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冷たい手のひら

 魔窟から這い出た俺達は、キャリナの案内で樹海の中を歩いていた。街に帰るまでの道中、俺達は互いの戦術の確認をしていた。キャリナはこれまでの長い人生で、魔法や物理攻撃においては大体マスターしたとのこと。使うのが不得意な魔法を挙げるとすれば聖属性魔法だそうだ。


「キャリナ、お前が使える魔法を俺に教えてくれないか? 俺の魔法書もある」

「勿論です! 魔法書にまとめますね!」


 俺が肯定するとキャリナは手元で謎の動きを始めた。手元が光り、辞書みたいな太さの本が生成されていく。俺の薄っぺらいノートとは大違いだ。


「なんかキャリナの魔法書… ごついな」

「長く生きてますから…」



───

『アイテム【キャリナの魔法書】を入手しました』

『光属性以外の魔法は習得可能です』


【キャリナの魔法書】

数百章から成る、キャリナのこれまで歩んできた人生の詰め合わせ。

炎、水、氷、風、土、光、闇、邪、聖、逸脱属性の攻撃、妨害、回復、支援、追加詠唱魔法が記載されている。

───



 光属性は習得できないのか。適性がないと習得できないのだろうか。習得を選択すると、魔法書が光り輝いて頭痛が始まった。前のときとは次元が違う頭痛が俺を襲う。あまりに頭が痛むせいで俺はその場に倒れ込んでしまった。

 目の前が暗くなる。遠くなってゆくキャリナの声とダイアログの発生SEを聞きながら、意識を失っていった。



───

『炎属性攻撃魔法【プロミネンス】を習得しました』

『水属性攻撃魔法【ハイドロ】を習得しました』

『風属性攻撃魔法【トルネード】を習得しました』

『土属性攻撃魔法【ロックレイズ】を習得しました』

『水風複合属性攻撃魔法【ハリケーン】を習得しました』

『無属性回復魔法【ヒール】を習得しました』

『無属性治療魔法【キュア】を習得しました』

『無属性支援魔法【フルブレード】を習得しました』

『闇邪複合属性攻撃魔法【イビルハグ】を習得しました』

『邪属性妨害魔法【カース】を習得しました』

『邪属性支援魔法【イビルフォース】を習得しました』

『追加詠唱魔法【ボルテックス】を習得しました』

『詠唱補助魔法【ファストスペル】を習得しました』

・・・

───



「…ツバサさんっ、ツバサさん! 起きてください!」


 少しずつ鮮明になっていくキャリナの声。目を開くと視界一面にキャリナとひとつのダイアログが居た。心なしか瞳が前より透き通っているような気がする。彼女は俺に手を当てて一生懸命回復魔法を詠唱している。


「キャリナ、どうしたんだ?」

「それが…」


 キャリナ曰く、樹海を出た先に冒険者の軍勢が控えて俺達を待ち伏せしているとのこと。ギルドマスターも居た為慌てて引き返してきたのだそうだ。


「少し時間をくれ」


 ダイアログがわざわざ俺に『魔法の詳細を確認しろ』と通知をよこすくらいだ。気絶している間にさぞたくさんの魔法を習得したのだろう。

 スキルウィンドウを開くと『属性から絞り込み』の選択肢に新しいものが増えていた。これまではせいぜい氷に雷、聖、聖雷複合属性魔法くらいだったのだが、それに加えて炎、水、風、土、闇、邪、水風複合、闇邪複合、無、聖邪複合、逸脱… とかなりの数に膨れ上がっている。

