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第3話 スサノオ初陣

 豊穣惑星『プロセルピナ』。2950年代に浮かび上がってきた食料や物資不足の問題解決のため、2980年代に地球統一連邦政府が主導となって行われた惑星大改造計画により、惑星全体で第一次産業ができるに改造を施された惑星で、地球からは8光年ほど離れている緑と青の美しい星。

 その星では、人が少ないというのもことあり、ゾンビパンデミックは発生して居なかった。


「…星命重工の前会長の死亡を確認か…遺体は腐敗してはいるものの護衛ともに並べられ、サポートウォッチが紛失…完全に火事場泥棒だな」


 恒星からの明るく暖かい光が窓から差し込む中、惑星プロセルピナの牧草地に建てられている村の中にある何の変哲もない1軒屋にて、農夫であるトムは新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。


「あなたー! 港区方面から大量の生魚が届きましたよー!」

「おお、ならこっちからは野菜を送ろうか。シエナ用意してくれ!」

「はーい! 行こうフレイヤ!」

「ワンッ!」


 漁業が行われているプロセルピナの港区から魚が届いたため、トムは娘のシエナに倉庫から野菜を持ってくるように伝え、自身は交換に来た者と話し合うために家に向かいれる準備を始めた。そしてシエナは、愛犬である柴犬のフレイヤと共に家を出た。


「おっ野菜、おっ野菜、おっ野菜さ〜ん!」


 シエナは街外れにある共有倉庫に辿り着き、オリジナルの歌を歌いながら倉庫の鍵を開けた。


「さーて、交換用の野菜は〜」


 シエナが倉庫に入ろうとしたその時だった。


――ヒュ〜〜〜〜!!


 空から大きな風を切る音が聞こえてきて、シエナは其方に顔を向ける。そして、シエナだけではなく周辺に居た者達が、作業や会話をやめて空を見上げる。

 彼らが見上げた空には、あらゆる箇所から黒煙が吹き出し、推進器から通常では出ない火を出している貿易用の宇宙船が、バランスを崩しながら高度を下げて地上へと堕ちて行く。


――ドォーンッ!!


 遂に高度が保てなくなった貿易船は、街に不時着し、衝撃波と爆発音が周囲に響く。そして、それと共に巨大な黒煙が美しい空に漂い始める。


「何が…」


 衝撃波で尻もちを着いたシエナは立ち上がり、フレイヤと共に貿易船が墜落した場所へと向かい始める。


「……う、そ…」

「ウウウウゥゥゥ」


 小走りに墜落現場を見える場所に来たシエナは茫然自失状態となり、フレイヤは唸り始めた。彼女達が墜落現場で目撃したモノ、それは轟々と燃える貿易船が彼女の実家を押し潰し、更にそこから、次々と這い出てくるゾンビ達の姿だった。





「…さて、ステラ。現在のスサノオに何か問題はあるか?」


 月軌道を抜けて巡航速度でスサノオが太陽系外を目指しているスサノオの艦内、真希は重要な問題がないかどうかステラに尋ねた。


『そうですね…強いていえば、食料が1週間分しか積まれていないことです。何処かで調達しなければ、餓死しますよ』

「マジかぁ…地球の食料が集まりそうな所は、ゾンビが大量に居るだろうから…何処かのコロニー、もしくは惑星から調達するしかないよなぁ…」


 出発早々にでてきた問題に、席に座り直した真希は頭を掻きながら対応策を考える。


「太陽系の民間コロニーなら、保存が効く食糧が多いと思うけど、その分ゾンビが居るだろうし…逆にゾンビが居ない所は政府機関が使用している所だから、拝借することはできないだろうし……ステラ、どこか良さげな星はない?」

『検索致します……ヒット。ここから8.4光年先に、惑星大改造計画で改造された豊穣惑星『プロセルピナ』があります。そこであれば、人が少ない故にゾンビパンデミックを心配はないでしょうし、十分な食料が確保することが出来るかと』

「…よし分かった。そこに向かおうとしよう! オルタお願い!」

『了解いたしました。進路変更、目標ペルセポネ星系第5豊穣惑星『プロセルピナ』。空間跳躍(スペースジャンプ)の準備を開始します。座標確定、電磁防壁展開、機関最大出力、最大戦速』


