第23話 スサノオと地球政府
アリゾナとホウショウと共にスサノオが恒星ルーベックのステーションから避難民を助けてから2日後、スサノオは目的地であるマルバーゼ星系から約200光年という所まで来ていた。
「今日の跳躍はここまでにするか…」
スサノオが宇宙空間を進む中、艦長席に座っていた真希は、腕時計の針が夜の7時を指しているのを見て、空間跳躍を行うのを止めた。
「中々進めないねー」
「まぁな…アンドロメダが天の川銀河より大きいというのもあるが、シルリア星系で起きた謎の超新星爆発のことがあるからな…跳躍した直前、近くの恒星の超新星爆発に巻き込まれたとなったら洒落にならん。だから今は、通常の跳躍を繰り返し、跳躍完了後の冷却時間を短縮。そうすることで、跳躍後、緊急事態に対応しやすくなるからな。まぁ、仕方ないな」
「うーん…かっ飛ばしたい……」
「やめてね?」
「はーい……お腹空いたし、僕は先に食堂に行くね~」
碧は自動操作を起動し、操艦をオルタに任せて食堂へと向かって行った。
「それじゃあ、俺も食堂に行ってくる」
『畏まりました。あとはお任せ下さい』
「嗚呼、頼む」
そうオルタに言い残して、真希も艦橋から出て行き、食堂へと向かい始めた。
「今日の夕食は、確か…たらこパスタだったな……折角なら、俺の好物のキーマカレー作ってくれないかなぁ~…」
そんなことを呟きながら、真希を通路を歩き、食堂に入った。
「ヘーイ! お二人分のたらこパスタと、珈琲お待ちどうさまネー!」
「本当にありがとうございます。まさか、こうなるとは…」
「アルベルタは、忙しいから仕方ないネー…ほら、熱いうちに持って行くネー!」
「そうさせてもらいます」
真希が食堂に入ると、カウンターでシャルルが、2人分のたらこパスタと熱々の珈琲が入っているカップが乗っている盆をナディアから受け取っていた。
シャルルがこうしている理由は、デンクマール博物館を観覧した後、アルベルタが食事を届けに行かないと、食べない程に研究室に籠るようになってしまったからである。
「あっ、艦長さん! お疲れ様です!」
「そちらもお疲れ様」
「まぁ、好きでやっているので…それでは!」
すれ違いざまに、真希とシャルルは軽い挨拶なような会話をし、シャルルはそのまま研究室へ、真希はカウンターへとそれぞれ向かった。
「ナディア~、俺の分あるか?」
「勿論ネー! はい、真希の分!」
「ありがとう」
ナディアから自分の分を貰った真希は、美味しそうにパスタを食べているフラリアと、それに笑みを浮かべて見ている碧の近くに座り、
「いただきます」
と、一言かけてからたらこパスタを食べ始めた。
《おかわりください》
食べ始めたばかりの真希とは対照的に、たらこパスタを食べ終えたフラリアは、空になった皿をナディアの元に持って行き、そう伝えた。
「What's?! もうこれで6杯目ネー?!」
ナディアの驚きの声を聞き、真希と碧は顔をナディア達に向けた。
《ダメですか…? とても美味しくてつい…》
「……………………こ、これで本当に最後ネー…」
《ありがとうございます。ナディアさん》
フラリアの頼みに、ナディアは暫く葛藤した後負けてしまい、フラリアの皿に追加のたらこパスタを乗せる。そして、それを受け取ったなフラリアは、笑みを浮かべながら席へと戻り、たらこパスタを食べ始めた。
「付け合せ用に、多めに作っといて良かったネー…もう付け合せ用の分がないけど……」
感情がこもってないナディアの言葉を聞き流しつつ、真希はたらこパスタを食べ進める。
「ご馳走様」
一足先に食べていた碧は、真希より先に食べ終わり、空になった食器を片付けると、そのまままだ食べている真希と向かい合うように席に座った。
「……どうした?」
「いやー、僕用の武器を1つ作って欲しくてね」
「どういうのがいいんだ?」
「折角だし、君の銃と一緒にしようかな~って」
――ガシャーン!
