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悲しみの聖騎士

一部修正。

 けたたましいウィンドウ音はすぐに止んだ。とりあえず俺は新機能から確認していくことにした。

 メニューを開いて新機能紹介を選択。【新機能紹介】と書かれたダイアログが出てきた。



―――

【新機能紹介】

アイテムウィンドウ

・拾得物の確認や取り出し、使用、進化が可能です。一部の動作は【クイックスキル】アイテムボックスでも使用可能です


スキルウィンドウ

・現在所持しているスキルの確認や使用、進化が可能です


装備ウィンドウ

・装備の変更や装備効果の確認が可能です


ステータスウィンドウ

・現在のステータスが確認可能です

―――



 アイテムウィンドウでは拾得物関係、スキルウィンドウではスキル、装備ウィンドウではスキル、ステータスウィンドウではステータス… ウィンドウ名とできることは基本同じらしい。アイテムウィンドウと装備ウィンドウの違いはよくわからないが、まあいいだろう。


「そういえばヴェルハは最後、固有魔法を俺にくれたよな。あれは一体何だったんだ?」


 スキルウィンドウを開いて、魔法一覧を開く。開く途中、アイテムウィンドウの説明にあった【クイックスキル】が見えた。固有魔法【クオリア】を選択すると、ダイアログが表示された。



―――

【クオリア】

・魔法を創ることができる。経験を糧として成長する。

―――



「は?」


 思わず声が出てしまった。魔法を創るって、何だ? しかも、経験を糧としていくって…


「とんだチート魔法じゃねえか!!!」


 俺はクオリアのダイアログを閉じると、【クイックスキル】を確認した。



―――

【クイックスキル】

➝アイテムボックス

  アイテムウィンドウの動作『出し入れと使用』が直感的に行える

―――



 アイテムウィンドウの機能内にある出し入れと使用が可能なのか。進化などはアイテムウィンドウで行えってことだな。

 遠くで小さい子供がお母さんか何かに「シッ、見ちゃダメよ!」と言われているような気がした。

 …そういえばキャラメイクの時の服のままだった。服の着脱ってできるのか…?



―――

【装備】※防具未装備部位は省略されています

右手武器 原初の魔剣

腕防具  原初の腕護

胴防具① 原初の闘衣

胴防具② 原初の外套

胴防具③ 原初の腰帯

胴防具④ パンツ

足防具① 原初の戦靴

足防具② 靴下


【セット効果】原初の魔衣(5/5)

全ステータス補正 補正倍率200%

―――



 セット効果… ロマンが詰まりすぎている。少し暑かったからファーコートを脱いでみると、胴防具③の欄が消え、胴武具②が原初の腰帯となり、セット効果の原初の魔衣(5/5)が(4/5)になった。セット装備を一つ減らしたため、セット効果が全ステータス補正からスキル習得補正に変化した。全ステータス補正が弱体化するものだと思っていたのだが…

 詳細を確認してみると、全ステータス補正はずっとついていることが分かった。5/5で200%、4/5で170%、3/5で140%、2/5で120%、1/5で110%の補正がかかるようだ。

 セット効果が三つだとどうなるのか、原初の腰帯を素手で引っぺがす… なんて芸当はできなかったので装備欄から外してみると、スキル習得補正はドロップ率増加に変化した。

 原初の腰帯を外したときにごっそりとステータスが減少したのが気になった俺は


 ほかに服はないのかとアイテムウィンドウを覗くと、『ログインボーナス』と書かれたダイアログが出現した。そういえばさっきログインボーナスとか言っていたような気がする。



―――

【ログインボーナス 一日目】

魔力石のかけら ×5

 ・魔力を小回復する。少々の金にもなる。集めることで魔力石にすることができる。

ポーション+1 ×5

 ・若干の傷を癒す。スキルや特定アイテム、昇華にて回復量を増やすことができる。

―――



 一日目ってことはまた貰えるのか。俺はダイアログを閉じて、アイテムウィンドウの装備欄を確認した。



―――

【装備アイテム一覧】

➝ジャージ(上)

