『そして、エピローグ?』
【○○○姉さんに花束を♡】
『そして、エピローグ?』
ある日の午後。
アパート1階の大部屋に暖かな陽射しが差し込んでいた。
中央の大きな机の上には何冊かの小説本が重ねて置いてあり、大家の神谷くんとぬら爺の二人が並んで読書に励んでいる。
時折り、ぬら爺が大家くんに判りづらい内容について尋ね、大家くんはその都度楽しげに解説している。うん、仲良しで何より♪
私とユウキ、ミケタマちゃんとわらしちゃんの4人は、部屋の奥にある小さな机を囲んで、最近流行りの携帯ゲーム機で対戦して遊んでいた。
もちろん、この携帯ゲーム機は大家くんが買い揃えて「皆さんで遊んでください」と提供してくれた物だ。
(本物の)お嬢様育ちであるユウキは、今までゲーム自体にほとんど触れた事が無かったらしく大変苦戦している様子。
だけど、同じくゲームで遊ぶのは初めてじゃないかと思うミケタマちゃんとわらしちゃんが、意外にも強くてお姉ちゃんも油断してると負けそうだわ!
けど、お姉ちゃんパワーで何とか負けずに頑張ってます!
そんな感じで、アパートの住人が皆んな揃ってのんびり楽しく過ごしていたのだけど、突然わらしちゃんが「あ。玄関にお客さんがふたり来たよ〜」と顔をあげた。
どうやら、わらしちゃんの張っている結界に反応があったようね。
しかし、このアパートにお客さんが来るなんて珍しい。しかもふたり?
たまに、大家くんがネット注文した品物を宅配便のお兄さんが配達しに来る事があるけど、ほとんど玄関口の指定場所に置き配して帰ってしまうんで、お客さんという感じじゃ無いものね。
しばらくすると、玄関口で「すいませ〜ん、どなたかいらっしゃいますかあ〜」と優しげな声が聞こえて来た。女性の声だね。
大家くんが「はあ~い」と言いながら部屋を出て行って、何やら会話しながらお客さんと一緒に戻って来た。
「あれ?もしかして……?」
大家くんと一緒に部屋に入って来たのは、私と同じくらいの見た目の女性と、わらしちゃんより更に幼い印象の坊やくんの二人。
ただ、その二人には誰が見ても直ぐに判る大きな特徴があった。
頭にちょこんとした丸くて可愛い耳が生えていて、お尻あたりからふわふわもこもこの大きな尻尾が伸びていた。
つまり、私めの妹ミケタマちゃんと同じ動物系の『あやかし』さんなのでした。
「皆さんにお知らせします。こちらのお二人は、今日から新しくこのアパートに住む事になった姉弟の方たちです。さぁ、前へどうぞ!」
「はい。皆さまはじめまして。私たちは、化け狸の『あやかし』の姉弟で、私が姉の「たぬ」この子が弟の「ぽん」と申します。
今までずっと山奥の深い森の中で暮らして来まして、今日初めて人間界に来たばかりです。判らない事ばかりでご迷惑をおかけするかも知れませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って深く頭をさげた姉の真似をして、弟くんも慌てて頭をさげた。
「ほっほお。これはまた綺麗なお嬢さんと可愛い坊やくんじゃのう!賑やかになりそうで何よりじゃな」
ぬら爺は、好々爺モード全開ね。
「あ〜、お姉ちゃん見て!あのふたり、お耳としっぽがあるう。お姉ちゃんとおんなじだねえ!」
「ほんとにゃあ!今まで動物さん『あやかし』の人が居なかったから、仲間が増えて嬉しいにゃあ♪♪」
わらしちゃんとミケタマちゃんは仲間が増えて嬉しそう。
「あのお姉様、優しそうでお綺麗な方ですねえ……。あ!でも、私のお姉様のほうがもっと綺麗で素敵です!」
ユウキが真剣な目をしてそんな事を言ってる。
凄く嬉しいけど、でもあそこに居る本人には絶対そんな事を言っちゃダメだからね。
さて、私はその「優しそうでお綺麗」なお姉様に近づいて、声をかけた。
「たぬちゃん!久しぶりっ!!」
突然、私に声をかけられて一瞬ビックリした感じだった彼女は、でも私の顔を見て泣きそうな顔になった。
「えっ?砂かけちゃん?砂かけちゃんよね!?……ホントに砂かけちゃんよねっ!?」
「ごめんね。何にも言わないで突然居なくなっちゃって…」
泣きそうだった彼女は、本当に泣きながら私に抱きついた!
