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第4話 豊穣が枯れる時

 地球から約8光年先にあるペルセポネ星系。そこにスサノオが、空間に船体がギリギリ通れる穴を開けてワープアウトした。


跳躍完了ジャンプアウト。機関再起動並びに冷却開始します』


 短距離空間転移ショートジャンプを行ったスサノオは、ペルセポネ星系にある木星級の惑星『コレー』の重力の影響を受けながらも、体勢をスラスターで整えると、そのまま星系内にあるプロセルピナへと動き始めた。


『恒星間精密カメラが惑星プロセルピナを捉えました。メインパネルに移します』


 そう言ってオルタが艦橋のパネルに、地球によく似た惑星プロセルピナを映し出した。


「豊穣惑星プロセルピナ。長閑で大自然を見れるということで、観光に来る者が多いって聞いて、前々から行ってみたいとは思っていたが、こういう方で来ることになるとは……オルタ、プロセルピナへの着水たいせ『本艦後方に複数の艦影を確認』

「何っ!?」


 唐突なオルタからの報告に真希は一瞬焦るが、


『連邦宇宙軍所属、ペルセポネ星系護衛隊です』

「あー、なんだ護衛隊か…星系内にワープしてきたスサノオの確認に来たという感じかな?」


 オルタの次の報告に胸を撫で下ろす。だが、報告はこれで終わらなかった。


『護衛隊急速接近。このままでは衝突致します』

「どういうことだ? 通信とか来てないのか?」

『通信や発光信号は確認されておりません』

「左舷スラスター全開! なんとしてでも回避しろ!」

『了解』


 速度を落とすことなく向かってくる護衛隊を避けるため、真希はスサノオの方向転換スラスターで、直撃コースから外れる。


「何が…!」


 艦橋の窓からすれ違う護衛隊の方を見ると、配備されていたのだろうホーキンス級宇宙重巡洋艦のエッフィンガムとフレッチャー級宇宙駆逐艦のロビンソン、ロス、ロウ、ヤングの4隻が、それぞれ推進器から異常なまでに出火しながら、スサノオを無視してペルセポネへと向かっていく。


『緊急報告』

「どうした!?」

『護衛隊各艦に生体反応なし。艦橋内部の状態から艦内でゾンビパンデミックが起きていることを確認』

「機関最大! 主砲発射よーい! 護衛隊がペルセポネに落ちる前に、撃ち落とす!」


 巡航速度を維持していたスサノオは、真希の命令に従って機関をフル回転させ、護衛隊を追う。


『連邦軍の宇宙艦を攻撃するのは危険です』

「だからと言って、あれを無視する訳には行かない! もし仮に無視すれば、平和なペルセポネでゾンビパンデミックが起きるのだぞ! そっちの方が圧倒的に危険だ!」


 ステラからの忠告に真希は言い返し、確実に護衛隊を落とせる距離までスサノオを進ませる。


『目標ロック、主砲発射準備完了』

「推進器を集中的に狙え、撃ち方始め!」


 速度を変えずにペルセポネに落ちようとしている護衛隊に向けて、スサノオの主砲が火を吹く。

 第一射はロウの艦尾装甲を抉り取り、被弾したロウは機関部分で爆破が起き、艦尾が吹き飛んで黒煙を出しながら変な方向へと飛んで行った。


「第2射、撃ぇーー!」


 真希の命令により、6本の光線が護衛隊へと飛んでいき、そのうちの1本がヤングの推進器を抉り取り行動不能にさせ、2本がロビンソン、ロスをそれぞれ真っ二つに折って爆沈させた。


「艦首魚雷、1番5番撃て!」


 更に間を詰めたスサノオから、エッフィンガムに向けて2本の魚雷が発射させる。通常ならば迎撃されるのだろうが、ゾンビパンデミックにより艦の能力が瀕死状態になっているため、魚雷は巡洋艦に命中し、行動不能にさせた。


『護衛隊の無力化を確認』

「…このままペルセポネに降下する」

『了解。降下進路を策定……完了。スサノオをペルセポネの海上に着水させます』


 デブリとなった護衛隊の艦艇を避けながら、スサノオは目視でもはっきりと見える距離まで迫ったペルセポネに降下を始める。

 スサノオはスラスターで姿勢を制御しつつ、艦底部を海面に向け、着水体勢に入った。


『衝撃に備えてください』


 スサノオは艦尾艦底部から海に着水し始め、水飛沫を飛ばしながら勢いを殺そうとスラスターを使って、急速に減速し始める。そして着水してから30秒後、スサノオはその場で停止した。


