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魔杖との出会い

 キャリナが最後に呟いた言葉で現実に帰ってきた俺は、キャリナに一つのことを提案した。


「それなら… こっちで話しましょうっ! お互いのことを知ることは、大切ですから!」


 うきうきとして奥から机と椅子を引っ張り出してきたキャリナは俺を手招きする。キャリナはレイスの爺さんに頼んで文献を持ってきてもらうようだ。


「といっても、俺自身も俺のことを知らないんだがな」

「まあ、大丈夫ですよ! 私が教えますから!」


 なんでこいつはこれほど魔族に執着するのだろうか。この謎については後で深堀りしていきたい。

 そんなことよりも俺が気になるのは、俺が本当にソローズパラディンであるのか、ということだ。席につくとキャリナは話しだした。


「ツバサさんの身体はソローズパラディンのもので間違いないと、私は思います」

「まあ、薄々そうなのではとは思ったがな」


 それっぽい返しはもう得意になった気がする。某ギルドマスターとかのせいで。レイスの爺さんが気を利かせて淹れてくれた謎の飲み物を一口飲むと、キャリナは理由を連ねていった。

 ソローズパラディンの復活時期と俺が確認された時期が一致していること、使用可能属性の相似、行使魔法の一致…

 キャリナはそれらのすべてを言い終えると、黙った。そして、レイスの爺さんに目配せをした。

 時間だけはあるからな。スキルウィンドウと照らし合わせて状況を整理していくことにしよう。


「紙はあるか? 使わなくなったノートでもいい」


 待ってました! と言うようにレイスの爺さんが分厚い本を奥から運んでくる。良さそうな太さのものを選ぶと俺は内容改竄を始めた。少し経って、魔法書のコピーのようなものが完成した。といっても、魔法の説明とかは省略されているが。



───

【劣化した翼の魔法書】

説明が省略された魔法書。スキル習得によって更新されることはなく、手動で更新する必要がある。

また、この魔法書の内容を改竄したとしても翼本人に影響が出ることはない。

───



「キャリナ、これらの魔法の中から、お前が持っている魔法を選んで消していってくれないか?」

「はいっ!」


 キャリナが魔法書のコピーに手をかざすと、魔法書が勝手に開いて、頁がめくられていった。頁の中の魔法名が続々と消えていく。始めのほうこそたくさんの魔法が消えていったが、クオリアで再現された俺の魔法ゾーンを超えた辺りから、魔法が消えなくなった。


「あの〜… 全然知らない魔法だらけなんですけどぉ…」

「もう止めていい。おそらく今の所辺りがソローズパラディンの層だな」


 俺も見覚えのない魔法名が大量に書かれている。とりあえず俺の魔法を除外して、スキルカテゴリーに登録した後に劣化魔法書をソローズパラディンの魔法書に改竄した。


「これでソローズパラディンの魔法だけ抽出できるようになった…」

「どんな魔法があるのでしょう… ソローズパラディンは、魔法の天才と言われていたそうですからね…」



───

【アルトの魔法書】

アルト=パラディルの人生。


『アルトの魔法書を使用しますか?』

→はい

───



 人生って… とは思ったが、気にせず魔法書を読むことにした。魔法書を使用すると、魔法書の内容が自動で頭に流れ込んできた。スキル習得のときとは違って頭が痛くなることはなかった。

 キャリナは魔法書を持って頁をぺらぺらめくっている。こんな魔法、聞いたこともない! と目を輝かせて言っている。


「レイスの爺さんたちって魔法は使えるのか?」

「勿論使えますとも… キャリナ様ほどではありませんがな」

「幼い子達はまだ使えないわね〜 だけど、鍛錬したら使えるようになるはずよ」


 聞いたことのない女性の声がしたほうを見ると、アンデッドと言われなければ気付かないであろう子どもたちがいた。といっても、俺よりかは長く生きているだろうがな。


「鍛錬、ねえ…」


 鍛錬を積めば光属性の魔法も覚えられるようになるだろうか。だが、俺には光属性の魔法を使うメリットをあまり見いだせない。

 アルトの魔法書の中にある『光属性』を見て見ると、多くの魔法が出てきた。スターライトやらキュアライトやら… たくさんの魔法があるが、カテゴリー別で並び変えてみると、詠唱補助魔法が多いことに気が付いた。