 絞り込みなしで見ていくと、【フロスト】と書かれた氷属性魔法が点滅している。選択するとダイアログが出現した。



―――

『習得した氷属性攻撃魔法【フロスト】は上位魔法【フロストクリスタル】と統合されました』

『氷属性の熟練度が上昇しました』

―――



「ツバサさん~! なんかじりじりとあの人たち来てる気がします!! まずいです~!」

「アンデッドは作れないのか!?」

「こんな明るいところで出したってすぐに死んじゃいます!!」

「仕方ない、魔法の詳細確認は後だ! 迎撃する!」


 もっとゆっくり確認したかったが、流石に囲まれては話にならない。キャリナと背中合わせになると俺たちはそれぞれの魔法を詠唱し始めた。



―――

『クオリアで一時的に効果が上昇しました』

『推奨魔法:固有魔法【クオリア・グロウアップ】』

―――


 いい仕事しかしないクオリアが、またもやいい仕事をしやがった。詠唱のダイアログが生成されて目の前に広がる。一文字ずつ読み上げていった。


「ツバサさん、受け取ってください!」

「キャリナ、ぶちかませ!!」

【マナブーストⅩ】

【クオリア・グロウアップ】

「はいっ!」


 翼は、一度自分を殺し、また自分を殺してきた、あの魔法(クリスタルカルチェレ)の事がいつのまにか好きになっていた。汎用性があるからというのも一つの理由。だが、本当は…


「串刺しにされる絵面って、かっこいいよな!!」

「グロテスクですよぉ!!」

【リバイバル:クリスタルカルチェレ】


 ただ、絵面がかっこいい。それだけ。これに惚れたのは、ただの厨二心が疼いたから。ただ、それだけのこと。

 キャリナの魔法によって膨れ上がった魔力があれば、魔法反動が来るほどの魔力消費量にはならない。

 樹海の樹をすり抜けてやってきた冒険者の大軍を、氷の槍で串刺しにしていく。ただ磔にするだけで、殺しはしない。だって、殺したらなんとなく面倒くさそうな香りがするじゃん?

 少しずつ退いてゆく冒険者の軍勢。俺たちは樹海の外へ向かいながら、魔法を唱え続けていた。

 樹海を超えた先には、小さな人影がひとつ。あれは、ギルドマスターのようだ。


「――、喰らってください!」

【マナ・イーター】


 周囲の魔力が薄くなった後、俺たちの周りだけ魔力が濃くなる。キャリナが冒険者たちから吸い上げたのだろう。

 樹海を出た俺たちは、ギルドマスターのミーラと対面した。


「ツバサ… 殿。無事生還したようだな」

「俺に八つ当たりするのはやめてもらっていいですかねえ」

「ツバサさんっ、私はどうすれば…」

「キャリナ、後衛を頼む」


 キャリナは俺と背中を合わせた後、魔法の詠唱を始めた。周囲から魔力が集まってくるのを感じる。これを応用して、何かにできないだろうか?

 そんなことを思っていると、知らない魔法のダイアログが出現した。二つの魔法を組み合わせて発動するらしく、詠唱がいつもより長いものになっている。



―――

『推奨魔法:聖邪複合属性攻撃魔法【イビルサンクチュアリ】』

『推奨魔法:逸脱属性補助魔法【エレメンタルフィールド】』

『イビルサンクチュアリは支援系統に変更することで、闇または邪属性の対象を強化』

『エレメンタルフィールドは属性攻撃の威力上昇』


『クオリア:イビルサンクチュアリを支援魔法に改造しました』

『推奨魔法を【ファストスペル】に登録しました』

―――



「聖なる血と、邪なる血。それらのすべては魔力となり、我らに力を捧げる。大地を形作る生命の奔流は、我らに試練を与える。覆すことのできないそれらの名は…」

「誰も我らに仇なすことはできない。不屈の精神を、強靭なる肉体を、芳醇なる魔力を、不可侵を実現する力を! 我らの元へと回帰させる。覆すことのできないそれの名は…」

【ファストスペル:イビルサンクチュアリ・エレメンタルフィールド】

【ギルティガーディアン】


 俺とキャリナ、二人の魔法が俺達を囲んで染め上げていく。出会って数時間も経ってない、正直お互いの事がよくわかっていない奴らが、自分を、相手を守るために魔法を行使する。

