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《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その1)


【○○○姉さんに花束を♡】


《1》『シーフードヌードルに愛をこめて』(その1)


1、


元旦である。

今年もなんとか新年が始まったらしい。


明けたばかりの空には雲ひとつ無く快晴。時刻は朝の6時。


俺は人通りの無い静かな商店街をノタノタと歩きその端にある20段の階段を上がり、小高い丘の上にポツンと建っているボロっちい2階建て木造アパートの前にたどり着いた。

建物がある丘の上は大して広くは無いが、全てアパートの敷地なのだそうだ。


ここはいつ来ても見晴らしの良い開放感のある場所だなと思う。

まぁとは言え、今は元旦の早朝である。遮蔽物が何も無い丘の上は寒風に晒されめちゃくちゃ寒く、呑気に景色を堪能している余裕も無いのでサッサと玄関に進む。


建物の内部には、古い木造物件特有のどこか懐かしい匂いが満ちている。うん、これは旧い小学校の校舎の香りだね。好きな匂いだな。


今から約20年ほど前迄は駅近くにある大学の学生寮だったそうで、現在もその当時のままの姿を残していている。

元学生寮なので、建物自体は大きく中も広い。1階と2階合わせて部屋数は20。廊下を挟み左右に小さな部屋の扉が5個づつ並んでいて、さらに、廊下の奥にはそれぞれの階に学生達が集まれる大部屋もある。


当時は1階が男子学生フロア。2階が女子学生フロアとして区別していたそうで、そのため洗濯機や風呂場も両方の階にある。

2階にある広いバルコニーは、当時は女子学生専用の洗濯物を干す場所だったそうだけど、男子学生は建物前の空き地に物干し台を適当に置いて洗濯物を干していたらしい。……なんか、差別じゃね?


しかし、その後に新たに鉄筋コンクリート造りの大きくて綺麗な建物が完成した時にこの旧い建物はお役御免となり、今は単なる個人所有のアパートとして再利用されているのだとか。

( いや、アパートというより下宿と言うイメージかな?

玄関口で履き物を脱いでスリッパで自分の部屋に向かうタイプのアレだね。某「めぞん○○」的な。)


今どきこんな古臭いボロ物件を所有しようと思う人物もなかなか稀な存在だと思うが、俺はスリッパに履き替えて廊下を歩き、その稀な存在でこのアパートの持ち主、かつ大家もしている友人の部屋のドアをノックして、当たり前のように返事も待たずに開けた。

無論、鍵などかかって無い。


部屋の中では、ぼさぼさ髪の毛の小太りで黒縁メガネをかけた人物がコタツでカップラーメンを食していた。これが俺の友人、神谷かみやである。


「よう中村、あけおめ!元日のこげな朝早くからの来訪とは、相変わらず暇そうで何よりだな」


彼は、突然来訪した俺にまったく驚く事も無くこんな言葉をかけてきた。……もちろん、カップラーメンを食す手は休めないでだ。


「おいおい、元日の朝からカップラーメンなのか?昨日の夜に年越し蕎麦喰わなかったんか?」


「いや、コレは『年越ししちゃった蕎麦』だから別物なのさ。まあ気にするな!……ん?中村も喰うか?『年越ししちゃった蕎麦』!シーフードで良いかい?まぁ、シーフードしか無いけどね」


と言うわけで、元日の朝から男二人でコタツでカップラーメンをすする……あ、いや、俺はカップラーメンを食しに来たわけでは無く用事があって来たのだった!


「おっと、今日はオマエでは無くミケタマちゃんに用事があって来たんだった!彼女は今ドコに居るんだ?この中かな?」


と言いながらコタツの布団をめくって中を覗くが、もちろんこんな所に居るわけが無い。


「いや、今朝はまだ見てないな?

