吸血鬼•オブ•ザ•デッド
よろしくお願いします!(´∀`*)
おれ吸血鬼。人類だいすき!!
ずっと前に作った戸籍で年金生活、たまに外出てちゅっと一吸いきめて帰ってくる。人類の上前はねまくりライフを送っていたおれだが、ここへ来て大ピンチだ。
ゾンビウィルスが蔓延したのである!!!!
いやウィルスかどうかしらんが。原因不明だし。報道とかもなくなっちゃったからね…。
とにかくある日突然ゾンビが現れ、人に噛みつき、感染し、どんどん増えていったのだった。人類も困ったがおれも困った。
食糧危機である!!!
ゾンビの血飲めねーんだもの!!
試しに吸ってみたらくっせーしまっずいし栄養になんなかった。
そのくせ奴らどんどん人類に噛みついてゾンビ化させていく。
このままではおれの食い物がなくなる。
もともと引きこもりだったおれは、ライフラインの途絶えた部屋でもうなんか嫌んなっちゃってごろごろしていたのだが、ストックの輸血パックがなくなったことにより、外へ出ることを決意した。
久しぶりの外は太陽が眩しかった。
日光は平気だ。ちょっとピリピリするくらい。だから日傘をさしている。あつい〜。
ちなみに川も渡れる。心臓に杭刺されたら死ぬ。仲間の吸血鬼があれってマジかなあって試しにやってみたら死んだ。お酒の勢いって怖いよね。
あのへんの伝承がどっから生えてきたのかわからんが、鏡に映らないのは本当だ。めっちゃ気合い入れたらいけるけどそんな始終気いはってらんないし。
だからバレ防止に引きこもってたってわけ。
べ、別に対人関係苦手だからとかじゃないんだからね!!
ふらふらうろついているとゾンビを見かけた。
くそが〜。
ゾンビはおれを襲わない。なんなら避けてくくらいだ。やめろよ傷つくだろ…。
なんかゾンビ映画だと人類キャンプ地みたいのつくってたりするよなあ。どっかあんのかなあ。
とりあえずコンビニ行って立ち読みしようかなーと思っていると、悲鳴が聞こえた。
人類!!!!!
おれは走った!人類!人類!大好き人類!ゾンビなんかにさせねえぞ!!
走った先には、十人ほどのゾンビに囲まれバットを振り回して牽制している人類がいた。壁際に追い詰められている。若い女。ややぽちゃ。健康的。
最高かよ!!!
おれはダッシュしながら日傘を閉じ、ゾンビの頭を突き刺した。そのままぶん回し集まったゾンビを薙ぎ払う。傘に刺さったゾンビを蹴り飛ばして抜き、残りにぶつけ、硬直している人類を抱えて逃げ出した。おれは力は強いのだ!
しばらく走って、人気もゾン気もない路地裏で人類を下ろした。
「はあ…はあ…」
興奮している訳ではない。息がきれている。腕力はあるけど持久力はないのだ。ていうか走ったのとか久しぶりすぎてきつい。何十年ぶり?
「あ、あの…ありがとう、ございます…」
人類!!
人類にお礼言われた〜!!照れる〜!!!
「あ、え、あ、いや…えと…あの、大丈夫、でし、た?」
お礼言われて緊張しただけだから!!コミュ障とかじゃないから!!
「あ、はい…。噛まれてないと、思います…」
「そ、そうれすか…」
噛んだ!恥!!