「詠唱補助魔法… ってなんだ?」

「詠唱補助魔法は、詠唱の前や後ろにつけて魔法の威力を底上げしたり、魔法の性質を変えることができる魔法ですっ!」


 魔法の威力が底上げされる魔法… どうにかしてでも覚えたい魔法だ。


「キャリナ」

「はいっ!」

「魔族の種族特性に、光属性以外の全属性適正があるんだが、適性がなくても俺は光属性の魔法を使うことができるのだろうか?」

「使う… もなにも、さっき言ってたじゃないですか!」


 さっき言った魔法? どれの事だ? 光属性が付いてて… 適性が無いってことはたぶん上手く使いこなせない魔法。どこかポンコツな魔法…


「【ライフチェンジ・リバース】か?」

「そうですそうです! それの後ろです!」


 使うたびに代償を請求してくる、ポンコツ。あれが光属性を持っていたのならば、代償を必要とするわけなのも納得できる。どうにか代償をなくせればいいんだが…


「どうにか適正にする方法ってないのか?」


 答えが返ってくることを期待することはせず、ただキャリナに訊いてみた。キャリナたちアンデッドは皆して黙り込んでしまった。そんな中で、ただ一人、口を開いたものが居た。レイスの爺さんだ。


「ツバサ様、心当たりがある者が一人居ます」

「一体誰なんだ?」

「遠い、遠い昔からずっと生きてきた、リッチーのハイドローズです。水と光を得意とする、変わり者ではありますが… 話さえできれば方法を教えてくれるでしょう」


 話さえ、とかいう心配にさせてくる言葉が聞こえた気がしたが、まあいい。


「そいつはどこに住んでいるんだ?」

「今は生憎、奴の場所がわかりません。奴は住処を定期的に移動させますので…」


 この近所に住んでいてくれるのが一番うれしいが、そんな都合いいような存在ではないだろう。それに今のままでは弱すぎる。ミーラと接敵したらずっと殺され続けてしまうだろう。


「レイスの爺さん、リーフィ以外でこの近くにある街を教えてくれ」

「ふむ… リーフィ以外で近い街となりますと、国境を越えなければありませんな。この樹海をより北に行ったところに、ハードリアス軍事帝国領の街、ウィルアがございます。大きな街ですので、したいことはなんでもできるでしょう」


 したいことか。昔ならばいっぱい『したいこと』を挙げただろうが、不思議と今は何も思い浮かばない。


「ツバサさんっ、街に着いたらたんまり魔族の生態を教えて頂きますからね…」

「ひぃ!?」


 爺さんから地図をもらった俺たちは、魔窟のさらに北の街、ウィルアへと進むことにした。

 見上げると、木々の隙間から真っ赤な夕空が見えた。前を向きなおすと、鬱蒼とした森が広がっている。泊っていったほうがいいのではと提案はしたが、爺さんたちはすぐそこだし大丈夫、といって俺達を追い出した。

 トレイルセンスを使って、薄暗い中どうにか北を目指して歩いていく。キャリナは黙って俺の後ろを歩いている。


「キャリナ、魔物の気配は?」

「ひとつありますが、大丈夫ですよ! ツバサさんもいますし!」

「そんなに俺を過信するなよ…」

「それに、ここ(樹海)は夜になるとより暗くなるので、私の本領が発揮できます!」


 陽の光による弱体化でようやく俺と同じくらいの強さになるキャリナが本領を発揮できるのか。俺は少し安心して進んだ。

 陽が落ちたような気がしたが、視界は薄暗いだけで、あまり変化はない。


「ツバサさん、光を灯したほうがいいですか?」

「いや、いい。問題なく見えている」


 魔族の種族補正だろうか。そんなことを思い浮かべているとダイアログが肯定してきた。魔族ってどんなに万能な種族なんだ。ヴェルハの趣味だろうか。

 ぼんやり歩いていたときにひとつの気配が近寄ってくる気配がして、立ち止まった。


「誰だ!」

「ウルブレード… 貴方もヴェルハの遣いなのだな?」


 『あのヴェルハ』ってなんだ? ほかにも居るのか、ヴェルハって?

