第26話 船は帝国へと赴く
逃げるように空間跳躍を行ったスサノオは、マルバーゼ星系から7光年程離れた宙域を巡航速度で進んでいた。
「…やったな…」
『はい……』
戦闘が終わった真希は、帽子を深く被って目を鍔で隠し、色々と考えていた。
「オルタ、奴らが攻撃してきたのは、やっぱり…」
『…憶測に過ぎませんが、恐らく我々が独立傭兵だからだと思われます』
『だよな…』
独立傭兵だから、奴らから攻撃を受けたと結論付けた真希は、少し間を開けて二カッと笑みを浮かべた。
「これなら、俺らが奴らの領域に入ったとしても、堂々できるな」
『はい。文句は言わせませんよ』
真希は攻撃を受けたことにより、最大の懸念が無くなったことを少し喜んだ。
真希が懸念していた最大の問題。それは、スサノオが侵入してきたという理由で、神聖ジークダルク帝国が共栄連盟に対して、宣戦布告することであった。だが、帝国軍任務部隊は、スサノオを共栄連盟に所属していない独立傭兵と判断し、攻撃を行った。つまり、例えスサノオが神聖ジークダルク帝国領域内で暴れたとしても、地球政府や共栄連盟は、独立傭兵が勝手にしたことと片付けることが出来るのだ。そうすれば、神聖ジークダルク帝国は共栄連盟に宣戦布告する理由を作るのが難しくなる。
そして、それが分かった今、真希達が取る行動は…
「オルタ、ルート変更。最終目的地は、フラリアの母星リンベルン!」
『了解致しました。スサノオ、最終目的地変更、アイルス星系第3惑星リンベルン』
ある種の大義名分を手に入れた真希は、スサノオでフラリアを直接、故郷に届けることにした。
「それじゃあ、俺はこのことを報告してくる。あとは頼むぞ」
『畏まりました』
スサノオの運航をオルタに任せ、真希はフラリアを変装させていたであろうナディア達が居る食堂へと向かう。
「あー、せっかくのメイクが台無しネー…」
《ごめんなさい》
「ふふっ、フラリアちゃんのせいではから、怯えなくて良いネー…!」
「僕の心配もしてくれると有難いんだけど? ねぇ???」
真希が食堂に入ると、攻撃を受けてスサノオが揺れた時、リップを変に塗ってしまったのか、ナディアがフラリアの頬に着いているリップを拭いており、その隣で何処ぞのコマンドーみたいに、リップが顔全体に付いている碧が、ナディアをじっと見つめていた。
「何やってるんだか…」
真希がそう呟くと、ナディア達は真希が来ていることに気がついた。
「ヘーイ! 一体全体何があったネー?」
「…帝国軍の艦隊がいきなり襲ってきたんだ」
「「「!?」」」
真希の返答に、全員が驚く。
「そ、それは大丈夫なのか…?」
「まぁ…少なくとも、俺らが原因で第三次銀河間大戦が起きるということは無いなと思う……だが、奴らは、スサノオは敵と見るだろうな…」
「そ、それじゃあ…フラリアちゃんを故郷に送るのは……」
「帝国に渡すというの無理だな…」
《ごめんなさい。私のせいで…》
自分のせいで、そう思ったフラリアは、顔を俯き謝る。
「そんな心配しなくていいぞ、フラリア」
《えっ?》
「俺が神聖ジークダルク帝国の領域に入るを躊躇っていたのは、俺らが大戦の火種になることだ。だが、奴らは俺らを敵と認定して攻撃を仕掛けてきた。つまり、例え俺らが神聖ジークダルク帝国で暴れたとしても、奴らは俺らを理由に地球政府や共連に宣戦布告することが出来なくなったんだ。だからこそ、俺らは奴らの領域に入れる。そして、君をこの船で故郷まで送ることが出来るという訳だ」
《…いいんですか? きっと迷惑を掛けますよ…?》
「そんなことを気にしていれば、そもそもこの銀河に来てない…2人はこれでいいよな?」
「勿論ネー!」
「無論、異論とかはないさ!」
「アルベルタさんに関しては、神聖ジークダルク帝国の技術を知ることが出来ると言って、喜ぶだろうし…シャルルさんは、アルベルタさんについて行くだろうから、多分大丈夫だろう」
「……」
真希達の優しさに打たれて、フラリアはボロボロと涙を流し始める。
《本当に、本当にありがとうございます…ありがとうございます…!》
涙を流しながらフラリアは頭を下げて、礼を真希達に伝える。
「ふっ、これくらい大したことないさ」
真希は例を伝えるフラリアに、ウインクを返して笑みを浮かべた。
〇
マルバーゼ星系外。
そこに、スサノオにやれてボロボロとなった帝国軍任務部隊の姿があった。