おれは俯いた。
ちなみにこの世界のゾンビは古典ゾンビだ。噛まれてからゾンビになるまで時間がかかるし走らない。ほんとよかった。ものによったら噛まれて即ゾンビ化激走りとかあるもんね。こわ。
なんか言わなきゃの焦りのあまり現実逃避していたおれだが、持っていた日傘の先が目に入った。血がついている。ゾン血が。
「う…」
おれは思わず涙をこぼした。
「ど、どうしたんですか!?」
人類…いや個体なので彼女か。彼女が、慌てたように声をかけてくれた。
「いや、さっきの…。あの人たちも、元は、生きてたんだなって……。仕方のないことだけど……」
さっきのゾンビたち。男も女も若いのも年寄りもいた。生きてたらどんなによかったか。特に体格のいい若い男。あれはご生前なら最高だった。
吸血鬼は若い女狙いのすけべとかいう風評被害があるがあれは誤解だ。
そもそも人類にそんなんならんし。でも人類食材でなんかするっていうな…さすが人類…。
まあそんなわけで体がでかくて健康的なのがいい。オリンピックとか甲子園とかおいしそうで見ててほんと楽しかった。それなのに……
「!…そう、ですよね……」
彼女がしょんぼりしてしまった。
いかん!悲しみは体に悪い!!血を損なう!
「でも!」
おれは顔を上げて彼女の目を見た。
「でも…!君に会えて、あの、生きててくれて………本当に、よかった。ありがとう……」
頑張って笑った。私、ちゃんと笑えているかしら?
「っ…!私!私も……。助けてくれて、ありがとうございました!」
彼女も半泣きで笑い、そう言ってくれた。
よかった!!
おれたちは無人となったオフィスビルの一室で夜を過ごすことにした。
荒れてはいたが血液などの汚れがなく、守衛室に毛布と保存食が残っていたからだ。
「やった!人見さん!食べ物ですよ!」
彼女——蓮見あかりさんというそうな。蓮見さんは、嬉しそうに言った。
ちなみに人見さんとはおれである。
人見一人。
字面の悪いこの名前はおれの最初の戸籍の名だ。二十年ごとくらいに出生届を出して年ごまかしていた。長生き苦労するよね。
はじめの名前は、日本に来た時友達がつけてくれた。おれだって友達がいるのだ。別におれだけが友達と思ってる訳じゃないぞ。多分。…ですよね…?
「ほんとだ。よかったね、あれもいないみたいだし…」
一応ビル一回り見回りもした。おれがいるならゾンビも避けてくんじゃねえかなと思うけどそんなん言えんし。それに蓮見さんは激烈うまそうなので嫌われもののおれがいてもゾンビもよってくるかかもしれない。
そう、蓮見さん……彼女は本当に最高だった!!
ややぽちゃに見えた彼女は、実は筋肉質だった。柔道やってたらしい。最高!!!
化粧気のない、染めてない髪をひとまとめにした笑顔の素敵な女子高生。スポーティなパーカーにジーンズ。アンドリュック。めっちゃゾンビもの避難民ぽい。
家族と住んでいたがゾンビから逃げるうち散り散りになり、避難所になっているという自衛隊基地を目指していたらしい。
ほんとにあったんだキャンプ地。
「でも柔道って、ゾンビ相手にはどうしようもなくて……。体ばっか大きくて、なんだかなぁって感じですよ」
そんなふうに自嘲する蓮見さん。
何を仰る。太り過ぎも血管が遠くて困るがやせぎすはもっといかん。すぐ死ぬ。
「そうかな、健康的で素敵だと思うよ」
「そ、そうですか……?」
顔を赤らめる蓮見さん。血流が良くなっている。超うまそう!!!!
