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名誉パシリ奴隷、初クエストへ

「とりあえずギルドへと帰ろうではないか、ツバサ殿。話はそれからだ」


 これからみっちりクエスト(ざつよう)を叩きこまれるのだと思うと足が重くなる。アレクたちに助け船を出そうとしたが、アレクたちは「行ってこい」と言ってさっきの奴らの素材を俺に渡してから、俺を地獄へと叩き落とした。


「アレクとラートの馬鹿野郎!!」

「はは、次に会ったときはメシでもおごってやるから許せ!」


 俺はミーラに町のギルドまで引きずられた。原初の魔衣の効果で全ステータス補正がかかってるといっても、痛いものは痛い。ギルドに着くころには全身擦り傷まみれになっていた。

 ポーションを使って回復すると、擦り傷は少しずつ回復していった。


「ツバサ殿、ここで少し待っていてくれ」

「は、はあ」


 ギルドの扉の前でミーラは立ち止まると、俺にここで待つように言った。あのー、ここでこんな黒い奴が棒立ちなんかしてたら不審者として捕まらないか? 道行く人々の視線が痛いです、ミーラ氏、どうにかしてください。


「もう入っていいぞ~」


 ミーラの声が中からしてギルドの扉を開けると、奥の扉へと案内された。奥の扉の中へと入ると、ミーラがデカい椅子に座って偉そうに踏ん反り返っていた。一体それはなんだと訊いたらドヤ顔をして、やってみたかった、とか答えてきた。


「で、パシリの内容ってなんだ?」

「ここの近くにある魔窟の調査、最奥にいるとされるアンデッドロードの撃退だ」

「面倒くさそう…」

「相手はアンデッドロード。基本の属性は効果が薄い。よって光属性または聖属性の魔法書を贈呈したいと考えるのだが…」

「光属性と聖属性の違いっていったい何なんだ?」

「聖属性は光属性の上位互換の魔法だ。魔力消費がとてつもないのが問題点だが、光属性とはまた違う扱いとなる。よって光属性の適性がないものでも使える魔法となっている」


 俺にちょうどいい魔法だな。魔族の種族特性は光属性以外の属性に対する魔法適正。聖属性が光属性とは違うのであれば、適性がある!


「聖属性の魔法書をできればもらいたい。だが、アンデッドロードを討伐できなかった場合はどうなるんだ?」

「アンデッドを生成するのを止めてくれればいい。魔窟までの地図と世界地図だ、活用してくれ」


 一冊の魔法書と地図二枚を手渡すと、ミーラは俺を部屋から追い出した。

 アイテムウィンドウを開くと、聖属性の魔法書と魔窟までの地図、そして世界地図が新しく入っていた。聖属性の魔法書を選択すると、ダイアログが出てきた。



―――

【聖属性の魔法書】

ミーラお手製の魔法書。全五章で、聖属性の魔法のほとんどを網羅する。

・第一章 聖属性攻撃魔法【サンクチュアリ】

・第二章 聖属性妨害魔法【スターライト】

・第三章 聖属性回復魔法【ヒールキュアー】

・第四章 聖属性支援魔法【エレメントブースト】

・第五章 聖闇複合属性支援魔法【レジスト】

―――



 一通り内容を見終わったとき、新しいダイアログが出現して『スキル【クオリア】を使用して『聖属性の魔法書』の魔法を習得しますか?』と俺に問いかけた。はいを選択すると、手元の魔法書が光り出した。視界自体は明るいが、立ち眩みの時のような感覚だけが襲い掛かってくる。



―――

『クオリアの補助による魔法習得を開始しました。その場から動かないでください』

―――



 動いたらなにか不都合なことでもあるのか、と尋ねるとダイアログが一つ増えた。そのダイアログには、動くと他の者がスキルを習得する可能性があることと、運が悪いと死んでしまうということが書かれていた。