  ・大峰翼が生前愛用していたジャージの上半分。睡眠の質が上がる。

 ジャージ(下)

 原初の外套

 原初の腰帯

―――



 本当に自分が着ていたものか確かめる為アイテムウィンドウから取り出すと、串刺しにされる前の見慣れたジャージが出てきた。試しに着用してみたが、キャラメイクで作った体のままジャージな為… 三対のツノが生えたヤギ目の厨二ジャージマンになってしまった。


「なんだあいつ、冒険者か?」

「珍妙な奴だ… あんな奴、見たことないぞ?」


 本物の冒険者の声なのだろうか。男二人が俺を見て笑った気がする。装備を元に戻してからステータスを確認することにした。



―――

【大峰 翼】

HP 1400/1400

MP 1800/1800

物攻 160

物防 400

魔攻 1400

魔防 600

敏捷 300

運  300


セット効果 原初の魔衣(5/5)

・全ステータス補正200%

―――



 セット効果のステータス補正を反映した値が、ステータスには書かれていた。補正200%ということは、セット効果なしはこれの2分の1ってことでいいのだろうか。


「…町、村でもいい。よさそうな服を見繕おう」


 派手な装飾がついている外套と腰帯、魔剣をアイテムボックスに直して、冒険者の声がしたほうへと向かおうとした俺は、あることに気づいた。キャラメイクの時に、自身の背中に羽を生やしたことを。

 飛んでいけば道に迷うこともないだろう。そう思い、羽を展開しようとしたが出し方がわからない。

 結局歩いて冒険者の声がしたほうへと向かった。

 数十メートル先にごつい男が二人並んで歩いている。所々鎧を装備してはいるが割と軽装で、動きやすさと防御力の両方を兼ねそろえているようだ。


「兄貴、後ろから気配がするぞ」

「気のせいじゃないのか?」

「それなら確認してみたらどうだ?」


 二人の会話が聞こえた。数十メートル先にいるはずなのに鮮明に聞こえる。キャラメイクの時にデカい耳にしたからだろうか。

 あ、片方の男がこっち向いた。

 あ、こっちに向かって歩き出した。

 男二人は俺に近づいてくると、剣を取り出して切っ先を俺に向けて尋ねた。


「何者だ?」

「通りすがりの旅人だ。 …なんで剣をこっちに向けるんだ?」

「お前、ここいらで賞金首に設定されてるモンスター、ソローズパラディンだろう?」

「誰だそれは」

「返答もすべて資料通り… 兄貴!」

「一気に畳みかける」

「なんで戦う感じになってるんだ!」



―――

『原初の魔剣を装備しました』

『原初の腰帯を装備しました』

『原初の外套を装備しました』

『セット効果:ステータス補正200%』

―――



「よくわからねえが相手をしてやる! かかってこい!」

「笑っていられるのも今のうちだ!」


 男たちが剣を振り下ろす。俺は魔剣を構えて剣を弾き返す。弾き返された男たちはいったん下がって態勢を整えようとしている。


「何か使えそうな魔法…」



―――

『現在使用可能な魔法の提案:クオリア』

―――



 使い方のわからない魔法を出されても困るんだが!! ダイアログに突っ込んでいると、新たなダイアログが出てきた。魔法の提案、【クオリア・リバイバル:クリスタル・カルチェレ】ってなんだ? 聞いたことがある名前… そう、それは俺を殺した、あの…!


「「うおおおおお!!」」


 男二人が再び剣の切っ先を向けて、俺に迫ってくる。

 今やらなきゃ、殺られる!! 



