第25話 最悪の接触
マルバーゼ星系。アンドロメダ銀河の中心部付近に位置する星系であり、第一次銀河間大戦、第二次世界大戦の激戦地となった場所である。
大戦後は、ジークダルク帝国が星系内にある荒廃した惑星に建造した惑星級要塞『トメルヴァルト』を、地球政府が改修して作られた要塞惑星『スヴォル』による国境監視が行われていた。
しかし、ゾンビパンデミック発生時に、要塞惑星スヴォルでもまた、ゾンビパンデミックが発生してしまい、地球政府はロボのみによる監視に切り替えてお茶を濁している。
その星系に、葉巻型の宇宙船で編成された艦隊が巡航速度で進んでいた。
艦隊は、ジークルランド改級高速打撃型戦艦1隻、バルディエン級軽装型巡洋艦6隻、デクレーン級護衛型駆逐艦10隻で編成された神聖ジークダルク帝国の任務部隊であり、現在は無断で星系内を進んでいる。
その任務部隊の旗艦、ジークルランド改級高速打撃型戦艦五番艦『シュレスタイン』の艦橋では、
「全く、何度こんなことを繰り返せれば、上は気が済むんだ」
オールバックの金髪で、黒色の瞳をしている任務司令官グローズ・ベージュリンが愚痴を零していた。
「これも任務ですよ長官…ゾンビパンデミックにより、弱体化している連盟の連中が、今どのように国境付近を守っているのか…それを調べなければ、対共栄連盟作戦に支障が出てしまいますよ」
「ふんっ…大軍で押せば、こんな面倒なこともしなくていいものを…あの若造は、心配し過ぎなんだ。陛下も陛下で、何故あのような奴らを…」
「……」
シュレスタイン艦長フェルナンド・ルクアードは、任務に対して愚痴を言うグローズに、内心呆れる。
現在の帝国軍は、フェルナンドが言った通り、現在の国境付近の防衛体勢を調査するため、帝国軍ゲオルク・フォン・マイントイフェル上級大将の命令により、何度も共栄連盟の領土に領域侵犯を繰り返し、その際に通告に来る国境守備隊の数とどの時間帯に活発に活動しているかを調べているのだ。しかしこの命令は、古来からの大軍による圧倒的な数による蹂躙を好む者が多い帝国軍にとって、グローズのように不服に思っている者が多くいる。
「艦長、要塞惑星スヴォルから、退去命令が出されていますが…」
「いつも通り無視だ。奴らの艦隊が来るまで、現在の進路を維持…長官、それで宜しいですよね?」
「……嗚呼」
いっその事、退去命令の通知に来た艦隊と戦闘を行い、そのまま戦争に持ち込んで、弱体化しているであろう共栄連盟を叩きのめした方が良いのではない?と、内心で思いつつ、グローズは生返事で返す。
そして、神聖ジークダルク帝国の任務部隊は、巡航速度を維持しつつ、恒星マルバーゼへと向かって行った。
〇
『跳躍完了』
スサノオは通常の空間跳躍を何度も繰り返し行い、数日かけてようやくマルバーゼ星系に辿り着いた。
『艦内に異常なし。マルバーゼ星系7番惑星アラムンドを確認』
「よし、機関再起動。このまま要塞惑星スヴォルへ向かう」
「よーそろー」
左斜め前にあるガス惑星を目視で確認した後、スサノオは第5惑星にあたるスヴォルへと向かう。
『要塞惑星スヴォルから打電』
「読んでくれ」
『はい。我、共栄連盟重要拠点要塞惑星スヴォル。貴艦の所属を答えよ…とのことです』
「…返信。我、独立傭兵艦スサノオ。我が艦は、神聖ジークダルク帝国へ帰還を希望している者を故郷に届けるためにこの宙域に来た。厚かましいことは重々承知だが、そちらの非武装艦や小型艦でも良いので、1隻程度船が欲しい」
『了解』
オルタが要塞惑星スヴォルに、真希の言葉をそのまま伝えると、少し時間が空いた後に、
『スヴォルから返信。ゾンビパンデミック発生により、与えられる船は無いとのことです』
「そうか…やっぱりか…」
スヴォルから船を貸せれないという返信に、真希は頭を抱える。
(船を用意できないとなると、フラリアを送り届けることなんて出来ない…かと言って、ここに置いていくのもダメだ…神聖ジークダルク帝国の領域を大きく迂回しつつ、故郷から比較的近場まで送るべきか…?)