 ファストスペルとして唱えられた二つの魔法は相手(キャリナ)の力を引き出して、自分(ツバサ)の力を底上げする。ギルティガーディアンと唱えられた一つの魔法は自分(キャリナ)を、そして相手(ツバサ)を守り、魔力量を大幅に上昇させる。


「ツバサさん、力が湧いてきます… これは一体?」

「さっきくれたお前の魔法を、支援魔法に改造した。魔窟ほどではないが、力は出るはずだ!」

「(私、そんな魔法持ってないですよ!!)」


 キャリナは返事を返すことなく、詠唱を始める。先ほどとは比べ物にならないほどの魔力がキャリナの元へと集まってゆく。


「そんなに魔族が憎いんだったら、俺を殺してみろ!!」

「貴様とアンデッドロードともども、この世から消し去ってあげる」


 安っぽい挑発をミーラにしてから、魔法を詠唱する。ミーラの足を止めて、縛り上げて、排除する。ただそれだけを行えばいい。そう思っていた。

 発動したはずの魔法の数々はレジストされ、気づいたころにはミーラは剣を持って目の前に迫っていた。


「魔族が剣術をできないこと、私が知らない訳ないでしょう?」


 魔剣を構えて魔力を込める。俺が手を動かすことなく、ミーラの剣は跳ね返された。目の前にはキャリナが、魔力を纏った剣を携えて立っている。


「ツバサさんは後ろから攻撃を! 私がこの剣を止めます!」


 キャリナがそう言うと、ダイアログが出現した。代償魔法って、なんだ?



―――

『キャリナが代償魔法を行使しようとしています。力を貸しますか?』

→はい

 いいえ

―――



 なにもしていないのに自動ではいが選択される。長い詠唱画面が出現して俺の口が勝手に動き出す。魔力が身体から流れていくのを感じる。このまま魔力が減っていったら、間違いなく魔法反動が来る。不意に俺はさっきキャリナが行使した魔法のことを思いだした。

 魔力を周りから吸い上げる、魔法。俺は大きく息を吸って勝手に動く口を抑えると、現れた新しい魔法のダイアログを読み上げてゆく。


「我、天、地、使えるものはすべて使う。これは我とキャリナ、二人の願い。自分を超えた力を、ここに宿す。覆すことのできないそれの名は…」

【クオリアクリエイト:マナイーター・サクリファイス】


 クオリアの補助により再現された魔法は、キャリナが行使した代償魔法を補助すべく周りから魔力を吸い上げていく。魔力が目に見えるほどに凝縮されていく。


「ツバサさん、少し痛いかもしれないですけど、耐えてください! 二人の魔力を生贄に、かの者の動きを封じる…」

【クルスィフィクション】


 キャリナが行使した代償魔法は、俺から、キャリナから、魔力を奪いつくしてミーラに飛んでいく。魔法にかけられたミーラは完全に縛られた… ように見えたが、どこからか呼び出した剣で自身を切りつけると代償魔法の枷から逃れた。


「う、そ…」


 抜けた声がキャリナから発せられる。莫大な量の魔力を一気に消費したキャリナは魔法反動を受けて動けなくなっている。


「キャリナ、撤退するぞ!」

「そうはさせない!」


 ミーラが剣をこちらへ投げつけてくる。避けたらキャリナに当たる、避けることはできない。とるべき行動はただ一つ。

 魔剣に魔法をひとつ纏わせた俺は、魔剣を地面に突き刺して、纏わせた魔法の続きを詠唱する。ミーラの剣は俺達の元へ、俺達を抹殺するために直進する。


【クオリア・アナライズ】


 クオリアの分析機能を使って俺はミーラの剣を見る。ミーラの剣に付与された魔法は、俺達を追うように作られている。対象さえ変更できれば、俺たちの事を追ってくることはない。クオリアはそう考えた俺に合わせて詠唱ダイアログを出した。


