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第8話 軍人の真髄

「逃げ切れたようだな…機関再始動、スサノオ前進…!」


 8光年先にジャンプアウトしたスサノオの艦橋、追っ手が同じように空間跳躍をして追撃してこないことを確認した真希は、敵の追撃が来ないかの確認ついでの機関冷却のため、その場に停泊させていたスサノオを進ませた。


「……死ぬかと思ったデース…」


 戦闘が目まぐるしく動いていたため、ただ黙って見ていたナディアは、ぐったりと椅子にもたれた。


「しかし、大分航路から逸れたな…オルタ到着時間を再計算してくれ」

『了解………計算完了。現在のライラー予想到着日は、2999年12月21日となっております』

「やっぱり遅くなってるな…まぁその分人助けができたから良しとするか…」

『時刻、地球時間で22時になりました』

「うおっ。もうそんな時間か…明日のためにももう寝るか…ナディアも寝ろ」

「了解ネー!」


 ステラからの報告に、真希達はそれぞれ寝るため、艦橋から出て各員の部屋に戻った。2人が各自の部屋に戻ると、スサノオ艦内は省エネモードに移り、薄暗くなる。


「……」


 艦長室と札がかかった個室で、真希は『新星軍事理論教科書2990』や『宇宙戦争戦略歴史』、『銀河間大戦軍事戦略家大全集』など工場都市から集めて持ってきた本が机の上に積まれている中、シャワーを浴び寝巻きに着替えた状態でベッドにうつ伏せで、『名将から学ぶ宇宙艦操術論』というタイトルの本を読んでいた。


「……で? ナディアくんは艦長室の前で一体何をしてるのかね?」

「…い、いつから気づいていたネー…」

「君が俺の部屋に来たタイミング」

「……」


 本をキリがいいところで栞を挟んで閉じた真希に居ることを指摘されたナディアは、枕を抱えたまま気まずそうに部屋に入った。

 真希は身体を起こすと、ナディアの方を見て、

 

「……怖いのか?」


 と一言言った。


「……」


 ナディアは無言で頷く。

 無理もないスサノオに救出される前まで、ナディア達はゾンビからの恐怖を無くすため、皆で集まり安心感を得て寝ていた。もうゾンビの脅威がないとはいえ、何ヶ月もその方法でぐっすりと寝ていたナディアは、誰かと共に寝ないと不安感や恐怖心を抱くようになっていた。


「……仕方ないな…風紀としてはあまり宜しくないが…当分は背中合わせで寝るとしよう」

「!」


 真希から許可を貰ったナディアは、背中合わせになるように真希と共にベッドで横になった。そしてナディアは安心したのか、ベッドで横になって1分後には、可愛い寝息を立ててすやすやと寝始めた。


「おやすみナディア…」


 そう言って真希は、手を後ろに回してナディアの頭を撫でた。真希達が睡眠を摂っている間もスサノオは、オルタの操舵されてライラーに向かう。

 地球時刻で6時になった頃、艦長室では目覚ましのアラームが鳴っていた。


「……動けねぇ…」


 アラームが鳴る中、目が覚めた真希はそう呟く。

 現在彼は、まだ寝ているナディアに抱き枕のように抱き着かれている状態であり、マトモに動けないようになっていた。


『無理やり起こしますか?』

「いや、折角寝てるし。起きるまで気を長くして待つ…8時過ぎたら起こす」

『了解しました』


 ステラと軽い会話をした真希は、抱きつかれたまま昨夜読んでいた本を読み始める。


「……風雷戦法」


 真希は本の中にあった単語を見た。

 風雷戦法。第二次銀河間大戦時、当時の政府が認知していなかったヴァルス共和国の侵攻用の大艦隊に対して行われた作戦名から取られた戦法のこと。当時行われた作戦内容は、他地域に配備されていた艦の合流のために待機していた数千隻という艦隊の横っ腹から、数十隻で編成された本来は補給路確保用だった第4艦隊が空間跳躍で奇襲を仕掛け、更に全ての艦に持てる火力を全方位に放つように徹底。これらにより、相手の指揮の撹乱や同士討ちを発生させて大艦隊を撤退へと追いやり、本土侵攻を防いだのみならず、敵の戦力を大きく削ぐことに成功した。そしてこの作戦を思いつき、風のように敵を襲い、雷のように重い一撃を加えるという意味を込めて作戦名を付けたのは、真希の曽祖父で当時第4艦隊の指揮を取っていた山明実政(さねまさ)だった。以後、風雷戦法は奇襲を仕掛けることて少数の高速艦で敵に大ダメージを与えられるとして、連邦軍内で戦法の一つとして使われるようになり、共和国軍はこれらに対して、進軍速度を落とし常に戦闘態勢を維持するという対策しか思いつかなかった。このことから、風雷戦法は第二次銀河間大戦終結に、大きな影響を与えたとされている。

 風雷戦法の詳細を絵を使って説明しているページを読み進めると、インタビューに答えた山明実政の言葉があった。


『風雷戦法は確かに有効な戦術の1つです。ですが、それは時と場合によります。何でもかんでも1つの戦法に頼るのではなく、時には別の戦法を…また時には複数の戦法を組み合わせたりなど、指揮官はどんな時にも冷静に物事を見て、それに似合った行動を取らなければなりません。そうしなければ、どんなに強い船でも簡単に沈んでしまいます』