「酷いよぉ!突然居なくなっちゃうんだもの!凄く探して凄く心配したんだからね!砂かけちゃんとはもう2度と会えなくなったんだと思って、毎日泣いて…たんだ………からね。……もう、ずっと一緒だよ!どっかに行っちゃダメなんだからね!!」
私は優しくたぬちゃんを抱きしめた。ごめんなさい。本当にごめんなさい。私って酷いヤツだよね。
もう、今から何10年も前。
私は彼女たちと一緒に、山奥の深い森の中で家族同然に暮らしていたのです。
でも、ある時私は、そんな山奥に迷い込んでしまって泣いていた人間の子供たちを見つけて、その子たちを送るために初めて人間界に行ったのです。
長い長い間、ずっと代わり映えの無い山奥の森で暮らしていた私にとって、人間の世界は刺激に満ち溢れていました。
見るもの聴くもの、何もかもが全て新鮮で興味深くて楽しくて。
結局、私はそのまま山奥の森に帰らず、連絡ひとつもせずに、今日の今まで人間の世界で暮らしていた。というワケなのです。
せめて、たまに帰るとか、連絡をすれば良かったのに……。
これから、いっぱいいっぱい罪滅ぼしするからね!
落ち着いてきた彼女が言うには、あの一緒に住んでいた山奥の森は、人間たちの土地開発でどんどん消えていって、今では安心して暮らす事が難しくなってしまったのだとか。
そこで、あの近隣の『あやかし』たちを見守っている大天狗様に相談に行ったところ、姉弟の新たな住まいとしてこのアパートを紹介されたらしい。
それまで一度も人間界に行った事が無い彼女はかなり悩んだそうだけど、このアパートにはこれ以上無いほどに心強い仲間が居るから安心して行きなさい。と大天狗様に言われ決心して出てきた……。
という事なんだけど、その「これ以上無いほどに心強い仲間」って、絶対に私の事よね!
まあそれで、こうして私がたぬちゃんぽんくん姉弟に再会する事が出来たんだから、大天狗様には「借りひとつ」作っちゃったわ。機会があればちゃんと返さないといけないね。
そんな感じで再会を祝している私とたぬちゃんを、ボーっと見上げていたぽんくんの前にいきなりわらしちゃんが現れて、ぽんくんビックリ!
「はじめまして、ぽんくん。私は座敷わらしのわらしちゃんだよ!これからいっぱい仲良くしようね!」
そう言ってわらしちゃんが出してきた右手を握って、真っ赤な顔をしたぽんくんは「うん、ぼくわらしちゃんと仲良くする」と、おどおどしながら答えていた。
あゝもう、可愛いがまたひとつ増えて、お姉ちゃん嬉しい♡
そんな私たちのやり取りを後ろから見ていた大家くんは、
「どうやら、お二人は姉さんのお知り合いだった様ですね。
それじゃあ後の事はお任せしちゃって良いですか?僕は今夜の歓迎パーティーの準備をしますので」
と言って部屋から出て行った。
「え〜と、今回はチビちゃんが増えたから、ケーキをもう一つ用意して、それから………」
さぁ、今夜は楽しいパーリーナイトね♪
でもその前に、たぬちゃんぽんくんと新しく家族になる皆んなを紹介しないと、だわね!
「じゃあ、たぬちゃん。これから新しく『家族』になる皆んなを紹介するわね!さぁ、行きましょう!!」
「うん、よろしくね!砂かけちゃん!!」
こうして、私はたぬちゃんの手を引いて……。
わらしちゃんは、ぽんくんの手を引いて……。
笑顔で待っている新しい『家族』のもとへ、足を踏み出した………。
『私たちの絆が紡いだ家族が、皆んな仲良く暮らしている 素晴らしいアパートへようこそ♪』
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その建物は40年以上も昔に学生寮として建てられた2階建て木造建築なので、現在では経年劣化のため各所の傷みも酷い状態であるが、だが、学生寮として使われていた当時は多くの学生たちが生活の場として賑やかに楽しい毎日を過ごしていた場所でありました。
現在では、わずかな人数の住人たちがひっそりと暮らす民間のアパートとして、静かな余生を送っている状況だ。
ただし、その「わずかな人数の住人たち」は、全員ちょっと変わった人たちでありました。
ちなみに、この春。ちょっとだけ人数が増えた様です………………。
『砂ちゃん、物語の終わりには余韻が大切なのよ♪』
『はい、はい♪♪』
【○○○姉さんに花束を♡】
→【砂かけ姉さんに花束を♡】
(完)




