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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

差し止めの棒

掲載日:2026/02/10

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 流れに棹さす。

 なんとなく、字面からは勢いを邪魔しそうに思えてくる。棹を突き立てたなら流れはそこから分かれて、元々の速さをそがれてしまいそうなイメージがあるからだ。

 しかし、これは本来は川を渡る舟に乗った者のイメージ。舟から差し入れる棹で川底をさし、押し出して勢いをつける。するとぐんぐん舟は進み、普通よりもすんなり向こう岸へたどり着くことができるわけだ。

 渡し船の文化があるがゆえに、勢いのつく想像が容易にできた言葉。それが今では主流でなくなったことにより、純粋な想像に頼った結果、ほぼ逆のような意味合いで使われるようになってしまう。

 言葉は生き物というが、それは言葉が生き物のように変わっていくばかりじゃない。言葉を取り巻く環境も我々も、生きているものゆえに、そのとらえかたが変わっていかざるを得ない……という点もあるのだと思う。

 棹ではないけれども、流れを邪魔するように思われる存在の話、聞いてみないか?


 あれはおじさんが、一人暮らしを始める前だったという。

 おじさんは当時、家の近所の川へよく足を運んでいた。なんということはなく、ただ川の景色を眺めているのが好きだったと語っていたな。

 花鳥風月を愛でることは心のなぐさめとなるのは、古来よりの感覚だ。おじさんにとっては、その対象が川だったということだろう。

 ほぼ毎日、空いている時間のほとんどを川ながめにあてていたというおじさんだけど……そのおかげで気づくことができた。


 ここ数日間、川の中州の先端あたりに新しく生えたものがある。人の背の高さほどあるその影を、おじさんは最初、草かと思ったらしい。

 しかし、念のため双眼鏡を持ってきて商店を合わせてみると、それは草にしてはやたらと形が整っているうえに、つばのない剣の形をしていたのだそうだ。


 ――木刀?


 と判断ができたのは、柄の部分がこげ茶色の木の気配丸出しだったためだ。

 握りの部分より先へかけては、銀色の光がこぼれている。その光も握りの近くにめくれ上がった銀箔の端が見えたがゆえに、作り物と判断がついたんだ。

 剣先は川の底へ沈んでいる。実際に測ったわけじゃないが、あの中洲のあたりは大人でも腰までは沈んでしまうくらいの深さはあった。そうなると、あの木刀の全長はおそらく2メートルをくだらないと思える。

 武道に使うものだとしても、特殊なものだろう。もっとも、なぜに川の流れに差しているのかの意味が分からないが。

 誰かが落としていったにしては、あの刺さりようは意図的な気配がプンプンしてしかたない。


 まだまだ、おじさんも好奇心にあふれていた時期でもあった。

 次の休みの日になっても、例の木刀が健在なのを見て、つい近くで観察してみたくなったらしいのさ。

 中洲までいくのは、ちょっと注意すれば難しくない。飛び石づたいに飛んでいけば何とかなる。足を滑らせたら一気にドボン、だが。

 おじさんは難なく中洲へたどり着くと、例の木刀へ近寄っていく。

 最初に気づいたときから変わらない見た目をしていた。むき出しの握りも、その先に巻きつけられた剥がれかけの銀箔もそのまま。

 真上から流れに沈む先端を見下ろしても、どのようになっているかは水が濁して分からない。

 誰が用意したかもわからないそれを、おじさんは好奇心のまま引き抜いてしまい……ほどなく後悔することになった。


 水から引き抜いた剣先までの残り部分。そこは銀箔が剥がれているばかりでなく、元の木の部分がほとんどなくなっていたのだとか。

 いや、おじさんは手を伸ばしてみて、刀身そのものらしい感触がそこにはあることを確かめていた。いわばカメレオンなどのように、周囲の景色にすっかり溶け込んでいるかのようでいたんだ。


 ――水から出たばかりで、いったいどのような細工を?


 おじさんが疑問に思う間に、剣を引き抜いたあたりからにわかに水音が立つ。

 それは水が流れ込む音。湯の溜まった風呂の栓を抜いてしまったときに響くものとそっくりだった。

 深い穴が空いている? などとのんきに構えていたところで。


 鼻を思い切りつままれた……いや、噛みつかれたかのような痛みとともに、おじさんは顔面ごと猛烈な力で、木刀の刺さっていたあたりに吸い込まれそうになったらしい。

 身体ごと持っていかれるかと思ったほどで、とっさに木刀を差し直さなければ、間違いなく水の中へ引きずり込まれていたと、おじさんは語っていたよ。

 そしておじさんの鼻の先っちょは、そのときの勢いでちょっと削られて、持っていかれてしまってね。傷がふさがってだいぶ経つ今でも、形が少々いびつなままなんだ。

 かの木刀も、おじさんが戻してから数年経過したときには、ふとなくなっていたのだけど、あの下に何が居た、あるいはあったのかは分からないままなんだって。

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