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転々!ストラップ(上)

見慣れた机の上には可愛らしいストラップ。


モコモコなそれはパステルピンクのうさぎのようだった。


間違っても自分のものではない。


「どうした」

「あれー、これ椎ちゃんに届けるべきかね」


朝七時という早い時間、この三年A組の教室にはまだ登校したばかりの二人の生徒がいた。


女子生徒の机の上にあるストラップは自分のものではないし、かといってクラスの誰かのものでもない。小さい手乗りサイズではなく、ぬいぐるみと言っても差し支えないような大きさのものなので、誰かが持ってきていたりカバンにつけているものだったらわかるだろう。


持ち主がわからないのであれば、然るべき場所へ届けなければならない。


「確かにお前の趣味じゃない。僕、行こうか?」


男子生徒は大きなキャンバスを小脇に抱え、机の上のぬいぐるみをじっと見た。


「椎は足遅いから、まだ間に合う」


彼女の鈍足っぷりを、いつも一緒に登下校している彼よく知っている。今頃第二校舎へと繋がる渡り廊下にすら辿り着けていないことだろう。


「じゃ、頼むよ。わたし生徒会選挙で候補者の応援演説するからさ、助かるわ」


バックの中から白紙の原稿用紙を取り出す。一枚や二枚の話ではない。


「…本当に頼んだからね!忘れないでね!?」


女子生徒はストラップを手に取って、廊下に出ようとする彼に全力で手を振った。


「…原稿、まだできてないの。生徒会長」

「まだ5月、まだいける」

「選挙は6月」


この学校は定期テスト後に選挙をやる予定だ。各立候補者に対して行われる応援演説はとても盛り上がる。選挙はつまらないことが常だが、応援が大々的に行われるので大人気のイベントになっている。


下手をこいたら赤っ恥をかくことになるだろう。


「下旬ね、下旬。今上旬だから。まだ舞えるから」


余裕ぶっこいているわけではない。むしろ青ざめるほどに危機感を抱いている。


やることは後回しにしたくなるタイプなだけだ。


「…」


男子生徒は内心無理そうだと思っていた。彼女が提出物を提出期限内に出せていることすら見たことがない。


せめてもの温情として、言葉の代わりにそっと教室の扉を閉めた。


◾️


六時間目の終了のチャイムが鳴って早二十分。


「どーしよ…」


女子生徒はガラガラと覇気もなく教室の扉を開けて、どんよりとガラもなく、落ち込んでいた。


「どったん?元気ないじゃん」


パックのフルーツ牛乳を飲みながら、友達は話しかける。


「カバンにつけてたうさぎのストラップがないの!」

「うそ、ヤバイじゃん。あのピンクのどデカいやつだよね。失くせるサイズじゃないのに」

「学校の落としものボックスにになかったんだよねぇ…通学路かな」


(今日部活だから、帰るの遅いんだけどなぁ)


いつも日が沈んでから帰る上に、親が迎えに来てるれるからきっと通学路は確認できないだろう。


「全部の箇所行った?」

「行った行った」


校内を歩き回って探したが、部活の成果かあまり疲れてはいない。ただ、ヴォーミングアップはやらなくても良さそうだ。


そろそろ部活に行かなければならないので、ロッカーからシューズの入った袋を取り出す。遅刻だが、連絡済みなので怒られないだろう。


「体育館近くはどうよ」


体育館近くにもボックスがある。体育館でイベントをしようものなら、落としものの山が出来上がるボックスだ。だがそこにも自分のストラップは存在していなかった。


「なかった」

「職員室前」

「なかった」


どんどんボックスのある箇所を羅列していく。


「グラウンド」

「なかった」


もう思い当たる場所がなくなってきたのか、顎に手を当てて唸った。そこまでしてくれるのは本当にありがたい。この学校での失くしものは覚悟していたが、いざ失くなると落ち込むものだ。