おれたちは守衛室で軽食をとっていた。
おれはこういうの食べても意味ないんだけど、疑われると困るから…。超おなかすいた……。
もうほんと今すぐゴチになりたいが、出会って二秒で吸血とかしなかったのは警戒されると困るからだ。末長く食べさせてほしいのです。
もちろん死ぬまで血を吸うとかはしない。これはもともとそうで、ちょっと吸って、軽く貧血かな?くらいでとめている。
だって殺すなんてもったいない。生きてたら繁殖してさらに増えてくれるもの。
人類は自分の食い物つくるのに農耕牧畜いろいろ苦労してるけど、俺の場合は人類が勝手に頑張ってどんどん増えて文明も発展させ、住みよくしてくれる。そんな最高の人類を減らすなんてとんでもない。
大体全血吸いきると死んで吸血鬼んなっちゃうし。
……そう考えると、おれもゾンビとそう変わらないかもしれないな……。
そんな事を考えて軽くしょぼんしていると、蓮見さんが慌てたようにこう言った。
「で、でもすごいですよね!人見さん!あいつらぱぱーっとやつけちゃって……。ヒーローみたいでした!」
「そ、そうかな……」
てれるーー!!元気付けようとしてくれてるのかな。なんていい子なんだ……。
「そういえば映画で見たんですけど、苗字と名前で同じ字入った名前って、ヒーローにありがちなんですって。それでいうと、人見さんの名前って、ほんとヒーローって感じですよね!」
嬉しそう。多分あの映画かなあ…いやそれはアルファベットで頭文字が同じ字って話しじゃなかったかな…まあ似たようなもんか。
「そうなんだ。映画好きなの?」
「はい!どっちかっていうとアクションものとか好きで…。こんなことになる前は、……ゾンビ映画なんかも、楽しく見てたんですよね……」
いかん。しょんぼりしてしまった!
「おれもだよ。映画好きなんだ。サブスクとかでよく見てた」
そう、ほんと最高だった。昔は図書館常連だったけど最近はちょっとお金出して映画見放題してた。ひきこもりがはかどるってもんよ。それなのにゾンビ……!!
「ゾンビものも見てたよ。今となっては……て感じだけど、おかげでちょっと参考になるっていうか……心構えができたかな。そんな映画もあったけど。それに、走るやつじゃなくてまだましかなって。慰めにはなるし」
「っ!で、ですね…!!」
それからゾンビ映画あるあるとか話してきゃっきゃした。仲良くなれたみたいで嬉しい!
「でもさ、ああいうのって、辛くても頑張ってる姿見ると、応援したくなるし、勇気を貰えるよね」
そう、ホラー映画も好きでよく見てた。
ボディカウントものとかガンガン人類減ってくので超怖かった。
ありがちな野外で盛って襲われるカップルとかほんと殺人鬼許すまじ!せっかく増えようとしてんのに!
そんな中健気に抵抗する人類…!!もうめっちゃがんばえー!!だった。
吸血鬼物は見ないよ。なんか照れるし。
吸血鬼が超強いやつとか、そ、そんなじゃないっすよ〜…へへっ……てなる。
「……人見さんは、ほんとにヒーローみたいですね」
「えっ?」
流れが読めないよ〜!会話久しぶりだから…。袋いりますか?はい。とかしかなかったから…。
「わ、わかんないけど……。あ、でも名前、名前、ヒーローみたいって言ってくれて、嬉しかったな。
変な名前でからかわれたし、おれ名前の通り、ずっと1人だったから……。蓮見さんに会えておれ、ほんとよかった」
「人見さん……」
まあからかってきてたのは名付け親なんだけどな…なんだあいつ…。
「だから、蓮見さんがよければなんだけど……。い、一緒にいてくれたら、嬉しいな。
蓮見さんが言ってくれた、ヒーローみたい、にはいかないかもしれないけど……蓮見さんは絶対、おれが絶対、守るから……!!」
「人見さんっ……!!」
蓮見さんが感極まったように………おれに抱きついてきた!!
おれはそっと抱き返し————その首筋に、噛みついた!
………。
…………。
………………。
うーーーーーーーーーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
うまーーーーー!!!!めっちゃおいしいなにこれ最高!!!!まったりとしてこくがありそれでいえしつこくないしゃっきりぽんとしたさわやかさ……!!!うーーまーーーいーーーーぞーーーーー!!!!!!
もはやバーローな気分でちゅうちゅうちゅう。うめーーー!!!!まじうめーーー神かようめーーーーーーーーー………と、やばっっ!!!!