「…ふぅー……嫌な予感がするから、街に向かう。オルタ、八咫烏の発進用意」

『了解しました。操縦ロボは入りますか?』

「いや、俺とステラだけで良い」

『承りました。その間に、スサノオを海岸に近づけておきます。どうぞお気をつけて』

「ああ」


 真希は艦長席から立ち上がり、艦艇後部にある探査船格納庫へと向かう。エレベーターや通路を使って約5分。真希は探査船格納庫に辿り着いた。


『おおよく来たべ。機体はこのワシの技術で、ばっちしに仕上げてあるだ! いつでも出撃可能だべ』


 格納庫内に真希が入ると、タオルを首に巻き付け、少し汚れている人型のロボが、東北訛り風の口調で喋りかけてきた。


「君は…?」

『おおっと、申し遅れたべ。ワシは04式汎用人型作業用機械兵のヨサクだァ』

「04式…えっ!? 2904年製の作業用ロボ!?」

『ダーハッハッハッ、製造から今年で94だべ。まぁ、身体はもう頭部以外純正ではないだがな!』

「はえ〜…」


 出てきたロボが、2904年製のロボだと知り、真希はポカーンと口を開けて驚く。

 現代で例えるならば、1931年に造られた車が2025年でも現役で走っているような物だ。驚くのも無理がないだろう。


『まぁ安心しするべ。ワシが乗っている以上、このスサノオは絶対に沈まんべ!』


 ヨサクは胸を張って宣言した。


「その意気心よし! 頼むよヨサク」

『任せるだぁ!』

「それじゃあ、行ってくる!」


 真希はヨサクを信頼して、彼が整備したという八咫烏に乗り込んだ。


「システムチェック……八咫烏オールクリーン! ハッチ開け」


 飛行機とよく似た八咫烏の操縦席に座った真希は、システムのチェックを終わらせ、操縦桿をしっかりと握り締めた。


『後部飛行甲板ハッチ開放』


 サイレント共に格納庫上部のハッチが外開きで開き、八咫烏が乗っているエレベーターの台が、上へと上がって行く。


「発艦準備完了。八咫烏発進!」


 外に出た八咫烏を真希は下部にあるスラスターで上へと垂直に浮かせ、メインジェットでスサノオから離れて行く。


「ステラ、プロセルピナの近場にある街までナビゲーションしてくれ」

『了解。右舷に110度旋回、直進です』

「ラジャー」


 ステラからの指示に従い、真希は操縦桿を右へと切り、その先にある街へと向かった。





 プロセルピナ中央大陸北東部複合農業地区。

 そのに住む茶髪でハーフの日本人、シエナ・エイブラムスは、飼っている柴犬のフレイヤと共に、別の街へと伸びている道に沿って逃げていた。


「お父さん、お母さん…!」


 シエナは走りながら、両親のことを思う。

 彼女の地区にゾンビを乗せた貿易船が、彼女の家に不時着、家は完全に押し潰され、シエナは自身が持っているサポートウォッチで、両親の安否を確認するが、サポートウォッチは両親の生命反応がロストしたと表示した。そのため、シエナは悲しみながら、ゾンビが蔓延る街から走って可能な限り距離を取ろうとしていた。


「これだけ離れたら、流石に…」

「ア゛、ア゛ァァア゛…」


 走ったシエナが呼吸を整えようとしたその時、道の前の方からゾンビの集団が、シエナへと向かっていた。どうやら、他の街から来たゾンビのようだ。


「ひっ…」


 白目を向き迫ってくるゾンビや、白目を向きあちらこちらが欠損しているゾンビを見て、シエナは腰を抜かす。


「バウ! バウバウッ!」


 主人を守ろうとフレイヤは前に出ると、ゾンビ集団に対して吠え始める。だが、フレイヤの吠えはゾンビに効果はなく、1体のゾンビがフレイヤを襲おうとしたその時だった。


――ババババババ!!!!


