第17話 次なる銀河
惑星ユダの中央総合研究所。
そこにある所長室は、壁には様々な研究資料が、床には飲み終えたペットボトルや飯の残骸が散らかっている汚部屋となっており、その汚部屋の執務机には、丸眼鏡の男がタブレットと睨み合っていた。
「…」
眼鏡男がタブレットで見ているのは、惑星デメテルで起きたブラックワスプとスサノオの戦闘を記録した映像だ。
「ブラックワスプの戦術Aを無傷で突破とは…どれだけ高機動なんだあの戦艦は…」
とあるB級艦から撮られた戦術Aを掻い潜りジェスパーに接近する映像を見つめながら、眼鏡男は呟く。
余談だが、この時代の戦艦に対する価値観は、鈍足だ航空機に弱い金食い虫というものではなく、対地、対要塞の要となる高機動高火力の主力艦となっていた。その理由としては、第一銀河間大戦時に敵惑星への強襲上陸や小惑星を改造した要塞の攻略に、手間取ったからである。当時海の上で主流だった航空機決戦思想をそのまま宇宙へと持っていき、地球政府は適応させたが、要塞化された惑星主要都市や、小惑星型要塞の攻略、装甲が強靭な巨大艦などには、12.7cmの粒子砲は通用せず、艦載機による波状的なミサイル攻撃は効果はあったものの、1つの要塞のために高価なミサイルが何百発も使うことになってしまっていたのだ。第一次銀河間大戦は大宇宙共栄連盟側の勝ちとなったが、地球政府は要塞や巨大艦に通用し安価で生産できる兵器開発に追われることになった。その兵器開発を任されたヴィッツ・カールストンは、半年間色々な案を考えたが、良い答えが出ずに煮詰まり、気分転換に日本観光を行った。そして、その際に横須賀に保管されている戦艦三笠を見て、なにかに気づくと狂喜乱舞した。彼が見落としていた対要塞兵器、砲弾であった。数百年間、海の上では戦艦は不要の長物とされていたが、宇宙空間であれば、活躍する場面が多い。砲弾はミサイルと比べると安価で、しっかりと生産体制を整えれば、量産しやすい。更に宇宙空間では、場所にもよるが、空気抵抗や重力の影響がなく、放たれた砲弾は真っ直ぐと発射された勢いのまま飛んでいく。このことに気づいたヴィッツは、直ぐに政府にこのことを伝えた。その結果、地球政府は数百年となる戦艦、シキシマ級の建造を行った。そして、それらの戦艦は、第二次銀河間大戦に要塞攻略に活躍し、試験的に導入していた機動性重視の戦艦が想像以上の成果を出したことにより、大宇宙共栄連盟は航空機決戦思想から、航戦混合決戦思想へと移っていった。
話が少し長くなったが、この時代では戦艦は高機動が当たり前であり、更にスサノオが建造されることになった八八銀河艦隊計画の艦艇は、第二次銀河間大戦時の戦闘データを元に、従来の設計図に改良や強化がふんだんに行われているため、操舵手の腕が良ければ、ミサイル群を避けることも可能である。
「…それにしても、X艦の航路は一体どうなっているんだ…惑星ユダに来て、神星に向かうと思えば、今度は反対方向の惑星デメテル? 奴らの考えることは分からん」
トワイライト目線のスサノオの不可解な行動に、眼鏡男は頭を抱える。
暫く思考を巡らせた眼鏡男は、はっとスサノオの行先が、とある場所だと思うと、タブレットの画面を切り替え、とある人物に電話をかけた。
『は~ぁ~い! 貴方様からの方から電話とは、珍しいでありませんか! 一体この私に何の用ですか?』
「……」
電話に出た男の嘲笑うかのような敬語に、眼鏡男は電話を切りたくなるが、その気持ちをぐっと抑えた。
「前に言ったX艦が、そっちに向かっている可能性が大いにある…」
『ほぅ? それはまたどうしてそう思うんですか?』
「…恐らく、奴はデメテルに食料確保の為に訪れたのだと推測ができる。だが、それはわざわざデメテルに行くかずとも、できる事だ。なら、何故デメテルで補給を行ったか…簡単だ。行先の道中にデメテルがあったからだ。そして、そこから真っ直ぐ行ったとすれば…」