おれはハッとして牙をはなした。オッケー生きてる!!!はーよかったー……。
ただ、意識は失われている。軽い貧血と、疲れもあったのかな。おれは蓮見さんをソファーにそっと寝かせた。
あーうまかったー……。新鮮な血液久々なのもあるけど質がいいわー。最高……。
ちなみに牙は飲むぞ~と思うとにょんと犬歯が伸びて、やめると戻る。我ながらちょっときもい。
でも本当、彼女に会えてよかった……。一生いっしょにいてくれや……。
吸血鬼は首から血を吸うイメージがあるが、普段おれは手首から吸わせてもらってる。要は太い血管が通ってて吸いやすい場所ならどこでもいいんだが、首噛もうとすると、鼻が耳の後ろあたりにくるわけ。
偉大なる人類に対し申し訳ないんだけど、耳の後ろってなんか……加齢臭とか……なんか……ねえ?
そんなわけで手首狙いなんだけど、今回首狙ったのは手首に噛み跡あるとゾンビにやられた!てなるかもしれないから。不安にさせちゃいけない。首なら自分で見えないでしょ。
おれだって考えてるのだ!えへん!!
ちなみに吸血された人類はなんかしばらくぼんやりしてその瞬間の記憶をなくす。便利。
蚊に吸われると痒くなるみたいなもんかもしれない。
おれはゾンビと蚊、どっちに近いのかなあ……。
そんことを考えながらおやすみしたのだった……。
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私、蓮見あかり。女子高生。柔道だいすき!
大好きな家族、大好きな友達。部活に打ち込んでこれぞ青春!
恋愛はちょっと……ご縁がなかったけど……。
大学生になったら素敵な彼氏ができるといいな!なんてー……幸せな毎日は、突然崩壊した。
ゾンビだ。
映画とかじゃよく見てた。まさかほんとになるなんて。
家族で閉じこもってたけど、食べ物がなくなって、水も電気もとまって、このままじゃいけないって、まだネットが繋がってた時に見た、避難所に向かうことにした。
すぐに行かずに閉じこもってたのは、ことが起こった時にちょうど部活中の怪我で、私が足をくじいていたから……。
私は後から行くからって言ったけど、置いていけないって。
だけど怪我も治ったし、避難所へ行こうって。
そうして移動してるうち……お父さんも、お母さんも……ゾンビに囲まれて、あなただけでも逃げて!!て………そして………
私が怪我してなければ!!もっと強ければ!!私が!!!
人見さんには、家族は散り散りになったって言ったけど、ほんとは……。辛くて言えなかった…
そう、人見さん。
人見さんはすごい人だ!
ゾンビに囲まれて、もうダメかって時に颯爽と現れ、ばったばったとゾンビを倒して助けてくれた!
すっごい強いし、それに……超いけめん!!
なんかハーフとかなのかな。ちょっと欧米っぽいかんじ。黒髪だけど。背が高くて、細身なのに私……わりと重量……抱えて走れるくらい力がある。すごい!
それにすごく優しい人なんだ。
私なんかゾンビ怖くて、憎くて、そればっかりだったのに、「あの人たちも生きてたんだなって…」と、悲しんで、涙を流していた。
お父さんがよく、本当に強い人は、心が優しい人なんだよって言ってたのを思い出した。
悟空を見ろ。優しい心があったからスーパーサイヤ人になれたんだって……。
なんか違くないかと思ってたけど、やっとわかった。
人見さんみたいな人が、本当に強い人なんだね、お父さん……。
運良く廃ビルの守衛室で食料をみつけて、私達はそこで夜をあかすことにした。
人見さんと色々話した。
人見さんは穏やかで落ち着いてて、ちょっとシャイな感じ。普段学校で話す男子と全然違って、ちょっと緊張した。
でも何か思い出したのか暗い顔になった人見さんに、私が言った拙い励ましを喜んでくれて、逆にゾンビ映画の話なんかしちゃって落ち込んだ私を励ましてくれて、映画の話でもりあがって——……。
なんかちょっと、どきどきした……!
わ、わかってるよ!そんな時じゃないって!でもイケメンで優しくて強くて命の恩人だよ!?ドキドキくらいはしちゃうって!!