―――

『クオリアの補助による魔法習得を終了しました』

『聖属性攻撃魔法【サンクチュアリ】を習得しました』

『聖属性妨害魔法【スターライト】を習得しました』

『聖属性回復魔法【ヒールキュアー】を習得しました』

『聖属性支援魔法【エレメントブースト】を習得しました』

『聖闇複合属性支援魔法【レジスト】を習得しました』

―――



 魔法習得が終わったと同時に頭の痛みも引いていった。詳細を確認しようとスキルウィンドウを開くと、固有魔法の下に聖属性魔法というカテゴリーが新しくできていた。開くと、魔法書の説明に合った通りの魔法が六つ、並んでいた。第一章から第六章、そのままの順番で並んでいた。

 さっさと魔窟とやらに行ってアンデッドロードを倒して楽したいところだが、原初の魔衣だと流石に目立つので服屋に行くことにした。

 カランカランとドアにかけられた鈴が新たな客の入店を知らせる。奥に座っていた小さな店主は俺を見ても特に動じることなく、そのまま奥で座っていた。

 大きなポンチョみたいな物だったら魔衣を隠せるだろうか、さっきのクマ皮を持って店主の元へ行った。


「素材の加工をして欲しいのだが… 今いいだろうか?」

「ジャイアントアルクトスの皮… 黒い兄ちゃん、ギルドカードは持っているかい?」


 ギルドカードを出すと、小さな店主は驚いた顔をして続ける。


「兄ちゃんが欲しいのは膝丈くらいのポンチョで合っているかい?」


 勘、というにはあまりにもピンポイント過ぎる… 一体此奴は何なんだ?


「あなたは、一体何者なんだ?」

「少しばかり心が読める、ただそれだけだよ。それにしてもミーラちゃんに認められるなんて、兄ちゃんはすごい人なんだねえ」


 それほど、あのちっこいギルドマスターはすごいのか… アイツはこれまでの人生になにをしてきたのだろうか。さっきくれた魔法書然り、謎の風格然り、冒険者だったのだろうか?


「ああ、膝丈くらいでいい。余った分は好きに使ってくれ」

「そうかい。それならお代はもらわないでおくよ。すぐに完成させるから、ここに座って待っていておくれ」


 店主は奥から一枚布を持ってきて、ハサミを持って勢いよくクマ皮とその布を切ると、刺繍針に糸を通す。さっき切った皮と布を力技で縫い始めた。まるで、穴に針を通すように、するすると縫い上げていく。なんとなく形になったところで店主は俺を呼び出した。


「羽織っておくれ。仕上げの作業に入ろう」


 手渡されたポンチョらしき布の塊を羽織ると、店主はひとつ、魔法を詠唱し始めた。


「――、かの者を守護する衣として、覚醒せよ!【グロウアップ】」


 布の塊は店主の魔法を受けて少しの間光ると、魔法少女の変身演出のように形を変え、原初の外套にくっついた。



―――

『固有魔法【ロー・グロウアップ】を習得しました』

原初の外套を装備し、スタイルチェンジで『永遠の外套』にしたときに発動可能。

スタイルチェンジは念ずることで使用可能。

―――



「これで兄ちゃんはポンチョを着ることができるようになった」

「これは一体どういうことなんだ?」

「防具としての本質を思いださせただけだよ。念じれば、その外套はポンチョのような形にもなり、さっきの形にもなる」


 なんとなく感心していると、店主は一言、俺に言った。


「この国の連中には気を付けた方がいい。君みたいなモノに暗い気持ちを持っているから」

「それは一体どういうことだ?」

「言葉の通りだよ。ミーラちゃんに頼まれた『おつかい』があるんだろう? さっさと行きな」


 店主はそう言うと、俺を店外に追い出した。心なしか、店主の目はどこか遠くを見ていたような気がする。

 俺みたいな奴に暗い気持ちを持っている、か。あの店主は人の心が読める、と言っていたが… 俺が魔族なことも読んでいたのだろうか。

 魔窟までの道を知ろうと地図を開くと、魔窟はこの町から割と離れたところにあることが分かった。いったん、町を出よう。方位磁針なんてものは持っていないから、道なりに進むしかない。そう思っていた時、ひとつのダイアログが出た。



―――

『条件に達した為、機能が開放されました。条件:方位磁針、及び方位磁石、コンパスなどを思いうかべる』


【クイックスキル:トレイルセンス】

・東西南北がぼんやりとわかるようになる

―――



 二つ目のクイックスキル。アイテムボックス然り、ゲームシステムとして内包されている便利機能、と言ったところか?