「付与された理を捻じ曲げ、我らから災厄を退けたまえ!」

【クオリアアナライズ:フルブレード】


 キャリナの魔法書で覚えた魔法、フルブレードは物質等に干渉して、干渉したすべてに殺傷能力を持たせる魔法。これをいじれば、魔法の構成要素に干渉して、魔法の構成を変えることができる。


「魔力を喰らえ、マナイーター」


 魔力を回復しようとマナイーターの詠唱をするが、マナイーターが使えない。ミーラはお見通しであると言って魔法を詠唱し始める。


「ツバサ、さん。逃げてください… 私はアンデッドロードなので死ぬことはありません… 置いて、逃げてください」

「駄目だ、魔法反動を受けたものは能力が著しく下がる。属性耐性だってそうだ。それに俺が…」


 ミーラの詠唱が終わり、こちらに魔法が放たれる。魔力が枯渇した今の俺では防げるわけがない。魔剣を盾代わりに俺はキャリナをかばって立つ。魔法は魔剣に当たる前に、崩れ去った。


「!」

「…黒い、いや、ツバサ君。彼女を連れて、遠くへ逃げておくれ」


 声のしたほうには、ポンチョを作ってくれた服屋のちっこい店主が居た。戦闘用の服なのだろうか、さっきの寝間着のような服とは違って布が少なく作られている。


「ミーラ、貴女は自分が今何をしているのかわかっているのかい?」

「…」

「ミーラ、あの時にケリをつけたんじゃなかったのかい?」

「…」


 ミーラは黙って店主を見る。俺はその隙にキャリナを背負って樹海へと近づいてゆく。


「――、かの者に、裁きを…」

「…速く」

【ジャッジメント】

【ファストスペル】


 ミーラがぶつぶつ唱えた魔法は店主に打ち消される。店主は声を張り上げて俺に早く逃げろと言った。

 言葉を返さず、俺はキャリナを背負って魔窟へと走り出した。


「…ツバサ君、君は生きなければならない存在なんだ」

「魔族に、生きるも死ぬも無い!」


 ミーラの叫びを背に、俺は樹海の奥へと進んでいった。



―――――

「ミーラ、頭を冷やしなさい。ツバサ君は、あのときの彼奴とは違う」

「どうしてそう言い切れるの! 急にまた現れて、変わりましたなんて、信じられるわけないでしょう!」


 ツバサ君が発動させた魔法が解けた俺たちは、ギルドマスターと服屋の店主が言い争っているのをただ、眺めていた。


「兄貴… 俺達、ここで居ていいのか?」

「いいわけがない。ここに居たら、面倒ごとに巻き込まれる」

「それならさっさと逃げようぜ、ツバサたちは樹海の奥に進んでる。追えるうちに追っておかないと、迷子になっちまう」


 ツバサ君について行く、なんてそんなことをしたら足手まといになる。ついて行きたい気持ちは十分にあるが、俺はギルドマスターの命令に逆らうわけにはいかないんだ。


「兄貴の馬鹿野郎!」


 ラートがそう言い残してどこかに行ってしまった。俺は、どうすればいいんだ? 教えてくれよ、誰か…



─────

「キャリナ、大丈夫か、キャリナ!」

「ツバサさ…」


 魔法反動で動けないキャリナをおぶって魔窟へと向かう。出会った魔物は魔剣に斬らせて突き進む。もう魔窟の場所は把握している。草が生い茂る道を超えて、洞窟モドキを超えて、北へと進む。


