……


 …………なんか、ズルいっ! 毒を使いまくってる俺が言うのも何だが、ズルイっ! このラインナップは小者っぽさを連想させるっ! 


「お、俺はよしときます」

「うーん、そうかぁ? 残念やなぁ」


 口ぶりと同じようにまことに残念そうに口元を曲げる。

 まあ毒は余るほど(?)持ってるし、【煙玉】とか【インスタント落とし穴】とかいらないし。なんかせこくて俺の思考に反しそう。……いや、でも毒でじわじわ殺すのは楽しいかも……、フフフフフ……。


 ――ハッ! 何か危険な思考になってる!


「それじゃあ、俺はこれで」

「はい、まいどー♪ また来てやー♪」


 なんか危ない思考になりかけていた頭の中を振り払うようにぶんぶんと頭を振り、立ち去る。

 立ち去り際はほっそい糸目を更に細めてニッコニッコの笑顔で手を振っていた。俺もそれに答えるように小さく手を振り、背を向け歩き出した。




 ――――後方から感じる不吉な気配と不気味な嗤いに気付かず……




   ◆◆◆




 NPC商店街でポーション類を補充し、あるものを買った俺は(少し値段が上がったが、一ランクアップした【HPポーションLv2】と【MPポーションLv2】を買ってみた)宿が多く並ぶ宿泊街に来ていた。

 今度は金欠で街中野宿(……野宿? と言っていいのか?)になる事のないように、有り金は残してある。

 ブラブラと歩きながら今夜泊まるべく宿を探す。あるのは民宿みたいの所や、何かボロアパートみたいなところばっかりだ。それはそれで安いんだろうが、やはり久しぶりのベットだろうから良い物の方が良い。


「――うーん……、なかなか良いトコみつかんねぇなあ……」


 きょろきょろと周りを見回しながら歩く。――と、そこである物を見つけた。


「お? アレ、よくね?」


 俺の視線の先に移るのは、三階建ての白いアパートみたいな所。それまでの木造の民宿みたいなところや、ボロッボロのアパートみたいなところとは別物のように小奇麗なところ。……イイ。

  

 外観だけで決めた俺は、スタスタと速足と走りの中間みたいな速さで突き進む。


 目の前にある白く塗装されたそれは清潔感を窺わせる。

 俺はなかに入っていくと、受け付けで目を閉じてこっくりこっくり首を揺らしている結い上げた黒髪のお姉様(間違っても"お姉ちゃん"とかではない。少しだけ漏れ出るあの雰囲気は絶対"お姉様"だ)に声をかける。


「すいません。部屋借りたいんですけど」

「…………くぅ……」


 起きない。これは宿屋の受付として、お姉様としていいんだろうか?


「すいませーん。部屋借りたいんですけどー」

「………………くぅ…………」


 なんか「くぅ」の間隔が長くなった気がする。なんか眠りがより深くなった?


「すいまっせーん。部屋借りたいんですけっどー」

「………………くぅ? ……」


 お? おお? 起きるか? 起きるのか!?


「…………………………くぅぅ…………」


 寝るのかよぉっ! 何だ! さっきの俺の淡い期待を返せ! 返せぇぇぇぇえっっ!!


「………………ふもっ!?」


 俺の心の叫びが聞こえたのか、不意にパチリ、と黒髪のお姉様が目を開ける。

 しかし完全には開いておらず、半眼である。まだ寝ぼけてんのか。だが起きたという事実だけで俺はもう十分であり、やっと会話を始められると内心喜んでいた。


「す――――――」

「…………ふもおぉぉ………………」

「……」


 何だこのお姉様! 一文字しか喋らせてくれない! 寝てばっかじゃねえか! しかも何だよ! 今更だけど寝顔とか寝息とかむっちゃ可愛いよ! 一回開けたトロンとした瞳が……っ! アレは反則だろう! お姉様とかに似合わない仕草に思わずキュンとしちゃったよ! ああもう! なんかもう、わっかんねえぇっ!!


 なんか不意に顔が赤くなって俺は座り込む。ガシガシと頭を掻きながら顔を隠すように膝の間に埋めた。


「…………すぅ……」


 座り込んだ状況なのでカウンターに阻まれて黒髪のお姉様の顔は見れないけど、たぶん庇護欲かき立てられるような可愛い顔してると思う。見えないけど。


「…………ん? あれ? 私、眠ってた……?」


 どうやらやっと起きたらしい。カウンターに阻まれて見えないけど、たぶん寝起きだからとろんとした可愛い顔してると思う。見えないけど。


「あ、お、お客は来てないみたいね。…………こんな姿、見られたら一生の恥だわ。本当によかった……」


 ……うおーい。


 なんか出ていけねいよぉーう。


 ほぅっと息を吐く音が聞こえる。益々出て行きづらくなった。



 ……いや、マジでどうしよう…………





 勢い余って登校。……じゃない投稿。









 糸目の少年と談笑を終えた俺は、宿屋の受付のヒトの可愛いところを図らずも発見してしまう。




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