 地図によると魔窟は北にあるそうだ。クイックスキルのトレイルセンスを使用して北へと向かった。

 町を抜けて、いつしか緑あふれる草原へと来ていた。風が吹いて揺れた草がざわざわと音を出す。昔聞いていた、自然音のASMRをぼんやりと思い出す。作業にはちょうどいい音でかなり気に入っていたのを覚えている。

 自分が発している音と別の音が奥から聞こえる。敵か何かだろうか。


【ライトニングⅠ】


 対象めがけて雷を放ってみたが、まだ自分以外の音は消えない。

 声を出すと、対象はスピードを速めてこちらへ迫ってくる。だんだんとその輪郭がはっきりとしてきた。また、ジャイアントアルクトスか? ダイアログが対象の分析を行うか聞いてきたのではいを選択すると、アークアルクトスだと出た。名前からしてジャイアントアルクトスの上位互換、だろうか。


「アーク… アルクトス」



―――

『原初の魔剣を装備しました』

―――



 前と同じように、氷漬けにしてから雷撃を放つ… だが、上位互換体であるこいつは、前より断然強い!

 魔力を帯びた魔剣は魔力の限り魔法を放つが、なんといっても燃費が悪い。結局は自分で魔法を放つ必要がある。そして、前は魔剣がステータスダウンを誤魔化してくれていたからどうにか戦えたが、今回はその加護も…

 まだ試していないことがあった。もしかしたら、あれならばいけるかもしれない。


「スタイルチェンジ、【ロー・グロウアップ】!」


 原初の魔衣が輝きを放って色を変えていく。ダイアログがステータスの変更を知らせてくるのと同時に、力が湧きたつ感覚が生じる。氷魔法で動きを止めているからクマを止められているだけで、氷魔法が無かったら俺はもう死んでいただろう。


「前よりもっと、もっと… 強い雷…」


 氷魔法を切らさぬよう、魔力を練って、前よりも強い雷を、作っていく…! 魔剣に纏わりつく雷は前の何倍もある大きさになって、いつ暴発してもおかしくない音を立てている。


「喰らって、【ライトニングパイル】」


 限界まで練られた魔力は魔剣に纏わりつき、ちょうど氷が解けたアークアルクトスの首筋に向かって直進。アークアルクトスに命中… したが、まだ立っている。

 魔力は… かなり減っている。魔力石のかけらを使って魔力を回復して、さっきと同じ魔法を唱えようとした。だが、ダイアログは別の魔法を提示した。



―――

『雷属性の熟練度が既定の値を逸脱した為、聖属性攻撃魔法【サンクチュアリ】が派生。聖雷複合属性攻撃魔法【ライトニング・ジャッジメント】を習得しました』

『推奨魔法:聖雷複合属性攻撃魔法【クオリアクレアーレ:ライトニング・ジャッジメント】』

『クリスタルカルチェレが発動しました。アークアルクトスが数秒間行動不能になります』

―――



 聖雷複合属性攻撃魔法… 魔法書にはそんなものは書いていなかったが… 第一章【サンクチュアリ】の雷派生で、雷と複合した魔法ってことで合っているのだろうか?


「――、聖なる雷でかの者に裁きを下す。これは我、ただ一人の願い。何からも逃れられない、覆すことのできないそれの名は…」

【クオリアクレアーレ:ライトニング・ジャッジメント】


 まばゆい光を周囲から吸い取りながら発射された、一本の雷はまだ氷漬けにされていたアークアルクトスの首を刎ね飛ばした。流石に首が刎ね飛ばされては動けないのか、アークアルクトスは静かに地面に倒れ、草原に血の海を作った。


