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第1話 運命の出会い

 2800年代。質量動力炉という核融合炉を超えるエネルギー効率が高い機関と光速を超える航行、空間跳躍(スペースジャンプ)の技術を開発した地球人類は、外宇宙に進出した。宇宙旅行や他惑星に移住など、人類は自由に宇宙を行きかい、異星人と貿易を行うことで繁栄して行った。しかし、2989年12月24日のクリスマスイブに重大事件が起きる。自律浮遊探索機シーカーが見つけたクルウルウ星系第1惑星『ライラー』に降り立った移民船団からの通信が突如途絶。人類は調査隊と救助隊を送るも、到着と同時にその者達も行方不明になった。それから1ヶ月後、ライラーから比較的近場にあるハストゥール星系第3惑星『ケラエノ』に、行方不明だった救助隊の宇宙船が不時着、駐屯軍が調査に向かうと、そこからゾンビとなった救助隊員達が現れて交戦。ゾンビの1体が街の方へ向かってしまったため、統治政府が緊急事態宣言を出すも、ゾンビは鼠算方式で数を増やして行き、ケラエノは数日でゾンビが蔓延る惑星になってしまった。それを皮切りに、各惑星でゾンビパンデミックが発生。人類はゾンビの勢いを止めることができず、宇宙中に居た地球人類はパンデミック発生前の1割程度まで数を減らしていった。





 2998年8月2日。太陽系第3惑星『地球』。地球人類の発祥の地でもあるその美しく青い星には現在、地球人はたったの数人しか居なかった。その理由としては、地球人類の宇宙進出後、地球政府が移民政策を進め増えていく人類の分散を進め、地球上の人口は減ったのと、ゾンビパンデミックが発生による影響だ。


「……食糧はもう無いし、軍も壊滅…どうしろと…」


 地球統一連邦政府極東管区(旧日本国)東京。そこにある廃ビルに、茶髪に黒い瞳の青年が柱に持たれかかりながら座って居た。彼は山明(さんめい)真希(なおき)。ここ数週間、1人で懸命に生きている者だ。


「持って来た銃のお陰でゾンビの撃退はできるけど…問題は食糧…」


 真希は軍用拳光線銃ワルサーS74を両手で握り締めながら、脳をフル回転させて食糧の入手方法を考える。そうしていると、


「クソっ! ゾンビ共こっちに来るな!」

「なんとしてでも会長をお守りしろ!」


 近場から声が聞こえてきた。

 気になった真希はワルサーを構えながら、壁に張り付き、割れた窓から顔だけ出して声の主を探し始める。


「…あれかな?」


 真希は、自分が居る廃ビルから少し離れた所にある公園で、黒スーツの3名の男が、初老の男をゾンビから守りながら戦っているのが見えた。


「…助けるか!」


 見て見ぬふりが出来なかった真希は、自分の危険を顧みずに助けに向かうことにした。廃ビルの階段を降り、真希は生存者達の方へと走る。


「っ!」


 真希が駆けつけると、そこには地に倒れ付している護衛の男達と、2体のゾンビ、そして木に持たれるように力なく座り込んでいる初老の男が居た。


「今助けます!」


 助けられなかった命に悔やみながら、真希は目の前のまだある命を助けるために、ワルサーの引き金を引き、1体のゾンビの頭を撃ち抜いた。


「あ゛ッ…ァァア゛…?」


 仲間が倒れたのを見たもう1体のゾンビは、片足を引きずりながら、真希の方を見た。


 ――パァッンッ!


 真希は容赦なくゾンビの頭を撃ち抜き、撃ち抜かれたゾンビは撃たれた反動で後ろへと倒れ込み、動かなくなった。


「大丈夫ですか!?」


 ゾンビが動かなくなったのを目視で確認した真希は、初老の男に駆け寄った。だが、初老の男は息が荒く、更に右足から紫混じりの血が流れており、瞬時にゾンビに噛まれたことを察した。


「…坊主…いい度胸してるじゃねぇーか…そういうの嫌いじゃねーぜ…」


 息を切らしながら、初老の男は二カッと笑い、自分のことを顧みずに助けに来てくれた真希の度胸を気に入った。


「だが、こんな有様だ。もう長くねぇ……坊主、俺とソイツらを人間のまま死なせてはくれねぇか? 勿論、礼はやる…」


 そう言って、初老の男は着けていたスマートウォッチを外し、真希に渡そうとした。


「これは…?」

「サポートウォッチだ…きっと、坊主の役に立つ…このまま俺が持っていても宝の持ち腐れだ…持って行け…」

「…分かりました」


 サポートウォッチと呼ばれる物を受け取った真希は、初老の男の要望通り、先に護衛の者の頭を撃ち抜き、完全な死体へと変えた。


「遺言などありますか?」


 初老の男の頭にワルサーの銃口を突きつけた真希は言い残すことを聞くことにした。


「そうだなー…」


 初老の男は、懐から煙草を取り出しライターで火をつけながら考える。


「………うちの娘に会ったら、俺のこの死に様と、俺がお前さんを気に入ったことを伝えてくれ……それで十分だ…」

「分かりました…それでは…」

「おう、頼む!」


 ――パシュッ…!