キッチンの方から何かが落ちた音が聞こえたため、全員がそちらの方を向く。
「…Sorry…フライパン落としたちゃただけネー…心配ないネー」
「そ、そうか…それなら良かった」
先程以上に感情が込められていないナディアの声に、真希は少しビビりつつ、何も無かったことに安心する。
「それで、俺のワルサーと同じのがいいんだったか?」
「あれは冗談。本当は、GR203グレネードランチャーみたいなのが欲しいなーと思っているんだよ」
「確か…光線型のグレネードランチャーだったよな?」
フォークでたらこパスタを巻き取りながら、碧が欲しがっている武器を確認する。
GR203。米国企業のナイトウェポンズが開発した80mm口径の対物光線ランチャーであり、対戦車装備として、第二次銀河間大戦で活躍した代物である。
「そうそう。威力が高くてそこまで重くないみたいだからね。使ってみようと思って!」
「成程な…それじゃあ、デイムにそう頼んどく」
「ふふっ、ありがとう…!」
真希への頼みごとが終わった碧は、軽いスキップをしながら食堂から出て行った。
「ご馳走様」
碧を見送った後、たらこパスタを食べ終えた真希は空になった食器を片付け、碧専用のグレネードランチャーを作ってもらうため、デイムの元へと向かった。
デイムが居る兵器開発生産工場の前に真希はやって来たのだが、
「…極秘プロジェクト進行中、関係者以外立ち入り禁止…?」
という紙が扉に貼られており、真希は少し困惑しその場で唖然とした。
「……いや、俺は艦長だからある意味関係者か…」
張り紙にどう対処するか悩んだ真希は、少々強引な解釈を取り中へと入ってた。
中では金属を打つ音や溶接する音などが鳴り響いており、その中で小型ロボ達があっちに行ったり、こっちに行ったりを繰り返していた。
そして、
『ふーむ…新しい兵器が思いついたと聞いた時は、びっくりこいたが…こうして見ると面白い。開発者魂がこう、かっかっかと燃え上がってくる』
何やら真希とオルタが前に許可したFC計画とはまた別の計画書を見ているデイムが居た。
「……|SW計画《SecretWeapon》…?」
『おうよ! アルベルタちゃん発の最強兵器開発の計画だ、が…や……』
忍び足で近づき、デイムが持っている計画書を軽く見た真希は、自然な流れでデイムにSW計画について尋ね、デイムは意気揚々と話すが、その途中で後ろの人物が、真希であることに気付き、冷や汗がだらだらと出ているような感覚を感じる。
「で? 俺達の許可は取れているのかな…?」
『か、かかかか艦長!? こ、これはー…その―…ま、まだ、アルベルタちゃんと話し合っとる段階だで、完全に意見がまとまってから許可を取ろう思っとって!』
「……まぁ、それだったんならいいよ」
『理解してもりゃーてありがてゃー』
真希に怒られずに済んだことに、デイムは一安心する。
「それより、作って欲しい武器があるんだが…いいか?」
『おうよ! この俺にどーんっと任せてくれりゃあ、どんな武器でも作ってみせよう!』
「それじゃあ、GR203グレネードランチャーを参考にして、碧専用のグレネードランチャーを作ってくれないか?」
『分かった。バッチリしに作り上げるで、数日程時間をくだせゃー』
「勿論だ。それじゃあ、後は頼んだぞ」
『任せてちょう!』
碧専用の武器開発をデイムに頼み、真希は兵器開発生産工場から出て、そのまま寝るために自部屋へと向かった。
〇
同時刻、地球のラグランジュポイントにある政府専用コロニー『ニューエデン』にある連邦大統領臨時公邸では、茶髪に灰色の瞳をしているアメリカ系地球人の地球統一連邦大統領ロバート・F・ジェラルドが、各大臣と共に会議室に集まって居た。