 まあ、同じ名前の奴もどこかには生息しているだろうが… そんなことより、俺はその前に言った『ウルブレード』のほうが気になるんだがな。

 近寄ってきたのは、低い位置でポニーテールにしてスタッフを持った男だった。



―――

『特殊条件を満たしました。原初の魔剣は『魔剣ウルブレード』に変化しました』

『イベント【魔杖との出会い】が開始されました』

―――



「我は… 魔杖デスパレード所持者、ナートゥス。大峰翼、我との決闘を申し出る」


 すごくスルーしたい気分だったのだが… イベントだって言われたら仕方ない。

 俺はキャリナを下がらせると魔剣を装備して、構えた。


「いいだろう。だが、俺以外に被害を出すな」


 両者魔法の詠唱を始める。

 俺はファストスペルに登録された、【イビルサンクチュアリ】と【エレメンタルフィールド】を詠唱する。対するナートゥスは聞いたことない魔法を詠唱している。


「「――【ファストスペル】」」


 同じ呪文が唱えられる。ファストスペルで省略された魔法は…


【イビルサンクチュアリ】

【エレメンタルフィールド】

【イビルサンクチュアリⅡ】

【エレメンタルブレイク】


 両者が唱えた魔法は互いの魔法を打ち消し、魔力場を霧散させていく。それを確認する間もなく、違う魔法を詠唱し始める。速く、一秒でも、速く、早く詠唱することを考えて、魔法を展開していく。


「――、聖なる雷でかの者に裁きを下す。これは我、ただ一人の願い。覆すことのできないそれの名は…」

「――、流るる氷河よ、かの者を貫き押し流せ! これは我、ただ一人の願い。覆すことのできないそれの名は…」

【ライトニング・ジャッジメント】

【クリスタル・ハイドロピアス】


 魔剣からは裁きの雷が、魔杖からは氷柱が、相手めがけて飛んでいく。それらは勢いよくぶつかると相手の魔法を粉々にした。

 ナートゥスの胴ががら空きだ、やるなら今しかない!


「魔剣… ウルなんちゃら! かの者を貫け!」


 剣の切っ先を前に向かせて、ナートゥスの胴めがけて飛び込んだ。初めて使う風魔法で加速まで入れた。うまくいっているかはよくわからないが、ナートゥスを仕留めることだけを考えて飛び込んだ。


「…ッ!」


 ナートゥスがとっさに魔杖で受け止めた。が、魔剣の重みに耐えきれず、魔杖を手放してしまった。今度こそは殺してしまわないよう、急いで魔剣を引っ込める。


「まだ、まだだ!」

【ファストスペル】


 ナートゥスの手からどす黒い魔力がこちらを向いて射出された。魔力の、糸?



―――

『状態異常:操り人形(マリオネット)

 魔力が一定割合ずつ減少します。

―――



「魔力が吸われていく…!」

「これに耐えきることができたならば、その力を認めてやる」

「ツバサさんっ!」

「手出しは無用だ」


 キャリナがその場に縫い留められる。俺からも動かないように命じた。

 湯水のように流れ出ていく魔力を少しでも軽減しようと、息を大きく吸い込む。


「この糸って、お前につながってるんだよな?」


 やられたならば、やり返せばいい。魔力が吸われているのならば、吸い返してやればいい。そう考えて、ただ一つの魔法を詠唱する。


「この魔力の流れ… マナイーターか!!」

「解除しようなんか考えるなよ? その魔法を解いた瞬間、お前は魔力を刈り尽されるからな」

【マナ・イーター】


 ナートゥスへと向かっていた魔力の糸を覆うように現れた魔法は、ナートゥスの元へ行った魔力を逆流させ、また俺の元へと戻ろうとしてくる。ナートゥスはどうにか自身に魔力が戻るように耐えていたが、耐えきれなくなってこちらに向けていた手を降ろして言った。


