第14話 星喰らいの大虫
スサノオは空間跳躍を行った空間から、5光年程離れた空間に出てきた。その空間には、生まれたばかりの恒星を中心に、無数のアステロイドが恒星の重力に捕まり、公転していた。
「……アステロイドベルト…また面倒な宙域に出てきたな…」
「岩石が一杯デース」
「磁石みたいな奴で弾き飛ばしたり、操ったり出来たら良いですが」
「……」
4人は艦橋から見える無数のアステロイドを見つめる。
「それでオルタ、SOSの発信源は?」
『前方の原始地球型惑星内部からです』
「内部? どういうこと」
「ま、前を見るデース!!」
真希がオルタにSOSの不自然な発信場所について聞こうとした時、何かに気づいたナディアが叫び、全員の視線がナディアが指さす方に向かう。
「あの、あれって…」
「星喰虫…!」
真っ赤な惑星の表面に寝そべっている巨大なミミズのような細長い虫を見て、全員の顔が青ざめる。
銀河巨大生物第8種星喰虫。その名の通り星を喰らい、自身のエネルギーに変えるミミズとヤツメウナギを合わせたような生物。全長は3000kmを超えるものが多く、数十隻で編成された艦隊でようやく討伐できる程の強さを誇る。
「…オルタ、まさかSOSは…?」
『はい。あの星喰虫の内部からです』
SOSの発信源が、危険な星喰虫の内部だと知り、真希は頭を抱える。
「流石にあれは無理デスヨ?!」
悩んでいる真希に、ナディアは全力で不可能だと伝えるが、
「…いや、助けれるはずだ……オルタ、操舵を手動に切り替え、第1種戦闘配置…スサノオ前進!」
『…了解致しました』
「Nooooooo!!」
「ま、待ってください!!」
「流石にそれは!」
真希は艦橋に居る者達からの静止を無視して、操縦桿を操り、星喰虫へスサノオを向かわせる。
「62式魚雷、全弾発射!」
星喰虫に向かって、垂直に降下するスサノオ艦首から、8本の魚雷が放たれ、星喰虫へと向かう。
魚雷は全弾が星喰虫に命中したが、星喰虫の身体には目立った外傷が出来ておらず、星喰虫は身体を起こして口をスサノオに向ける。
そして、原始惑星の重力を振り切り、星喰虫は口を開けてスサノオを飲み込もうと飛びかかった。
「回避! 回避デーーース!!」
「早く早く早く!!」
「右です! 右に舵を切ってください!」
向かってくる星喰虫に驚き、3人は真希に回避を促すが、
「いいや、このまま突っ込む! 両舷増速!」
真希は回避することなくスサノオの速度を上げ、自ら星喰虫の口へと向かう。
「「イヤァァァァアアァアァァァァ!!!!」」
「Noooooooooooooo!!!!」
3人が絶叫する中、スサノオは口を大きく開けた星喰虫の中へと入って行った。
「両舷停止、後進いっぱーい!」
星喰虫の内部にスサノオを突入させた真希は、推進器を止め、艦首のスラスターで速度を一気に落とす。
「よし、内部への侵入成功だな」
「死ぬかと思った……デース…」
「アルベルタ様、ご無事ですか…?」
「な、何とか…」
余裕な表情を浮かべている真希に対して、ナディア達はぐったりとしていた。
「貴女、いつもこれに付き合わされてるの…?」
アルベルタからの質問に、ナディアは力なく首を縦に振り、アルベルタとシャルルの2人はナディアを気の毒思う。
「オルタ、格納式探照灯展開。SOS信号の発信者を探す」
『了解しました』
スサノオの前部船体側面から、サーチライトが出てくると、真っ暗な星喰虫の内部を明るく照らした。
「微速前進」
『微速前進0.5』
その場で停船していたスサノオは、両舷の補助エンジンのみ使い、ゆっくりと進み始める。
『前方に障害物を確認。どうやら、星喰虫が呑み込んだ岩盤のようです』