「ツバサさ…」

「どうした! キャリナ」


 キャリナが静かに耳元で話した。どうやら、俺達を追跡しているものがいるらしい。さっきの冒険者の軍勢に居た者だそうだ。

 俺達を殺そうとしているのなら磔にして逃げるが、キャリナ曰く殺気はないとのことだ。警戒しながらゆっくり進んでいった。

 どうにか魔窟の入口までたどり着いたとき、聞き慣れた声がした。声のほうを向くと屈強な男がひとり、ラートが居た。


「ラート? アレクはどうしたんだ」

「あんな馬鹿兄貴はどうでもいい! ツバサ…」


 ラートはキャリナをおぶる俺の肩を掴み、言った。


「俺を、仲間にしてくれ!!」


 説得もできなさそうなオーラを醸し出すラートに折れた俺は、ラートも連れて魔窟の中に入ることにした。


「おい、ここに入るのか!?」

「こっちのほうが安全なんだ。魔力も豊富で、いいところなんだぞ」


 魔窟の良さをラートに布教しながら歩いていく。アンデッドたちは動けないキャリナを見るやいなや、キャリナの部屋へ急いでいく。アンデッドが出るたびラートが震えるが、どうにか宥めて進んでいく。

 キャリナの部屋までたどり着くと、ローブを着て、ヒゲを生やしたレイスのようなアンデッドが部屋の扉を開けて、俺達を案内してくれた。キャリナを奥にあったベッドに寝かせて、アンデッドに事情を説明する。


「そこのアンデッド共。キャリナの看病をしろ」


 俺が命令するとアンデッドたちは奥から大量の回復アイテムを持って現れた。詳細を静かに確認すると、魔力石だと分かった。骸骨は手に取った魔力石をキャリナの身体の上に置いていくと、円陣のようなものを組んで魔法を唱えだした。

 何を言っているのかは全く分からないが、何かをしようとしているのは間違いないだろう。


「一体これは何をしているんだ?」

「我らアンデッドに伝わる魔力回復の儀式であります、ツバサ殿」

「なんで俺の名前を知ってるんだ?」

「キャリナ様がそう呼んでいた故…」


 尋ねるとさっきのレイスが返答してくれた。ラートがなにやら騒いでいるようだ。


「ツバサ! こいつらは一体何なんだ!?」

「知り合いだ」


 スキルウィンドウを眺めながら生返事を返すと、ラートは俺にひっついてきた。退かしたくても魔力がない今じゃ、抵抗しようがない。スキルウィンドウの習得履歴機能を発見した俺は、さっき使ったであろう魔法を探していたのだが… 見つからない。一体どうなっているんだ?


「ツバサ~、本当に大丈夫なんだろうな!?」

「大丈夫だから、手だけは出すなよ?」


 そう思っていた時、キャリナが目を覚ました。


「ツバサさんっ! 私…」

「アンデッドロード!?」

「魔窟まで戻ってきた。治療は彼らがやってくれたよ」

「はぅ… おじいちゃん、ありがとうございます」

「我らはただ、キャリナ様に恩を返しただけでございます」


 知らない人間が一人増えているのに気づいたキャリナは、これまでのことをラートに話すことにした。ひとつ話すごとにラートがこっちを見てくるが、気にしたら負けだ。キャリナが説明を終えると、ラートはため息交じりに俺に言った。


「ツバサって… とんでもねえ奴だったんだな」

「そうでもない。それよりキャリナ、さっき行使した魔法をいつ習得したのかがわからないんだ。なにかわからないだろうか」


 さっき行使した魔法、というのは【イビルサンクチュアリ】と【エレメンタルフィールド】のことだ。そのことを伝えるとキャリナ… ではなくラートが反応した。ラートはそのふたつを聞いてなにかを思ったのだろうか、俺にいくつか質問をしてきた。

 一つ目の質問は「使える魔法の属性」だそうだ。念の為スキルウィンドウでスキルを確認するが、光属性が使えない事には変わりない。適性が無い魔法は本当に使えないのかは不明だが。もし練習次第で使えるようになるのならば全属性が扱えることになる。

 二つ目の質問は「防御力の高さ」だそうだ。ステータスを確認するが、物理攻撃以外はほとんど高水準な気がする。ギルドカードにステータスを表示する機能があったものだから表示してラートに見せてやった。