「投降だ。マリオネットの効果に抗うなんて、尋常じゃない!」


 トボトボと地面に落ちた魔杖を拾うと、ナートゥスは魔力が切れたように倒れこんだ。キャリナが俺の後ろへと戻ってきて言ってくる。


「ツバサさん、どうするんですか?」

「このまま置いていきたい気持ちはあるんだが… 魔杖なんちゃらとか言ってたし、連れていこう」

「ツバサさんは優しいですねっ!」



───

『クエスト【魔杖との出会い】をクリアしました』

『追加経験値を獲得します』

───



 キャリナがナートゥスに手を当てて魔力を注ぐと、ナートゥスは大きく一跳ねして起き上がった。


「その杖は魔力を食べるようです。魔力枯渇時には使用しないことを推奨します」

「お姉さんは… キャリナ嬢? 翼殿の方も見たことがある…」


 ナートゥスはキャリナの顔を見てなにやらぶつぶつ呟いている。俺たちは無視して進むことにした。


「キャリナ、この近くに魔物は?」

「この先に魔物の集団が居るような気がします… 私が蹴散らしてきましょうか?」

「いや、いい。俺がやる」


 そういえば対人の時は経験値が入るのだろうか。ステータスウィンドウで取得した経験値の履歴が見れるそうなので、見てみることにした。



―――

【経験値取得履歴】


→【イベント】魔杖との出会いボーナス

  EXP:2000

【イベント】魔杖の所持者ナートゥス=エペラー

 EXP:1000

アルトの魔法書 詳細習得ボーナス

 EXP:500

殺害 ラート=アヴェラーダ

 EXP:1000

……

―――


 対人の時でも経験値は入るようだ… 殺害しても、ただ決闘しただけでも、経験値は一律1000のようだ。殺害はあまり効率がよくないのか?

 うーむ、経験値効率を求めるのはやめにしよう。倫理を逸脱した行動は一応人間として慎まなければならない。


「いや、俺人間じゃなくなったんだ!」

「ふむふむ… 魔族は人間からの派生形態…?」

「違うからっ! そんな生まれ方の奴もいるけどものによるから!!」

「そうなんですか!? お詳しいんですねっ!!」


 ツッコミを入れたのは俺じゃない、ナートゥスだ。こいつは相当長生きなのだろうか、魔族について知っているようだが。後で話をきいてみよう、キャリナにちょっと馴れ馴れしいのも加えて。


「来ましたよ! 魔狼の群れです!」

「合点承知…」


 聖属性魔法を使うと、灯りに照らされて狼たちが見えてきた。数は… 十体ほどだろう。


「炎は森だから駄目だな。雷で行こう… わが身を流れる魔力よ、雷を帯びて、螺旋を描いて、かの者を退けよ!」

【ライトニングⅣ】


 いつの間にか俺はレベル40を超えていたようだ。レベル40以上で使える詠唱補助であるⅣが付いている。これまでのスキル習得から、10レベル上がれば、一段階魔法の威力上昇詠唱補助魔法が使えるようになることを予測していたが、本当に使えるようになっていたとは。

 魔剣の先から放出された俺の魔力は、詠唱通り螺旋を描いて魔狼たちを貫いていく。数体ほど倒したところで、魔狼たちは逃げていった。

 暗い中、数十分ほど歩いたときだろうか。樹海を抜けて、街特有の灯りが見え始めた。


「ナートゥスはあの街について何か知っているか?」

「表向きはまともな街だが、裏では暴力団が控えている治安の悪い街であると、知り合いから聞いた」


 量産型な街だな。とか思っている俺の隣でキャリナが『治安、良くしてみましょうよ~っ!!』って顔をしている。なんでそんなこと言うの!? 危ないでしょ!!


「我は今一つのクエストを持っているのだが~、ちょっと地下で暴力を振るうだけのクエストがあるのだが~!」


 そのクエストって暴力団壊滅だったりしない? 嫌だよ俺は!


「ツバサさんっ! やりましょうよ~!」

「そうだそうだ! キャリナ嬢もそうやって言っている!」


 何故キャリナを嬢と呼ぶのだろうか。キャリナは此奴の事を知らないようだが…

 クエスト内容を確認してから、やるかどうか決めよう。俺がどんな決断を下してもこいつらは治安を良くしにいくんだろうがな。



―――

『クエスト【暗闇に灯りを】の詳細』


【暗闇に灯りを】

難易度 ★★★★☆

それは街の灯りであり、暗闇。偽りの灯りを打ち払って、希望の光を灯してほしい。

―――



「難しさしか書いていないんだが…」

「まあまあ! ギルドに張り出されていたときの難易度だから、我らで挑んだときの難易度ではない! 我らで挑めばこんなもの、一瞬で終わる!!」


 やる気まんまんな奴が二人も居る、説得するのは難しいだろう。

 そう思った俺は諦めてクエスト【暗闇に灯りを】を受注した。


「仕方ない、受けてやろう。その代わり、終わったらしばし休暇をくれ」

「勿論だ」「勿論ですっ!」


 俺自身もこの身体(魔族)について知っていることは少ない。終わらせた後は、情報を掴んでいそうなナートゥスから情報を搾り取ってやる。この情報を知ったあとは、キャリナに情報を搾り取られるのだろうことは目に見えている。