 音と共に光線の雨がゾンビに降り注ぎ、一瞬にしてゾンビを地面と共に穴だらけして殲滅した。


「何…が…」


 音が聞こえた方をシエナが見ると、そこには八咫烏の姿があった。

 ゾンビを殲滅した八咫烏は、スラスターでバランスを整えながら、シエナの後ろの方に着地した。


『そこの子、乗って!』


 八咫烏のハッチが開かせた真希が、スピーカーでシエナ達に乗るように伝える。


「フレイヤ行こう!」

「ワンッ!」


 助けが来たと思ったシエナは、フレイヤと共に八咫烏に乗り込み、シエナ達が乗り込んだ八咫烏は、上昇して空を飛ぶ。


「ありがとうございます」

「いやー、間に合ってよかったよ」

「私、シエナ・エイブラムスと言います」

「俺は山明真希だ。よろしく」

「はい! よろしくです」


 操縦室に来たシエナは、助けてくれた真希に礼を述べ、互いに自己紹介を済ませる。


「それで…これからどうするのですか?」

「食料を調達する。元々は買う予定だったけど、この感じだと既にゾンビパンデミックが発生してるな…だから、作ってくれた人達には悪いけど、倉庫から運び出す」


 八咫烏を道に沿って飛ばし、真希はシエナと話しながら街へと向かう。


「それなら、私の街に案内します。そこの共有倉庫から食料を積み込みましょう」

「良いのか?」

「はい。せっかく作った作物を必要ないゾンビのせいで腐らせることになるぐらいなら、積んでもらう方が良いです」

「了解。案内してくれ」

「はい!」


 シエナは助手席に座り、八咫烏を自身の街の倉庫まで案内を始めた。八咫烏は数分でシエナが必死に走った距離を飛び、共有倉庫に辿り着いた。


「八咫烏着陸態勢に入る。ホバーリング開始。スキッド展開…降下開始」


 先程と同じように真希は八咫烏を倉庫前に着陸させる。


「よし、行こうか」

「はい!」


 真希はワルサーを片手で持ち、シエナに案内されて倉庫内へと入っていた。


「ここにあるのは…?」

「野菜と精肉ですね。野菜は箱詰めにして、生肉は全て真空パックにして保存が効くようにしてます」

「ここにゾンビが入っているという可能性は…?」

「ないと思いますよ。ここの扉は住民が知っているパスワードを打ち込まなければなりませんし」

「なら良かった…色々と聞きたいことはあるけど、今は食料をできるだけ多く積まないとだな」

「はい! 台車持ってきますね!」


 2人は台車を持ってきて、ダンボールや発泡スチロールの箱に入れられた野菜や肉を八咫烏に積み込んだ。


「こんな物だろう…よしスサノオに戻る!」


 パンパンに詰め込んだ2人は、八咫烏に乗り込み、倉庫を後にする。


「…それで、君はこれからどうするの?」


 スサノオへと戻る八咫烏の機内で、真希はシエナに話しかける。


「……分かりません…」

「なら、俺らの宇宙艦で安全なコロニーまで送ろうか?」

「…貴方はどうするの?」

「ライラーに向かう」

「ライラー!? 危険ですよ!?」


 ゾンビパンデミックの元凶である惑星ライラーに向かうと聞き、シエナは目を点にして驚いた。


「危険なのは分かってる。けど、このゾンビパンデミック…どうも自然発生じゃないっぽいんだ」

「えっ…? どうしてそうだと…?」

「1つ、俺の船が出航する1週間前、ゾンビの大群が俺がいる場所に向かっているのがわかった。最初は偶然だと思っていたけど、奴らは俺が隠れていた工場都市に入ると、真っ直ぐと俺がいた施設に向かい、複数あったドックのうち、船があったドックを狙ってきた。2つ、先程ゾンビに占拠された船がここに向かって来ているのが見えた。普通ゾンビに占拠されたら、宙を漂うだけになるはずだ。それなのに、機関を臨界稼働させてでも、ここに向かっていた…裏で手を引いている者が居て間違いないと思う。君も何か心当たりがない…?」

「……あっ…」


 真希から理由を言われ、シエナは墜落してきた貿易船のことを思い出した。


「真相を突き止めるためにも、俺はスサノオでライラーに向かおうと思う。君は…取り敢えず、スサノオで近場のコロニーに送ろう」

「ありがとうございます…」


 シエナに約束をした真希は、沿岸部に停泊しているスサノオへの着地を開始し、無事に八咫烏を収容することが出来た。


『ほぉ〜、こりゃまたたまげた。大量だべ! おい、運び出すべ!』


 飛行甲板ハッチが閉まり、艦内に八咫烏が格納されると、ヨサクが八咫烏のハッチを開き、他の作業用ロボと共に次々と荷物を食料庫に運び始めた。その一方で、真希達は艦橋へと上がった。


「すごい…」

「ふふん。そうだろう?」


 艦橋に上がったシエナは感激し、真希は胸を張って誇った。


「オルタ。機関始動、このまま抜錨し、プロセルピナを離れる!」

『了解』


 艦長席に座った真希は、オルタに命じて機関を動かさせ、海面から垂直にスサノオを離水させる。


「宇宙空間に向けて、スサノオ発進!」


 ――ボォーンッ!


