第24話 帝国を支配する狂人
神聖ジークダルク帝国。
アンドロメダ銀河を古くから支配している国であり、元々はジークダルク帝国という名だったが、エルロート事変をきっかけに地球率いる共栄連盟と第一次銀河間大戦を起こし大敗。更に内戦が起きたことより、ヴァルス共和国と一時的に民主的な国になったが、領土を求めた第二次銀河間大戦で、共栄連盟に再び敗北したことにより、二度目の内戦が勃発。そして、その内戦でジークダルク帝国派閥が勝利したことにより、改めて建国されたのが、神聖ジークダルク帝国である。
その星都である惑星『アルヘン』の帝都ノルトファーレンでは、3代目皇帝ハインツ=アイレウス=ジークダルクが、帝国中に向けて演説を行おうとしていた。
ハインツが演説を行おうとしているレッペーマ広場では、40万人にも及び帝国臣民や政府関係者などが集まっており、ハインツが演壇に登ってくるのを今か今かと待っていた。
そこに、黒髪で白眼の宰相ヴァルテン・ヘルントが演壇に上がって来た。
「宰相のヴァルティン・ヘルントである。本日は、皇帝陛下から我が国にとって、重要な発表がある。一文一句、聞き逃さぬように注意するように…! では、皇帝陛下が話されます」
ヴァルテンは民衆に対して忠告をしたのち、演壇から降りた。
そして、そこに金髪に白眼の高貴な服装にコートを羽織った男が上がってくる。
皇帝万歳! ハインツ万歳! 皇帝万歳! ハインツ万歳!
男が演壇に姿を現すと、民衆は声を添えて神聖ジークダルク帝国式の敬礼をしながら、叫び始める。
彼こそが、神聖ジークダルク帝国現皇帝のハインツ=アイレウス=ジークダルクである。
「…」
ハインツが片手を上げると、叫んでいた民衆の声がぴたりとやむ。
「諸君、我が帝国に住む臣民諸君! 本日は実に素晴らしき日である。先日、愚かにも我々に反乱を起こして来たポトアル人の一掃が完了した。これが意味することは何か…そう、長年我が帝国に寄生してきたウジ虫共が居なくなったことを意味するのだ! これをもって、帝国は新たな時代へと突き進むことができると、この場で断言しよう! そこで諸君らには、新たな時代に向けて、より一層祖国のために尽くしてほしい! そうすれば、我が帝国は未来永劫、不滅の帝国として君臨すると約束しよう!」
ハインツの演説に大きな歓声が起き、ハインツは微笑みながら民衆に向けて手を振る。その時だった。
――バァンッ!
民衆が歓喜の声を上げる中、一つの銃声が鳴り響いた。
「ハインツッ!! 覚悟ぉーーーー!!!」
そのように叫びながら、護衛に扮していた反乱軍らしき男達が、護衛に支給されていた光線ライフルの銃口をハインツへと向ける。
だが、その直後に複数の発砲音が会場に鳴り響き、ハインツではなく男達が次々と地に伏せた。
「一体いつから、私が銃を装備していないと思っていたのか? 愚か者共よ」
咄嗟に片手に持った銃をホルダーに戻しながら、ハインツは男達を愚弄し、会場には先程より大きな歓声が上がる。
ハインツは銃を撃つ際に、倒してしまったマイクを立て直すと、
「諸君。君達とはまだまだ話したいことがあるが、どうやら我の命は愚か者に狙われているらしい。我自身だけなら良いが…それに臣民が巻き込まれてしまう事態だけは、避けたい。本日はここまでとさせてもらう…だが、これだけは言わせてもらおう。我が帝国は諸君らと共にあると!」
皇帝万歳! ハインツ万歳! 皇帝万歳! ハインツ万歳!
部外者の乱入があり、ハインツは演説を切り上げることにしたが、皇帝が易々と反逆者を制圧したのを見た民衆は、不満に思うどころか、大きな歓声を上げ、ハインツを称えた。
そしてハインツは、民衆に称えられながら演壇から降りて、専用のエントランスから専用車に乗り込み、自身の居城であるノルトファーレン王宮へと向かった。
〇
ノルトファーレン王宮に着いたハインツはコートを脱ぎ、執務室へと入った。
「それで、例の芝居の効果は良かったか?」
「はい。充分に…」
「1人で嘘を付けば、すぐにバレてしまうが…組織で1つ嘘を付けば、多くの者が信じ込み、嘘は真実となる…実に面白い現象だな」
「その通りでございますね。陛下」
執務室の席に座ったハインツは、共に来たヴァルテンと顔を合わせて笑みを浮かべる。
彼らが言う嘘。それは、先程演説に起きた反逆者による暴動のことである。
暴動は、臣民のハインツの信頼を高める為だけに行われた物であり、ハインツに銃を向けた反逆者は、宰相が用意した忠誠が高い役者である。
「血のり付きのチョッキを付けているとは知っていたが、余りにもリアルさに、我までもが本当に死んだと思ったぞ」
「勿体なきお言葉…奴らにこのことを聞かせてやれば、大喜びすることでしょう」
「なら、役者に先程の言葉と共に金を多く払っておいてくれ」
「畏まりました。それではそのように致します」
「うむ…では、我はこれよりクライリヒとの話があるから、悪いが席を外してくれんか?」
「はっ。それでは失礼いたします」
ハインツに対して敬礼をした後、ヴァルテンは執務室から退出して行った。
そして、その数分後、執務室の扉がノックされる。
「入れ」
「ハインツ万歳!」
ハインツから入室の許可を貰った黒髪で灰色の目をした男は、敬礼をしながらハインツを称える。
「クライリヒか…今日はどうしたのだ?」
