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《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その3)


【○○○姉さんに花束を♡】


《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その3)


4、


目が覚めると、私は知らない部屋のベッドの上に寝かされていた。


あ、そうだ。確か何処かの部屋で目を覚ましたら猫耳の女の子に抱きつかれていて、状況が良く判らないうちに男の人に背負われて別の家に連れて行かれて、建物の中に入ったら猛烈に眠くなって…………。それから………。


段々と意識が覚醒してきた感じがする。フッと横に視線を移すと誰か(女の人?)が椅子に座って本を読んでいた。


私は声を絞り出す。

(良かった、私、声が出せる)


「あの……」


女の人(よく見ると、綺麗なお姉さん……。でも、なんだろう?私、この人何だか知ってる気がする)は読んでいた本を閉じて優しい瞳で応えてくれた。


「良かった。お目覚めね、お姫さま♪」


ーーーーー


私が高校1年生だった頃のある日の放課後の事。


誰も居ない教室に忘れ物を取りに戻ると、クラスメートの机の上に一冊の本が置きっぱなしになっているのを見つけました。

気になって手にとると、それはいわゆるコミックス。漫画の本でした。


私は普段、漫画は読まないのだけど表紙に描かれた綺麗な女性がちょっと気になったのでパラパラめくって……。気付いたら最後のページまで夢中で読み終えていました!


「これはいったい何なの!?どうしてこんなにワクワクが抑えられないの!?」


私はこの漫画作品にすっかり魅了されてしまっていたのでした!圧倒的な画力。胸躍るストーリー。そして魅力的な登場人物たち。

……その全てが私の意識を鷲掴みしてしまいました!


巻末に記された情報を見ると、この作品の作者は『まりあ』というお名前の女性の漫画家さんらしく、このコミックス以外にも多数の本を出していらっしゃる様でした。

私は学校の帰りに速攻で近場の書店に立ち寄り、まりあ先生が描かれた何冊かのコミックスを購入して自宅で読み耽りました。

「あぁ、やっぱりどの作品も素敵です!」

本を抱き締め心が震えました。


調べてみると、何と!まりあ先生は私と同じ現役の女子高校生(2歳年上の高校3年生)である事を知り、まさに大興奮!

そして、先生の描かれた作品はもちろんですが、何より、こんなにも素敵な作品を描きあげる作者のまりあ先生本人に、強い憧れと心からの尊敬の念を覚えました。


その日から私の生活が一変いたしました。もう、私はまりあ先生への熱烈な想いを止められ無くなってしまっておりました。


私が何故こんなにも強烈に、まりあ先生の作品に惹かれるのか?と言いますと、先生が描く作品に登場する主人公は、どんなストーリーであっても、どんな世界の物語であったとしても、常に弱い人や心優しい人の側に立って、どんなに自分が傷付こうが、時には自分の命を捨てる事になったとしても、絶対に弱者を守り抜く存在として描かれているからなのです。


何より全ての作品を通して、人と人とを繋ぐ『心の絆』を描く事を、とても大切に丁寧に表現されていらっしゃいます。


それは今どき珍しい程に純粋で真っ直ぐ過ぎるメッセージでした。でも、だからこそ、人が忘れてはいけない本当に大切な事は何かを、心が弱く何事にも迷いがちな私に優しく教えてくださったのです。


私は、まりあ先生の作品に巡り会えた幸運に心から感謝しました。

まりあ先生の作品に囲まれて過ごす毎日が夢のようで、本当に充実した日々を送る事が出来たのです。


やがて時は流れ、まりあ先生は大学生漫画家として活躍されていらっしゃいました。

先生の作品を原作として制作されたTVアニメーションも、好評のうちに無事に全話放送終了しておりました。


衝撃的なニュースが報じられたのは、そんな時だったのです。


それは、まりあ先生が事故で急死されてしまった。というニュースでした。もちろん私はそんなものは信じませんでした。嘘だと思いました。

絶対何かの間違いだと思いました。だから、何度も何度も何度も、何度もそれを確認しました。



……でも、残念ながら、それは事実だったのです。

まりあ先生が事故で亡くなったのは、事実だったのです。



突然、心の支えを失った私は呆然自失となり、気がついた時には知らない歩道をあてもなく彷徨っていました。私は今、何処に行こうとしているんだろう?なんでこんな処を歩いているんだろう?何も判らない。

でも、足が止まらない………。


そんな状態でトボトボと無気力に歩いていた私の耳に、いきなり凄まじい女性の悲鳴が聞こえました。

うつむいて歩いていた私が顔をあげてその悲鳴がした先を見ると、横断歩道を無邪気に渡る幼い子供に向かってトラックが止まり切れずに突っ込んで来る寸前でした!



