第10話 宇宙の歯車が回り出す
惑星ユダから離れ、ペトロ星系内を進むスサノオ艦内、研究員達が食堂室で休息を摂る中、真希とアルベルタは艦長室で一対一で対面していた。
「まずは、助けに来てくれたことに対して礼を言おう…ありがとう」
「手が届くなら、必ず助ける…それが俺のモットーの1つだからな…礼には及ばないよ」
顔を見合せながら話し合う真希とアルベルタは、用意された珈琲をそれぞれ持ち、1口飲む。
「それで、君達はこれからどうするつもりなんだい? まぁ、大凡の予想は着くが…」
「ゾンビパンデミックの元凶。惑星ライラーを予定してます。まぁ、その前に皆さんを安全な所に送るつもりではありますが…」
「ふむ……それなら、私と護衛のシャルルを連れて行ってはくれないか?」
「ブフッ!!」
アルベルタの唐突な発言に、真希は飲んでいた珈琲を吹き出して噎せる。
「さ、先程も言いましたが、大変危険な旅なんですよ…? 命の保証もありません。貴女ような研究者を失う訳にも…」
「研究者だからこそだ。研究者が危険を恐れて足踏みばかりをしていたら、人類は今でも地球で、野生的な狩りをしている…」
「いや…しかし…」
「無論タダとは言わん。私の知識や技術をフル活用し、君達の手助けをしよう…! ああそれと、君達が追っている者の情報も出そう…」
「本当!?」
「ああ、本当だとも…まぁ、君が私らを仲間にすると言わない限り教えないが…」
「……」
予想だにしていなかった元凶の情報が手に入りそうになり、真希は食いつくものの、アルベルタから出された条件に頭を抱える。
(天才のアルベルタが仲間になるのは確かに心強いが……もし彼女に何かあった時、俺はその責任を取ることが出来ない…………だけど、連中の正体が一切分からない状況の中、このチャンスを逃すのも……!)
テーブルに肘を付き冷静を装いつつ、真希はその腹の内で悩みに悩む。
時計の針が進む音だけが聞こえる中、十数分程悩んだ真希は、苦渋の決断をすることにした。
「……分かりました。アルベルタさん、シャルルさん…両名のスサノオ乗船、並びにこの旅路への参加を許可致します」
「賢明な判断。感謝するよ」
「……はぁ、ステラ…オルタに彼女達を船員登録するように言っといて…」
『了解致しました』
許可が出てニッコリと笑みを浮かべてクッキーを一枚食べるアルベルタに対して、真希は自分の推しの弱さを痛感して溜息を吐く。
「…では約束通り、君達が追っている連中について、私が知っている情報を話そう」
「…お願いします」
クッキーを食べ終え、珈琲を少し飲んだアルベルタが話を体勢に入ったため、真希もまた気持ちを切り替えて話を聞く体勢に入った。
「何処から話せばいいか……そうだな…始まりは、ユダでゾンビパンデミックが起きる三日ほど前だ。中央総合研究所にあった私の研究室に、スーツを着た髑髏のフルフェイスマスクを付けた男が訪ねて来た。名前は…Oと名乗っていたが、恐らく偽名だろうな」
「O…」
「Oが来た理由は、私のスカウトだったな。なんでも私は、彼らの同志になる資格があったとのことだ。まぁ色々と聞き出した後、パスしたがな」
「…それで、何か分かりましたか…?」
「勿論。目的までは分からなかったが、彼らがトワイライト教団という組織であることと、ゾンビパンデミックを引き起こした諜報人ということを聞き出すことができた。ああそれと、本拠点が惑星ライラーということもね」
「…トワイライト……黄昏か…」
「ああ…ちなみに、様々なデータベースからトワイライト教団について調べたが…無論無かった。もう少し時間があれば、関連組織や人物を探し出すことが出来たのだけど…」
「…ゾンビパンデミックが起きたと?」
「その通りさ」
「……」
様々な情報が入ったため、真希は頭に片手を当てる。そしてアルベルタは、珈琲を悠々と飲む。
「ああ、それと…奴らのマークがあったな。紙とペン借りるよ」
思い出したアルベルタは、艦長室に置いてあった紙に、借りたペンでトワイライトのマークを描き始める。
「逆五芒星をオリーブの枝で囲んだデザイン…」
真希はアルベルタが手早く書いたトワイライトのマークを暫く見つめ、しっかりと記憶する。
「連中のことはよく分かりました。ですが、今は研究者達を連邦政府の元まで送るのが最優先事項です。今はゆっくり休んでください」
「休ませては貰うけど…この船に全員乗せて行ってもいいのだよ? 彼ら、君のためなら何でもする! と言ってたし…」
「ありがたいですが…流石に乗りませんよ。普通の戦艦なら、できると思いますけど、この船はあくまでも探査船…戦闘や運航はロボやAIで自動化され、乗れるのは最大で12名程度です」
「あらそう…なら仕方ないわね」
「取り敢えず、アルベルタさんとシャルルさんを部屋に案内します。着いてきてください」
「分かった……嗚呼、それと…私達に敬語はいらないわよ…これから仲間でしょ?」