そして、旗艦シュレスタインの艦橋では、
『何故、たかが1隻の船に、これ程までの被害を出すことということになったんです?』
「……」
多くの損失を出したグローズに、帝国軍上級大将ゲオルク・フォン・マイントイフェルは、静かな怒りをグローズに向けながら、モニター越しに問い詰めていた。
今回の戦いで、帝国軍任務部隊が受けた損害は、シュレスタイン中破、巡洋艦2隻航行不能(現在4隻の駆逐艦にて牽引中)、駆逐艦1隻撃沈、1隻大破(のちに自沈)、1隻中破という無視できない被害が出ていた。
「も、申し訳ありません…まさか、ただの独立傭兵があれ程の力があったとは…思いもよりませんでした……」
『これを機に、共栄連盟が宣戦布告してくる、という考えはなかったのか?』
「そ、それは無いと思われます。奴は、独立傭兵を名乗っておりました。その時の通信は、しっかりと録音していますので、もし向こうが何か言ってきたとしても、独立傭兵を倒しただけだで済むと思われます」
自分の立場を維持するためにも、グローズは必死にゲオルクの怒りを鎮めようとする。
『成程。ですが、貴方が任務部隊に被害を出したのは事実。覚悟しておいて下さい』
と、言い残してゲオルクは通信を切った。
「……終わりだ」
長年築き上げてきたキャリアが、ここで終わると理解したグローズは、膝から崩れ落ちた。
その一方、通信を切ったゲオルクは、溜息を吐いて椅子にもたれかかっていた。
「前々から、内地での問題行動が目立っていたから、長期航海が多い任務部隊の司令官にしたが…まさか、もっと大きな問題を連れてくるとは…」
再び溜息を吐き、ゲオルクはこめかみを片手でトントンっと叩きながら、グローズの対処、スサノオへの対処、共栄連盟への対応を考え始める。
「……グローズへの対処は、クビで良いか…共栄連盟は…先程、奴が言っていた通り、不審な独立傭兵を追い払おうとしたまでと言うか……問題は……」
ゲオルクは、テーブルの上にあるとある装置を起動させて、任務部隊が録画していた戦闘映像を元に、AIが作り出したスサノオの全体像が分かる立体映像を宙に映し出す。
「奴の目的が一切不明だ。このまま国境付近を彷徨く程度ならば良いが、こちらが攻撃したのを理由に、我々の領域に侵入して、暴れられたら困る……こいつの対応を奴に任せてみるか…」
スサノオを見つめていたゲオルクは、何処かに電話を手に取り、誰かにかけ始めた。
『はい。こちら、第一機動艦隊です』
「私だ。マンイントイフェルだ」
『マイントイフェル上級大将! ほ、本日はどうされましたか…?』
「奴に要件があってな…変わってくれ」
『はっ! 只今!』
ゲオルクが通信をかけてきたことに、受け取った通信兵は驚きつつ、ゲオルクが望んでいる相手と変わることにした。
『はい。今変わりました、マイントイフェル上級大将…』
通信兵に変わって、低音の良い声が出てきた。
「お前も律儀だな…同じ上級大将だろう?」
『いえいえ、貴方は先任でありますから、敬意を払うのは当然であります』
「ふっ、ヴォルニッツ元帥が気に入る訳だ」
『お褒めに預かり光栄です……それで、本日はどのようなご要件で…?』
「実はな…妙な艦が、我々の領域に入るかもしれないのだ」
『妙な…艦でありますか?』
「嗚呼、もしそのソイツが、我々の領域で暴れ始めた暁には、君に対処して欲しいと思ってな」
『何故私なのでしょう…?』
「先程、その艦とグローズ率いる第28任務部隊が激突したのだが、単艦だというのに、その艦はほぼ損害を受けることなく、任務部隊に大きな被害を出したのだ。となると、艦長は相当な知略を持つ者と思える…」
『そこで、何かあった時は、この私…いえ、第一機動艦隊で対処して欲しいと』
「嗚呼、頭が固い懐古厨共は、呆気なくやられると思うからな…私と似ている君であれば、対処出来ると思ったのだ」
『分かりました。それでは、期待にお答えできるよう全力を尽くしましょう』
「頼む」
何か起きた時の対処を通話相手に任せることにして、ゲオルクは通話を切った。
「さて、後は例の艦が出てきた時は頼んだぞ…エルムート・ロンヴァイン上級大将…」
ゲオルクはそう呟き、グローズを処罰する準備を始めた。
そして、のちに名将エルムート・ロンヴァイン上級大将と、名艦長空間機動戦艦スサノオ艦長山明真希は、歴史に残る戦いをすることになる。