両腕を組み、真希は事前に考えていた代わりとなる策を考え始める。
その時、
『スヴォルから代案が来ました』
「何…?」
スヴォルから提案が来た。
『現在、領域侵犯を行っている神聖ジークダルク帝国の部隊があり、その部隊に頼むのはどうかとのことです』
「……うーむ…」
スヴォルからの代案に、真希を難しそうな顔を浮かべ悩む。
「僕的には、良い案って思うんだけど、何がダメなんだ?」
悩んでいる真希の姿を見て、碧は不思議そうに理由を尋ねる。
「……数年前程から、帝国では民族浄化政策が行われているんだ…もし、奴らにフラリアを渡したら、そのままやられてしまう可能性が十二分にある…」
「民族浄化政策って…そんな大昔のことじゃあるまいし…それに軍だよ? 人々から頼られる軍人がそんなことを…」
「例え、正規軍がやらなかったとしても、奴らには皇帝直属の親衛隊がやるはずだ」
「……な、なら! 変装させてみたらどう? そうしたら多分…」
「変装か……碧、頼めるか?」
「うん。ナディアと一緒に、フラリアちゃんをばっちり、帝国の一般人に変装させてみるよ!」
「それじゃあ頼む。オルタ聞いたな? 必要な道具をできるのであれば、作ってやってくれ」
『畏まりました』
「よし、スヴォルから帝国軍艦隊の位置情報を手に入れ次第、そっちに舵をきれ」
フラリアを帝国の都市に居るような一般人に変装させ、艦隊に保護してもらうという事が決まり、スサノオの工事では変装に必要な道具が急遽作られ始め、真希と碧は説明のためにフラリアの元へと向かうことにした。
その頃、フラリアは食堂で朝食でナディアが作ったフレンチトーストの10枚目を食べていた。
「フラリア、ちょっといいか?」
《何でしょう?》
口の中にあったフレンチトーストの1部を飲み込んだフラリアは、いきなり真希と碧が来たことに少し困惑していた。
「俺達は君を途中まで届けると言ったことを覚えているか?」
《はい。確か、何処かの星で船を借りると…》
「それなんだが…無理だったんだ」
《なんと…》
「それで、色々と考えていたんだが…どうやら、領域侵犯をしている帝国軍艦隊が、この近くに居るらしいんだ。それで、今から碧やナディアからメイクをしてもらい、変装して保護してもらうのはどうだろうか? 正直、この船で君を故郷まで届けたいのだが……流石にリスクが高いからな…無論、君が嫌だと言うのであれば、別の方法を考えるつもりだ。正直に言ってくれ」
真希からの説明を受け、フラリアは黙り込む。
そして、
《私、変装して潜り込みます!》
フラリアは、少し震えながらも決意を固めた目で、真希を見ながら意志を伝える。
「…そうか。ナディア、碧…フラリアの変装を頼む…必要な物かあれば、工場の方に行って、伝えてやってくれ…今頃髪染めを作っているはずだからな」
「うん…!」
「…了解ネー…!」
フラリアの決意を見た真希は、変装をナディア達に頼み、自分は帝国軍艦隊と交渉を行うために、艦橋へと上がって行った。
〇
マルバーゼ星系第10番惑星『ランクーバ』。
その惑星の沖合にて、スサノオが帝国軍の任務部隊を待っていた。
『レーダーに感あり。帝国軍任務部隊です』
「数は?」
『戦艦1、巡洋艦6、駆逐艦10です』
「スヴォルから言われた通りだな…オルタ、例の文を打電してくれ」
『畏まりました』
帝国軍の任務部隊を確認したスサノオは、一通の電文を相手に送る。
内容は、以下の通りである。
『こちら、独立傭兵艦である。本艦には、貴国の遭難者を保護しており、故郷に返すためにも、貴艦隊で預かって欲しい。なお、遭難者を預かり次第、可能であれば要塞惑星スヴォルからの指示に従い、現宙域から離脱せよ』
この電文を受け取った旗艦シュレスタイン艦橋では、前代未聞の出来事のため、乗組員達が少し騒然としていた。
「艦長、どう致しましょう…?」
「遭難者であれば、保護するべきでは…」
「……そうだな…」
フェルナンド達が悩んでいたその時、
「攻撃しろ」
と、今まで黙っていたグローズが口を開いた。
「ちょ、長官。それは少し、不味いのでは…?」
「こんな物罠に決まっている。無防備に近づいた瞬間、やられて終わるだけだ」
「それでも、あの船は明らか地球の船です。攻撃するのは…」
「奴は独立傭兵と言った。つまり、共栄連盟の各国や企業に所属していないということだ。長官命令だ。あの船を沈めろ」
「…はっ……」
フェルナンドの意見を無視して、グローズは艦隊全体に攻撃命令を下した。
そんなことを知らないスサノオ艦橋では、1人艦橋に居る真希が、遠くにある帝国軍任務部隊を目視で見つめながら、何処か嫌な予感を感じていた。
「……来る!」
艦隊で発光が起きたのを真希が見たその瞬間、
――ドゴォンッ!!