「…分かった。それじゃあ、案内する」
「ふふっ…」
アルベルタのことを食えない奴と思いながら、真希は機嫌がいいアルベルタと共に、部屋に案内するためにも、食堂でゆっくりしているだろうシャルルの元に向かって行った。
〇
「……チッ」
舌打ちが消え去るほどの猛烈な吹雪が吹いている惑星ユダのエドモンド山脈の麓、そこで丸眼鏡の男は、轟々と燃え続け、真っ白な銀世界に一筋の黒い煙を立ち上らせている第二植生物研究所を見つめていた。
「全くなんなんだあの船は…おかげで貴重な実験体は消えるし、同志が減るし、無礼者の暗殺に失敗するし…」
スサノオというイレギュラーの乱入により、作戦が大きく狂ったことに腹を立っている丸眼鏡男は、タブレットを操作し、今彼らが分かっているスサノオの情報をデータとして入力し始める。
「新型船というのは間違いない…全長推定350m以上、武装は…目立つのが三基の大口径主砲…推定40cm以上…18cm以上の一基の副砲、複数の魚雷発射管、複数の対空兵装…探査艇発艦場……そして、リーダーが真希という推定10代後半の男……こんなところでしょう…」
離陸する時に撮ったスサノオの写真を元に、丸眼鏡の男は、写真から分かる情報と手に入れた情報を簡潔にまとめ、X艦と名前を付けると、そのデータを何処かに転送した。
「……さて、私の研究所に戻りましょうか…ストライカーの改良やC計画を進めないと行けないので…」
丸眼鏡の男は、護衛のロボ達に言いながら、第二植生物研究所を背を向けて、自身専用の研究所として使っている中央総合研究所に戻るため、航宙艇に乗り込んだ。
一方、彼が送ったスサノオのデータは、ある惑星に居る人物の元に着いていた。
「……」
そのデータを送られてきた赤い瞳を持つ青みがかった白髪の男は、様々な書物が数え切れない程置かれている書室にある立体映像型のモニターPCで、データの中身と見つめる。
「…ほう、これはこれは…実に興味深いねぇ〜…」
『どうかされましたか? 我が主』
「面白いデータが送られてきてな…なんでも、我々の敵になりうる存在とのことだ」
『それはそれは…どう対処致しましょうか?』
「今は様子見で良いだろう…それより、U計画はどうなっている?」
『はい。現在ウルトラ計画…通称U計画の進捗度は52%…そろそろ試験を行い、実戦データを集めても宜しい頃合かと』
「……そうだな…第二段階に移るとするか…」
話しかけてきたAIと会話をした席から白髪の男は、席から立ち上がり、広い書室の真ん中を歩き、扉へと向かうと、それをくぐって先に向かう。そして男は書室から数分程歩いた場所にある部屋へと入り、それと同時に部屋の明かりがつく。
「ああ、実に素晴らしい…!」
白髪の男は部屋の光景に見蕩れる。
部屋の中には、様々なゾンビが眠っている状態で培養カプセルに入れられていた。頭部と上半身しかないゾンビ、ゾンビに変異しようとしている人間、身体の半分が醜く膨れ上がっているゾンビなど様々だ。
普通の人の感性ならば、気持ち悪いと思うその部屋を、白髪の男は笑みを浮かべ満足そうに部屋の最奥にある特殊なセキュリティで閉ざされた扉の先へと更に進む。
「ああ…! 愛しのリリス…私ともっといい子を作ろうねぇ〜」
白髪の男は頬を高揚させ不気味な笑みを浮かべながら、部屋の中央に置かれている培養カプセルに抱きつく。
培養カプセルの中には、様々な管が繋がれている茶髪で長髪の女性が一糸まとわぬ姿で眠って居た。
「それじゃあ、いつも通り…」
白髪の男は培養カプセルの横に置かれている操作パネルを操り、培養カプセルを起動する。
女性の腕に繋がっている管から、女性の赤黒い血が採られ、操作パネルにセットされている試験管に注がれる。
「うーん、今日も実に良い遺伝子だ…それじゃあ、また来るね。愛しのリリス…」
試験管に満たされている血を見つめ、白髪の男は満足そうに笑みを浮かべて、部屋から出て行った。
培養カプセルの内にいる女性の目が、少し開いていることに気づかずに…
〇
時は現在から遡り、2990年のアンドロメダ銀河。太陽系がある天の川銀河からもっとも近く、約40億年後に天の川銀河と衝突すると言われている大銀河である。
そのアンドロメダ銀河の5割は、皇帝率いる神聖ジークダルク帝国が支配しており、国内では皇帝による独裁政治が行われていた。
そして、2990年9月15日。王位継承により、3代目皇帝となったハインツ=アイレウス=ジークダルクは、王位を継承したその日に、帝国臣民至上主義を宣言し、多くの人種の差別化並びに粛清、奴隷化を始めた。
その無茶苦茶な至上主義により、辺境に位置するアイルス星系にある寒冷の惑星『リンベルン』に住むアイルス人も粛清対象となり、2990年12月20日に帝国親衛隊が進軍、アイルス人の虐殺を行っていた。
――ダダダダダッ!!