でもなんかきっと、なにか背負ってる人なんだろうな……。
ずっと1人だったって言ってた。名前……からかわれたって言ってたし、家族のこととかぶしつけに聞けなかった。
思えば助けてもらった時、助けられた私に、生きててくれてありがとうって……。笑ったその顔が、なんだか辛そうで、儚げで……。
きっと過去に、大事な人を亡くしたとか、なにかあったんだ……。
でもそれでも、ホラー映画を見て、頑張る姿に勇気を貰えるなんて、どこまでもまっすぐな心を持ってる人…。
私なんてひえーこえーやべーしか思ってなかったのに…あとブギーマン鬼強くてかっけえとかしか思ってなかった……。
強くて優しくて、まっすぐな……本当に、ヒーローみたいな人……。
私の蓮見って苗字も、人見と同じ字が入ってるね、嬉しいな、とか褒めてくれた。私の家族の名前……。
日光が苦手で、こもりがちだったって言ってた。そういえば日傘さしてた。色白いし。その辺もなにか事情あるのかな…アレルギーとか…
いつかいろいろ、話してくれたら、嬉しいな……
…………
目が覚めると、人見さんはまだ寝ていた。
寝ててもきれいな人だなあと思って……
「!」
昨日のことを思い出して、真っ赤になった。
き、昨日たしか……!!
人見さんをヒーローみたいって言った私に、ヒーローみたいじゃないかもしれないけど、私を絶対守るって、一緒にいて欲しいって言ってくれて…………私思わず!抱きついてしまって——!!!!
そ、そんで、人見さん、やさしくそっと抱きしめてくれて……くれて……!!
きゃーーーーーーーー!!!!!
うわー!うわー!!そこで緊張の糸が切れて気絶したのか記憶がないんだけど……うわーーーーー!!!!
もうめっちゃ心臓ばくばくする……!!!
だってこんな素敵な人が……えっ……えーーーっ……!!!
ひえー!てわたわたして、一息ついて落ち着こうと、お手洗いを探した。
1人でだけど、昨日このビルの安全は確認したし、大丈夫だよね……。
そうして用を足して(タンクに水が残ってたので流せたよ!!)、鏡にむかった。
な、なんかほら……!身だしなみとかなんか……ちょっとくらいほら……!!そわそわしながら鏡を見て——……
そして、絶望した。
首筋に噛み跡。
え?
なんで?
…………噛まれてた?
心臓がばくばくする。
さっきまでの嬉しいばくばくと全然違う。
怖い。
なんで?いつ?昨日囲まれた時?人見さんは気づかなかったの?パーカー着てたから見えなかった?
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
聞いた話じゃ、噛まれると体調を崩して、三日くらいで死んじゃって、あれに……なるらしい。
私もそうなるの!?
体調は別に悪くない……。けど少し、ふらふらするような……。
まさか、そんな……!!そんな……!!!
そんなのってないよ!!
「蓮見さん!蓮見さん!どこ!?」
「!」
人見さんだ。私は慌ててトイレを出た。
「ああよかった!1人で何かあったんじゃないかって……心配したよ……」
「ご、ごめんなさい…!」
パーカーのヒモをきゅっとしめて、首筋を隠した。どうしようどうしようどうしよう。
「いやおれこそ寝ちゃっててごめん……顔色わるいよ、大丈夫?」
「だ!大丈夫……!!」
どうしようどうしようどうしよう……!
知られたくない。でも噛まれた。私ゾンビになっちゃう。こわい。一緒にいたらいけない。私がゾンビ化して人見さんを襲っちゃったら?そんなのだめ。でもどうしたら?1人はいや。でもだめ。こわい。どうしたらいい?どうしたらいいの!?
内心の暴風をかくして、私達は出発した。
避難所を目指すことにしたのだ。
避難所……避難所につけるの……?つくまで持つ…?ついたとして………それで……?