 一文を見た真希は連邦士官学校に入る際、祖父から言われた言葉を思い出した。


『たとえ感情が業火のように燃え上がろうとも、頭の中は常に冷静で居ろ』


 祖父からの教えを真希はしっかりと守り、バーチャル空間を使った模擬戦では、在校中無敗の成績を出した。


「……」


 ページを捲った真希は、祖父の写真が見えたため、数ページ飛ばした。祖父の活躍や戦闘のやり方は本人から嫌っと言う程聞かされているため、見る必要は無いと判断したのだ。きっと彼の祖父がこの光景を見たら、『冷静で素早い判断だ……』と言いつつ、イジけることだろう。


「……ア゜ッ…お、おはようデー…ス…!」

「おっ、起きたか。おはよう」


 目が覚めると好きな人に抱きついていたことを知ったナディアは、顔を真っ赤に染めて挨拶をし、真希は本を閉じて返す。


「ご、ごごご飯作ってきマーーーース!!!」

「お、おう…」


 ナディアはまるで稲妻の如く素早い動きで真希から離れて食堂に、意味を分かっていない真希を置いて行った。


『…取り敢えず、服を着替えることを推奨します』

「そうだな…着替えたあとオルタに色々と聞かないと…」


 ベッドから降り、真希は朝の支度を始め、数分で支度を終えた。そして真希は、食堂へとは向かわず真っ直ぐと艦橋に上がる。


「おはようさん。オルタ」

『おはようございます。早速ですが、1つ報告が…』

「どうした?」

『はい。1時間程前にSOSを受信致しました。ただ、その受信が1年以上前から発信されていることも分かり、報告に迷っておりました』

「よし、SOSの場所に向かうぞ」

『…失礼ですが、発信開始から1年以上経過しているため、生存率は限りなく低いかと…』

「オルタ。実際に行って見てみないと何事も分からないものだ。いいから行くぞ」

『了解致しました。針路変更、両舷増速』


 オルタからの忠告を無視して、真希はスサノオをSOSの発信源に向かわせることにした。





 天の川銀河の端。中心部とは違い星間物質が希薄で、星系と星系の距離がかなり離れている場所。地球で言うところの田舎だ。そのうちの1つであるペトロ星系。12個の惑星が青い恒星ペトロを中心にして回っており、そのうちの一つである惑星ユダは、地球と比べて平均気温が低いものの、移住可能惑星として数十年前に入植が行われ、その数年後には技研都市が完成。様々な技術の開発が行われた。だが、それも過去の話。今のユダは大量のゾンビが蔓延る死の惑星となっていた。


「…完全に見捨てられたな…」

「そうですね。総長…」


 惑星ユダのエリア12にある第二植生物研究所。ユダで唯一の生存者コロニーになっているそこで、白衣を着た長髪の女性で臨時研究総長アルベルタ・メンデルと、黒スーツで身を纏った女性護衛シャルル・ジェーンの2名が天窓の向こうに見える空を見上げていた。1年程前から彼女達は共に生き残った生存者と共に第二植生物研究所に立て篭り、地球に向けてSOSを発信しているのだが、中々応答がないため諦めつつあった。


「仕方ない、このまま待っても死ぬだけだ。なら、やりたい研究を好きなようにしてやろう」

「…危険な研究ではないですよね?」

「……」

「総長! 逃げないでください総長!」


 無言で歩き出したアルベルタをシャルルは追う。その光景を見られているとも知らずに…

 第二植生物研究所から少し離れた場所にあるかのエドモンド山脈の中腹部、雪が降り注ぐ中、分厚いコートを来た丸眼鏡の男が、後ろに自分の宇宙船を停泊させながら、崖の上から双眼鏡で研究所内を見ていた。


「……アルベルタ・メンデル…折角、私達の同志になる機会を無駄にした女…その代償を支払っていただきますよ」


 そう呟く眼鏡男の崖下には、4つの長方形の中型コンテナが1つの長方形の大型コンテナを挟むようソリの上に乗せられて並べられていた。


「…さぁ時間です。楽しい舞踏会を開催すると致しましょう…!」


 眼鏡男が手を叩くと、コンテナの側面に付けられていた使い捨て用のジェットパックが火を吹き、各コンテナが第二植生物研究所に向かって勢いよく滑り始める。そして坂道とジェットパックで加速されたコンテナは、研究所を囲うように作られていたバリケードを突き破って進み、轟音と共に研究所の壁と衝突、深く突き刺さった。そしてコンテナは、研究所に突き刺さっている方の扉を開けた。


「ウハ゛ア゛ぁ゛ァあ゛ァァ」

「ア゛ァアァァ゛」


 コンテナからゾンビが大量に出てきて、研究所内部へと侵入し始める。そして、そのゾンビの中で一際目立つゾンビが居る。3m程ある巨体、右腕は腫れ物のように腫れあがり、普通の人間の腕の数倍は太くなっている。


「さて、ストライカーくん。君の活躍がC計画に大きく影響を出す。是非とも良い成果を……ハ、ハッ…ハクシュンッ!」


 1人カッコつけていた眼鏡男だったが、-10度で猛吹雪という環境だったため、思いっきりくしゃみをする。


「しかし、この星の寒さには慣れませんね。早く万全な環境が整っている部屋でゆったりしたッッッ!!」


 寒さに文句を言いつつ、吹雪から避難するために航宙艇に戻ろうとしたが、再凍結で氷になった地面の上に片足を乗せてしまい、滑って転んでしまった。


「…………ア゛ァ゛ッ゛!!」


 ズレた眼鏡を直した男は立ち上がり、ストレス発散のために近くにあった山盛りの雪を蹴り飛ばそうとしたが、雪で隠れていた岩を思いっきり蹴ってしまったため、変な声を出して足を痛める。


「…なッな゛んて゛…こッ゛…こんな゛ことに゛……ッ!!」


 ズキズキと痛む片足を引きずりながら、眼鏡男は航宙艇に乗り込んで行った。

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