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転々!ストラップ(中)

『ねぇ、海向。見てこのうさぎ!可愛いでしょ』


『えへへ、友達が誕生日プレゼントにくれたんだ〜』


『この学園だし、特に失くさないように気をつけなきゃ!』


見つけなきゃな、と思う。

確か、中学に上がってしばらく経った後の会話だったはずだ。野浦は美術室への移動中に、そんなことを思い出していた。

(あの子随分社交的になったよなぁ)

幼馴染の野浦はしみじみと昔のことを思った。

中学でも高校でも陸上部に入り、いい成績を残して、多くの友達を作っている。凉名の昔を知る者としては信じられないことだ。

(小学校の頃、仲良くしてた子に遊ぶのドタキャンされて泣いてた頃とは大違い)

元々凉名は内気な子だった。野浦は家が隣だったので頻繁に公園で遊んでいたが、野浦が誘わないと自分から誘いに行けないぐらいの恥ずかしがり屋でもあった。

当然、友達も少ない。

(アタシがちょっとでも役立てればいいな)

このストラップは野浦に直接的な縁はないが、野浦の大切な友達の、大切なストラップだ。


野浦の目には『美術室』と書かれたプレートが映っている。


◾️


(竺宇からの既読がつかない…もしかしたらスマホを学校に持ってきていない可能性があるな)

過去にも何度かあった事例だ。彼はありえない物を忘れることが多い。

「美術部今活動してんの?」

「してないんじゃない?教室の電気はついてないよ」

「とりあえず入ろう」

美術室は窓から漏れる陽の光のおかげで教室中が明るかった。宙に舞っている埃は輝いているように見える。

「おー、初めて入ったな。俺美術選択してないし」

美術室には大きな机と、背もたれのない四角い椅子があった。教室の隅にはキャンバスがあり、背もたれのある普通の椅子もある。棚には資料と石膏像が綺麗に並べられていた。

「これ勝手に漁っていいやつ?」

野浦が確認をとる。

「元あった場所にちゃんと戻せば平気だ」

「俺教卓側探してくる。ピンクのうさぎだったよな」

「そうそう!」


芥津門と野浦は教室の後方、棚を中心に探すことにした。

机の上にはそれらしきものはない。だとすれば棚の中とかだろうか。

「石膏像多いなぁ」

「野浦も美術選択じゃないんだな」

選択授業は基本合同クラスになる。芥津門は美術を選択しているが、野浦を見たことがない。

「そー、書道選択してんの」

「ほう」

(意外だな)

偏見だが、書道をダルいと言うタイプだと思っていた。野浦の見た目は羽野越えのチャラさで、古戊留より怖くない陽キャという感じだ。

(ギャルだな。それっぽい)

あくまで、ギャルというものと遭遇したことがない芥津門の偏見になる。だがカーディガンを腰に巻いていたり、首元がスカスカだったり、ネイルがキラキラしているのはギャルの証拠じゃないかとも思う。

「野浦家ってさ、書道一家なんだよねぇ。だからアタシもちっちゃい頃からやってたんだ」

棚から物を出したり入れたり、覗いたりしながら話す。

(なんて見た目とは正反対な家…)

「書道は好きか?」

芥津門は好奇心から聞いた。もちろん、これぐらいなら大丈夫だという判断を下した後で。

「ほどほどね」

野浦は手に持っていた、図鑑を棚に戻した。

「昔は———嫌いだったけど」

目を伏せて、普段の雰囲気と全く違う表情を見せた。イマドキなのであろうメイクと、可愛いに特化した制服がひどく浮いていた。

(これ以上は踏み込まない方が良いかな)

家庭の事情は色々だ。芥津門とて細かいところまで踏み込まれたくはない。

「…」

「…」

唐突に無言の時間になった。

(なんかチラチラ見られてる…)

手を動かしつつも野浦は芥津門を横目で見ていた。

(何か言いたいことでもあるのか?)