『!!!だめえーーっっっ!!!』



私は一気に覚醒して横断歩道に全速で走り込み、子供を歩道に突き飛ばしていました。


子供と入れ替わり私がトラックと接触するその瞬間、不思議と冷静に「あぁこれで私死ぬんだ」と思ったのは、覚えています。



けど、次に私の意識が戻ったのは、どういうワケかは判りませんがあの奇妙な空き家だったのです。


ーーーーーー


トラックに轢かれ死んだはずの私が、何故こうして今も生きているのかは判りませんが、その直前までの思い出した事柄の全てをお姉様にお伝えすると、話し終わった私をそっと抱きしめて

「辛い思いをして来たのね。でも、もう大丈夫よ。これからあなたに何が起きようと、あなたの事は私が必ず護るからね」

優しく囁やいてくださいました。


とても暖かい感情が湧き上がってきて、まだ状況が良く理解できて無く緊張していた私の気持ちが落ち着いてきたのを感じました。



お姉様のお話しで、私は昨日から20時間近く眠り込んでいた事を知り驚きました。

死んだはずの私が生きていた事と何か関係があるのでしょうか?


改めて今の自分の状態を確認すると、着用している服は学校の制服。これは、あのトラックに轢かれたはずの時にも自分が着ていた物です。

あ、そうだ。学校もそうだけど、今私が居る場所が何処なのかは判りませんが、まずは家に、両親に連絡しなければ駄目ですよね。


それをお姉様にお話しすると、お姉様は少し思案してから私に学校や自宅の連絡先が判る物を持っていないか尋ねられました。


あぁそういえば、私はまだ自分が何者なのかをお姉様にお話ししていませんでした。


そうだ。私はアレを持ってるのでした!ポケットから身分証明書を兼ねた生徒手帳を取り出してお姉様に渡します。これで私の素性を正確にお伝えする事が出来たはずです。

しかし、私から受け取った生徒手帳や身分証明書を確認したお姉様は「あぁ、やっぱりそうなのかぁ」と呟いてから衝撃的な事を私に伝えられました。


「あなたのお名前はユウキちゃんと言うのね。で、高校2年生の17歳。……でもねユウキちゃん、落ち着いて聞いてね。この生徒手帳の発行日は今から18年前で、この身分証明書に記載された誕生日通りなら、今のあなたの本当の年齢は35歳なのよ」


「………え?はい?? それはどういう事でしょう?」


「ユウキちゃんが呆然自失となった、まりあが事故死したのも今から18年前の出来事なの。


……うん、そうね。これで大体の状況が判ったわ!


ユウキちゃん、おそらくあなたはトラックに轢かれる直前にあなたの身に『何かが起きて』18年後の世界に跳んで来てしまったタイムスリッパーなんだわ」


そう仰りながら、お姉様は私の居た時代から18年経過している年数を表記して壁にかけられたカレンダーを指差したのです。


「え……私が、過去から跳んで来たタイムスリッパーで、今の私が居るのは、18年後の世界なんですか?」


まりあ先生の訃報を知って呆然自失となった私ですが、それとは別の意味で、私は呆然自失となった思いがしました……。



5、


私が目を覚ました事。そして、過去から来たタイムスリッパーらしい事をご友人に伝えるために出ていたお姉様が、部屋に戻っていらっしゃいました。


ところで、私自身についての様々な事柄についてはもちろん疑問だらけではあるのですが、それとは別に、私がこの部屋で目を覚ましお姉様と初めて会話を交わした時から、どうしても気になって仕方が無い事が一つありました。


それは、お姉様の顔がまりあ先生の描かれた超名作『永遠の刻を誓う友情』シリーズのヒロインのリエリーにそっくりな事なのです。

まさか本人が実在してるのか?と勘違いする程に似ています。


その事をお姉様に確認すると、なんて事も無く呆気なく理由が判明いたしました。

ここは、かつてまりあ先生が通い暮らしていた大学の学生寮で、同期でいらしたお姉様はまりあ先生と大親友でいらっしゃったのでありました。そのご縁で、お姉様をモデルにして描いたキャラクターが、リエリーだったのです。


