《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その2)
【○○○姉さんに花束を♡】
《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その2)
3、
「え?すると、昨日あの空き家で見つけて連れて来たあの娘は、18年前の過去の世界から現代に跳んで来たタイムスリッパーかも知れないワケ?」
あの奇妙な女の子をそのまま空き家に放置する事は当然ながら出来ないので、昨日はとりあえず神谷のアパートまで連れ帰って来たのだけど、彼女はアパートに到着するなり猛烈な眠気を訴え廊下で眠り込んでしまったのだ。
そこで、砂かけ姉さんが『あやかし』のチカラ(能力)で彼女の状態を深く視察すると、肉体的にも精神的にもかなり生体エナジーを消耗している事が判り「これは当分の間、目覚めないわねぇ」と言うので、俺は昨日は一旦帰り、今日改めて顔を出したところだった。
俺が帰ったあと。砂かけ姉さんがアパートの2階にある自室のベッドに彼女を運んでずっと付きっきりで見守ってくれていたそうで、神谷が言うには、その後彼女が目を覚ましたのはおよそ20時間ほど過ぎて日付けが変わった深夜だったらしい。
目覚めた彼女は幸い意識もハッキリしていて姉さんから聞いた現在の自身の状況にも取り乱す事も無かったそうだ。
また、彼女が所持していた生徒手帳・身分証明書から判断して「どうやら、彼女は18年前の世界から現代まで時間を飛び越えて来てしまった可能性が高い」と姉さんが結論づけて神谷に報告して来たとの事。
常識的には突飛過ぎる話しだけど、このアパートには既に突飛過ぎる『あやかし』の方が数人存在しているワケで「まぁそういう事が有っても良いんじゃね?」と俺は普通に思ってしまった。
人間は、自身の置かれた状況に感化されながら生きて行く存在なのであります♪
さて、さらに俺が神谷から聞いた砂かけ姉さんからの調査報告は、こんな感じだったらしい。
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彼女自身にも自分が何故あの様な状態であの空き家に現れたのかは、まだ良く判らない状況。
彼女のポケットには学生証付きの生徒手帳が入っていた。
本人に許可を得て内容を確認すると、生徒手帳に記載された発行日は何故か今から18年も前の日付けが記されている。
学生証は顔写真付きだが、写真を貼り付けた物では無くカードに直接印刷プリントされているタイプなので加工して誤魔化す事は難しい。そして、本人の顔とそのカードに写っている写真の顔はどう見ても同一人物。つまり、この生徒手帳は間違い無く本人の所有物なのだと思われる。
…という事は、生徒手帳の日付けが偽りで無いのなら彼女は18年前から現代にやって来てしまったタイムスリッパー?なのかも知れない。
学生証の記載によると彼女の名前は『ユウキ』で、当時の年齢は17歳。そして彼女が通っていた学校は、現在でも上流階級御用達として知られる名門校だった。
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……つまり、ユウキちゃんはいわゆるお嬢様なんだな。どうりで空き家で初めて見た時から、何とは無しに清楚で気品さがある感じがしたワケだ。
で、そのユウキお嬢様は、現在も砂かけ姉さんと一緒に2階の部屋に居る。という事なので、その後の状況の確認も兼ねて、俺と神谷は二人で2階への階段を上がっていた。
ちなみに、砂かけ姉さんはこの街の大学の卒業生なのだそうで、このアパートがその学生寮だった頃から今も変わらずに同じ部屋を利用しているらしい。
(もちろん『あやかし』である事は色々誤魔化していたとか)
つまり、ザッと20年ほど前からこの建物に住んでいる古株さんの住人なのだ。
でも『あやかし』である彼女に「老い」という概念は無い。
20年前当時と寸分も違わない容姿の姉さんが、もし街なかなどで学生当時の知人や旧友に出くわしたら、どうやって誤魔化すのだろうか?
階段を上がりながらそんな事を思っていると、砂かけ姉さんの部屋のひとつ先の部屋の扉が開いていて、そこから楽しげな話し声がしていた。
あれ?あの部屋は確か………。
「おや?この部屋の扉を開けているのは珍しいですね」
そう言いながら開いている扉から室内を覗くと、まぁ当然ながら部屋の中で楽しげに語らっていたのは砂かけ姉さんとユウキちゃんの二人だった。
「あら、大家くん。…と、ミケタマちゃんをいじめる変態男くんも来たのね」
「ヒドイ!異議ありだ!俺はミケタマちゃんの可愛さに抗え無い哀れな男だと言うのに!」
……ちょっとその場の空気が凍った様な気がするが、たぶん、気のせいだよな。
「全く何を言ってるのだか…。
まぁ、それはともかく。あなたが見つけてくれなければ、このユウキちゃんは永遠にあの家の中で、あのままだったかも知れないからね。
良くやった!グッジョブ!って感じよね。ありがとうね!」
姉さんが珍しく笑顔満面で、そう俺に言った。
クソぉ、悔しいけど可愛い♡
「はぁ、褒めて頂き感謝の極みです。…でも、あんな誰でも簡単に出入り出来る空き家だから、いずれ誰かが見つけたんじゃ無いすかねぇ。まあその時は間違い無く大騒ぎになるでしょうけど」
「さあ、それはどうかなぁ?