だがどんな言い方をしても喧嘩を売っているみたいな言葉になってしまう。

(『何か言いたいことが?』、『私の顔に何か?』……無難な言い方とはなんなんだろうか)

「…うーん、ないなぁ。美術室にはないのかな」

野浦は話を切り出した。ここら辺がコミュ強の実力だ。

「あともうひとつ心当たりがある」

「どこ?」

大きい布がかけられた、キャンバスボードの後ろの扉を指差した。出入り口ではなく、美術室の中のまた別室の扉になる。

「あれは竺宇専用の作業室だ」

「専用!?」

(その反応になるよな)

「部長になってからあの部屋を占領し始めた。1人の方が集中できるらしい」

部長になったという報告と一緒に、部室に自分の部屋ができたと言われた時は驚いたが、実際にそこにある。一度だけ事実確認のために立ち入った。その時も鍵はかけていなかったので問題なく入れるだろう。

「そゆこと…ところでさぁ」

「どうした」

専用部屋への道は険しい。床に置いてある本を避けながら進んで行く。本の内容的に美術室の備品ではなく、部員の私物だろう。

「竺宇先輩と芥津門さんって知り合いなの?」

野浦はひっそりと疑問に思っていた。いつ聞こうかとチラチラ芥津門を見ていたが、そのサインは届かずこのタイミングだ。

先輩を呼び捨てしているところや、保管室の代理管理人を任せていたところを見るに知り合いであることは確かだろうが、野浦には2人に関連があるという想像がつかなかった。

(なんだそんなことか)

芥津門は安堵する。

「家が近所で親が知人同士だった。だから一緒に昔からよく遊んでいたんだ」

昔の記憶を掘り起こすのも久し振りだった。竺宇とは会話する機会が多いが、昔のことはあまり話さない。そろそろ記憶の薄れてきた芥津門にとってちょうどいい機会だった。

「へぇ!幼馴染的な感じか。2人で何してたの?」

野浦は興味深々だ。

「遊ぶといっても基本は公園で竺宇の話を聞いているだけだったな」

「どゆこと?3人いたら鬼ごっことかしないの?」

公園は遊具を使ったり、歳にもよるが走り回ったりする場所だろう。その特殊な遊びに野浦はさらに疑問を抱く。

「竺宇は昔から天才だったから物覚えが早かったんだ。私は基本大人しく話を聞いていたから色々なことを勝手に教えられてた」

地面に枝を使って図形やらなんやらを書いて一方的な授業を受けていた頃が懐かしい。

(もう公園に行くこともなくなったしな…)

進んで行きたいわけではないが、もう昔のようにできないのでと思うと少し寂しかった。

「大体私が5歳ぐらいの頃だろうか…懐かしい。宇宙論から絵画の見方まで語られた覚えがある」

「おぉ…」

野浦が思っているより数十倍ヤバめの天才だった。芥津門が5歳ということは、6歳でそれらの知識を知っていたということになる。一般的に考えて恐ろしい。

「先輩すごく寡黙そうだったんだけど…子供の頃はそんなんだったんだ…意外」

口に手を当ててお上品に驚く。綺麗なネイルが視界に入った。

(ちょっとやってみたい)

乙女心が人並みにある芥津門は一旦憧れの心を置いて、目の前の少し錆びているドアノブを回す。


部屋に入ったが中はなにも見えなかった。窓がないらしく、加えて電気をつけていないので、とても暗い。辺りが一切見えなかったが部屋の中は絵の具の匂いがいっぱいに詰まっているので、絵を各部屋なんだろうということがわかる。

「電気…よし」

カチ、とスイッチの音が聞こえると、少し遅れてチカチカと蛍光灯の灯りがついた。

彫刻、キャンバス、陶器、絵の具、スケッチブック、とその他道具。制作途中の作品が取り揃えられていた。

とにかく様々な物が散乱している。

二人はげんなりとした表情をした。几帳面な人が見たらゴミ屋敷と誤認するほどには汚い。

本当は散らかっているだけでそこまで汚いわけではないだろうが、見た目の悪さからそう感じてしまう。

「探すんだよねここ…」

「ああ。…さて、どこから手をつけるか———」

芥津門が辺りを見回してみると部屋の中で一際目立つ、布を被せてあるキャンバスが目についた。なんとなく見てみようと思って布をめくろうとした。

(これぐらいなら怒られないだろう)