―――

『魔剣を装備から外しました』

―――



 殺すんじゃなくて、拘束する… そう強く思っていると口が詠唱を始めた。


「威力を相殺し、かの者の身体を貫き留める、氷の牢獄。我の魔力を媒介にして、かの者、()()()()を拘束する… これは我、ただひとりの願い。覆すことのできないそれの名は…」

【クリスタル・カルチェレ】


 ステータス補正は十分に掛かっている。そこそこの威力は出さないといけないが、あの二人は殺してはいけない為、魔剣を装備から外してから詠唱する。なんで殺さないかって、さっきの『ソローズパラディン』とやらの話を訊く必要があるからだ。それと…


「町の場所がわかるまでずっとこの服なのはなんか嫌だ!!」


 現れた魔法陣は俺と二人組。俺の魔力を魔法陣に吸わせて魔力を転移させ、二人組が放った攻撃を相殺させる…! これを展開している間は魔法陣に縛られて動くことができないが、無力化させるにはちょうどいいだろう。


「なんだこれ…! 攻撃が弾かれる!」

「動け、ない…!」

「観念して武器を収めてくれ! 俺は、ただどこに町があるのかを知りたいだけなんだ」

「そう言って、町ごと俺達を潰す気なんだろう! ソローズパラディン!」

「本当に違うんだ。信じてくれ!」


 そう何回か言い合いをして何分経っただろうか。ぷつりと糸が切れたように俺は地面に倒れこんだ。魔法陣がバラバラと崩れ落ちて、霧散していった。



―――

『スキルを発動するために必要な魔力が足りません』

『魔法反動が発動。体力が80%減少』

『状態異常:魔法反動 魔力を最大値の20%減少、不足分は体力から引かれます』

―――



「(…ああ、魔力が切れたんだ)」


 身体がだるい。ステータスの状態異常の欄には、ダイアログの『魔法反動』以外に、『戦闘不能』と書かれてあった。

 この世界は、戦闘不能になるとどうなるんだろうか。ゲームシステムが優先されて、セーブポイントで復活… か、世界の理が優先されて、このまま死んでいくのか…



―――

【重要】

スキル【クオリア:ライフチェンジ・リバース】が発動しました。代償を払って復活しますか?

➝はい

 いいえ

 代償を確認する

―――



 地面を舐めていた時、ダイアログが眼前に現れた。一体ここでの『代償』は何だ?



―――

【代償の詳細】

状態異常:全ステータス200%ダウン

状態異常:取得経験値25%ダウン


(代償による状態異常は一定回数の戦闘または特殊条件を達成で解除。時間経過で治癒することはない)

―――



 全ステータス200%ダウンと取得経験値25%ダウン。変なものはかかっていないようだが、今の俺のステータスってどうなっているんだ? 確か原初装備で増えているはずだが…

 ステータスウィンドウを開こうとしたが、間違えて復活ダイアログを開いてしまった。


「あっ、待って…!」



―――

『スキル【ライフチェンジ・リバース】を使用します』

―――



「代償を支払い、復活する。もう一度、かつては消滅した種族として、経験を積み重ねてゆく。これは我、ただ一人の願い。覆すことのできないその全ての名は、【ライフチェンジ・リバース】」


 勝手に口が動いて詠唱を始める。そういえば、あの男二人組はどうしているんだ?


「兄貴! 魔法が…」

「こんな行動、ソローズパラディンにはないはずだ… アイツは、一体…」


 信じられない、といった顔で二人組は話す。だから最初から違うって言ってたんじゃないか。

 やがて詠唱が終わり、魔法陣が生成される。転生時に見たときとはまた違う光が出て、俺を包み込む。



―――

『代償を払って復活しました』

『全ステータス200%ダウンに加え、取得経験値が25%ダウンします』

『治癒する前に死亡した場合、死亡するかさらに代償を払うか選択することができます』

―――



 重たかった身体が軽くなる。だが、魔法を使う前より若干身体がだるい。


「ソローズパラディンじゃないって… 信じてくれたか?」


 俺は二人組に訊いた。二人組は俺をまじまじと見つめた後に、俺に頭を下げた。どうやら信じてくれたようだ。いきなり攻撃して、すまなかった! と大声で謝られた。許されるわけはないと思っている、償いに何かをさせてほしい、だそうだ。