「名に恥じぬ食べっぷりだな…」
スサノオは、星喰虫が呑み込んだのであろう大小様々な岩盤が集まっている箇所に辿り着き、そこで再び停船する。
「これ以上は進めないな」
「岩盤をBreakするのはどうデスカー?」
「それだと、救助者を巻き込むことになる。ここは生体反応やサーモグラフィーなどを使って、場所を特定する。オルタ、頼む」
『畏まりました』
救助者を探すために、オルタはスサノオに搭載されている探査用の様々なシステムを応用して、救助者の位置を割り出そうとする。
『……本艦下方、10時方向に生体反応を確認。降下します』
救助者らしき生体反応を確認したオルタは、スサノオを操りゆっくりと下がり、反応を確認した場所へスサノオを進ませる。
『ここです』
生体反応が確認された場所をオルタはスサノオのサーチライトで明るく照らす。
「あれか…?」
サーチライトを照らし、探していると、岩盤に押し潰されそうになっている宇宙船が見つかった。
「あっ、人が出てきたネー!」
半壊している宇宙船を見つめていたナディアは、船から宇宙服を装着している人が出てくるのを見つけた。
「よし、保護する。オルタ、回頭90度、右舷の点検ハッチを開いて、そこから乗艦させてやってくれ」
『了解しました』
オルタは方向転換スラスターを使い、スサノオを救助者に近づける。
『……救助者の収容完了』
「他に居ないか?」
『現在、他の生体反応は確認されておりません』
「そうか…なら、今救った救助者の身体検査や宇宙服洗浄が終わり次第、艦橋に連れてきてくれ」
『了解しました』
オルタに頼み事をした真希は、保護した救助者の検査が終わるまで、サポートウォッチで何かの資料を立体映像で空中に投影すると、それを見つめる。
「それじゃあ、私は色々と疲れたし、研究室に戻る…」
「私もお供します」
「私も救助した人のために、腕によりをかけて美味しい料理を作ってきマース!」
「また何かあったら呼ぶ」
検査が終わるまで暇になったため、アルベルタとシャルルは研究室へ、ナディアは食堂へとそれぞれ戻って行った。
〇
真希が艦長席で変わらずサポートウォッチで書類を読んでいると、
『艦長、ご命令通り連れてきたべ』
ヨサクが黒髪短髪で褐色肌の女性を連れて、艦橋にやってきた。
「初めまして、私はこの空間機動戦艦スサノオの艦長、山明真希です」
真希は敬礼しながら自己紹介を行う。
「僕は、コスモイーグル運輸の大高碧と言います。SOS信号に答えてくれてありがとうございます」
碧は頭を下げて真希に礼を述べる。
「一応聞くが…星喰虫に呑み込まれたのは君だけか?」
「ええ、好きなように宇宙を飛んでいたら、偶然遭遇してしまって…そのまま食われたんですよ」
「成程……では、ここに長居は無用。オルタ、機関始動。脱出するぞ!」
『了解』
碧から他に救助者が居ないことを確認した真希は、スサノオの機関を始動させ、来た道を戻り始める。
「あの…星喰虫からどうやって脱出するつもりなんですか…? 星喰虫は捕食をする時以外は、基本的に口を閉じてますが…」
「今の星喰虫は、消化のために寝ている最中だ。すやすや寝ている時に、口の中でいきなり変な感覚を覚えたら、君はどうする?」
「飛び起きますけど」
「その時、口を開かないか?」
「それに賭けるのですか?!」
「ああ、時には一か八かというのも大切だ」
星喰虫内部から出るために博打のような方法を行うと聞き、碧は内心不安に思う。
そうこうしているうちに、スサノオは星喰虫の口付近に辿り着いた。
「オルタ、HMH発射。スサノオを固定してくれ」
『了解』