明るい着信音が響く。


布をめくろうとした手が止まった。

着信音は芥津門のものではない。野浦は胸ポケットに入れていたスマホを取り出して確認する。

「あ」

偶然見えたそこには『父』と書かれていた。

「親だーー!!門限のこと忘れてた!」

「門限あるのか」

「6時までに家帰らなきゃいけないの!」

今の時間は5時半過ぎ。これで電話がかかってきたところを見るに、いつもは帰宅の連絡をしているのだろう。

「夕方には出るのか。早いな」

芥津門はギリギリまで学校にいるため、特にそう思う。

「基本的に昔の文化だからさぁウチ。辛うじて守っているのが門限と書道の習い事っていうね!」

カバンから紙とペンを取り出して何かをサラサラと書く。

(数字だけでも達筆ということがわかるのはなぜだ…)

「これ、アタシの連絡先。進展あったら教えて!」

「お、おう」

「また明日保管室行くから、とりあえずバイバイ!()()()()

野浦は人懐っこい笑顔を向けて、部屋から出て行く。保管室に鞄を置いて行っているので、それを取りに行かなければならなかった。

幸運なことにそれほど美術室と保管室との距離は離れていない。何せ一階の差だ。深刻なタイムロスにはならないだろう。

「椎ちゃん…」

そして、芥津門の中には余韻が響いていた。とあるまた別の昔馴染みの先輩から同じ呼び方をされているが、それとこれとはジャンルが違う。同年代からちゃん付けで呼ばれることの嬉しさがある。

(ほとんどの人は私にさん付けするのに)

その点で言えば羽野もそうだ。

芥津門はこの気安さが好きだった。

(これは人に好かれる人だ)

友人の落としものを自分で探しに来ているだけでも芥津門としては超高評価。加えて気さくに話しかけてくれるだけで嬉しい。

(私も探そうと思ってしまうな)

元よりそのつもりだったが、更に気合が入った。

少し喋ったぐらいでそうなるのだから芥津門はかなり単純な人類だ。

だが悪いことではない。


「野浦!…はどこだ?」

芥津門の余韻を掻き消すかたちで、開きっぱなしだった扉の隙間から羽野が顔を出した。

「門限だそうだ。ストラップはあったか?」

芥津門はあまり期待をしていなかった。竺宇も必ずここを探しているはずだから、多分すれ違いになっている。

(頬が緩みまくりだ…)

両手でたるんだと思われる頬を押さえる。

「…何やってんだ」

それに続けた羽野の言葉はその予想とは反するものだった。


「まーいいや。とにかく…うさぎのストラップ、あったぞ」


◾️


「え、あの人もしかして…」

「竺宇先輩じゃない!?」


そんなざわつきは彼の耳には聞こえない。今は目の前の事実に安堵していた。


「あぁ、やっと見つけた。うさぎのストラップ…」


竺宇が手に持っているのは確かに朝見たストラップだ。

ここまで探して見つけておいて何だが、まさか本当に本館の職員室前にあるとは思わなかった。

(僕はここ通った覚えはないんだけどね)

芥津門が言うにはほとんどの落としものがそうらしい。通った覚えのない場所にある。

幸運にも竺宇は学校で物を忘れるのではなく、家に忘れてくるタイプなので経験がなかった。

(不思議な感覚だ)

是非とも覚えておきたい感覚でもある。


美術室へ行った後もすぐに職員室へ行ったわけではなく、かなり時間が経ってしまった。

「とりあえず、椎に連絡…スマホ……家だな」

諦めて竺宇は落としもの保管室に向かうことにした。

(なんにせよこれで解決だ)