頭がガンガンする。人見さんは心配してくれて、今日は休もうかって言ってくれたけど、ちょっと風邪気味なだけだからって、断った。
明日どうなるかなんてわからない。じっとしてなんていられない——……
何も考えられず、話しかけてくれる人見さんに、気もそぞろに返事だけしながら、ただ歩く。こわい。どうしよう。こわい。どうしよう。そればかり。
そんななのが悪かった。道の段差につまづき、ふらついて、そばにあったビルの——赤い扉の、開閉ボタンにぶつかった。
「!!!」
シャッ!とドアがあき、大量のゾンビが湧き出した!!
よく見ればそれはコンビニの出入り口で、赤いのは全面を濡らした血の色だった。
「蓮見さん!こっち!」
硬直した私に、人見さんが手を引いてくれ、一緒に走り出した。
また、私!また私が!私のせいで———!!!
「蓮見さんのせいじゃないよ!体調悪いのに無理させたおれがわるかった!!」
開けた場所なら、走らないゾンビから逃げるのはわけはない。ただ、こっちの体力には限界があるが、あちらはいつまででも追い続けられる。
それに、数が多いと——……
「っ!あっちからも来た……!」
ゾンビの群れは、群れを呼ぶのだ!
走って走って、逃げて逃げて———……
追い詰められたビルとビルの狭い路地の先、突き当たりは——川だった。
崖のような深い段差。その下に幅広の河川がごうごうと流れている。このビル群は、大きな川沿いに建てられていたのだ。
川は深そう。飛び込んでも——なんとかなるかもしれない。でも……
「飛び込もう!蓮見さん!」
人見さんにぎゅっと抱きしめられる。
顔色が悪くて辛そうだ。やっぱり体がどこか悪いのかもしれない。それでも、落下の衝撃から守ろうと抱きしめてくれて——……でも私は、その体を、そっと押し返す。
ゾンビたちがよたよたと近寄って来ている。
時間がない。
「蓮見さん?」
「人見さん……。私を助けてくれて、守ろうとしてくれて、生きていてよかったって、言ってくれて……ありがとう。ずっと一緒にいたかったよ。
でも……ごめんなさい。今朝、鏡で……」
そっ、とパーカーの襟をずらす。
噛み跡。
「っ!蓮見さん!それは!」
「どっせい!!!」
人見さんの襟を掴んで———投げた!!鍛えに鍛えた背負い投げ!
バシャーーーーン!!!
川に落ちた人見さんがどんどん流されていく。
何か叫んでいる。よかった…!生きてる!
人見さんなら大丈夫だ。人見さんは強くて、優しくて——生きるべき人。たくさんの、大勢の人を助けられる人だから。
だから私は——。
ゾンビがむかってくる。
私はお腹に力を込め、気合いを入れた。
一匹たりともこの川には近づけない!!!
人見さんは、私が守る!!!
「おりゃあああああああ!!!!!」
ゾンビに向かい走っていき、先頭のやつの襟を掴んで他の奴らに投げつけた!こけてる奴の頭を踏み潰し向かってくる奴を投げまくる。噛まれたって気にしない。痛くなんかない!怖くなんかない!もう「どうせ」だ!
1人でも多く!1人でも多く弔ってやる!!私が生きてきた証——持てるだけの柔道技で!!
「ああああああああああ!!!!!」
視界が赤く染まっていく。1人でも多く!1人でも多く———……!!!
……人見さん、私きっと、あなたのことが、好きだった。
最後にあなたに会えて、恋ができて、よかったよ。
ありがとう———…………
************************************
「蓮見さん!!蓮見さんーーー!!!」
川に流されながらおれは叫んだ!!
なんで!!どうして!!!
朝方目を覚ますと蓮見さんがいなくて肝が冷えた。逃げられた!?油断した!!
眠らなくても平気だけど暇だからおやすみしたのが悪かった!!
焦って探すと、蓮見さんはトイレにいた。よかった〜!
