第13話 目覚めの少女
雪が積もり白銀の世界となっている森を少女は無我夢中に走り続ける。
その少女の後ろには、真っ暗な闇が迫っており、そこからは
「ナンでなんデおまエだケガ」
「いタイ…助ケて……助けテヨ」
と言った不気味な声と銃声が聞こえてくる。
本能的に黒い物体から逃げていた少女だったが、足がもたつき転けてしまった。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい……」
涙目になりながら、少女は迫ってくる黒い物体に対して何度も謝るが、
「どウシてオ前だケ…」
複数の声が不気味なまでに重なった後、黒い物体は少女を飛びかかり、暗く冷たい空間へと引きずり込む。
「なんでお前だけ……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
まるで真っ暗な海底に向かうように沈んでいく少女に対して、様々な方向から彼女を責める声が聞こえてくる。
「あっ、ああ……ご、ごめん…なさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
責めてくる声に対して、少女は丸く蹲ってただひたすらに謝る。
そんな中、冷たく暗い空間に、対になるような暖かい光が差し込む。
「……」
蹲っていた少女は、無意識にその光が差し込む方へと腕を伸ばす。
「―――あっ…」
ふと気がつくと、少女は見知らぬ天井に向けて片手を伸ばしていた。
『…起きたようですね。少々お待ちください。艦長を及び致します』
仕切り用のカーテンを開けて入ってきたロボに、少女は驚く。
『艦長が来るまで、少しばかり検査を行います。痛くはしないので、ご安心を』
「……」
ロボに驚きつつ、少女は無言で頷いて検査を受けるのを承諾した。
〇
天の川銀河の中心部から離れたスサノオの姿は、太陽系から82光年程離れている空間にあった。
「PTSDか…」
『そのようです。声帯に問題はなかったため、何らかのトラウマによる緘黙との診断です』
「文字は書けそうなのか?」
『はい。アイルス人語ですが、文字自体は書けるとのことです』
「成程。ステラ、文字の翻訳と通訳を頼めるか?」
『お任せ下さい』
艦橋に居た真希は、ステラから目覚めた少女について聞きながら、医務室へと向かっていた。
「か~んちょ~! 少し私にも…ね? お願い!」
「医務室は研究室ではありません。ジェーンさんよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「えっ! ちょっ! 離せ!」
廊下を歩いていると、話を聞いてきたのだろうアルベルタが、注射と試験管などと言った道具を持って絡んできたが、真希はシャルルを呼び、シャルルは片手でアルベルタを連れていく。
溜息を1つついた真希は、医務室へと向かう。
「ヘーイ! あの子が起きたと聞きマシター! 私特製のハワイアンパンケーキお待ちどうさまネー!」
「食事はナンゲルの指示に従って作って、渡してください。取り敢えず、それは置いてきなさい」
「えー…分かったネー…」
ハワイアンパンケーキを軽浮遊シューズの機能で浮遊しているナディアが、真希の元にやってきたが、追い返させれて少し落ち込みながら来た道を戻って行った。
「はぁ…全く何をやっているのだが…」
そうこうしていると、真希は医務室の前にやってきて、数回医務室の扉をノックした。
『お入りください』
ナイゲルから返事が来たため、真希は医務室に入り、保護した少女が居るベットへと向かった。
「初めまして、私はこの空間機動戦艦スサノオの艦長、山明真希です」
自然な笑みを浮かべながら、真希は自己紹介を行い、そしてステラが、それをアイルス人の言葉に直して少女に伝える。自己紹介を聞いた少女は、事前にナイゲルから受け取った電子ボードにペンで文字を書き、真希に見せる。
『私の名前は、フラリアです』
フラリアが書いた文字をステラが翻訳して真希に口頭で伝える。
「それでフラリア。君に何かあったのかは、聞かないことにするが…君には2つの選択肢がある」
「……」
「1つ目は、地球政府に亡命者として預かってもらう…2つ目は、このスサノオで君の故郷、アンドロメダ銀河に戻る…だ。どちらを選んでも、私達は君を無事に送り届けると約束しよう……どうする?」
真希が提示した2つの選択肢を聞いたフラリアは、視線を下に向けて考え込む。
数分後、フラリアはペンを手に取り、電子ボードに文字を書くとステラにそれを見せた。
『ここで逃げたら、私は故郷を裏切ることになります。ですので、どうかアンドロメダ銀河の、故郷まで届けてください』
電子ボードに書かれた文字をステラが読み、フラリアは決心したようで、力強く真希を見つめる。
「分かった。必ず君を届けることを誓おう」
真希はフラリアの決意を汲み取り、送り届けることを約束した。
「それじゃあ、俺は航路の再設定をしてくる。ナイゲル、後を頼む」
『了解致しました』
フラリアのことをナイゲルに任せ、真希は艦橋に戻るために医務室を後にした。
そして、艦橋に戻った真希は、艦長席に座ると、
「オルタ、現在の予定航路をメインパネルに出してくれ」
『畏まりました』
オルタに頼み、艦橋のメインパネルに現在の予定航路を映し出した。
画面には、天の川銀河を抜け、アンドロメダ銀河にある共連に参加している惑星リュッセルムを統一している国、ベルッセル大公国を最終目的地としていた。
「……」
真希はしばらくの間画面と睨み合いすると、何かを思いついたのか口を開いた。
「オルタ、ルート変更だ。目的地は、共連と神聖帝国の国境、マルバーゼ恒星系にする」
『それはまた何故です…?』
「フラリアは、故郷を目指すつもりのようだ。だが、アイルス人の母星、リンベルンは神聖帝国の宙域だ。俺らが入ることは向かうことは出来ないだろう。だから、比較的近いマルバーゼ恒星系に向かい、フラリアには悪いが、そこからは一人で向かってもらうことにする。幸いにもマルバーゼ恒星系には、前線地域として多くの船がある筈だからな…」
『成程、納得しました。では、スサノオの進路を変更、最終目的地をマルバーゼ恒星系に設定します』
目的地の変更により、艦橋の画面が切り替わる。
再度出た予定航路には、天の川銀河内の航路ルートは変わらなかったが、アンドロメダ銀河内での航路が変わり、最終目的地はマルバーゼ恒星系となった。
「よし、船足を上げるぞ。オルタ、跳躍準備!」
『了解。座標確定、電磁防壁展開、機関最大出力、最大戦速』
巡航速度で航行していたスサノオは、一気に速度を上げて空間跳躍体勢へ移行したが、
『スサノオ、緊急停止』
いきなりオルタが、スサノオの速度を下げ、スラスターを使って勢いを殺す。
「どうした、オルタ?」
『本艦2時方向、17光年先から、SOS信号を受診しました。信号は微弱ですが、確かです』
「成程、それでか…よし、助けに行く!」
『畏まりました。スサノオ、機関再始動、艦首方向調整、全速前進!』
スサノオは進路を変え、SOSの発信源へと向かい始めた。
「無茶苦茶なことをしないか見張りに来たネー!」
「偶にはここから見てみようと思ってな」
「付き添いです」
スサノオが速度を上げて宇宙を航行する中、ナディア達が艦橋にやってきて、それぞれが空いている席に座った。
『空間跳躍に移行します。座標確定、電磁防壁展開、機関最大出力、最大戦速』
全員が座った後、オルタは跳躍の準備を整える。そして、
『跳躍』
SOS発信源に向けて、スサノオを飛ばした。