 それすら終えた後は何をしようか。久しぶりに風呂でも入ろうか、ゆっくりしたい。


「今日は街まで行く。街に着いたら宿をとって一晩休もう」


 そう言って俺は街灯り目指して歩き出した。

 十分ほど歩いてやっと街の入り口にたどり着いた。


「ナートゥス、この街の宿はどこにあるかわかるか?」

「それならこっちだ。ついてきてくれ」


 先頭をナートゥスに譲って、再び歩き出す。キャリナは暗闇の中だからだろうか、まだイキイキしている。俺はさっさと寝たい、疲れたからな。

 歩き始めてすぐ、俺はナートゥスに先頭を譲ったのを後悔し始めた。なんとなく、ナートゥスが進んでいく方向から淫猥な雰囲気を感じたからだ。

 ファンタジーには似つかわしくない、ネオンライトのような光が、そこらじゅうで明滅している。道路の薄暗さとの対比がより、不気味さを醸し出している。


「おいナートゥス、こっちで本当に合っているのか? あっちにも宿っぽいのはあったぞ?」

「あっちの宿は高すぎるのだ。それに比べればこっちのほうがはるかに安く済む」

「ツバサさんっ! どういうことですか?」

「キャリナは気にしなくていい」

「ええ…?」


 というか、なんでナートゥスはこっちのほうが安く済むと知っているんだ?

 悶々と考えていると、ナートゥスはギラギラした店の前で立ち止った。



―――

【愛宿 ザクラミリィ】

―――



 愛宿… そういえばこの世界にはホテルなんて言葉はないのか。ファンタジーだしな、うん。


「おいおい、こんなところに入るのか?」

「安いほうがいいだろう?」

「ここが何をする場所なのか知って言っているのか?」

「どこも同じじゃないのか?」


 呆れた。泊れればどこでもいいと思っているナートゥスに。

 ナートゥスが店の扉を開くと、変な甘さを含んだ空気が漂ってきた。

 眼の前のカウンターに座るお姉さんがナートゥスに話しかけた。


「あれあれ〜っ? ナートゥスさまぁ、どうしたんですか? マルチプレイですか?」

「マルチ… ってなんですか? ツバサさん」

「お前は知らなくていい!」


 ()()がナートゥスの愛人であると勘違いされているなんて言えるか!!


「今日はただ泊まりに来ただけだ。ザクラ様、部屋を二つ取れないだろうか? 一人部屋と二人部屋でいい」

「ってことはあの子達はナートゥス様の性奴隷じゃないんだ」


 キャリナの青い顔が赤く染まる。ナートゥスとザクラの言い合いは更に続いた。


「あんなおっかねえ奴らにそんなことできるわけないだろう! 殺される!」

「おっかない…?」


 疑ったザクラが俺とキャリナをじっと見つめる。綺麗なお姉さんだなあ…

 そんなことを思っていたとき、ザクラがどこからか弓を取り出し、俺達に向けて矢を放った。

 放たれた矢は俺とキャリナ、それぞれの胴体に命中すると、めり込んで消えていった。


「おっかないのはどっちだ!!」

「びっくりしました〜っ!」


 むず痒い感じがして、放たれた矢をクオリアアナライズで解析すると、矢に状態異常【催淫】がかかっているのを確認した。

 こら魔剣ウルなんちゃら、勝手に宙を浮かない! 臨戦態勢を取らないの!