切り替えて部活へ向かおうとしたとき、彼女はわざとらしく机を叩いた。


「そうだ———落としもの保管室は行った?」

「どこそこ」


聞き馴染みのない名前だ。そんな場所あっただろうか。


「隣のクラスの羽野っているじゃん」

「うん」


今はそこまで交流はないが、去年クラスが一緒で遠足も同じ班だった。あまり話さないクール系の人だったのを覚えている。


「あの人、こけしをクラスで誰か落とした人いないかって聞いてたんだって」

「うん…え?なにを落としたって?」

「いやだからこけしだよ。古き良きこけし」


ネイルをしている指先で円柱、その上に楕円を描く。


「そういうこともあるんだぁ…」


自分の思っているよりこの学校は常識が通じないらしい。ファンタジーではないのに。


「んで、羽野はさ、芥津門って子にこけしの持ち主がいないかって呼びかけるように頼まれたんだと」

「芥津門さん…」


噂に聞く、芥津門椎という人物だろう。よく校内を徘徊している人物として有名だ。陰で、“クロネコ配達便”や“人型カラス”最近だと“付喪神の呪霊”というあだ名まで聞いたことがある。


総評して散々だ。


「実はその子がさ、校内の落としものを管理してるらしいんよ」

「うっそ!」


なんて狂気的なのだろう。校内の落としものなんて集めたらキリがないはずだ。


「その管理してる場所っていうのが忘れもの保管室。場所は第二校舎三階ね」


場所を聞いて頷いた。立地が悪い。どうりで知らないわけだ。


(そこならあるかも…!)


だが悲しいかな、そろそろ部活に行かねばなるまい。


「アタシ、見てこようか」


唐突な申し出に胸を抑える。


「…今ちょっとキュンとした」


頼りになる姉御とはこのことだ。


「さすがマイベストフレンド」

「よせやい」


二人は熱い抱擁を交わして、それぞれの目的地へと向かった。


◾️


「う、おっと。立て付け悪ぅ」


両手で扉を引くとそこの部屋には人がいた。“コ”の字の机に囲われて、左向いて絵を描いていた。横に分けてある長い前髪はその人の顔を隠している。


見慣れない男子生徒。ワイシャツを着て、ジャージを腰に巻いていた。そして珍しいことに、白い手縫いを頭に巻いている。


(若き陶芸家か?)


とも思ったがどう見ても彼はキャンバスに絵を描いている。見た感じ猫を描いているのだろうか。その鮮やかな色使いはどこかで見たような気もする。知識がないため、上手いことしかわからなかった。


こちらの視線に気づいたのか、若き芸術家は一瞥する。


長い下まつ毛と綺麗な鼻筋は、きっとイケメンの部類に入るだろう。


「どうも。…現在代理でここにいる」

じっとこちらを見つめてきたので思わず自己紹介をした。

「あ、アタシ野浦海向(のうら うむ )って言います…」


そして話が途切れた。

名前ぐらい話すかと思ったが話さない。

彼は黙々と手を動かしていた。


だが顔を見て思い出す。

女子はイケメンに対する記憶力は高いのだ。


「もしかして…三年のこの間表彰されてた先輩ですか?」

「…そうだけど、何」


先輩はキャンバスから目を逸らすことなく答えた。


先週の全校集会、前半は眠い話だったが、後半は何かしらの活動で賞を取った生徒への賞状渡しをしていた。いろんな人が受賞される中、そこで誰よりも話題になったのが彼。


理由は顔、そして絵で賞を取っていることだ。


野浦はよく話を聞いていなかったが、全国なんとかとか、最優秀賞がなんとかとか言っていた。


つまりは凄いということだろう。


「えっと」

「落としものなら勝手に漁るといい。僕は管理者じゃないから知らない」

「漁るって…」


よくよく見てみれば保管室は整理整頓されていた。ラベリングされたダンボール箱が積み重なっている。


「一応補足。まだ分けられてないやつは右手の机」


先輩は自分の後ろを筆で指す。


「ありがとうございまーす」


(まさかこんな偶然があるなんて)


噂に聞く“芥津門さん”がいるのかと思ったら今日に限ってまさかの代理だった。しかもその代理がこれまた変わった先輩。


(なんでアタシ寝てたかなー!名前全然思い出せない)


最初に、表彰されていた先輩だというのを言った手前、今更名前が聞けない。完全に順番を間違えてしまった。


(名前聞いたら寝てたことバレるもんな。やめとこ)


それよりまずはマイベストフレンドのストラップ探しだ。パステルピンクの割と大きいうさぎは、あったらすぐにわかるだろう。


(よーし!)