『私がいるアンドロメダ銀河に当たる…そういうことですね?』
「そういうことだ」
『ふむふむ。それでは、神聖ジークダルク帝国を利用するとしましょうか!』
「あの狂人共をか?」
『幾ら狂犬と言っても、使いようですよ! 嗚呼それと、例の兵器の試験運用を行いますが…見に来られますか?』
「結構です。あれはこの私が開発した兵器ですよ? 念の為試射が行われるだけで、効果は書類に書いてあるとおりのことが、100%と起きますので」
『相当な自信ですね~』
「当たり前だ。何年かかったと思っている。あれに関しては、私の最高傑作と言っても良い!」
『それであれば、神聖ジークダルク帝国にも高額で売ることができますねぇ~』
「んっ? おい待て今なんて」
『それでは、私はこれで~…またお会い致しましょう!』
「おいコラ! 待て!」
眼鏡男が止めようとするも、通話相手は容赦なく電話を切った。
何度か掛け直すが、相手は着信拒否にしたようで、時間を無駄に消費しただけだった。
「………あのピエロ野郎おぉーーーーー!!!」
研究者にとって大切な時間を無駄に浪費されたことにより、眼鏡男は怒りのあまり大声で叫ぶ。その声は、研究所内を巡回しているゾンビやロボがビクッと肩を竦めて驚く程であった。
〇
惑星デメテルを後にしたスサノオは、天の川銀河の最端の空間に居た。
『間もなく、天の川銀河を出ます』
「分かった…オルタ、|銀河間超長距離空間跳躍の用意を始めてくれ」
『了解』
天の川銀河から出るという報告を受けた真希は、オルタに新たな指示を出した。
|銀河間超長距離空間跳躍。銀河と銀河の間に広がるボイド空間を一気にワープするために編み出された超長距離空間跳躍をも超える距離を飛ぶ超光速航法である。但し、行うためには膨大な跳躍計算や、高エネルギーが必要であり、どれか1つが不足すれば、船が亜空間に閉じ込められる事態になってしまうので、万全な準備が必要である。
宇宙空間を進んでいたスサノオは、噴射ノズルを停止し、更に艦内の電源を非常用電源に切り替えて可能な限りエネルギーを消費を抑え始めた。
「…艦内放送を頼めるか?」
『畏まりました』
少しばかり薄暗くなった艦橋で、真希は館長席のマイクを手に取り、艦内放送を始めた。
「総員に告ぐ。こちら艦長だ…本艦はまもなく、|銀河間超長距離空間跳躍に移る。本艦にとって、初の|銀河間超長距離空間跳躍だ。何があるかは予測することは出来ん。故に、総員直ちに宇宙服を着用、その後|銀河間超長距離空間跳躍を行う。繰り返す、本艦はまもなく|銀河間超長距離空間跳躍を行う。総員宇宙服を着用せよ!」
艦内放送が終わると同時に、スサノオ艦内には、オルタの声で、宇宙服を着用するようにという放送が繰り返し行われる。
「オルタ、進捗はどうだ?」
宇宙服を身に纏った真希は、オルタに進捗具合を訪ねた。
『跳躍計算は完了致しました。エネルギーが必要数に到達するまで、あと2分ですので、終わり次第|ズマを放ち、一気に亜光速で宇宙空間を進み始める。
(スサノオが向かうのは、2度も大戦の戦場となったアンドロメダ銀河…彼の地を支配する神聖ジークダルク帝国では、民族浄化が行われているという噂を聞く。フラリアを故郷に返すという行為に、鬼が出るか蛇が出るか……まさしく、神のみぞ知ると言うやつだな)
始まったカウントダウンが数えられる中、真希は1人、アンドロメダ銀河に赴くことについての気持ちを浮かべる。
「……行ってくるよ。父さん…アンドロメダ銀河に!」
『0』
真希は帽子を一瞥した後、カウントが0になる瞬間、正面に顔を向けて空間跳躍による次元振動に備えた。
『跳躍』
亜空間へと突入して行った。スサノオが消えた空間には、まるで何事もなかったかのように、空間が広がるだけだった。