「はっ、兼ねてより秘密警察が調査を行っておりました反乱分子についてのご報告を伝えに来ました。こちらが、報告書となっております」
ハインツがクライリヒと呼ばれた男は、報告を纏めたデータが入っているタブレットをハインツに渡した。
男の名は、ラハルト・クライリヒ。帝国親衛隊長官であり、皇帝の狂信者や黒き孤狼などと呼ばれている者である。
「ふむ…」
ラハルトから渡された報告書に、ハインツは軽く目を通す。
「この件は、全て君に任せよう。自由にやりたまえ」
「ありがとうございます。これ以上、奴らが幅を利かせないように、努力致します」
「ああ、頼むよ」
ハインツがラハルトに全て任せたその時、再び執務室の扉を誰かがノックする。
「入れ」
「失礼致します。皇帝陛下…」
入ってきたのは、執事服を身にまとった初老の老人だった。
フラート・リューデェック。ハインツに仕える執事長であり、小さい頃からハインツの世話をしている。
「リューデェックか、どうした?」
「はっ、陛下にお客様が来ておられます」
「客人だと? 呼んだ覚えがないが…」
「それがナール様でありまして…」
「……分かった。我の準備が終わり次第、ナールを玉座の間に案内したまえ」
「畏まりました」
「クライリヒも着いてこい…恐らく面白いことが起きる」
「では、お言葉に甘えて…」
フラートに言われ、ハインツはコートを羽織った後、ラハルトと共に玉座の間へと向かった。
〇
ノルトファーレン王宮内玉座の間。
そこに、コートを羽織り玉座に座るハインツ、護衛としてハインツの両側に立つフラートとラハルト、そしてハインツの目の前に跪いている者とその護衛らしき2体のロボが居た。
「久しいなナール」
ハインツは目の前で跪いている緑髪で眼鏡をかけている男をナールと呼ぶ。
「皇帝陛下もお元気そうでなによりです。先程、陛下が襲撃されたと聞いた時はヒヤリとしましたよ」
「ふっ、そうお膳立てした所で、何も出んぞ?」
「そのようなことは思っておりませんよ。むしろ、今回は我々の方から、陛下と取引を行いたいと思いまして…」
「ほう? 申してみよ」
親しい仲であるハインツと緑髪の男は軽い世間話を話すと、それぞれ表情を引き締めて取引を始めた。
「本日、陛下に売りたいと思い持って来た商品は、こちらでございます」
緑髪の男が指を鳴らすと、護衛として付いて来ていたロボが、フラートにタブレットを渡した。
「そちらに、今回お売りする商品について詳しく記載されております。どうぞご観覧ください」
「ふむ…」
フラートがタブレットが安全だと確認した後、ハインツはそれを受け取り内容を見始めた。
「ほう、対恒星兵器ルインXか…実に興味深いな」
タブレットに記載されている兵器、ルインXの説明を見たハインツはそれに興味が湧いて来る。
「興味を持っていただき幸いです。本日は、そのルインXを陛下に買い取っていただきたく思いまして…」
「成程、それで? 値段はどれ程だ?」
「そうですね…開発した我々でも、量産は出来ていませんので…そうですね…1つ、2640兆カザルクでいかがでしょうか?」
ハインツが買うに気になったため、緑髪の男は少し考えた後にルインXの値段を伝える。
なお、2640兆カザルクは日本円にすると、約2400兆円である。
「我々の国家予算の三分の一とは、大きく出たな…」
「それほどまでに、ルインXは貴重なのです。ですが、陛下には色々と便宜を図っていただいているので、1つ、800兆カザルクでお売り致します」
「ふむ……分かった。その値段で、2つ程買おう」
「ありがとうございます…! それでは、合計で1600兆カザルクとなります」
「後で支払っておこう。それで、その商品はいつぐらいに届く?」
「そうですね…1つは既に私の手元にございますので…置き場所さえ用意していただけば、すぐに届けることができます。もう1つは…そうですね。工程を考えますと、最短で半年で納品することができるかと思います」
「なるほど…では来るのを楽しみに待つとするか」
「それでは、こちらの書類にサインをお願いいたします」
「リューデェック、ペンを頼む」
「畏まりました」
その後、緑髪の男が用意した文字がびっしりと書かれている紙の下の空欄に、ハインツはリューデェックが持って来たペンでサインする。
「はい。陛下のサインをしっかりと確認致しました。置き場所が決まり次第、お手数ですが、いつもの所で船を止めていますので、そちらの方までご連絡ください。すぐさまルインXをご用意いたします。それではこれにて失礼致します…」
緑髪の男は深々と頭を下げた後、書類とタブレットを持って、護衛と共に玉座の間から出て行った。
「どうだったかな? クライリヒ。面白かったであろう」
「はい。恒星を人為的に爆破させることができるというのは、俄かに信じがたいですが、それが本当であれば、大変面白いと思います」
「そうであろう…それを我々が作れるようになれば…」
「分かりました。すぐにご用意いたします」
「嗚呼頼むよ……リューデェック、分かっていると思うが…」
「…陛下、申し訳ございません。最近耳が遠くなっておりまして…」
「ふっ、それでよい」
上手い具合にルインXの研究を進め、同等の兵器を作ることができれば、宿敵である地球政府を屈服させることができるとハインツは考え、笑みをこぼした。




