イノベーション
※こちらはブラックユーモアです。
「……つまり、雷の神剣も、復活の聖杖も、賢者の宝石も——もう必要ないと?」
王が言った。
黒いタートルネックを着た魔導人形が、荘厳な大広間で静かに答えた。
「そう。i Stickならね」
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俺の名前は田中。この世界に召喚されて、もう六年になる。
召喚された勇者は百人。全員が強力なチートを持っていたが、今や生き残りは片手で数えるほどだ。魔王を倒さない限り、元の世界には戻れない。
俺のチートは地味だった——歴史上の偉人の魂を呼び寄せ、人形に憑依させる使役術。
ボクシングの世界チャンプ、一騎当千の武将、戦術の天才。片っ端から呼んでみたが、魔王には届かなかった。
藁にもすがる思いで、呼んだのはイノベーションの天才、スティーブ・ジェフリー。それから一年——遂にこの日が来た。
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国王、大臣、教皇、大貴族が居並ぶ中、スティーブ・ゴーレムが演説する。
各国に伝わる秘宝、強力な魔法を宿した武具の数々。【どうぐ】として使うと呪文の効果があるすべてを、一つの杖に統合した。
「……MPは、不要と?」
教皇が言った。
「そう。i Stickならね」
「武闘家でも、遊び人でも使えるのか?」
貴族が言った。
「そう。i Stickならね」
万雷の拍手。大広間が揺れた。
「生産はすでに人件費の安いドワーフ工場に発注済み。半年で全軍分が揃う」
国王が立ち上がり、俺とスティーブ・ゴーレムの手をそれぞれ強く握った。
「これなら勝てる。よくやってくれた!」
無限の攻撃魔法、何度死んでも蘇る兵士。魔王軍に、もう勝ち目はない。
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半年が過ぎた。
盛大な出陣式の後、一万の兵士がi Stickを手に進撃した。工場では今も増産が続いている。
そして数週間後——1人の若い神父が訪ねてきた。
「魔王を倒した後、この世界はどうなりますか?」
「……どういう意味だ?」
「魔法使いは用済みに。杖で全回復するなら医者も宿屋も要らない。武器屋も、教会も——」
「そうかもな。俺の元の世界でも、スマホ一台でカメラも音楽も人間関係も全部完結するようになって、消えた仕事は山ほどある」
「スマ……? それに——こんなに大量に作って、悪人の手に渡ったら?」
「AIやSNSで犯罪が増えた、なんて話もうちの世界じゃ日常だよ」
一つの問題を解決すると、次の問題が生まれる。車が環境を壊し、核が平和を脅かしたように。それでも人類は進んできた。
「……では」
神父は静かに続けた。
「強大な力を手にした民衆は、これからも王に従うと思いますか?」
答えようとした瞬間、体が薄くなり始めた。
兵士たちが、魔王を倒したらしい。
後のことは知らん。俺は作っただけだ。使いこなせるかどうかは、お前たちが決めることだ。
さようなら。
※この作品に登場する人物・団体はすべて架空です。