と、頬を叩き、意気込んでから三十分。

ストラップは見つからなかった。


(こんな山の量あってないのかよ…)


机の上で項垂れていると、絵を描いていた先輩がいつのまにか消えていることに気付いた。残っているのは絵を描く道具だけだ。


「…突然消えるとか妖精かな」


跡形もなく消えているので、幻覚だった可能性も否めない。気付かないほど集中していたということなのだろうが。


「妖精がなんだって?」


扉の方向から声がした。


「だあぁぁぁ!!!」


驚いて思わず大声を出してしまう。


「くっ…驚かせて悪いな」


金髪の男子生徒は何か言葉を堪えてから、謝罪の言葉を口にした。


「あ、羽野じゃん!…てか何その大荷物」

「別に」

「別にってなにさ」

「羽野、早く教室に入ってくれ。重い」

「いつもどうやって校内の落としもの回収してたんだよ…」


羽野で見えないが、奥から女の子の声が聞こえた。


「もしかして…芥津門さん?」

「初めまして。私は芥津門椎。ものを取りに来たのか?対応が遅れて申し訳ない。手伝うぞ」


不思議な組み合わせの人が中へ入ってくる。


羽野がダンボール箱を三つ重ねて持っているのに対し、彼女はダンボール箱を一つだけしか持っていなかった。これで重いと言っていたのだろうか。


合計五つの箱を机に置き、芥津門は野浦の隣の席に座った。羽野は座席を移動させて、三人は三角形のような形で向かい合った。


「ところで名前は?」

「あ、野浦海向。ピンクのうさぎのストラップ探してるの」


手の動きで大体の大きさを示す。大きいストラップ、もしくは小さいぬいぐるみといったサイズだ。


「少なくともこの部屋の箱の中には入っていない。今持ってきたのを含めてもないだろう」

「中身把握してんの!?この量!?」


関連性のありそうなラベルが貼られた三箱の中身を漁るだけでも三十分掛かったというのに、この部屋にあるいくつもの箱の中身を把握するまでにどれほど時間がかかるだろうか。


「もちろん。ラベル付けしたの私だからな」


芥津門は少し得意げだった。


「え、先生は?」

「今は私に任せてもらっている」


(ボランティアって感じかな…)


「野浦、学校で失くしたんだよな?」


羽野は確認するように聞いた。


「わかんないって。実はアタシ友達の代理で探しにきてんだよねー。その子部活で忙しいから」

「もしかして陸上部のあの子?」

「そうそう」

「?」


芥津門だけが首を傾げていた。一体誰のことだかさっぱりだ。


「陸上部のエース、凉名杏糸(りょうな あんし)。同じ学年のA組のやつだよ」


羽野が芥津門に補足する。


「聞いたことがあるようなないような」

「表彰とかだろ。この学校の表彰者の常連の一人だし…」


ここで野浦は閃いた。


(これもしかしたら、さっき部屋にいた先輩の名前、自然に聞き出せんじゃね!?)