複数の光線が飛んできて、そのうちの1本がスサノオの船体に直撃し、爆発を引き起こして、艦内が大きく揺れる。
「総員第一種戦闘配置! 機関出力最大! オルタ、ここは逃げる。舵をこっちに渡してくれ!」
『了解』
次々と任務部隊からの光線が飛んでくる中、オルタから舵を受け取った真希は、スサノオを反転させて、逃亡を図る。
『ミサイル、複数接近』
「対空戦用意! 第三主砲、拡散型に切り替え」
『第三主砲、拡散型切り替え完了。目標ロック、自動追尾セット完了』
「撃ち方始めっ!」
接近してくるミサイルに対して、スサノオは全力で逃げつつ、第三主砲を撃ち始めた。
第三主砲から放たれた光線は、途中で無数の光線に分散し、次々とミサイルを撃ち落とす。
「やられっぱなしというのも癪だ! 艦尾魚雷、全弾撃てぇ!」
追ってくる帝国軍に、真希はお返しとして6本の魚雷を放ち、ダメ押しとして追加で更に6本の魚雷を放ち、計12本の魚雷が帝国軍任務部隊へと向かう。
魚雷は12本中8本が撃墜されたが、残りは4本は、2本がシュレスタインの主砲と側面に命中し、主砲1基を使用不能にさせ、1本が巡洋艦の艦尾に命中、機関に損傷を与え、最後の1本は駆逐艦に命中して大破させた。
「…電磁防壁、艦首に集中展開! 俺の合図と共に、機雷を投射してくれ!」
『了解』
何か良い策を思いついた真希は、オルタに機雷の用意を頼むと、スサノオの速力を更に上げる。
そしてスサノオの速度が一定まで上がると、真希は前転をするかの如く、スサノオの速度を維持したまま縦に半回転させ、艦首を帝国軍任務部隊の方へと変える。
「か、回避ぃーー!」
自分達と上下逆さまのままの状態で突っ込んでスサノオに驚いたグローズは、スサノオを避けるため船を動かさせた。
「機雷投射!!」
スサノオが帝国軍任務部隊の陣形内を突っ切る中、真希はオルタに命令して、爆雷投射器から機雷を放たせる。
「な、舐めやがって…全艦回頭、奴を叩きのめせ!!」
スサノオにビビっていたグローズは、スサノオに対して怒りを感じ、追撃を下令する。
だが、
――ドゴォンッ!!
回頭しようとした時に、謎の爆発と共に、シュレスタインの船体が大きく揺れる。
「どうした?! 何があった!?」
「き、機雷です! 我々の周囲に大量の機雷が! これでは身動きが取れません!」
「何だとぉーーー?!!」
乗組員からの報告に、グローズは驚きながら窓の外を見る。
すると、スサノオから放たれた機雷が、陣形内の至る所にばら撒かれており、それに被弾したであろう何隻かの艦から、黒煙が出ていた。
そして、そんな帝国軍任務部隊の姿を、真希は艦橋のモニターで見ていた。
「これで、奴らの動きは当分封じ込めれる…機関最大! このまま跳躍だ!」
しばらくの間、追うことは出来ないと判断した真希は、スサノオを別の宙域に向けて空間跳躍させる。
「次会った時は、必ず沈めてやるからなぁー!!」
フェルナンド達が機雷の対処に、動いている中、1人スサノオを映し出したモニターを見ていたグローズは、血管を浮かび上がらせながら、スサノオに復讐することを誓った。