でもなんか顔色悪くて、風邪気味って言ってたけど、昨日血を吸いすぎたのかな……ごめんなさい……。
今日は休もうかって言ったけど、蓮見さんは大丈夫って、避難所を目指すことにした。休んどけばよかった……。
そもそも避難所に行くのは気が進まない。食べ放題は魅力的だが、人が多いとバレ確率が上がるし、なにより吸血鬼ハンターがいるかもしれない。
吸血鬼ハンターは、昔から吸血鬼の間で恐れられている。誰も奴の正体を知らない。顔を見た者もいない。顔を見たものはみな死ぬからだ!
たまにあいつ吸血鬼ハンターにやられたらしいぜこえーって噂がまわり、十年くらい後にいやあいつ自殺だったよって聞いてなんだちげーのかってなる。
そんな正体不明の殺し屋、吸血鬼ハンター……こわい!
ちなみに吸血鬼の死亡理由一位は自殺だ。長生きに飽きるらしい。
まあそんな訳で、避難所か〜だったけど、反対するのも不自然だし、まあなんとかなるやろって蓮見さんと一緒に出発進行。ほんと休んどけばよかった……。
蓮見さんはやっぱり元気がなくて、話しかけても上の空だった。き、嫌われてる訳じゃないよね……?どきどき……。
そうこうするうち、なんか大量ゾンビに追われることになった。
困る〜。ぶっちゃけおれ1人で全部潰せるんだけど、さすがに噛まれると思うんだよね。
別に噛まれても平気なんだけど(見てた映画がめっちゃ佳境のとこで電力が途絶えてもう全部嫌んなってゾンビに無理矢理噛ませてみても平気だった。ふて寝した)人類じゃないってバレるのが怖い。なんか昔火炙りとかされたし……。平気だったけど……。
蓮見さん抱えてビルの上に飛んで逃げるのもなしかなあ。人類そんな飛ばんよね。
そんな訳で走りに走った。きつい〜。
お日様の下全力疾走きつい……。火炙りよりきついかもしんない……。
もう無理マジ無理ってとこで川っぺりに追い詰められた。川か〜〜……うーん……。
もういっそ強めに吸血して蓮見さんを気絶させて——てのも考えたけど、不自然だし、体調悪そうだしうっかり死なれちゃ困るからなあ……。
今思えばそうしときゃよかったんだけど、その時はまだわからず……蓮見さんを抱えて、川に飛び込もうとした——だけど!
「人見さん……。私を助けてくれて、守ろうとしてくれて、生きていてよかったって、言ってくれて……ありがとう。ずっと一緒にいたかったよ。
でも……ごめんなさい。今朝、鏡で……」
そしてパーカーの襟元をずらした。噛み跡。
「っ!蓮見さん!それは!!」
違うんだよー!て言おうとしたら……投げられた!!なにこれジュードー!!??
バシャーーーン!!!
おれは川に落ちて流された。
蓮見さんが「人見さんだけでも生きてください!!」て叫んでた。
ちがーーーーーーーーーーーーう!!!!
ちがうの!!!
君がいなけりゃ意味ないの!!!!
鏡ーーーーー!!!鏡かーーーーーーー!!!!
おれ鏡うつんねえから自分鏡で見る習慣とかないから気づかなかったよ!!!!首筋自分で見えねえじゃん!!!おれ自分の首なんて見た覚えねえよ!!!
首なら見えないと思ったのにーーーーーーーー!!!
人類鏡うつるかーーーーーーーー!!!!!!!
ばかーーーーー!!!!
おれのばかーーーーーー!!!!!!!
なんとか蓮見さんを助けに行こうとしたけど無理だった!おれ泳げねえんだよ!!!!
べつに川は渡れるよ!!?溺れても呼吸しなくても平気だよ!!!でも泳げねえの!!!!普通に!!!!!
うまく動けなくて流されるしかないんだよーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
蓮見さんーーーーーーーーーー!!!!!!!
君に会えて、よかった……!もっとちゃんと、守ってあげられなくてほんとにごめん……!!大好きだった………!
おれは泣きながらただひたすら、どんぶらこっこどんぶらこっこと流されて行くのだった……ぐすん……
♡おしまい♡
お読み頂きありがとうございました!!(´∀`*)