そこで誰かのスマホの着信音が鳴った。この部屋には三人しかいないので特定は容易だ。


「む、…電話だ。少し出る」


芥津門がスカートのポケットからスマホを取り出す。驚くことに、つい最近発売されたばかりの最新型の機種だった。


「はいよ」


(よし、今聞いてしまおう)


「羽野くん羽野くん」


あくまで自然になので、いつも通りの可愛い声で話しかけようとした。


「何急に」

「ちょ、やめてよ引かないでよ。なんで椅子ごと後退すんのさ。世間話を広げようとしただけじゃん」

「怪しすぎんだよ。何あの猫撫で声」


眉間に皺が寄っている。


「いやぁ、他の常連って他にもいたなーって、芸術家ぽい人いたなーって」


白々しかった。だが羽野はそれを無視して答えてくれる。


「あー、竺宇楼斗(じくう ろうと)先輩のことか」

「そうそうそう!そんな名前!」


(思い出せたーーぁ!)


これでいつあの先輩を見かけても、気兼ねなく挨拶ができるだろう。


「聞き出してどうすんだよ」

「いやー、実はさっきまでこの部屋にいたんだよ。イケメンだしちょっとお喋りしたかったけど名前忘れちゃっててさー。申し訳なくて話しかけられなかったんだよね」


その痕跡である、教室の中央のキャンバスやら何やらを指差した。


「…あれ、忘れものかと」

「さすがにそれはないよ。わかりやすいもん」


こんな保管室が作られるほどの学校といえども、こんな常識外れの忘れものはないだろう。その上、落としようもない。


「でも、誰か学校でこけし落としたらしいじゃん?ヤバいよね」

「…」

「ほら、羽野の教室で聞いたとかなんとかって話を聞いたの」

「…うん。そうだな」


煮え切らない返事だ。徹夜明けのような元気のない声だった。特にこの話題を広げる気は無いので、また別の気になっていることを聞いてみる。


「てかさ、芥津門さんとはどういう繋がりなの?イメージと違うから意外じゃん」


二人してこの教室に入ってきたのが驚きだった。しかもかなり仲が良さそうだった。野浦はあまり羽野と関わりがあったわけではないが、そこまで女子と絡んでいるところを見たことがないし、去年の遠足の無言っぷりを見ても会話に参加する感じではなかった。


「落としもの関連だよ」


羽野はそれだけ答える。


「何落としたの」

「…」


羽野はそれだけ答えない。


◾️


『椎ちゃーん、ごめーん』


電話の相手はひとつ上の昔馴染みだった。


「どうした?最近、選挙の準備で忙しいって…」


そのおかげで最近は一緒に登校できていない。新学期に入ってからもっぱら竺宇と一緒だ。今朝は珍しく彼女と登校できた珍しい日だ。


『そう。忙しくてさ、判断力鈍ってたみたい。今朝ね、私の机にうさぎっぽいストラップが置いてあったんだけど、椎ちゃんに届けようとしたの』

「ありがたい」


その特徴は、もしかしたら野浦の探しているものかもしれない。こんなに楽に見つかるのは、暇つぶしにはならないが幸運だ。


『でも、やることあったから他の人に任せちゃったんだよね』


芥津門は文脈から最悪の事態を予想した。


(今朝…同じクラス…謝罪から始まる電話…)


「待って!まさか…竺宇に渡したのか…?」

『へへっ、ごめんね』


電話越しでも“てへぺろ”としている彼女の顔が浮かぶ。


『竺宇、私と同じで提出物未提出常連なのに、いけるって思っちゃったハハハハハ』

「疲れているな。今日ぐらいは早く寝るといい」


これは本気の労いだ。


竺宇には昔からお世話になっているが、あまりにも頼まれごとに向いていない気質だった。たぶんあまり興味がないからだろう。九割がた忘れる。


(本人は自覚がないからタチが悪い)


不思議に思っていたが、たぶんキャンバスがほったらかしだったのも、急に渡していないことを思い出したからだろう。責任感のない人間ではない。すぐにでも持ってくるはずだ。


「届けようとしてくれてありがとう。あとは私がなんとかしよう」


(朝ついでに美術室の方へ向かったのかな)


彼は美術部部員のため、そこにいることが多い。癖で向かってしまったのか、何かものを取りにいきたかったのか。当然、とんでもない遠回りになる。芥津門にものを届けてから向かった方がいいが、その場の考えに従うのが竺宇だ。仕方がない。


