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第2話「オセロゲーム」

「ハクション!」

馬車の揺れに身を任せながら、佐藤一郎は大きなくしゃみをした。スライムに溶かされた服の代わりに着せてもらった古いマントは、埃っぽい匂いが染みついている。

「お大事に」

向かいの席で、貴族の娘らしき少女が心配そうに声をかけてきた。隣には物腰の柔らかな中年の貴族。その護衛として雇われている冒険者のロイドが、馬車を操っている。

「あの、ロイドさん」

「なんだ?」

「町に着いたら、どうやって稼げばいいでしょうか? 冒険者になれば……」

「無理だな」

ロイドの返事は即座だった。

「素人が冒険者になれるほど甘くない。それに、来歴の分からない者を雇う商人もいないだろう」

一郎は慌てて異世界モノの知識を総動員し始めた。

「そうだ! オセロというゲームを知りませんか? 私が教えましょう!」

「オセロ?」

「こうです!」

一郎は魔法メモを呼び出し、8×8のマス目を描いた。中央に白と黒の石を配置する。

「交互に石を置いていって、挟んだ石を裏返す。最後に多い方が勝ちです」

ロイドは興味を示し、馬車を止めて一戦。

「ほう、なるほど」

真剣な表情で石を置いていくロイド。しかし、わずか5分で一郎は完敗した。

「もう一度!」

二戦目。今度は3分。

「えっ!?」

「単純な盤上遊戯だな。子供の遊び相手にはなるかもしれんが」

「でも、これを売れば……」

「魔法メモで誰でも作れるものを売るのか?」

一郎は肩を落とした。異世界に転生したら、現代の知識で一旗揚げるはずだったのに。

「……実は、私は異世界から来たんです」

馬車の中が静まり返る。

「他の世界?」と貴族が身を乗り出してきた。

「はい。トラックという乗り物に轢かれて……」

「ほう! それは興味深い」

貴族は目を輝かせた。

「わたしはアーネスト・フォン・ヴィルヘルム。魔法研究を趣味にしている者だ。うちの屋敷に来てみないか? 異世界の話を聞かせてほしい」

「お父様!」娘が心配そうな声を上げる。

「大丈夫、マリエル。彼は悪い人ではなさそうだ」

アーネストは一郎に微笑みかけた。

「オセロは面白かったよ。他の世界のことを、もっと聞かせてくれないか?」

ロイドは助け船を出すように付け加えた。

「アーネスト様は変わり者として有名だが、善人だ。世話になるのも悪くないだろう」

一郎は深くお辞儀をした。

「ありがとうございます!」

心の中で、異世界転生モノの新しいパターンを発見できたことに喜びを感じていた。しかし、アーネストの興味は「珍しい知識」ではなく、もっと別のところにあるようだった。

「そうだ。マリエル、彼にもっとオセロを教えてもらおうか」

「はい、お父様!」

マリエルは破顔一笑。先ほどまでの心配そうな表情は消え、純粋な好奇心に満ちた瞳で一郎を見つめていた。

(ま、まさか……お嬢様と……?)

一郎の脳裏に異世界モノの新しい展開が浮かんだが、それもまた、期待通りには進まないことになる。

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