「……それでは諸君、そろそろ結論を決めようではないか。今、大宇宙共栄連盟の領土内で活躍をしている独立傭兵艦スサノオを敵と見るか…味方と見るかを」
水を一口飲み、楕円形の大きなテーブルにまだ少し水が入っているコップを置いたロバートは、席に座っている者達の顔を見渡す。
「これほどまでに、多くの人たちを救ってくれているんだ! 彼らを敵として決めつけるなぞ、もっての他ですぞ!」
茶髪に碧眼というドイツ系地球人の国防大臣ヘルムート・フォン・ラインハルトは、テーブルを片手で強く叩きながら、スサノオを味方と見るべきだと、強くロバートに進言する。
その一方で、
「国防大臣、貴様は馬鹿か! かつての地球政府が、好意的に未知の存在に接触したら、大戦までに発展したことを歴史の授業で習わなかったとは言わせんぞ!! 大統領、奴らが敵であるという可能性がある以上、全軍に警戒態勢並びに、追い払うようご命令をお願いします!!」
黒髪に黒目という日本系地球人の副大統領村田恭治は、ロバートのことを強く非難しつつ、スサノオを敵として扱うべきだとロバートに進言する。
少し前、共栄連盟内では、スサノオが次々と窮地の人々を助けるという行動が噂になっており、ロバート達地球政府は、接触した軍や保護した人達からその存在を確認していたのだが、ゾンビパンデミックへの対策に追われ、スサノオへの対応を保留していた。だが、二日程前に、スサノオによって救われた恒星ルーベックの人達の一部が、スサノオの写真をネットに上げて褒めたたえたため、今まで噂程度でしかなかったスサノオの存在は、瞬く間に広まり、スサノオについて知らない人たちは、地球政府にどのような対応をすれば良いのかを求めるようになっているのだ。
そのため、ロバート達は時間を作り、スサノオへの対応について会議して居るのだが、ヘルムート率いる穏健派と恭治率いる過激派が意見をぶつけ合ってしまっているため、話は全く進んでいない状態である。
「そうやって、相手を恐れ続けていれば、我々は内部から崩壊してしまうぞ! 人を信頼してこそ、仲間となり、共になるのではないか?!」
「貴様のような能天気な奴のせいで、エルロート事変が起きたのではないか! 常日頃から他人は敵と思っていなければ、いいようにこき使われて死に至るぞ! それに、艦長や乗組員について詳細な情報がない中、どう信じろというのだ!!」
2人を筆頭に、穏健派と過激派の意見が激しくぶつかり合う。
なお、恭治が言うエルロート事変とは、惑星『エルロート』で起きたジークダルク帝国による探査隊の虐殺事件のことである。この事件は今まで異星人と温厚な態度を取り続けていた地球政府の方針を変えた事件として、有名である。
「………では、双方の意見を取り入れ、スサノオへの対応は何が起きても良いように基本的に警戒。だが、彼らが救出した生存者の保護を求めてきた場合は、すぐに受け入れる。そして、同時並行に彼らについて詳細な情報を調べる…それで良いな?」
何時間かけても会議が終わらないと判断したロバートは、穏健派と過激派の意見をまとめた案で良いかと尋ねた。
「まぁ、それでしたら問題ないかと…」
「……大統領がそう言うのではあれば、問題ありません」
ロバートの提案に、ヘルムートは納得し、恭治は少し不服そうな表情を浮かべつつ、それぞれ賛成する。
「では、地球時間で明日の午前8時に発表するとしよう。それでは、本日は解散する」
ロバートがそう言い残して、会議室から出て行くと、集まって居た大臣達もそれぞれの家に向けて帰宅して行った。
翌日、地球政府はスサノオへの対応について、会議でロバートが決定した通りのことを発表した。