「それなら、町まで連れていってくれないか? 道中、ソローズパラディンというやつの詳細を聞かせてくれ」


 そんなものでよいのか? と顔を上げて二人組は言ったが、俺からすれば服の調達はなにより大切なものである。現にソローズパラディンと間違えられたしな、とそれっぽい返しをしたら納得してくれた。


「それじゃあ、最寄りの町への案内を頼んだ」

「勿論だ」


 俺は二人組の後ろを歩き出した。なだらかな丘陵から少し離れた、木に囲まれた小道をゆったりと進んでいた。

 二人組は、俺にソローズパラディンの過去を教えてくれた。


 ソローズパラディンは、数百年、数千年、何年離れたかわからない遠い昔に、聖騎士の家系に生まれた。聖騎士としての訓練の傍ら、魔法を学んでいた。その様子を見た彼の父は魔法学校へ入学させた。そんな彼がソローズパラディンとなる少し前。魔法学校で出来た想い人が何らかの原因で殺された。自分もその場にいたのに、守ることができなかった。そんな強い自責の念に駆られたあと、闇堕ち。想い人の仇を殺した後、殺戮を始めた。そしてある時、彼は殺された。


「…殺されたはずなのになんでまだいるんだ?」

「つい最近、邪術によって蘇生された。奴を鎮めていた洞窟から急に黒煙が湧きだし、奴が洞窟から這い出てきたんだ」

「危険な存在故、高い賞金が懸けられてな。本当にソローズパラディンだったら一攫千金だった、だから襲い掛かってしまったんだ」


 そんな強い奴なくせになんでこの世界はいまだ滅んでいないんだ? 話の通りだと、世界を滅ぼすことが容易にできる強さがあるらしいが。


「そういえば黒い兄ちゃん、名前はなんて言うんだ?」

「翼だ」

「珍しい名前だな! ツバサ君と呼んでいいか?」

「ああ。お前たちはなんて名前なんだ?」


 兄貴、と呼ばれていたほうがアレクで、もう一人がラートだそうだ。

 兄ちゃん、と呼ばれるのは人生で初めてかもしれない。なんともいえない気分だ。少しずつ木が少なく、道が広くなってきた。


「ツバサ君、後ろ!」


 後ろを振り向くとでかいクマが居た。クマだけは絶対に戦ってはいけない! 殺される…

 だが、ここは異世界。昔より力がある今ならば、問題ない!


「アレク、ラート、下がっていろ」

「ツバサ君、流石にあれは強すぎる! お前ひとりではだめだ!」

「下がっていろ! 俺は、強いから大丈夫だ」


 戦闘不能にだけはなってはいけない。これ以上死んだら、もっと大変なことになる。



―――

『原初の魔剣を装備しました』

『原初の魔剣の特殊効果が発動。この戦闘中、【代償】のステータスデバフが緩和されます』


【ステータス】括弧内ステータスが戦闘に反映されます

HP 500/500(800/800)

MP 700/700(1200/1200)

―――



 なにもしていなかったはずなのにHPとMPが全回復している。これも復活の効果なのか?

 デカいクマに視線を合わせると、【ジャイアントアルクトス】と出た。ベアーじゃないのか。


「ツバサ君! 動きを止めるんだ!」

「5秒、対象の時間を貫き留める! 【リバイバル:クリスタル・カルチェレ】」


 さっき使ったあの魔法。5秒くらいならば、魔力切れすることもないだろう。なんとなく、さっきよりも発動しやすくなっている気がする。

 これまで発動してきた魔法を思い出した俺は、【クオリア】がどんな魔法なのか少し理解した。これは、記憶を、経験を、再現する魔法なんだ! 一回使った魔法は、『思い出す』ことで無詠唱による発動が可能になる。だから、転生の儀での詠唱には『経験を積み重ねていく』とあったんだ!