「あれえ? 私の魔法が効いてない?」

「相手は魔族とアンデッドロードだ。状態異常は勿論のこと、魔法だって効かない」

「魔族!? もう消滅したはずなのに、なんで!?」

「なにバラしてくれてんだナートゥスこの野郎! …なんで俺が魔族だって知ってるんだ?」

「さっきキャリナ嬢が言っていただろう、『魔族は人間の派生形態?』って…」


 呆れたように言うナートゥス。ちょうど奥から出てきた一人が俺たちに話しかけた。


「二人部屋一部屋と一人部屋一部屋がご用意できました。ナートゥス様、ご案内します」

「ありがとうミリィ様。行くぞ、翼、キャリナ嬢」


 思ったが、ナートゥスは何故このお姉さんたちには様付けで呼ぶのに対して、俺は呼び捨て、キャリナには嬢呼びなんだろう。

 ナートゥスについていくと、魔法陣の前で立ち止らされた。


「この魔法陣に立ってくれ。階を移動する」


 転移魔法陣… ってことか。便利そうだ。クオリアアナライズで再現できるか試してみよう。



―――

【クオリアアナライズ】

転移魔法陣を解析します・・・


『転移魔法【トラベルⅠ】を習得しました。キャラクターレベル40で魔法レベルが1上昇します。現在の魔法レベル:1』

―――



 あっさり習得できてしまった。転移魔法… この魔法は一体どれくらいまで飛ぶことができるのだろうか、また後で練習してみよう。

 浮遊感と共に違う景色になった。ナートゥスが魔法陣から出て、手招きする。

 二つの扉の間に立つと、指さして言った。


「我はこの部屋で寝るから、キャリナ嬢たちはこちらで」

「なんで俺とキャリナが一緒に寝るんだ? 男部屋と女部屋で分けるのかと思っていたのだが」


 俺の疑問にナートゥスは驚いた表情を見せる。俺とキャリナがカップルとでも思っていたのか?


「そ、そうだな… ではキャリナ嬢はこちらで、我と翼はこちらの部屋で寝よう」

「わかりました! ツバサさんっ、ナートゥスさん、おやすみなさい…」


 キャリナが俺達の横の部屋に入っていったのを見ながら、俺達も部屋に入った。ちょうどナートゥスと二人きりになった。俺は、なぜ魔族に詳しいのかを尋ねる必要がある。


「ナートゥス、少しいいか?」

「…何故我が魔族に詳しいのか聞きたいのだろう?」


 装備を脱いで薄っぺらい部屋着に着替えて、髪をほどいたナートゥスは、一つしか無いベッドに腰掛ける。俺もジャージに着替えると、間を開けて座った。


「我は、ヴェルハの観察帳でこの世界に転生してきた、ヴェルハの創造物だ」

「あいつがお前を創ったのか。なんで転生したんだ」

「ヴェルハの観察帳をやってみたかった、ただそれだけだ」


 ナートゥスはニカッと笑って言った。しばしの沈黙の後、ナートゥスは俺に質問してきた。


「翼、お前はなんで魔族を選んだ。エルフだとか、色々あっただろう?」

「かっこよかったから選んだ」


 呆れたような顔をした後、ナートゥスはキャリナとの関係について話した。


「キャリナ嬢は、転生前の我の知り合いの来孫だ」

「来孫ってなんだ?」

「孫の孫の子供だ」

「孫の孫の… お前の知り合いはどれだけ生きているんだ」

「我と同い年で、数千年ほど生きていただろう」


 知り合いか。原初の魔族って奴は相当長生きな種族なのだろう。


「久しぶりにこんなに話した。もう夜も遅いから我は寝る」

「ああ、おやすみ」


 ナートゥスが靴を脱いで布団に潜り込んだ。得た知識の整理をしつつ、俺も寝ることにした。

そしてナートゥスと翼は同じベッドで夜を過ごしたってわけ(語弊)


没にされた導入を晒すコーナー(蛇足)

 どうにか落ち着いた後、俺たちは各々の魔法について、マトモに話し合うことにした。


「ちょっと汚いかもしれないですけどこっちで話しましょう」


 キャリナが奥から机と椅子を引っ張り出して、俺を手招きした。昔の俺の机よりかはきれいだし、大丈夫だと思うのだが。

 俺が魔神ヴェルハに転生させられてこの世界に来たこと、そして物理攻撃が不得意であることと、得体のしれない蘇生魔法、【ライフチェンジ・リバース】についてキャリナに言った。キャリナは魔法書にあった魔法の全てを教えてくれた。


「キャリナ様、ツバサ様」


 レイスの爺さんが書物を机の上に置いてきた。この世界の文字は恐らくヴェルハが翻訳しているのだろう。問題なく読むことができた。

 タイトルは『偉人伝 魔族編』だそうだ。爺さん曰く、170ページにソローズパラディンのことが書いてあるらしい。キャリナが昔からずっと読んでいる本だ、と爺さんは最後に付け足した。


「えーっと…」


 170ページを開くと、ひとりの男の肖像画が俺を出迎えた。その男は巻きヅノで、長い髪を低めのポニーテールにしていて、見る人によっては女にも見えるような男だった。たしかにそれを聞いたら俺がソローズパラディンであると思うだろう。

 ずっと読み込んできたキャリナによると、ソローズパラディンの各種要素は俺に合致するとのこと。だが、ソローズパラディンは俺とは違って光属性も扱うのだそう。

 キャリナに、ヴェルハが最初、俺に渡してきたあの身体がソローズパラディンのものである可能性はどうなのか聞いてみると、肯定された。

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