雪が積もった美しい森に、似つかわしくない銃声音が鳴り響く。
「はぁ…はぁ、はぁ…!」
白銀の長髪に白く美しい肌をしている少女は、無我夢中で仲間と共に走る。
ふと、後ろを振り返ってみれば、様々な所で倒れ込み雪を真っ赤な血で染める遺体となった仲間達と、その遺体を踏みつけながら進む、真っ黒な服装で身を纏ってる帝国親衛隊が見える。
「おいおい、しっかりと狙えよ」
「バーカ、狩りは楽しむ物だぞ? すぐに終わってはつまらん」
耳が良いアイルス人は、後方から聞こえてくる自分達の命をおもちゃのように扱う親衛隊達の言葉に怒りと悔しい気持ちで一杯になるが、今はただ逃げる。
走り続けたアイルス人は、森を抜けた先にある物資打ち上げ用の簡易的なマスドライバー施設に辿り着くが、30名程度居た仲間達は、アイルス人代表のルーサーとその護衛の男3名と、先程の少女1名だけになっていた。
「「「……」」」
「…えっ? み、皆さん?!」
追っ手が迫ってくる中、ルーサー達は顔を見合わせて頷くと、少女をマスドライバーに置かれていた脱出用のポットに少女を無理矢理入れる。
「ど、どうして! 私より貴方々が!」
入れられた少女は、ポットの特殊ガラスを叩いて、代表が乗るように伝えようとするが、男達は手際よく発射準備を進めた。
「…よいか? 君はこの星の希望だ! 必ず生き残れ! 良いな!?」
手短に大きな声で少女に釘を指したルーサーは、ポットの人体冷凍保存装置を起動し、少女を眠らせると部下に命じてマスドライバーから発射した。
「……ほう、逃げなかったのですね?」
ルーサー達が空へと飛んでいくポットを見つめていると、後ろから声が聞こえてきて、3名は覚悟を決めて振り返る。
声の先には、数十名の武装した親衛隊員と、丸坊主で少し禿げている初老の男、アイルス人殲滅作戦の指揮を任されたオルスカー・レヴァンカが居た。
「全く、大人しく殺されていれば、一発で終わっていたんだがな…最後に言い残すことはあるか?」
「………アイルス人の血と意思は、永遠に続く…貴様ら程度で壊すことは出来ない…!」
「くだらんな…」
煙草を加え勇ましい顔つきで親衛隊を睨みつけるルーサーに対して、オルスカーはその意志を馬鹿にし、部下達に殲滅の命令を出す。
――バババババババ!!
銃声と共にルーサー達の身体は蜂の巣にされ、雪の上に倒れ込む。
「司令、先程脱出した者はどう致しましょう?」
「ほっておけ、劣等人種が1匹逃げ出した程度…大した問題では無いだろう。それより、生き残りが居ないか探すぞ」
「はっ!」
オルスカーの慢心により、逃げ切れることが出来た少女を乗せたポットは、加速ブースターで星系が離れて行ったが、その道中で自然のワームホールに巻き込まれ、一気にアンドロメダ銀河から天の川銀河に移動、ワームホールに入った影響か、ポットのブースターは不調を起こして停止し、少女はただ宇宙を彷徨うだけになってしまった。