 生前のすごい大雨の日、家の近くの避雷針に大きな雷が落ちたのを強く覚えている。あのかっこよさが忘れられなくて、俺はどんなゲームでも、魔法キャラは雷魔法を覚えさせてから他の魔法を覚えさせていた。現実でもゲームでも、何度も何度も見てきたこれを、実際に行使するときがくるとは思っていなかったのだが…

 拘束が解け、ジャイアントアルクトスがこちらに向かって突進してくる。俺は急いで詠唱を終え、魔法を発動した。


「轟け雷鳴、我が魔力を糧にして、かの者を貫け!【クオリア・クレアーレ:ライトニングⅠ】」


 雷が魔剣に纏わりついてから、ジャイアントアルクトスへと飛んでいく。魔剣に纏わりついたときに魔力をゴッソリ吸われたのは気のせいだろうか?


「でっけえ雷…」

「こんな魔法、初めて見たぜ…」


 飛んでいった雷はジャイアントアルクトスが突進してくる力によって威力が上昇。バリバリとけたたましい音を立てて、ジャイアントアルクトスの胸元を消し飛ばした。


「よし」

「あ、ああ…」


 俺は振り返って笑顔を作る。アレクの顔半分がぴくぴくしているような気がする。


「ジャイアントアルクトスは… 等級Aの魔物。俺達ふたりじゃあ、必殺技をずっと打てたとしても3日はかかる大物だ」

「とりあえずこいつは持っていくか。金になるだろう」

「こんなやつ、どうやって持っていくのだ」

「アレクたちはいつも大物を倒したらどうするんだ?」

「ギルドに言って、この場で解体してもらう」


 もしかしてアイテムボックスって俺しか持っていないのか? 変にバレると大変だろうから、ギルドに言いに行ってもらうことにした。


「ラート、ちゃんとツバサ君を守るんだぞ」

「さっさと行け! 腐っちまう」


 こういうところは現実なんだな。鮮度を保つ… か。氷で凍らせれば若干時間稼ぎはできるだろうか。


「ラート、クリスタル・カルチェレを受けたとき、冷たさを感じたか?」

「割と冷たかったな。まさかツバサ、そいつを凍らせようとしているのか?」

「ああ。そうすれば腐るまでの時間稼ぎができるだろう?」

「基本は魔力の無駄遣いだからしないんだがな…」

「魔力石のかけらがあるから魔力は問題ないだろう… 凍って、【クリスタル・カルチェレ】」


 こうやって同じものばかり使っていると新鮮味がなくなってきたな。新しい魔法を練る時間を得たら新しい魔法を創ってみよう。

 ジャイアントアルクトスを氷漬けにしたところで、アレクがぞろぞろと人を引き連れて帰ってきた。


「ラート、ツバサ君、只今帰って… 何だこれは!」

「ツバサが凍らせたんだ」


 帰ってきたということで俺は氷を消して、アレクたちにジャイアントアルクトスをまかせることにした。


「アレクが変な顔してギルドに飛び込んできたから何事だと思ったが、ジャイアントアルクトスを討伐したのか。こんな大物、よく倒せたな… ってこんなところにソローズパラディンが!!」


 ギルドの職員だろうか、大きい奴がいっぱいいるその中でもでかい奴が俺達に言う。アレクは呆れたように訂正した。


「こいつはソローズパラディンなんかいうおっかねえやつとは違う。それにこれを倒したのは俺達じゃなくてこの、ツバサ君だ」

「おい新入り! さっさとナイフ持って解体しろ! 等級Aの素材を腐らせるな!!」

「ひゃい!」


 ボルジナと呼ばれた大男は他の者に急かされて、ジャイアントアルクトスの死体のほうへと駆けていった。それと入れ替わりで一人の小さな女の子が歩いてきた。片目は包帯で覆われていて、どこか歴戦の戦士の風格を感じさせてくる。彼女がこちらへ歩いて来るやいなやアレクとラートは道を開けた。一体どんな立ち位置なんだ?