(連絡を入れて、美術室の方へ行ってみるか)


とりあえず羽野と野浦にそれらしきストラップが見つかったことを報告しなければならない。


「…」


教室の壁は薄い。二人の会話が盛り上がっているのが聞こえる。何やら野浦が羽野に何かを聞き出そうとしているようだ。


楽しそうだ。


(羽野に、申し訳ないな。同情してもらっている)


同情の心当たりはいくつかあった。芥津門は噂好きのため、自分の話も耳に入ることがある。


こけしの騒動があって早一週間。羽野はたまにと言いつつも、まあまあの頻度でこちらに来て、手伝いをして、話したり、勉強を教えてもらっていたりしていた。


芥津門の放課後は比較的楽しくなったが、羽野はどうだろうか。


(ええい、考えても仕方ないし、羽野もどうせすぐに来なくなるだろう。それより今は野浦のことだ)


一度目をギュッと瞑ってから扉に手をかけた。



「二人とも、戻ったぞ」


芥津門が廊下から戻って来た。


「もしかしたら、野浦の探しているストラップが見つかったかもしれない」


◾️


(しまった。完全に忘れていた)


美術室で竺宇楼斗は焦っていた。机の中、棚の中、自分のバックまでもをひっくり返して必死に探す。


原因は今朝のストラップを芥津門に届けていないことを思い出したからだ。保管室のダンボール箱をひっくり返し、何かを探す野浦を見てやっと思い出すことができた。


()()()()()()()()()()()()ということをやっと思い出した。


(一体、僕はどこで失くした…?)


心当たりがまるでなかった。朝、芥津門に届けようとストラップを持って教室を出たが、美術室に寄り道したことしかわからない。届けること自体を忘れた。


(椎に言うか?)


自分の後輩であり、昔馴染み。今までに恥を晒したことは数えきれないほどあるが、さすがに届けようとした忘れものを失くしてそのことを忘れて忘れもの洞察部の活動に協力したというのは、笑い話にもならない。


(…言えない)


さすがに恥ずかしい。芥津門に対しても、生徒会長に対しても。これでも稀代の天才と称されることもあった竺宇だ。校内にあるのはわかっているのだから、今日中には必ず見つけられるはずだ。


(恥を晒す前に、自分で見つけ出さなければ)


そうしなければ竺宇のプライドが許さない。思い出した以上、知らないフリは許されない。


(椎は、絶対ストラップを探す。野浦という子も…何か思い入れのある品のようだった。探すだろう)


つまりこれは早い者勝ち。


(僕が手に入れて、何事もなかったかのようにどちらかに渡す。うん、完璧)


竺宇はひっそりと決意した。


そうと決まればさっそく探しに行かなければならない。芥津門からよく放課後の活動について耳にするが、全員が忘れた時のことを覚えていない上に、落とした場所に心当たりがないことが多いらしい。たとえ行っていない場所でも見ておくに越したことはない。


「…この辺りの教室を探そう」


美術室は第二校舎の一階。ほとんどが一年生の教室に使われている。だが放課後だからか、クラスに残っている生徒も数える程度だった。


竺宇は三年生。さすがに一年生の教室に入るのは気が引け———ない。


ガラガラと勢いよく教室に入る。


「え?」

「だ、誰」


一年生は突然入ってきた見知らぬ先輩に困惑した。


(見た感じ…教室の中にはなさそうだ)


一年生が二人こちらを見てくるだけで、朝見たストラップはない。


「本当に誰?」

「物色してる…」


(ふん、次だな)


入ってきたときと同じ勢いでこの教室を後にした。


「ねぇあれ泥棒だと思う?ただの先輩だと思う?」

「集会で表彰されてるの見たよ。たぶん先輩」


二人の顔はそっくりだった。双子だろう。


「何探してるんだろうね」

「ねぇ」


双子の寄せられた机の上には、先ほどまでカバンで覆い隠されていた、うさぎのストラップがあった。

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