◾️


「あの先輩すごい人だったな」

「勢いが、ね。お前と喧嘩してたはずなのに。なんかやる気削がれちゃった」


「同感。今回はお互い水に流そう。後回しにしちゃってたけど———」


「それよりこのうさぎのストラップだよ…」


それは二人が見つけた本館の窓際に置かれていた忘れものだった。

中々に古びている上、他人のものなので触るのを躊躇ったが、善良な心から落としものボックスへ届けようとしていた。

というのが今日の昼の話。


現在放課後。掃除をして、教師から服装についての苦言を受けて、喧嘩をしてそこそこの時間が経っていた。夕方というにはまだ少し早いぐらいだ。

「落としものボックスだっけ?」

「そうそう。そこに持っていけばどっかに回収されるらしいよ」

「どこにあるの」

「さあねぇ」

どん詰まりかと思われたが、男子生徒の制服を着た片割れが思い出す。

「そういえば職員室前にあったわ」

4月あたりにやった校内ツアーの記憶だった。よそ見しかしていなったが、意外と覚えているものだ。

「本館だっけ」

「遠いね」

だが行くしかない。

大人しく教室から出て、本館へ続く渡り廊下へ向かう。本当は渡り廊下を使わない方が早く着けるが、新入生である彼と彼女は知らない。

「はぁー、職員室かぁ。先生にまた怒られないといいけど」

「どうだろう。でも見つかったら確実に何か言われるね」

2人が出て行くと、教室には誰も居なくなった。


◾️


「あーセンパーイ!…ダメだな聞こえてないや」

古戊留はくたびれたうさぎを持って、廊下の向こうを歩いているとある先輩に声をかけた。

だが人と話しているようで、一切こちらを気にする様子がない。


「どうしよっかな、このうさぎのストラップ」


確実にその先輩の持ち物というわけでもないが、さっきまで彼が居たところに置いてあったものなので高確率でそうだろう。中々にイメージはしにくいが。

(芥津門サンのとこ届けに行くかぁ?)

保管室にいるそうだが、わざわざそこに行くのも面倒だった。

というのもあるが、羽野と遭遇するのが少し気まずいというのもある。なんだかんだこけしの件から話すようになったが、以前よりよそよそしくなった気がする。なるべく回避したい。

(落としものボックスは…)

ここは三年の教室がある階だ。残念ながら第二校舎の渡り廊下が目と鼻の先にある。ボックスの方が遠い。

保管室が最短かと思われたがそうではないことに気がつく。

(あ、そーだ。美術室に届ければいいか)

あの先輩は美術部員だということを古戊留は知っていた。何せかなりの有名人。

確か名前は竺宇楼斗とかだったはずだ。

美術室へ行くために古戊留は第二校舎へと向かった。

(にしても拾ったものをわざわざ届けに行くとか優しくなったなー俺)

そんな変化を感じながら。


◾️


「どこにあった!?」

芥津門がこんなにも驚いているところを見るのは初めてだった。

「教卓の近く。普通にあった。あまりにも堂々としてたから目が滑った」

見つけたときには思わずため息をついたものだ。

「えぇ…」

手に持っているストラップを見せる。確かに、大きいパステルピンクのうさぎのストラップだ。

だがあくまでもうさぎっぽい。

「うさぎ…だよなこれ」

長い耳はあるが、かなりへたっていた。パステルピンクなのはそうだが、かなり淡い色(パステル)だ。まるで長期間日に当たっていたかのようなパステル。

「長年連れ添っていたんだな」

マイルドに表現すると全体的にへたっている、というのが大きな特徴だった。

「そういえば『うさぎっぽいストラップ』って言っていた」

芥津門は電話口での会話を思い出す。

「確かにこれは『ぽい』だな」

小さな疑問が解決したところで、うさぎの頭を見た。

「ふむ、ボールチェーンが外れてしまったのか」

じろじろとしっかり観察をしていた。忘れもの洞察部である芥津門は原因究明を忘れない。その邪魔をするのは悪いが、羽野にはストラップの他にも言わねばならないことがあった。