 オルタは、プロセルピナがある方向にスサノオの艦首を向けると、空間跳躍の準備を始める。

 スサノオはその船体を覆うようにバリアを展開し、最大速力の亜光速を出す。


『準備完了。空間跳躍(スペースジャンプ)を開始します。衝撃に備えてください…カウントダウン開始、10…9…8…7…6……』


 艦内が揺れる中、オルタがカウントダウンを始める。


『3…2…1…』

「『跳躍(ジャンプ)!』」


 真希とオルタが同時に声を出す。

 それと同時に亜光速で空間を進んでいたスサノオの姿が太陽系内から消え、一瞬にして地球から4光年程離れている場所に、空間に穴を開けながら出現した。


跳躍完了(ジャンプアウト)。船体に異常なし、機関再起動。冷却が完了次第、二回目の跳躍(ジャンプ)を行います』


 空間跳躍で一気にエネルギーを使い果たし、一時的に停止してしまった機関をオルタは再起動させ、巡航速度で目的地に向けてスサノオを進ませる。


「……うぷっ…やっぱ、跳躍(ジャンプ)の次元共振による揺れは慣れないな」


 腹の底から込み上げてくるものを押し留めた真希は、バックから取り出した水が入った水筒を飲んで、身体を落ち着かせた。

 空間跳躍(スペースジャンプ)。核融合炉以上の効率がある質量動力炉を開発した人類が、生み出した超光速航法の一種である。仕組みとしては、速度を亜光速まで持っていきその状態を維持、そしてある程度速度を付けた後、次元障壁というもので隔たれている通常空間とはまた別の空間、亜空間へ突入。その亜空間の物質の動きだけが早くなるという、簡単に言えば、空港や大きな駅にある歩く歩道(オートウォーク)のような特殊な性質を使い、光速を越えた速度で亜空間を移動、そして、予め入力した座標に亜空間から次元障壁に穴を開けながら出てくるといった仕組みとなっている。

 なお、亜空間を移動中に揺れる現象が、真希が言っていた次元共振のことで、それで酔うことは亜空間酔いと呼ばれる。


『機関の冷却完了。空間跳躍(スペースジャンプ)を行います。カウントダウン開始』

「えっ…!? ちょ、ちょっと待って! 待ってまだ完全に落ち着いてn『跳躍(ジャンプ)


 無情にもオルタは、真希の制止を聞かずに第二回目の空間跳躍を行い、地球から更に8光年先の場所に転移した。


跳躍完了(ジャンプアウト)。船体に異常なし、機関再起動。冷却開始します』

「……オ゛ェッ!!」


 スサノオが新たな空間に出ると同時に、真希の腹からキラキラモザイクがかかった物が袋に出される。


『念のための袋が功を奏しましたね』

「………うん…」


 一通り腹の中の物を戻した真希は、容態を見に来た看護ロボに袋を渡し、艦長席で一息ついた。


『レーダーに感あり』

「ここに?」


 惑星や船がないはずの空間でレーダーが反応したため、真希は疑問に思い呟いた。


『はい。本艦の七時方向です。マッハ30で本艦に向けて急速接近中。メインパネルに映像を映します』

「……これって」


 スサノオに迫ってくる物の姿が画面に表示される。

 映し出された画面に映し出されたのは、宇宙空間を悠々と進んでいる真っ白な巨大なイカだった。


銀河巨大生物ギャラクシーモンスターの第1種、星烏賊(スタークラーケン)。人類が最初に遭遇した巨大生物かつ、数々の探査船や民間船を沈めて来た化物です。現在確認されている星烏賊(スタークラーケン)の数は24体。そのうちの14体が連邦軍によって撃破、または何かしらの要因で死亡したことが確認されています。残りの10体は行方が掴めていません』