お姉様は、私が眠っていたベッドの横で読んでいた本を「ユウキちゃんの言うキャラクターって、この絵の女性よね?」と言いつつ手渡してきました。


お姉様から手渡された本は、まりあ先生のコミックス『永遠の刻を誓う友情』でした。

笑顔のリエリーが描かれた表紙を憧憬を込めた瞳で私は見つめました。私の中で色々な想いが駆け巡ります。そう、この本との出遭いが全ての始まりだったのです。


そして、気付いたら私は本を持ちながら泣いていました。まりあ先生の訃報を聞いた時も私は泣かなかったのに。


いや、あの時は精神的に泣く余裕すら無かったのかも知れません。

でも、今は冷静に物事を想う心を取り戻しています。


私が過去から来たタイムスリッパーだとか、もうそういう事はどうでも良くなりました。

たとえ私がどれだけ未来の世界に移動しようと、そこにまりあ先生が居る事は無い。のですから…。


私がそんな事を思いうつむいていると、突然お姉様は私の頭をくしゃくしゃ撫でながら言ったのです。


「良し!それじゃあ、まりあ先生の熱烈ファンのユウキちゃんを良い所にご招待するわね!ついて来て、コッチよ!」


はい?良い所。……ですか?

私がお姉様に連れられて来たのは、今まで居た部屋の隣の部屋でした。


「この部屋は、まりあがここの学生だった当時に使っていた部屋なの。まりあが居なくなった後も、私がずっと当時のままの状態を維持して保管していたのよ。

さぁどうぞ、遠慮なく入って!」


お姉さんに促されて部屋に入ってその室内を見た瞬間、私が先生の訃報を聞いて以来むりやり静かに眠らせていた『まりあ先生愛』が再燃しました!


「こ、ここが憧れのまりあ先生の部屋!あの、私が心震えた数々の作品を執筆された部屋なのですか!!」


先ほどのお姉様の話しで、まりあ先生がこちらの学生寮にいらっしゃった事は承知いたしておりましたが、まさか当時の、18年前の状態のままで残っているとは思いもしませんでした。


狭い部屋の中は床のアチコチに乱雑に置かれた品々に占領され、辛うじてベッド周りと机周りに何とか歩くスペースが確保されている。というかなり凄い状態でございまして、とても「神経質に丁寧に描かれた作品を執筆されている、まりあ先生のお部屋」とは思えないのですが、でも、それだけ作品の執筆に集中されていたのだと私には思われました。


壁にはその全てを埋め尽くす勢いで、何かの設定画かスケッチ画らしき紙が貼られ、おそらくこれで作品を執筆されていたと思われる机上のパソコン周りにも、おびただしい量の資料類が無造作に積まれておりました。

そして、そのパソコンの後ろの壁には、間違い無く実際にお姉様をスケッチされた時に描いたのだと思う数枚のイラストが、大切そうに額に入れて飾ってありました。


あぁ、ほんとうに本当に、お姉様とまりあ先生は深い絆で結ばれた親友でいらっしゃったのですね。

それは、先生が亡くなられて18年経った今も変わること無く続いていらっしゃるのですね。


まさに作品のキャッチコピー『刻を超える熱い友情の涙』でいらっしゃるのですね。


………羨ましいです。



しかし、私はそこで何かの違和感を感じました。……18年?


そうよ、良く考えてみたら変ですよね?お姉様はどう見ても私より少しだけ年上の若い女性にしか見えないのです。そんなお姉様とまりあ先生が、18年も前に大学の同期だったって言うのは絶対にあり得ない事と思います。

(え?まさか、お姉様も私の様なタイムスリッパーでいらっしゃるのでしょうか?)


私は失礼かと思いましたが、どういう事なのかお尋ねしました。

そして、私は知ったのです。

お姉様が『あやかし』という永遠の刻を生き続ける存在で、肉体的に老いたりする事は無いのだと言う事を。

本来なら驚くべき話しですが、何故でしょう。不思議と私は普通に受け入れる事ができました。


私が、まりあ先生の様々な作品を通して『心の絆』の大切さを学んでいたからなのでしょうか?

それは凄く子供じみた発想ではありますが、でも、もしそうであったなら嬉しいです♪


その後も、お部屋の中をお姉様と談笑しつつ拝見させて頂いておりますと、開いているドアから二人の男性の方がいらっしゃいました。あの空き家から私を救い出してくださった方々でした。

私を救い、そしてお姉様に出逢わせてくださった方に私は心から感謝の想いをのせてお伝えいたしました。


「あの、昨日は助けて頂きましてありがとうございました。………」





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