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一人百物語 2

飛んできたもの

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


以前同じ職場で働いていた椎名さんの話。

椎名さんは女性ながらに今までに何度もバイクレースに挑戦していた。

ただしレースとはいっても、椎名さんが出場していたのは舗装されたコースでタイムを競うものではなく、山の中の起伏を利用して作られた、土がむきだしのオフロードコースでバイクの操縦技能とタイムを競うモトクロスレースだった。


あるレースに出場した時の事。

いつもの様に出場者は山の赤土黒土をあたりに飛ばし、でこぼこ道や急斜面を疾走していた。

椎名さんの数メートル先には前走者がいた。

と、その椎名さんの視界の右端に突如、何か白いものが飛び込んできた。

それは肩口から手の先にかけての細くて生白い腕だった。

飛んで来た白いものが腕だとわかったのは、手の先が前走者のバイク後輪にグワッと掴みかかろうとしたのがわかったからだった。

そして手が後輪の中心あたりをがしりと掴んだ瞬間、前走者は急に前につんのめる様に転倒した。

前走者はコースに投げ出され、救急車が呼ばれる騒ぎになった。

転倒した走者の周りにいた人たちは後で事故の様子をそれぞれに聞かれたが、白い腕を見たという者はいなかった。

椎名さんは関係者に

「突然だったのでよくわからない」

とだけ言った。



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