「知っているよ。しかもあれ、平均的なサイズより大きいな」

『恐らく全長1km以上の高年齢個体だと思われます。逃げますか?』


 星烏賊(スタークラーケン)の出現に、真希はどうするべきか考える。


「…いや、ここは武装の試射を兼ねて撃退する。第一戦闘配備。艦首回頭、目標星烏賊(スタークラーケン)!」

『了解しました』


 星烏賊(スタークラーケン)との戦闘を選んだ真希は、スサノオの艦首をスラスター回頭させ、星烏賊(スタークラーケン)に向ける。


『作戦はどういたします?』

「第三戦速で星烏賊(スタークラーケン)に接近、艦首魚雷を全門撃ち込んだ後、すれ違い様に主砲で砲撃、トドメとして艦尾魚雷を撃ち込む。もしそれでも生きているのであれば回頭し、星烏賊(スタークラーケン)と一定の距離を保ちながら砲雷撃戦を行う。何しろ星烏賊(スタークラーケン)は遠距離技はエネルギー輻射(コスモイカスミ)のみだし。それは普通の烏賊と違って、自身のエネルギーを使う諸刃の剣だからな。余程のことがない限り使わないだろう…それに行うタイミングが分かりやすからな」

『了解致しました。両舷増速、目標星烏賊(スタークラーケン)


 真希から作戦命令が下り、スサノオは速度を上げて星烏賊(スタークラーケン)の迎撃に出る。


星烏賊(スタークラーケン)、魚雷射程距離まで接近』

「オルタ、これがスサノオの初陣だ。頼むぞ」

『はい。重々承知しております。それでは、攻撃を開始します』


 距離を詰めたスサノオから、星烏賊(スタークラーケン)に向けて六発の魚雷が一気に撃ち込まれる。魚雷は真っすぐと星烏賊(スタークラーケン)へと向かい、八発中五発が星烏賊(スタークラーケン)に命中した。


『目標の一部欠損を確認』

「よし、そこを重点的狙う!」

『了解。目標を補足。自動追尾よし』

「撃ち方始めぇ!」


 スサノオは更に星烏賊(スタークラーケン)との間を詰め、搭載している主砲、48cm三連装汎用型粒子速射砲塔を使って、雨のように青色の光線を星烏賊(スタークラーケン)に浴びせた。星烏賊(スタークラーケン)は苦しみながらも、触腕を伸ばしてスサノオを掴もうと試みるが、近づいた触腕は対空防御用の12.7cm連装収束型粒子速射砲塔や10cm連装収束型粒子高角速射砲塔などが集中攻撃を行い、触腕を撃破する。


『目標、前部主砲の射程範囲外へ。第三主砲で砲撃を続けます』

「オルタ、目標の様子は?」

『はい。確認できる目標の損傷は、触腕十本中七本が喪失、一本が重傷、外套膜、鰭、頭などの各部位が損傷を受けております。ほぼ瀕死状態と見て良いと思います』

「良しトドメだ。艦尾魚雷全門撃ち込め!」


 瀕死の星烏賊(スタークラーケン)にトドメを刺すための六発の魚雷が、艦尾の発射管から放たれる。だが、


『魚雷全弾命中…目標、自ら触腕を引きちぎり盾にした模様。現在マッハ20で逃走、魚雷射程距離外に逃げられました』

「知恵が働くな…」


 星烏賊(スタークラーケン)は自身の触腕を一本犠牲にして魚雷を防ぎ、逃亡を始めた。


「…よし、星間誘導噴進弾を使う」

『了解。取り舵回頭、目標ロック…いつでも発射できます』

「一番、撃ぇー!」


 魚雷射程外に出た星烏賊(スタークラーケン)に対して、スサノオから宇宙空間用のミサイル、星間誘導噴進弾が発射される。発射されたミサイルは、正確に逃げようとしている星烏賊(スタークラーケン)へと飛んでいき、そして命中する。


――ドゴォーーン!!


 ミサイルが星烏賊(スタークラーケン)に着弾すると、大きな爆発が引き起り周囲を明るく照らす。それと同時に爆発の衝撃波がスサノオまで届き、船体が大きく揺れる。


『どうやら、星烏賊(スタークラーケン)が体内に保有しているエネルギーがミサイルの爆破で着火し、大爆発を引き起こしたようですね』


 爆破の光が収まり始める中、ステラが大爆発が起きた理由を予測する。


星烏賊(スタークラーケン)の撃破を確認。戦闘によるスサノオの被害なし』

「圧勝…初陣としては上々だな!」

『その通りですね。では、改めて豊穣惑星プロセルピナへ向います』

「嗚呼頼む」


 スサノオの初陣は大勝利に終わり、真希はオルタに操舵を任せて豊穣惑星『プロセルピナ』へとスサノオで向かった。

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