「こんな質問をして、一体何になるんだ?」


 ラートに疑問をぶつけるが、ラートは悶々と何かを考えている。悩んで、話すべきかを迷っているようだ。


「あの〜、なにを迷っているんですか?」

「はっきり言ってくれ」


 ラートを急かすと、重たい口を開いて、ただ一言言った。


「やっぱりお前、ソローズパラディンだろ」

「だから違う!」

「服屋の店主だって言っていた。『ツバサ君はあのときの彼奴とは違う』って」


 ラートはそう言って剣を鞘から抜く。起き上がったばかりのキャリナが状況を察して俺の前へと出るが腕で制する。


「死んだふりして名前も姿も変えて、そこまでして復讐を望むのか!」


 魔剣が勝手に装備される。キャリナが俺の首を掴んで魔力を注ぎ込んでくれているのを感じる。魔力がないとあんまり強くない剣であることをわかっているのだろう。

 ラートが俺へと近づいてくる。剣の切っ先は俺の首筋をまっすぐ捉えている。

 あんまり強い魔法は放て無い。ここで魔法を放ったら間違いなく他の者達に被害が出てしまう。

 俺は魔剣に魔力を込めた。ラートはそれでも近づいてくる。


「復讐なんか、望んでいない。俺はソローズパラディンなんて奴は知らない!」

「未練たらたらなのは見てわかってんだよ!」


 ラートが剣を振り下ろす。俺は魔剣で受け止めた。


「ツバサさんっ!」


 魔剣は振り下ろされた剣を砕いてラートへと向く。俺はラートを殺すつもりは毛頭ない。だが、魔剣は俺の意思に従うことはなかった。



───

『特殊条件を達成しました』

『状態異常【代償】が解除されました』

───



「え…、は?」


 魔剣がラートの腹をまっすぐ、串刺しにしている。思わず魔剣を引き抜くと、刺したところから鮮血が吹き出してきた。

 使える魔法は? 回復魔法、なにか使える魔法は…


───

『推奨:クリスタルカルチェレ』

───



 回復魔法を唱えようとラートの手を掴んだが、血の池に沈むラートの手はすでに冷たくなっていた。動くことなく、光を失った赤い目がこちらを眺めている。

「俺が、殺した…?」


 眼の前の光景が信じられない。ゲーム内ですることはあっても、現実で殺人なんかしたことはなかった。これは俺の意思なんかじゃない、魔剣がやったこと。本当は魔剣が悪いと言いたいが、魔剣の持ち主は、俺だ。

 ラートを凍らせてアイテムボックスに収納した。魔剣についた血はいつの間にか魔剣に吸い取られて綺麗さっぱりなくなっていた。


「ツバサさんっ!」

「キャリナ、キャリナ…」


 キャリナが俺の目を塞ぐ。これ以上は見てはいけないと言うように。

 キャリナの手のひらは冷たかった。アンデッドであるキャリナはもう死んでいるから。だが、体温とは違う温もりを感じた。


「ツバサさんがどんな存在だとしても、私は貴方と共に居ます。私は、貴方が何をしても、どの選択を選んでも、失望なんかしない」


 その後に紡がれた言葉を聞くまでは、キャリナと純粋に仲間として見ようと思った。


「時折、魔族の生態について教えてくださいね! 勿論私のことも教えますから!」


 言葉の裏に隠れた薄汚い気持ちを感じ取った俺は、胸底まで調べ(しゃぶり)尽くされそうな気がしながら、キャリナの温かみを感じていた。

『(作者の)【シリアスにしたい病】が発動!』


どこかにあるらしい伝説のブツ①【魔剣ウルブレード】

その剣は執行者の願いを叶え、魂に干渉する。魔剣が許可したもの以外に触ることは許されない。


どこかにあるらしい伝説のブツ②【魔槍フィヴェリア】

その槍は禍々しい魔力で覆われており、魔槍が許可したもの以外に触ることは許されない。

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