2階のバルコニー辺りで初日の出を見てるんかな?」


「え〜、オマエ飼い主なのになんか薄情じゃねーー?ぐわぁっ!!」


「誰が『飼い主』にゃーーっ!!!」


と、突然俺は可愛い声とともに背中を蹴られた。

ビックリして振り返ると小学生低学年くらいの少女が開いたドアの前で仁王立ちしていた。


ちなみに、その少女の頭には猫耳(本物)が生えており、スカートの中では二股の尻尾(もちろん、本物)をゆらゆらさせている。


まぁ説明するまでも無く彼女は人間に非ず『あやかし』という存在で、いわゆる猫叉ちゃんでありますな。

と、言うわけで俺は無言でコタツから立ち上がり、全力で彼女の猫耳モフモフいじりを開始した。


「ぴゃっ!やめろ〜、やめるにゃ〜っ!!」


「うん、ミケタマちゃんは今日も可愛いなあ♡♡」

モフモフモフモフ♡♡♡


「にゃあ〜~~っ!!!」

モフモフモフモフモフモフ♡♡♡♡


そんな感じで騒いでいると、開けっ放しのドアから綺麗なお姉さんが顔を出した。


「あんたらウルさいんだよっ!元日の朝からナニやってんのよっっ!まったく!!!」


実は、この綺麗なお姉さんも『あやかし』で、砂や土を自由自在に操れる「砂かけ」(砂かけ姉さん)であります。

なお、間違っても彼女に「砂かけ婆あ」と言ってはいけない。

怒り心頭で両手のひらから「砂ツブテ」を連射しながらドコまでも追いかけて来る(体験談)

一応手加減はしてくれてるそうだが、かなり痛い。


ミケタマちゃんは「お姉ちゃ〜ん!あの変態男がモフモフしてくるの〜〜っ!(涙)」と言って彼女に抱きついた。

しまった!砂かけ姉さんに気を取られミケタマちゃんに逃げられてしまった。


「なんだってぇ?正月早々、私の可愛い妹に何してくれてるのかしらぁ?!」


あっと、マズい!砂かけ姉さんは俺に右手を突き出し手のひらに砂の山を召喚した。それは「砂ツブテ」発射のポーズだ!


「はいはい、そこまでにして!続けたければ玄関前の広い庭でやっておくれ」


神谷が仲裁してくれたので、俺は一命を取り留めた様だ。…ふう。

さて、茶番を続けていても仕方が無いので俺は本題を切り出す事にした。

実は『あやかし』のチカラをお借りしたい案件があるのだ。

最初は(本当は、普段は何だかんだで仲良しの)ミケタマちゃんに頼むつもりだったのだけど、この流れで頼もしい砂かけ姉さんにも協力してもらえたら嬉しいんだけどな…。


2、


結果から言えば「それはミケタマちゃん一人だと危ないわね」と、話を聞いた砂かけ姉さんも協力してくれる事になり『俺、神谷、ミケタマちゃん、砂かけ姉さん』の4人で現場に出向いた。


俺は職探しのために地方から出て来て、この街の住宅街にあるアパートで2年ほど前から独り暮らしをしているのだが、今回の現場というのはそのアパート近くにある古い空きたぶんの部屋だ。


この家は自分がこの街に越して来た時には既に空き家だった様で、俺は現在までこの家に住人が入った事を一度も見て無い。


造りは平屋で、人里離れた山奥にポツンとある様な和風古民家な佇まい。ここみたいな街中にあるには半端なく場違いな印象がする家だ。


もちろん、空き家であろうと無断で家屋内に侵入するのは犯罪なのは承知しているが、俺は好奇心が抑えられず以前この家の中に入ってみた事があった。


家の前を通る時にいつも気になっていたのだが、常に玄関の横引き扉が全開で開いているので建付けが悪いからなのか?と思い閉めてみようと試してみたがビクともしなかった。

そして、玄関扉が全開しているというのにその玄関口には枯れ葉ひとつホコリひとつ見あたらない。どういう事なのか?

俺が知らない間に、誰か定期的に掃除に来ている?


玄関を入るといきなり土間造りの台所があるが、ここで何か調理していた形跡は無い。 

そもそも水道の蛇口も無いし、当然コンロも無い。……いや、建物のイメージからすると、有るとしたら竈門かまどかな?。


小上がりに続く廊下を挟んで左右に四畳半がふた部屋づつ。そしてその廊下のいちばん奥に問題の部屋がある。(この部屋だけやたら広く10畳近くある)

ちなみに、いずれの部屋にも家具や家財道具などは一切見当たらない。何処を見ても掃除は完璧だし傷んでいる様な箇所も無い。

そんな状況だが、不思議な事に目の前に間違い無く誰も居ないのに何故か人が今そこに住んで生活している様な雰囲気を感じる。

いったい何なのだろう?