「流石に倒れた… よな?」


 町から少し離れたこんなところでギルドの面々を呼びに行くのは面倒くさかったので、血の海ごと氷漬けにしてからアイテムボックスに無理矢理ねじ込んだ。

 出発しようとしたときに現れた大量のダイアログが、俺の足を止めた。



―――

『システム:レベルが急上昇しました。レベル上昇通知をオンにしますか?』

『クオリアの補助で魔法を成長させました。【ロー・グロウアップ】は【グロウアップ】に進化しました。進化条件:一定レベルに達する』

『氷属性熟練度上昇によって【フロストクリスタルⅠ】及び進化系統の魔法【フロストクリスタルⅡ~Ⅲ】を習得しました』

『雷属性熟練度上昇によって【ライトニングⅠ】の進化系統の魔法、【ライトニングⅡ~Ⅲ】を習得しました』

『聖雷複合属性熟練度上昇によって、聖雷複合属性蘇生魔法【リザレクション】を習得しました』

『聖属性及び聖複合属性魔法習得によって、アイテム『ミーラの魔法書』の内容が書き換えられます。内容書き換えを実行しますか?』

―――



 とりあえずどうでもよさそうなダイアログから片づけていこう。魔法習得系のダイアログはとりあえず了解を選択。習得した魔法は後で確認するとして… レベルが急上昇しましたってなんだ? レベル上昇通知は… 邪魔そうだしオフにしておこう。オンにしたいと思えばまたオンにできるそうだしな。

 ステータスを開くと、名前の横にレベルが記載されていた。詳細を確認すると、戦った敵とそれで得た経験値が一覧となって載っている。ジャイアントアルクトスを倒したときの経験値は諸々の減衰ありで20レベルぶん、経験値はレベルが上がれば上がるほど上がりにくくなる仕様のようだ。今回倒したアークアルクトスは… 諸々の減衰を入れて15レベルぶんだと!? 確かにあいつは強かったが… 

 あっちの平原でステータスを見たときのレベルは1だったが… 今のレベルは上がりに上がって36… そりゃあ、システムもレベルが『急上昇』しましたなんていうダイアログをよこしてくるわけだ。


「ミーラの魔法書の内容を書き換えられる?」


 よくわからなかったがミーラの魔法書の内容改竄をするかを問うダイアログを了承すると、ミーラの魔法書は光り輝く。開いてみると、書かれている内容がなくなったあと、魔法書を持つ俺の手から文字のようなものが出現して魔法書に吸い込まれていった。



―――

『ミーラの魔法書の内容を書き換えました。アイテム『ミーラの魔法書 聖属性編』は変更され、『ツバサの魔法書』となります』

『魔法書の内容改竄により、『ツバサの魔法書』には習得した魔法が自動で全て記録されていきます。手動への切り替えは、メニューの設定より行えます』

―――



 内容を書き換えただけのはずだったが、アイテム名まで変わってしまった。おそらく『誰が書いたか』が変わったからだろう。

 トレイルセンスを使って、再び北にある魔窟へと向かうことにした。

 草原を抜けると樹海に入った。どこを見ても木か草しかなく、上を見上げても空はあまり見えず、周りは薄暗い。暇つぶしに魔法の試し打ちをしながら進もうかと思った俺は、魔法の詠唱ウィンドウを大量に出して、いつでも魔法を打てるように準備した。


「――【フロストクリスタルⅠ】」


 フロストクリスタルからひとつづつ確認していこう。Ⅰは掌サイズの氷がひとつ出た。魔力をこねながら剣になるように加工すると、ゆっくりと剣の形が出来ていった。魔力を少しずつ込めていくと、フロストクリスタルのレベルは高いものが詠唱されるようになっていった。Ⅱでは包丁ほど、Ⅲではショートソードほどの大きさの氷ができた。

 いつの間にか手が真っ赤になっていた。ずっと氷を触っていたからだろうか。こういうタイプのダメージも治せるのか気になって聖属性回復魔法【ヒールキュアー】を詠唱してみると、ぼんやりと手が暖かくなった。この回復魔法の属性って聖属性だけじゃなさそうだ。クオリアで解析ってできるのだろうか。