あなたには判らなかったでしょうけどね、実はあの家は『あやかし』だったのよ。迷い家って名前、聞いた事ない?
深い森の中や山奥なんかで迷ってしまった心正しき人間が居ると、その前に屋敷の姿で現れてひととき保護をしてあげる心優しい『あやかし』なのよね」
凄え。何かの『物』が魂を宿した「付喪神」って言うのは聞いた事があるけど、そんなレベルじゃあ無い『あやかし』が居るんだ!
「家の中には間違い無く誰ひとり居ないのに何故か生活感が溢れていて今にも屋敷の住人が戻って来そうな雰囲気があって、さらに屋敷に入った人間が空腹ならいつの間にか温かい食事が用意され、眠たければいつの間にか布団が敷いてある。
そんな感じで、彼は人間の心を読むチカラ(能力)を持っていて、屋敷の中で人間が心に思った事を瞬時に対応してあげるらしいわ。
そんな『あやかし』なんで、誰にでも見えているワケじゃ無いし、誰でも屋敷の中に入ったり出来ないの。おそらく中村くんは『彼』に選ばれていたんじゃ無いかな?
にしても『瞬時に温かい食事を用意する』って、いったいどうやって対応してるのかしら?
『あやかし』の私が言うのもアレだけど、不思議よねぇ」
「でも姉さん。俺が心正しき人間かどうかはともかく、少なくとも迷子じゃ無いし、何なら住んでいるアパートはあの空き家の直ぐ近くにあるワケです。
しかもあんな街なかの住宅街のド真ん中に現れるはずが無い『あやかし』なんですよね?
そんな『迷い家』さんが何故あんな場所に現れたのでしょう。
俺が選ばれていた。とすると、それはもしかして、ユウキちゃん絡みなのかな?」
「おそらく、そうじゃないかと私も思ってるわ。
そもそも、今話した通り家の中が空っぽで生活感がまるで無いのも
迷い家としては可怪しい存在だし、何かの目的のみに特化してあの場所で空き家を装っていた可能性があるのよね。
つまり、過去から現代に翔んで来るユウキちゃんを待っていたのじゃ無いかな?保護するためにね。
中村くんはその際に協力してくれる存在だと認識していたんだと思う。
何故私がそう思うかと言うと、中村くんは普段から私たち『あやかし』と一緒に居る事が多いじゃ無い?つまり私たちが持っている妖力を常に身体に浴びているの。
妖力にはそれを持っている『あやかし』の精神や個性が強く反映されるから、中村くんの身体に残っている妖力を通して、ユウキちゃんの保護に協力してくれるであろう私たちの存在を『彼』は掴んでいたんじゃ無いかしら?」
と、ここまで俺と姉さんの会話を静かに聞いていたユウキちゃんだが、そろそろ良いかな?という感じで俺に声をかけてきた。
「あの、昨日は助けて頂きましてありがとうございました。お姉様からお話し聞きました。お兄様が私を見つけてくださって、ここの皆様にお声掛けをしてくださったそうですね。本当にありがとうございます」
おお、なんと言う丁寧な言葉遣いなのだろう。やっぱりユウキちゃんって本当にお嬢様なんだなあ。
「いやいや、俺もユウキちゃんみたいに可愛い女の子を救けられて鼻が高いよ。とにかく、これから色々と大変かも知れないけど、俺で力になれる事があれば全力出すから安心してな」
「はい。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
そう言って丁寧な物越しの動作で俺に頭を下げるユウキちゃん。
ああ、生きていて良かった!
俺はこの一瞬のために今まで生きて来たんだ。きっと!
「はいはい、それくらいにしといてね。そんな事より朗報よ!
二人で話し合っているうちにね、ユウキちゃんの過去の記憶が徐々に鮮明に戻ってきたのよ!
…まだ、肝心の18年前の過去の世界から現代へ跳んできた理由とかは謎のままだけど。で、とにかく、ユウキちゃんの過去と現代をつなぐ物は『コレ』よ!!」
そして、砂かけ姉さんが棚から一冊の本を抜いて掲げて見せた。
その本の表紙につけられた帯にはこんな文章が書いてあった。
【●大ベストセラーコミックシリーズの完結編、遂に発売!
『永遠の刻を誓う友情 完結編』
作・まりあ
☆超巨編SFファンタジー作品テレビアニメ版大好評放送中!シリーズ累計 1500万部突破!現役女子大生が描く究極の友情物語の完結編! 今、あなたに届け、刻を超える熱い友情の涙!! 】
どう見てもコミック本。しかも表紙に描かれているヒロイン?ってもしかして、砂かけ姉さん?
フッとユウキちゃんを見ると、砂かけ姉さんを眼をウルウルさせながら見つめていた。
…………えぇっ?どういう事??