「芥津門、先生が呼んでる」

「!!」

先生、という単語を聞いただけで彼女の瞳孔はカッと見開いた。そして項垂れる。

「心当たりがあるんだな…。今度はなんだ?遅刻?サボり?」

「多分サボりかな…」

「何時間目?」

「五時間目と六時間目…放課後のボックス回収のために昼にダンボール用意してたら、思ったよりも時間がかかって…」

羽野が保管室にくるようになってから自然と話す機会が増え、芥津門の大変な学校生活が羽野にバレてしまっていた。怒られる対象が先生と羽野に増えている。そして羽野は本当に、思っていたよりもずっと真面目だった。

「授業は出席した方がいいって俺何回言ったよ」

「改善…する」

同年代から言われるのは心にくる。芥津門にとって先生の言葉よりも響く言葉だった。

「…早く先生のとこ行きな。職員室まで来るようにってさ」

わざわざ探していたそうだから、あの先生も面倒見がいいのだろう。

(陸上部の顧問も忙しいだろうに)

「先生の話聞いて、マジで誠心誠意謝った方がいいぞ」

「わかった、ありがとう。…羽野」

「ん?」


「ごめんよ」


この謝罪はなんの謝罪だろうか。羽野のはあまりピンと来る心当たりはないが、とりあえず自分に向かって謝っているということはわかった。

「はは、良いよ別に」

きっと謝っておかないと気が済まないのだと思い、ない心当たりを笑って誤魔化した。

彼女は変なところで真面目だ。



『あのストラップはかなり昔のものだった。今鞄に付けているということは、それだけ気に入っているのだろう』

羽野は電話で芥津門と会話していた。ストラップを見つけてあと羽野は保管室へ向かったが、もう帰ったのか野浦の姿は見えなかった。すぐに野浦に電話したものの、少ししか話せなかった。

『ごめん!マジ親怒ってるから、アタシもう今日外出られないし、電話も出れないや!あばよ!あ、凉名はまだ部活やってるだろうから届けてあげて!』

とのこと。

そういうわけで羽野は陸上部のいるグラウンドへ向かっていた。

「だよな」

『しかも何回か修復の形跡があった』

「そこまで見てたのか…」

芥津門は職員室で担任から警告を受けた後のようだ。その“お話”が終わったあとにストラップの状況を聞くため、電話がかかってきた。

『持ち主は凉名だったか…どんな人だろうな?私が思うに———』

「それ当たらないやつ」

『にしても、凉名と野浦の友情は凄いものだ。門限もあって、そこまで長く探せないとわかっていたのに手を貸すなんて…』

「良い奴だよなぁ。俺は…できない気がする」

羽野にとって野浦と凉名の関係は羨ましいものだった。古戊留とは決して、腹を割って話せるような無条件で信頼できるような親友にはなれはしない。

(俺も野浦みたいに行動で示せたらよかったな)

付き合いは短いが、その点は尊敬できる場所だった。

『…羽野達だって仲が良いじゃないか』

古戊留のことを指しているのだろう。

「表面だけね。その程度の付き合いしかしてこなかったから」


「…あいつの家庭環境がちょっと歪でさ、知ってたのにずっと無視してたんだ」


「全部壊れるまで、ずっと。すごい軽い関係で楽だったけど…」


「今になって、何かできることがあったんじゃないかって思うんだ」


どんどん成長して、選択肢が増えていくごとに、視野が広くなっていくほどに、その後悔は大きくなっていっている。

芥津門は黙って聞いていた。

(古戊留と俺の昔知らないから、そりゃ反応に困るよな。喋り過ぎた。話切り替えよ)

野浦が友達のために動くのであれば、自分にできることなら協力してあげたい。

「…なんにせよ、早めに届けなきゃ———あ」

『羽野?どうした』


「ストラップ、落とした」


何か決心したとしても、最新の注意を払っていても、失くすときは失くす。それがこの学園だった。

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