―――

『クオリアによる解析:必要レベル40』

―――


 あと4レベル上げないといけないのか。余り敵が居なさそうな樹海だが… まあ魔窟にうじゃうじゃいるだろう。出会ったら倒す、それだけだ。

 トレイルセンスのおかげで迷うことなく北にずんずん進んでいった俺は、洞窟のようなものを発見した。その間、一度も接敵する事はなく、不気味なほどに静かだった。


「…魔窟、か」


 魔の巣窟、ということなのだろうか。俺は、魔窟と表された洞窟へと足を踏み入れた。足を踏み入れた瞬間、どこかに転移させられたように、がらりと景色が変わった。魔法か何かの仕業だろう。外から見たときは山をただ掘ったような見た目だったのだが、足を踏み入れた瞬間、石で壁と床が舗装された、天井には様々な鉱石が密集する人口の通路になった。壁には所々松明のようなものが付き、妖しい光を放っている。光が灯っているというのに先がまったく見えない。ここでの松明は道を示すだけのもので、場を明るくするものではないのかもしれない。


「聖属性って、光るのか?」


 試しに魔剣を出して【サンクチュアリ】を付与する。攻撃魔法だが、極限まで殺傷力を下げて詠唱すれば問題ない。サンクチュアリを付与された魔剣は淡い光を放ち、少し先までをぼんやり照らした。

 なにか変なやつが出てきてもアンデッドロードの住処だし、アンデッドが出てくるのだろう。アンデッドは聖属性が弱点のようだしこのまま殴れば倒せるだろう。


「何でも出てこい、ぶっ殺してやるよ」


 俺がかっこつけてそう言った瞬間、奥から骨が鳴る音やら肉がたたきつけられる音やら、死の色が濃い音が鳴り響いてきた。音声認証でも入っているのか、この洞窟は?

 魔剣に魔力を込めて、よく見えるようにしてから構えた。骸骨やゾンビ等のアンデッドモンスターらしき奴らが密度の高い行列をなして、こちらへと向かってくるのがよく見える。



―――

【イベント】

アンデッドロード(道)

―――



 変なダイアログを出すのをやめろ! 何が道だよ、うまいことを言えとは言ってないぞ!!

 迫りくる死を退けようと魔剣の切っ先を向けて、俺は詠唱を始めた。


「かの者らを葬り去る、聖なる雷。これは我、ただ一人の願い… 穿て!【ライトニング・ジャッジメント】」


 魔剣上で聖属性と雷属性が交じりあってひとつの魔法を形作っていく。やがて、螺旋を描いたひとつの魔法は希望を見出そうと、死を穿ち、暗闇に覆われた道を明るく照らしていく。


「まだ死にたくないんだ!」


 俺と、俺じゃない、知らない誰かの声。死にたくないからアンデッドになったのか否かは本人しか知らないだろうが、俺も死にたくないんだ。これ以上の代償がつくと大変だからな。

 静かに俺は魔剣に魔力を注ぐ。若干ふらついたが、これで倒れてはこれから生きていけない。魔力石のかけらを使って魔力を回復させると、死が退いたのを確認してから魔法を解いた。

 魔法反動が発動しそうだ、とダイアログが警告を示すが今の俺にそんな暇はない。ダイアログを閉じて、空っぽになった道を歩き出した。


「何だここは? 誰かの部屋、だろうか」


 通った道は真っ直ぐで、ひとつも分岐がない一本道だった。道の先には、両開きの扉がひとつ。恐らく、この先に本物のアンデッドロードが居るのだろう。

 俺は、扉に手をかけた。

 迫りくる「死」の一文字。それは比喩なのか、本当の死そのものなのか。

 ただ、俺は自身の準備不足を嘆いた。聖属性魔法を魔剣に宿してから向かうべきだった。だが、これを嘆いてももうどうにもならない。

 次の瞬間、その一文字が前者であると気づいた。迫ってきたのは、ひとりの可憐な女の子だったのだ。俺の勘はこの子がアンデッドロードであると伝えてくる。だが、彼女からは俺を殺そうという意思は感じられない。混乱していると彼女は口を開いた。