攻撃を行う前、暴れ食う星喰虫によってスサノオが振り回され、破壊される可能性がある。そのため真希は、スサノオの多目的発射器から船体固定用として搭載されている大きな銛を4本射出させ、それを星喰虫の体内に撃ち込み、スサノオを固定してが振り回されないようにする。
「それじゃあ派手にやってくれ…攻撃始めっ!」
『攻撃開始します』
星喰虫を叩き起こすために、スサノオの主砲、副砲、対空砲などが一斉に攻撃を行う。
いきなり身体の中で攻撃された星喰虫は、痛みや驚きで暴れ狂う。
「…今だ。ハープーン格納、機関最大!」
暴れていた星喰虫が、口を開いたのを見て、真希は固定していた銛を回収し、スサノオを一気に飛ばす。
スサノオは噴射ノズルから勢いよくプラズマを炎のように放出しながら突き進み、星喰虫の口から脱出に成功した。
「奴に再び食われる前に、現宙域から離脱する! 跳躍準備!」
身体を起こし、スサノオを再び喰らおうとしている星喰虫から逃げるため、スサノオは亜光速を出して空間跳躍の体勢に移行する。
『空間跳躍』
スサノオは空間跳躍を行い、星喰虫が居る宙域から4光年先にジャンプアウトした。
「せ、成功した…」
博打のような脱出方法が成功したことにより、碧は目を開いて驚いていた。
「さて、これから君をコロニーまで送ろう。今はゆっくりと休んでくれ」
「……」
肩の力を抜いた真希は、碧に休むように伝えるが、碧は顎に手を当てて何かを考え始めていた。
「…どうしたんだ?」
「あの、僕もこの船に乗せてくれませんか?」
「ダメだ。本艦の旅は危険極まりないものだ…余程のことがない限り、乗せることは出来ん」
真希は今度こそ断るという固い意思で、碧の乗艦を拒否することにした。
だが、
「一応、僕の操舵術は、速達で有名なコスモイーグル運輸でトップクラス。見たところ、この艦にはちゃんとした操舵手が居ないようだけど…」
「……」
操舵手が欲しいと思っていた真希は、碧の言葉に絶対断るという決意が揺らぐ。
コスモイーグル運輸は、碧の言う通り速くそして丁寧に荷物を届けるのを第一としており、所属する運転手は、プロとも言えるほど宇宙船の操舵が上手いとされている。そんな中で、トップクラスとなると、スサノオの高機動を最大限に活かすことが出来る。欲しがっていた操舵手が仲間になる絶好の機会のため、真希は頭を抱える。
「…それで、本当に僕を仲間にしなくていいのかい…?」
「……」
真希の反応から迷っていること察した碧は、もう一押しと思い、説得を試みる。
「僕の腕は確かだよ…ほら、メテオトップのバッチもあるし…」
「…!?」
碧は胸に着けていた六角形の金色のバッチを外すと、それを真希に見せた。
メテオトップとは、4年に1度行われる宇宙最速を決める宇宙船レースのことで、碧が見せているバッチは、レースで上位に入ったかつ、操舵技術が最優秀者のみに与えられる代物である。そのバッチを持っているだけで、例え1位を取れなかったとしても、航宙クルーズ系の会社や運送業、軍などからスカウトが来る程である。
つまり、碧の操舵技術はプロ以上の技術があるというわけである。
「……し、仕事があるのではないのかな?」
「僕は専属フリーランスとして働いているから、大して問題ない。それに、星喰虫に食われて結構経っていたから、契約に基づいて既に解約されているだろうしね」
「……」
真希は黙り込み、再び悩む。
そして、
「…オルタ、大高碧を乗員として登録しといてくれ」
『畏まりました』
「ありがとう、艦長さん!」
落ち込んでいる真希とは対照的に、碧は乗艦の許可が出たことににっこりと笑みを浮かべて喜ぶ。
「ハァ~…本当、俺押しに弱いな…」
スサノオがアンドロメダへと向かう中、真希は小さくそう呟いた。