「ジャイアントアルクトスを討伐したと聞いた。貴殿の名前は?」

「翼だ。貴女は一体?」

「私はミーラ。この近くの町、リーフィにてギルドマスターをしている者だ。ジャイアントアルクトスが討伐されたと聞き、討伐者の詳細を知りたいと思ったのだ」


 彼女はそう言うと俺の目をじっと見つめた。ぱちぱちと瞬きをしつつも彼女をまっすぐと見つめる。すると彼女は、鞄からA6くらいの大きさの金属板を取り出して血のような真っ赤なインクを羽ペンになじませると、金属板に何かを書き始めた。不思議と不快に感じないキュッという音を立てたあと、出したインクと羽ペンを鞄にしまってから金属板を俺に手渡した。


「はい?」

「ツバサ殿、貴殿にギルドカードを授ける。最後の確認の為、一滴血をここに垂らしてくれ」


 ちょうど手に持っていた魔剣で指先を切りつけると、指定された場所に血を垂らす。アイテムボックスにあったポーション+1にて回復をした。


「これで貴殿はギルドの一員になった。各町のギルドに出入りすることはもちろんのこと、高難易度のクエストの受注が行えるようになる」

「へ?」


 急な出来事に戸惑っていると、アレクたちが補足してくれた。どうやら、俺の強さを確認したギルドマスターが俺を強制的にギルドに加入させたらしい。最後のほうに言っていた『高難易度のクエストの受注』という文言は、ボロ雑巾のようにこき使ってやるという意味だそうだ。



―――

『ギルドカードを入手しました』

『実績を解除しました:ギルドに加入(名誉パシリ奴隷)

『新機能が開放されました:実績』

『新機能が開放されました:称号』


【ギルドカード】

等級A+のギルドカード。特殊条件を達成で入手することができる。

今回達成した条件:等級Aのモンスターを一撃で仕留める

―――



「ソ… ツバサ、解体が終わったぞ」

「あ、ああ」


 ダイアログを見ていたとき、ボルジナに声を掛けられた。今明らかにソローズパラディンだとか言おうとしたよな? 連れられて跡地へと赴くと、そこには見事に素材がずらりと並んでいた。


「ツバサ殿はどの部位が欲しいというのはあるのか?」

「皮と… 何かおすすめってあるのか?」

「おすすめは肉だ。割と美味な肉であると記憶している」

「じゃあ皮と肉をもらう。他の素材は持って行ってくれていい」

「感謝する。では清算をしよう」


 解体のしかたを教えてもらおうとしたが、いそいそと金袋を取り出した為、またの機会にすることにした。

 ミーラは金袋を取り出すと、中身を確認することなく金袋を手渡してきた。


「おいおいギルドマスターがご乱心だぞ…」

「いや、ちょうどいいパシリを見つけたときの顔だ」

「ツバサ殿」


 不穏な声が聞こえてくる。本当にそうならないといいのだが。


「素材の分の代金、そして…」


 そんな大金じゃなくていいからできれば楽させてほしいな、と希望をつらねたが、現実はそんな俺の頼みを聞くほどやさしい存在ではなかった。


「貴殿がこれから挑むクエストの代金だ」


 ずしりと金袋が手の上に置かれる。そもそもの重たさに加えて、期待やらなんやらが乗っかった金袋は、これから俺がこき使われることを暗示していた。

あとがき

こんなに文字数が多くなるとは思わなかったんですよ!!

アルクトスは古代ギリシャ語でクマを意味する言葉だそうです。アルクトス、かっこいい…


【ソローズパラディン】

想い人を亡くした悲しみに支配され、殺戮を繰り返すようになった元聖騎士。

聖騎士特有のタフさに彼の元々の魔法適正が相まって、『タフな魔法使い』という、世の魔法使いがハンカチを噛むような存在となっている。

全属性の魔法を、自分の魔力が尽きるまで放つが、空間から魔力を吸って放つことが多く、魔力が尽きる前に相手が倒れてしまうことがほとんど。

特徴は巻き角と真っ黒なローブを着ていること、らしい。これだけ聞いたら翼君をソローズパラディンだと言った二人組はあながち間違ってないと思っちゃうよね。

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