 推進器から勢いよくプラズマが炎のように放出され、スサノオは宇宙空間に向けて、マッハ30という速さで上昇して行く。


「凄い…これが宇宙船」

「ああ、これが俺の艦、空間機動戦艦スサノオだ」

「スサノオ…」


 艦橋の外から見える宇宙の景色に、シエナは目を輝かせて感激していた。


『前方に複数の跳躍完了(ジャンプアウト)反応』

「念のために、空間跳躍(スペースジャンプ)の用意だけ始めてくれ。敵だった場合は、すぐさま逃げる」

『了解』


 正体不明が分からない者の来訪に、真希達は身構えるが、すぐに警戒を解くことになる。

 スサノオの目の前に同じ跳躍の方法で現れたのは、何隻か民間船を引き連れた連邦政府の艦隊だった。


『こちら、地球統一連邦軍所属、第12護衛隊旗艦『ビスマルク』! 貴艦の所属を答えよ!』


 スサノオの艦橋に、ビスマルクからの通信が送られてき、それと共にビスマルク級超弩級宇宙戦艦一番艦ビスマルク、ライプツィヒ級宇宙軽巡洋艦2隻、ニーダーザクセン級宇宙駆逐艦4隻からの主砲が向けられ、スサノオはスラスターで急ブレーキをかけてその場に留まった。


「…こちら、独立傭兵艦スサノオ。本艦にはプロセルピナで起きたゾンビパンデミックの生存者が乗っている。我々には行かなければならない場所がある、生存者を貴艦で保護してもらいたい」


 艦長席にある通信マイクを手に取った真希は、ビスマルクからの質問に答え、更にシエナのことを話した。


『……貴艦の要望承った。駆逐艦『ニーダーザクセン』を貴艦に接舷させる。正し、そちらからの奇襲攻撃に備え、他艦は貴艦に砲を向けたままにする』

「了解した。こちらも生存者を左舷側面のハッチから貴艦隊に渡す」


 ビスマルクからの要望を真希が了承すると、ニーダーザクセンがスサノオの左舷に張り付くと、ハッチから作業用ロボが出てきて、手際よくニーダーザクセンとスサノオまでの簡易的な通路を作り上げる。


「…それじゃあ、これでお別れだな」

「うん! また何処かで会いましょう!」

「ああ…!」


 通路が作られるのをカメラを通してメインパネルから見た真希とシエナは、互いに別れの挨拶を済ませる。そしてシエナはフレイヤを抱えてハッチの方へと向かった。


『……生存者の保護を確認した。無礼な真似をして申し訳ない』

「いえ、貴方々は軍として正しい行動をしただけです」

『そう言ってもらえるとはありがたい。貴艦の武運を祈る!』

「ありがとうございます!」


 護衛艦隊はスサノオに向けていた主砲を元の状態に戻し、それと同時にスサノオは再び動き始め、そのまま空間跳躍を行った。





「よろしかったでしょうか? あのまま行かせて…あの艦、傭兵が持っているにしては、不自然なほどに武装が積まれていましたよ?」


 ビスマルクの艦橋にて、艦長エルザス・リンデマンは、メインパネルでスサノオの空間跳躍を見た後、隣に臨時的に用意された司令長官席に座っている艦隊司令長官南雲(なんうん)(つかさ)に質問をする。


「確かにその通りだが、かの艦は実際に生存者を乗せていたし、我々と事を構える様子はなかった。もしあるのだったら、跳躍完了(ジャンプアウト)時に攻撃しているはずだ。ということは、あのスサノオという艦は、善寄りと見て良い」

「そうですかね~…」

「まぁ、下手に戦闘を行って、時間を消費するべきではないだろう…今は我々の任務を完遂するぞ」

「はっ! ビスマルク全速前進! 目標プロセルピナ!」

「ニーダーザクセンに打電。貴艦に乗艦した生存者から、詳細な状況を聞き出すように」

「はい!」


 スサノオに関する話を2人は終わらせ、本来の任務であるプロセルピナの生存者救出作戦のため、プロセルピナに急いで向かうことにした。

 その後、第12護衛隊が救出することができた生存者の数は、1000万人中たったの2337名(+1匹)のみだった。

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