「ほわぁ…! 貴方って、魔族ですよね! ねっ!!」


 なんだこいつ。


「だってだって、三対の角なんてものがある種族は魔族の他にはいないんです! 人間の手記ではもう消滅してしまったとされていますけれど! 人間の言うことなんか信じられないってずっと思ってたんです! だってこんな強くてロマンのある種族が消滅してしまうなんてこと、あるわけないじゃないですか!!!」


 長い、話が。


「あ、貴女は一体誰だ!」

「私は、アンデッドロードのキャリナ! 魔族について調べて早数百年、やっと本物の魔族に出会えたのです!!」

「俺はツバサだ。お前の想像通り、魔族だ」


 俺の勘は案外信用できるようだ、としみじみ思っていると、キャリナと名乗った和洋折衷ゾンビ少女が俺の手を取って話す。


「どうかわたしを! 貴方様の仲間に!! 煮るなり焼くなり、食料に! 奴隷でもパシリでも、囮でも! なんでもしますので、どうか…!」

「一旦俺の話を聞いてくれないか?」


 俺がそう言うとキャリナは黙った。話は聞けるのだな。

 俺は彼女に、アンデッドの生成をやめてほしいと頼むと、彼女は快く了承した。


「あと… 一応討伐しろって言われてるんだけど」

「魔法は何属性を持ってるんですか? 私、アンデッドロードパワーとやらで物理攻撃は勿論の事、ほとんどの属性が効きませんが…」

「氷と雷と… 聖属性だけだ。後は攻撃能力がないものだ」


 そう言うと彼女は呆れて言った。彼女曰く、駆け出し冒険者如きに等級Sを超えるアンデッドロードをを討伐させること、光属性や聖属性だけを持たせてアンデッドロードを討伐させようとしたこと… それらのことは、とてもギルドマスターのやることではないと。そして、生成したアンデッドが人を襲ったことは、一度もないということを。


「アンデッドロードに効く属性は、逸脱属性だけなんです。どの種族にも効果が高い属性で、聖属性の上位互換の属性なんです。…まあ、耐性を超えるほどの火力を出せるのであればどの属性でもいいんですけどね」

「ってことは、あのギルドマスターって…」

「貴方を死地に向かわせて殺そうとしたんだと思います。ここの近くの町だと、リーフィ町でしょう。あそこのギルドマスターは昔に魔族に大切なひとを殺されてしまったはずです」


 魔族が生きていた時代から居るのか? あの幼女が。もしそれが本当なのだとしたら、魔族について調べに調べていたアンデッドロードのキャリナよりも長命だということになる。長命だとしたら、キャリナよりもずっと強大な存在だ。


「キャリナ、お前はどれだけ戦える? 俺を始末しようとしたあいつに一泡吹かせてやりたいんだ」

「ここでならツバサさんの十倍以上は出せると思うんですけど… アンデッドロードになったせいで日光に弱くなりまして、日の光の下だとツバサさんと同じくらいに弱くなっちゃいます…」


 普段の十分の一? それだけ聞いたら弱そうだ。だが、俺と同じくらいの強さということは、俺が二回行動できるのとほとんど一緒だということではないか?

 こんな一大戦力、逃すわけにはいかない!


「キャリナ、日の下に出るぞ」

「へ…?」

「お前を、仲間にする。嫌だったか?」


 キャリナは、白く濁った目を輝かせて、俺の手を取った。



―――

『アンデッドロード【キャリナ】が仲間になりました』

『ステータスウィンドウにて、キャリナの装備やステータスを確認することができます』

―――



「嫌なわけ、ないじゃないですか!!」


 キャリナは俺に抱きつくと、猫吸いならぬ魔族吸いを始めやがった。少し小突くとキャリナは我に返り、急いで謝罪した。


「キャリナ、地上に出るぞ」

「はい! 案内しますね」


 キャリナの案内で、俺たちは魔窟から這い出た。

あとがき

手が勝手にシリアスにしちゃうんだよね!!


【キャリナ】

アンデッドロード。あのまま戦ってたらツバサは負けていたが、数十年くらい修行したらたぶん勝てた相手。

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