 一服した初老の男は娘への伝言を真希に頼み、爽やかな笑みを浮かべながら、真希の手によって脳天を撃ち抜かれた。


「……分かっているとはいえ、きついな…」


 一言呟いた真希は、初老の男と護衛の者達の遺体をそれぞれ綺麗に並べた。

 ゾンビパンデミックが発生したこの世界では、ゾンビに噛まれた者をゾンビになる前に殺すといった事例は珍しくない。初老の男のように、殺してくれという者も入れば、最後まで死にたくないと泣きつく者も居る。そう言ったことを見てきた真希は、慣れつつある自分に内心恐怖心を覚えていた。


「さて、これからどうしようか…あの人は、これが役に立つといったけど…」


 真希は初老の男から貰い左手首に着けたサポートウォッチを見つめる。


『―使用者の変更を確認。前使用者の任意委譲を確認。フェイススキャン開始……完了。地球統一連邦政府住民登録データにアクセス……ヒット。山明真希様、使用者登録完了致しました。私は第十世代型自立サポートAI『ステラ』。これからよろしくお願いします』

「えっ…あ、ああ…? お、おう…」


 唐突に女性の声でサポートウォッチが動き始めたため、真希は驚き困惑する。


「えっと…それで、ステラ…? あの人は君が俺の役に立つと言っていたけど…どういう力があるの…?」

『はい。私には前使用者の鉄谷(てつたに)英明(ひであき) 様から、星命重工の1部会長権限を付与されています。そして、その権限は今も健在しております』

「……へぇっ…!?」


 ステラから予想にしていなかった返答が来たため、真希は変な声を出して固まった。

 星命重工。元は宇宙ロケットの部品を作る小さな町工場だったが、太陽系への民間旅行ブームの影響を受けて発展して行った日系企業で、ゾンビパンデミック直前までは、宇宙船のみならず政府から受注を受けて宇宙戦闘艦や探索船などを建造していた大企業である。


「……」


 今自分の左手首に、一部とはいえ大企業の権限があると知った真希は、ダラダラと冷や汗を流し始める。


「……よし、切り替えていこう! ステラ、星命重工が今地球に保有している使えそうな船ない? 地球から脱出したいんだけど…」


 両手で顔を軽く叩き、切り替えた真希は、ステラにめぼしい船がないか尋ねる。


『星命重工の艦艇データベースアクセス、検索を開始……ヒットなし。呉宙艦造船所に艤装前で放置されている新型探索戦闘艦797号艦の使用を代案として提案致します』

「……呉か…東京からだと遠いな…」

『問題ありません。宇宙船ですと、797号艦のみですが、自動航行船舶が東京湾に停泊しています。それらを使えば、安全に移動できます』

「そうか…なら案内してくれ」

『了解致しました』


 サポートウォッチから立体映像の地図から表示され、真希はそれに従って動き始める。公園が海岸近くということもあり、ゾンビに接敵することなく、真希は船乗り場に辿り着いた。


『そちらの潜水式中型クルーザー金剛丸が、例の自動航行船舶です。運転はこちらで行います故に乗船しお待ちください』

「……」


 真希は場違い感を感じながら最新の中型クルーザーに乗り込み、姿勢をただして大人しく座る。そうしていると、クルーザーのエンジンが掛かり沖の方へと向かい始める。


『呉までの航行開始します。到着予想時刻は翌日の早朝4時を予定。沖合に出た後、潜水航行を開始致しますので、屋外デッキに出ないようお願い致します』

「あっ、はい」


 一般のクルーザーが潜水してもおかしくないこの未来では、真希は潜水できることに驚くことなく端的な返事をした。


「……そういえば、ステラ。鉄谷さんはなんで宇宙に逃げなかったの? 俺みたいに宇宙船の当てがないという訳ではないと思うし…」


 ふと疑問に思ったことをステラに問いかける。


『はい。鉄谷前会長は、自分に何かあったことに備えて、数ヶ月前に会長を辞任、ご令嬢の鉄谷美晴(みはる) 様にその座を譲り、地球生存者救出作戦を最前線で指揮を執っておられました。そして、作戦の打ち切りが決まった後、小型艦で脱出を諮りましたが、その道中で子供達を保護。小型艦に全員が乗ること出来ないため、鉄谷前会長は、一部の部下と共に残り、そして一時的に逃げ切るために、海に向かって逃走中でした』

「……あの人、パワフル過ぎるだろ…」


 英明の男気に、真希は尊敬の念を抱く。


「取り敢えず、今日はゆっくりできそうだな…」

『はい。あとはお任せください』

「分かった。じゃおやすみ…」


 ソファに横になった真希は、久々の安眠をすることにした。





 翌日早朝4時。真希を乗せた金剛丸は水中からその姿を現し、星命重工呉宙艦造船所の船舶停泊場で止まった。


「…ここが…」


 金剛丸から降りた真希は周囲を見渡す。

 星命重工呉宙艦造船所。移民政策により人が居なくなった土地を星命重工が買取、完成させた世界屈指の宇宙船の造船所。造船所内には、500m級の宇宙船が作れるほど広いドックが4つあり、更にその隣には星命重工の大規模軍需工場地域も隣接されている。


『山明様ですね。ステラから話は聞いております。どうぞこちらへ…』

「は、はい…」


 目の前に来た逆三角錐の形をして、男性みたいなトーンで喋るロボに案内され、真希は建物の中へと入って行った。ロボに案内された真希は、何体かの資材を運んでいるロボとすれ違いながら、とある部屋に辿り着いた。部屋は扉から入って正面の壁がガラス張りになっており、更にその向こうには大きな空間が見えた。


「……これって…!」


 ガラスに近寄った真希は、ガラスを挟んで眼下に広がっている空間を見て驚く。


『政府主導八八銀河大艦隊計画に基づき、星命重工が建造していた新型探索戦闘艦、797号艦です』

「これが…」


 案内ロボの説明を聴きながら、真希はガラスの外を見つめ続ける。部屋のガラスの外にあったのは、現在十数体の作業用ロボット達によって、艤装が施されている797号艦だった。

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