トイレや風呂場は見当たらない。かつてこの家で暮らしていた住人は、風呂は銭湯という手があるが果たしてトイレをどうしていたのだろうか?


とにかく、何処を見ても『?』だらけの家だ。

もしかして何かの映画やTVドラマの撮影に使うために建てられて、その後に放置された物件なのかな?……とさえ思う。


そして、コレだけでも充分可怪しい物件だというのに、お隣さん含め近隣の住人の誰ひとりもこの物件を気にしている様子が無い。俺が出入りしているのを見ても誰も何も気にしない。

住人達にはまるで何も見えていない様にも思える。

本当にどういう事なのか全く判らない。


そして昨日。大晦日の夜にソレが起きた。


俺がコンビニ帰りの夜10時くらいにこの家の前を通った時、通りから見える奥の部屋の窓ガラスから何か強烈な光が溢れ出したのが見えたのだ。

以前その部屋に入った時には、他の部屋と同じく何も無かったはず。

普通の空き家物件ならば、ホームレスや不審者が入り込んだな。と思うが、ここは違う。

俺は意を決して再び家に入りその部屋に向かった。


「そして見たのがコレです…」


そこには、上から落ちて来て頭から突っ込んでいる様な不思議なポーズで床スレスレの位置で宙に浮いている『セーラー服姿の黒髪ロングストレートヘアの美少女』の姿があった。

もちろん部屋の天井に穴が開いている事も無いし、彼女を吊るしている様な物(ピアノ線?)も見当たらない。つまり、どうやって浮いているのか全く判らない。


さらに言うと、なんだか彼女の質感と言うか、雰囲気と言うか、存在感が妙で可怪しい。

そう、例えるならビデオとかの映像の動きを、ポーズボタンを押して途中で止めている様に見えるのだ。映像では無く現実に物体として目の前に存在しているのにだ。


そして、ここからが肝心。

俺が手を伸ばしてその少女に触れようとしても何か見えない壁があり触れる事が出来ない。少女の周りには、いわゆる結界がある様なのだ。

人間では触れる事が出来ないが、不思議な妖力を持っている『あやかし』の人ならば可能かも知れない。それを試してもらいたく、砂かけ姉さんとミケタマちゃんにご足労頂いたというワケです。


神谷と砂かけ姉さんは浮いている少女を凝視して思案している。ミケタマちゃんは少女の周りをぐるぐる廻り様々な位置から状態を確認している様だ。


「どうです?やっぱり迂闊に触れない方が良い感じですか?」


「この囲っている結界からは、物凄く強力な保護を発動させている特殊な神通力の波動を感じるわ。こんなのを張れる人物は私の知る限り一人しか居ないんだけど、まぁそれは確証が無いからとりあえず置いとく。


けど、それと関係あるのかも知れないのだけど、この女の子本人からも全く妖気を感じられ無い。

つまり、この現象は『あやかし』が関係している案件では無い……と思うんだけど」


砂かけ姉さんにしては煮え切らない返答だ。『あやかし』では無いものの、でも腑に落ち無い何かを彼女に感じるのか。


「これはぬら爺さんか、冥界の婆さまに確認してもらった方が良いかも知れませんね」


うん?冥界の婆さま?…神谷が俺の知らない奇妙な名前を出した時だった。ぐるぐる廻っていたミケタマちゃんが足をもつれさせて倒れ込んだ。浮いている少女に向かって!

その瞬間、まるで止まっていた時間が急に動き出した様に、ミケタマちゃんと共に床に倒れ込んだ少女の雰囲気・質感に突然生気が宿り、その存在感が明確化した。

そして自分の周囲を見回して、喋った!


「痛ったぁ~いっ!! あ、え、なに?何が起きたのですぅ?!私、死んだのでは無いのですか?」


それが、18年前の過去の世界から現代へ跳んで来てしまったセーラー服姿の17歳の少女『ユウキ』ちゃんとの出遭いでした。


ナイス!ミケタマちゃん♡



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